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堪え切れない想い
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「それではコンセプトは「どなたでも大歓迎!みんなで気軽に楽しめるコンサート」ということで。タイトルはどうしましょう?」
翌週。
社長である瑛の父も交え、本社の会議室で、新東京フィルの事務局長と東条との打ち合わせを行っていた。
「んー、そうだな。お子様も来やすい雰囲気にしたいから、ワクワクコンサートとか、ファミリーコンサート、そんな感じのワードを入れたらどうかな?」
東条の提案を、朱里はホワイトボードに書き込む。
「サブタイトルをつけるのはどうでしょう?みんな集まれ!みたいな」
「うんうん。誰でもウエルカム!とか」
田畑や川辺の提案も、ボードにさらさらと付け加える。
挙がってきたワードを組み合わせ、コンサートのタイトルは、
「桐生ホールディングス プレゼンツ
みんなおいでよ!わくわくコンサート」
に決まった。
「あとは選曲か。初めてコンサートを聴きに来る子ども達も楽しめて、飽きずに聴いてもらえる曲…。うーん。朱里さん、何かアイデアある?」
東条に話を振られ、朱里は少し考え込む。
「そうですね…。オーケストラはもちろんですが、色々な演奏形態を紹介するのはどうでしょうか?例えばピアノ曲なら、ピアノを習っている子ども達も聴き入ってくれると思いますし、カルテットやアンサンブル、だんだん演奏者が増えていくことによって、最後のオーケストラがいかに迫力あるものかも分かってもらえると思います」
東条は、じっと宙を見据えてから頷いた。
「それ、試しにプログラミングしてみよう。まずはピアノ曲から。ピアノを習っている子ども達が知っている曲、例えば『エリーゼのために』とか?」
「ええ。ブルグミュラーの連弾曲もいいですね。あ!『エリーゼのために』でしたら、そのあとベートーヴェン繋がりで『スプリング・ソナタ』はどうでしょう?」
「それいいな!ちょうど春だし。うん、そうしよう。そこでヴァイオリンソロを紹介出来るだろ?そしたら次は?」
「んー、アンサンブルで歌曲もいいですね」
「確かに。じゃあ第一部はそんな感じで色々な演奏形態にしよう」
東条の言葉に皆で頷く。
「そして第二部は、オールオーケストラですね」
「そうだな。うーん、何がいいだろう。エルガーの『威風堂々』とか?」
「そうですね。『威風堂々』は子ども達がリコーダーで練習する学校もありますしね。あとは…ホルストの『木星』はどうでしょう?ルロイ・アンダーソンも楽しくていいですし」
「あー、確かに」
朱里と東条のやり取りで、曲目がどんどん具体的に決められていく。
「アンコールは、やはりマーチでしょうか?」
「うん、そうだな」
「そしたらそのアンコールの時に、音の出る楽器、例えば鈴やカスタネット、タンバリン、マラカスなどを子ども達に鳴らしてもらってもいいですね」
「おおー、そうだな。なんなら、指揮者もやってもらおうかな」
「いいですねー!未来のマエストロ!」
東条と朱里の話は、どんどん盛り上がる。
皆もそれに賛同する形で、プログラムはほぼ決定した。
打ち合わせが終了し、立ち上がって皆で挨拶していると、ふと東条が思い出したように話し出した。
「そう言えば今週末に、音楽関係者のパーティーがあるんです。ご一緒にいかがですか?」
え?と、朱里達は驚く。
「音楽関係者の方々ばかりなのですよね?そのようなパーティーにお邪魔しても?」
「ええ、もちろん。作曲家や指揮者、楽団のスポンサーなど幅広く集まって、まあ、今後のクラシック音楽業界について雑談する、みたいな気軽なパーティーですよ。桐生ホールディングスさんの試みも、おそらく注目されると思います」
すると社長が口を開いた。
「それはぜひ参加させていただきたいですね。今回は新東京フィルさんにお願いしましたが、今後は過疎地域でも演奏会を開催したいと思っています。地元の楽団に地元のホールで演奏してもらい、地域の活性化にも繋がればと」
「それは素晴らしいですね。地方の楽団はどんどん少なくなっていて、その地域の子ども達が生の音楽に触れる機会も減っています。桐生さんの活動は、我々音楽業界の人間にとっても非常に有り難いです」
社長は東条に頷いてから、改めて朱里と瑛を振り返った。
「私はスケジュールがタイトで無理そうだが、二人は?行けそうなら行って欲しい」
朱里が大丈夫ですと答えると、瑛も頷く。
東条は嬉しそうに笑った。
「良かった!じゃあ、あとで詳細をメールしておきます。当日、会場でお待ちしていますね」
「はい、ありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたします」
オフィスのエントランスで東条達の車を見送ったあと、朱里は瑛に向き合った。
「部長。パーティーに行く事をきちんとフィアンセの方に説明しておいてくださいね。私がここで働いている事も、彼女はご存知ないようでしたし。部長からお話しておいてください」
すると瑛は硬い表情のまま、君には関係ない、とボソッと答える。
「いいえ、関係あります。彼女はあなたとのことを少し悩んでいるようでした。これ以上不安にならないよう、前もって…」
「これは俺達二人の問題だ!」
急に声を荒げた瑛に、朱里は驚く。
(…瑛?どうかしたの?)
苦しげに顔を歪める瑛に、思わず朱里は以前のように声をかけそうになる。
だが、すんでの所で踏みとどまった。
「仕事に戻る」
そう言い残し、瑛はスタスタとオフィスに入って行く。
はあ、と社長が大きなため息をついた。
「朱里ちゃん。どうしたものかねえ?瑛は、まるで結婚を仕事の一部のように考えている。義務感で聖美さんと結婚するのでは、彼女にも失礼な話だ」
「…でも、私はもう以前のように彼とは話が出来ないので、相談に乗ることも出来ないのです」
「それもおかしな話だろう?どうして聖美さんと結婚するからと言って、朱里ちゃんとの関係を切ろうとするのか。朱里ちゃんと聖美さんは仲がいいのに、瑛だけがおかしな言動をする。困ったものだねえ」
「おじ様。先方の都築製薬の会長は、やはり瑛に大きな期待を寄せていらっしゃるのですか?瑛と聖美さんの結婚は、会社にも何か影響があるのでしょうか?例えば業務提携とか…」
それ故、瑛はこの結婚に大きな責任を感じているのかと朱里は思ったのだが、いや、と即座に否定される。
「そんな話は全くないよ。私も都築会長も、お互い年頃の息子と孫娘がいるって話をしていて、まあ機会があれば会わせてみようか、くらいの話だったから」
「なるほど…。それなら瑛は、必要以上に何かを背負い込んでる感じがしますね」
「ああ、私もそう思うよ。家でもどんどん表情が暗くなるし、口数も減って。好きな人との結婚を控えている幸せな雰囲気など、これっぽっちも感じない」
うーん…と朱里は考え込む。
「それに瑛だけじゃない。朱里ちゃんの話だと、聖美さんも悩んでいる様子なんだろう?どうしたもんかなあ。4月の初めに結納の予定だが、遅らせた方がいいのかもなあ」
え!と朱里は驚く。
「でも、瑛はそのつもりはないのでは?」
「まあそうだろうね。いやー、難しい」
気づくとかなり長い間二人で立ち話しており、見かねた社長秘書が近づいてきた。
「社長、そろそろ…」
「ああ、分かった。じゃあね、朱里ちゃん。あ、またうちに夕食でも食べに来てね」
「はい、ありがとうございます」
朱里はお辞儀をして見送った。
*****
音楽関係者のパーティーが催される週末。
朱里は以前と同じ、雅の行きつけのサロンで支度を整え、菊川の運転で瑛とパーティー会場に向かった。
広い会場は既に多くの人で賑わっており、その顔ぶれはそうそうたるものだった。
「あ!あの人、世界的な指揮者の沢尻さんだ!隣にいるのは、渡部さんかな?凄いなー。ええ?あそこにいるの、聖フィルのコンマスの高田さんだ!間近で見てもかっこいいー」
朱里は興奮して喋り続けるが、瑛はさっぱり分からない。
それにどう見ても皆、40代や50代くらいの男性ばかりで、21歳の自分達、特に女性の朱里は妙に目立つ。
チラチラと朱里に目を向ける男性も、一人や二人ではなかった。
朱里を人目のつかない所に連れて行こうかと思った時、やあ!こんばんは、と聞き覚えのある声がした。
「東条さん!こんばんは。本日はお招きいただき、ありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそお越しいただき嬉しいです。早速ですが、お二人に紹介したい人がいまして…」
そう言うと東条は、近くにいた60代くらいの男性に声をかける。
「こちらはジャパン・クラシカルミュージック・ソサエティの加賀美会長です。加賀美さん、このお二人は、桐生ホールディングスの桐生 瑛さんと、栗田 朱里さんです」
「初めまして」
瑛と朱里は名刺を差し出す。
「おおー、東条くんから聞いたよ。桐生ホールディングスさんが、今後楽団に演奏会の依頼をしてくださるそうだね。地方の小さな楽団にも声をかけてもらえるとか?」
「はい。CSR活動として、音楽関係の皆様のお力をお借りしながら、色々な地域の人達に良い音楽をお届け出来ればと考えております」
「ほー、なんと有り難いお話だろう。我々は常に、日本のクラシック音楽の普及を目指しているのでね。また改めて、桐生社長にもご挨拶させていただきたい」
「かしこまりました。そのように申し伝えます。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします」
その後も、何人もの人達と名刺を交換し挨拶をする。
瑛がようやくひと息ついた時には、用意された料理もかなり少なくなっていた。
朱里はまだ何人もの男性に取り囲まれ、楽しげに雑談している。
(あいつ、腹減ってるだろうな。適当に取っておこう)
そう思ってビュッフェカウンターに向かおうとした時だった。
「いいのかい?彼女を守らなくて」
聞こえてきた声に、え?と振り返ると、東条がワイングラスを片手に朱里を見ていた。
「この会場にいる男性が皆、彼女を狙っている。俺なら心配で、彼女を誰にも近寄らせまいとするけどね」
そう言うと、瑛を見て不敵な笑みを浮かべる。
「君が放っておくなら、俺が行かせてもらうよ」
そしてツカツカと朱里に近づき、にっこりと笑いかけてから朱里の腰に手を回した。
取り囲んでいた男性陣に失礼と会釈してから、東条は朱里の腰を抱いたままバルコニーに出る。
朱里をベンチに座らせ、外の景色を見ながら楽しそうに話し始めた二人を見て、瑛はグッと唇を噛みしめた。
為す術もなく離れた所から見守っていると、東条は近くを通りかかったボーイからワイングラスを受け取り、朱里に差し出した。
グラスを合わせて乾杯してから口をつける。
(あいつ、空きっ腹なのにあんなに一気に飲んで…)
瑛は心配になるが、声をかける勇気も出ない。
何より朱里は、東条と楽しそうに話している。
その笑顔に瑛は胸が苦しくなった。
「朱里」
やがて瑛は、思い切って二人の間に割って入った。
「食事まだだろう?」
そう言って朱里に料理を盛り付けたプレートを渡す。
「ありがとうございます」
朱里は美味しそうな料理を見て、にっこりと受け取った。
その笑顔に瑛がホッとしていると、東条が意味有りげに小さく聞いてくる。
「桐生さんは、なぜ朱里さんを口説かないの?」
は?と瑛は面食らう。
「あの、私には婚約者がおります」
「それは答えではないな」
「…はい?」
東条は、もたれていたバルコニーの手すりからゆっくり身体を起こす。
「音楽はね、ただ真っ直ぐに自分の気持ちを伝えるんだ。婚約者がいるから正直な気持ちを君には伝えられない、なんてことは表現しない。どんな背景があろうとも、どんなに困難な状況でも、そしてたとえ報われなくても、ただ純粋に想いをぶつける。そういう音楽が人を感動させるんだ」
そして瑛の前に歩み出る。
「君はもっと、頭よりも心に従うべきだよ。自分の本当の気持ちにね。でも、もしそうしないならその時は…」
東条は瑛の耳元に口を寄せると、低い声で告げた。
「俺が彼女をもらう」
瑛の心臓がドクンと脈打った。
*****
「朱里、朱里?大丈夫か?」
「うん、大丈夫…」
そう言いつつ、朱里の足取りはおぼつかない。
空腹でワインを飲んだこと、お腹がいっぱいで眠くなったこと、ドッと疲れが出たこと、とにかく色々なことが朱里の身体を重くしていた。
「ほら、もうすぐ車だから。がんばれ」
「うん…」
よろける身体を支えつつ、瑛はようやく菊川の待つ車に朱里を乗せた。
自分の右肩に朱里の頭を抱き寄せると、朱里は身体を預けて眠りに落ちる。
「菊川、なるべく静かに運転してくれ」
「承知しました」
ゆっくりと車が走り出し、瑛はそっと朱里の寝顔を見た。
(俺は酷い男だな)
先程の東条の言葉を思い返し、瑛は考え込んでいた。
(自分の都合で朱里を振り回してばかりだ。もう以前のように話は出来ないと言っておきながら、実際は朱里に頼ってばかりで。朱里、いつもありがとう。彼女にも優しくしてくれて、仕事でも俺を助けてくれて。俺が朱里を幸せに出来れば、どんなに良かっただろう…)
そんな幸せは夢見てはいけないのだと、瑛はギュッと眉を寄せて自分の気持ちを押し殺した。
「朱里、ほら。もう少しだから」
朱里の家に着き、瑛は2階への階段を朱里を支えながら上がる。
朱里はなんとかベッドまでたどり着くと、そのままゴロンと横になった。
「着替えなくていいのか?」
「んー、だって眠いんだもん」
目をトロンとさせながら、子どものような声で朱里が答える。
「分かった。じゃあ玄関の鍵は、ドアポケットに入れておくからな」
「うん」
目を潤ませたあどけない表情の朱里は、本当に幼い頃の子どもに戻ったようだった。
素直に自分達の気持ちを伝え合っていた、二人の幸せだった日々。
「ゆっくり休めよ、朱里」
「うん、ありがとう。瑛、だいすき」
そう言うと朱里は安心したように微笑んだまま、スーッと眠りに落ちていった。
「朱里…」
瑛は切なさに胸が締めつけられる。
あの頃と同じ純粋な眼差しで、だいすきと微笑んでくれた朱里。
朱里の心は綺麗なままなのだ。
ずっと自分に変わらない眼差しを向けてくれているのだ。
(それなのに俺は…)
瑛の目に涙が浮かぶ。
「朱里、朱里…」
胸が張り裂けそうに辛かった。
ポタポタと涙がこぼれ落ちる。
自分がどうにかなってしまいそうだった。
思わず朱里を抱き締めそうになる。
だが、だめだ!と必死で自分を律した。
(桐生の人間だというだけで、心許せる友人も出来ない。好奇の目で見られ、誘拐されそうにもなる。あらぬ噂を立てられたり、逆恨みされたり。自分に近づく人物が、自分を陥れようとしているかもしれない。誰を信じていいのかも分からなくなる。そんな世界に朱里を入れる訳にはいかない。朱里は自由で明るい世界に生きるんだ。朱里には幸せになって欲しい。朱里だけは、どうか…)
グッと拳を握りしめ、肩を震わせて必死で気持ちを落ち着かせると、瑛は朱里を振り返らずに部屋を出た。
翌週。
社長である瑛の父も交え、本社の会議室で、新東京フィルの事務局長と東条との打ち合わせを行っていた。
「んー、そうだな。お子様も来やすい雰囲気にしたいから、ワクワクコンサートとか、ファミリーコンサート、そんな感じのワードを入れたらどうかな?」
東条の提案を、朱里はホワイトボードに書き込む。
「サブタイトルをつけるのはどうでしょう?みんな集まれ!みたいな」
「うんうん。誰でもウエルカム!とか」
田畑や川辺の提案も、ボードにさらさらと付け加える。
挙がってきたワードを組み合わせ、コンサートのタイトルは、
「桐生ホールディングス プレゼンツ
みんなおいでよ!わくわくコンサート」
に決まった。
「あとは選曲か。初めてコンサートを聴きに来る子ども達も楽しめて、飽きずに聴いてもらえる曲…。うーん。朱里さん、何かアイデアある?」
東条に話を振られ、朱里は少し考え込む。
「そうですね…。オーケストラはもちろんですが、色々な演奏形態を紹介するのはどうでしょうか?例えばピアノ曲なら、ピアノを習っている子ども達も聴き入ってくれると思いますし、カルテットやアンサンブル、だんだん演奏者が増えていくことによって、最後のオーケストラがいかに迫力あるものかも分かってもらえると思います」
東条は、じっと宙を見据えてから頷いた。
「それ、試しにプログラミングしてみよう。まずはピアノ曲から。ピアノを習っている子ども達が知っている曲、例えば『エリーゼのために』とか?」
「ええ。ブルグミュラーの連弾曲もいいですね。あ!『エリーゼのために』でしたら、そのあとベートーヴェン繋がりで『スプリング・ソナタ』はどうでしょう?」
「それいいな!ちょうど春だし。うん、そうしよう。そこでヴァイオリンソロを紹介出来るだろ?そしたら次は?」
「んー、アンサンブルで歌曲もいいですね」
「確かに。じゃあ第一部はそんな感じで色々な演奏形態にしよう」
東条の言葉に皆で頷く。
「そして第二部は、オールオーケストラですね」
「そうだな。うーん、何がいいだろう。エルガーの『威風堂々』とか?」
「そうですね。『威風堂々』は子ども達がリコーダーで練習する学校もありますしね。あとは…ホルストの『木星』はどうでしょう?ルロイ・アンダーソンも楽しくていいですし」
「あー、確かに」
朱里と東条のやり取りで、曲目がどんどん具体的に決められていく。
「アンコールは、やはりマーチでしょうか?」
「うん、そうだな」
「そしたらそのアンコールの時に、音の出る楽器、例えば鈴やカスタネット、タンバリン、マラカスなどを子ども達に鳴らしてもらってもいいですね」
「おおー、そうだな。なんなら、指揮者もやってもらおうかな」
「いいですねー!未来のマエストロ!」
東条と朱里の話は、どんどん盛り上がる。
皆もそれに賛同する形で、プログラムはほぼ決定した。
打ち合わせが終了し、立ち上がって皆で挨拶していると、ふと東条が思い出したように話し出した。
「そう言えば今週末に、音楽関係者のパーティーがあるんです。ご一緒にいかがですか?」
え?と、朱里達は驚く。
「音楽関係者の方々ばかりなのですよね?そのようなパーティーにお邪魔しても?」
「ええ、もちろん。作曲家や指揮者、楽団のスポンサーなど幅広く集まって、まあ、今後のクラシック音楽業界について雑談する、みたいな気軽なパーティーですよ。桐生ホールディングスさんの試みも、おそらく注目されると思います」
すると社長が口を開いた。
「それはぜひ参加させていただきたいですね。今回は新東京フィルさんにお願いしましたが、今後は過疎地域でも演奏会を開催したいと思っています。地元の楽団に地元のホールで演奏してもらい、地域の活性化にも繋がればと」
「それは素晴らしいですね。地方の楽団はどんどん少なくなっていて、その地域の子ども達が生の音楽に触れる機会も減っています。桐生さんの活動は、我々音楽業界の人間にとっても非常に有り難いです」
社長は東条に頷いてから、改めて朱里と瑛を振り返った。
「私はスケジュールがタイトで無理そうだが、二人は?行けそうなら行って欲しい」
朱里が大丈夫ですと答えると、瑛も頷く。
東条は嬉しそうに笑った。
「良かった!じゃあ、あとで詳細をメールしておきます。当日、会場でお待ちしていますね」
「はい、ありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたします」
オフィスのエントランスで東条達の車を見送ったあと、朱里は瑛に向き合った。
「部長。パーティーに行く事をきちんとフィアンセの方に説明しておいてくださいね。私がここで働いている事も、彼女はご存知ないようでしたし。部長からお話しておいてください」
すると瑛は硬い表情のまま、君には関係ない、とボソッと答える。
「いいえ、関係あります。彼女はあなたとのことを少し悩んでいるようでした。これ以上不安にならないよう、前もって…」
「これは俺達二人の問題だ!」
急に声を荒げた瑛に、朱里は驚く。
(…瑛?どうかしたの?)
苦しげに顔を歪める瑛に、思わず朱里は以前のように声をかけそうになる。
だが、すんでの所で踏みとどまった。
「仕事に戻る」
そう言い残し、瑛はスタスタとオフィスに入って行く。
はあ、と社長が大きなため息をついた。
「朱里ちゃん。どうしたものかねえ?瑛は、まるで結婚を仕事の一部のように考えている。義務感で聖美さんと結婚するのでは、彼女にも失礼な話だ」
「…でも、私はもう以前のように彼とは話が出来ないので、相談に乗ることも出来ないのです」
「それもおかしな話だろう?どうして聖美さんと結婚するからと言って、朱里ちゃんとの関係を切ろうとするのか。朱里ちゃんと聖美さんは仲がいいのに、瑛だけがおかしな言動をする。困ったものだねえ」
「おじ様。先方の都築製薬の会長は、やはり瑛に大きな期待を寄せていらっしゃるのですか?瑛と聖美さんの結婚は、会社にも何か影響があるのでしょうか?例えば業務提携とか…」
それ故、瑛はこの結婚に大きな責任を感じているのかと朱里は思ったのだが、いや、と即座に否定される。
「そんな話は全くないよ。私も都築会長も、お互い年頃の息子と孫娘がいるって話をしていて、まあ機会があれば会わせてみようか、くらいの話だったから」
「なるほど…。それなら瑛は、必要以上に何かを背負い込んでる感じがしますね」
「ああ、私もそう思うよ。家でもどんどん表情が暗くなるし、口数も減って。好きな人との結婚を控えている幸せな雰囲気など、これっぽっちも感じない」
うーん…と朱里は考え込む。
「それに瑛だけじゃない。朱里ちゃんの話だと、聖美さんも悩んでいる様子なんだろう?どうしたもんかなあ。4月の初めに結納の予定だが、遅らせた方がいいのかもなあ」
え!と朱里は驚く。
「でも、瑛はそのつもりはないのでは?」
「まあそうだろうね。いやー、難しい」
気づくとかなり長い間二人で立ち話しており、見かねた社長秘書が近づいてきた。
「社長、そろそろ…」
「ああ、分かった。じゃあね、朱里ちゃん。あ、またうちに夕食でも食べに来てね」
「はい、ありがとうございます」
朱里はお辞儀をして見送った。
*****
音楽関係者のパーティーが催される週末。
朱里は以前と同じ、雅の行きつけのサロンで支度を整え、菊川の運転で瑛とパーティー会場に向かった。
広い会場は既に多くの人で賑わっており、その顔ぶれはそうそうたるものだった。
「あ!あの人、世界的な指揮者の沢尻さんだ!隣にいるのは、渡部さんかな?凄いなー。ええ?あそこにいるの、聖フィルのコンマスの高田さんだ!間近で見てもかっこいいー」
朱里は興奮して喋り続けるが、瑛はさっぱり分からない。
それにどう見ても皆、40代や50代くらいの男性ばかりで、21歳の自分達、特に女性の朱里は妙に目立つ。
チラチラと朱里に目を向ける男性も、一人や二人ではなかった。
朱里を人目のつかない所に連れて行こうかと思った時、やあ!こんばんは、と聞き覚えのある声がした。
「東条さん!こんばんは。本日はお招きいただき、ありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそお越しいただき嬉しいです。早速ですが、お二人に紹介したい人がいまして…」
そう言うと東条は、近くにいた60代くらいの男性に声をかける。
「こちらはジャパン・クラシカルミュージック・ソサエティの加賀美会長です。加賀美さん、このお二人は、桐生ホールディングスの桐生 瑛さんと、栗田 朱里さんです」
「初めまして」
瑛と朱里は名刺を差し出す。
「おおー、東条くんから聞いたよ。桐生ホールディングスさんが、今後楽団に演奏会の依頼をしてくださるそうだね。地方の小さな楽団にも声をかけてもらえるとか?」
「はい。CSR活動として、音楽関係の皆様のお力をお借りしながら、色々な地域の人達に良い音楽をお届け出来ればと考えております」
「ほー、なんと有り難いお話だろう。我々は常に、日本のクラシック音楽の普及を目指しているのでね。また改めて、桐生社長にもご挨拶させていただきたい」
「かしこまりました。そのように申し伝えます。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします」
その後も、何人もの人達と名刺を交換し挨拶をする。
瑛がようやくひと息ついた時には、用意された料理もかなり少なくなっていた。
朱里はまだ何人もの男性に取り囲まれ、楽しげに雑談している。
(あいつ、腹減ってるだろうな。適当に取っておこう)
そう思ってビュッフェカウンターに向かおうとした時だった。
「いいのかい?彼女を守らなくて」
聞こえてきた声に、え?と振り返ると、東条がワイングラスを片手に朱里を見ていた。
「この会場にいる男性が皆、彼女を狙っている。俺なら心配で、彼女を誰にも近寄らせまいとするけどね」
そう言うと、瑛を見て不敵な笑みを浮かべる。
「君が放っておくなら、俺が行かせてもらうよ」
そしてツカツカと朱里に近づき、にっこりと笑いかけてから朱里の腰に手を回した。
取り囲んでいた男性陣に失礼と会釈してから、東条は朱里の腰を抱いたままバルコニーに出る。
朱里をベンチに座らせ、外の景色を見ながら楽しそうに話し始めた二人を見て、瑛はグッと唇を噛みしめた。
為す術もなく離れた所から見守っていると、東条は近くを通りかかったボーイからワイングラスを受け取り、朱里に差し出した。
グラスを合わせて乾杯してから口をつける。
(あいつ、空きっ腹なのにあんなに一気に飲んで…)
瑛は心配になるが、声をかける勇気も出ない。
何より朱里は、東条と楽しそうに話している。
その笑顔に瑛は胸が苦しくなった。
「朱里」
やがて瑛は、思い切って二人の間に割って入った。
「食事まだだろう?」
そう言って朱里に料理を盛り付けたプレートを渡す。
「ありがとうございます」
朱里は美味しそうな料理を見て、にっこりと受け取った。
その笑顔に瑛がホッとしていると、東条が意味有りげに小さく聞いてくる。
「桐生さんは、なぜ朱里さんを口説かないの?」
は?と瑛は面食らう。
「あの、私には婚約者がおります」
「それは答えではないな」
「…はい?」
東条は、もたれていたバルコニーの手すりからゆっくり身体を起こす。
「音楽はね、ただ真っ直ぐに自分の気持ちを伝えるんだ。婚約者がいるから正直な気持ちを君には伝えられない、なんてことは表現しない。どんな背景があろうとも、どんなに困難な状況でも、そしてたとえ報われなくても、ただ純粋に想いをぶつける。そういう音楽が人を感動させるんだ」
そして瑛の前に歩み出る。
「君はもっと、頭よりも心に従うべきだよ。自分の本当の気持ちにね。でも、もしそうしないならその時は…」
東条は瑛の耳元に口を寄せると、低い声で告げた。
「俺が彼女をもらう」
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*****
「朱里、朱里?大丈夫か?」
「うん、大丈夫…」
そう言いつつ、朱里の足取りはおぼつかない。
空腹でワインを飲んだこと、お腹がいっぱいで眠くなったこと、ドッと疲れが出たこと、とにかく色々なことが朱里の身体を重くしていた。
「ほら、もうすぐ車だから。がんばれ」
「うん…」
よろける身体を支えつつ、瑛はようやく菊川の待つ車に朱里を乗せた。
自分の右肩に朱里の頭を抱き寄せると、朱里は身体を預けて眠りに落ちる。
「菊川、なるべく静かに運転してくれ」
「承知しました」
ゆっくりと車が走り出し、瑛はそっと朱里の寝顔を見た。
(俺は酷い男だな)
先程の東条の言葉を思い返し、瑛は考え込んでいた。
(自分の都合で朱里を振り回してばかりだ。もう以前のように話は出来ないと言っておきながら、実際は朱里に頼ってばかりで。朱里、いつもありがとう。彼女にも優しくしてくれて、仕事でも俺を助けてくれて。俺が朱里を幸せに出来れば、どんなに良かっただろう…)
そんな幸せは夢見てはいけないのだと、瑛はギュッと眉を寄せて自分の気持ちを押し殺した。
「朱里、ほら。もう少しだから」
朱里の家に着き、瑛は2階への階段を朱里を支えながら上がる。
朱里はなんとかベッドまでたどり着くと、そのままゴロンと横になった。
「着替えなくていいのか?」
「んー、だって眠いんだもん」
目をトロンとさせながら、子どものような声で朱里が答える。
「分かった。じゃあ玄関の鍵は、ドアポケットに入れておくからな」
「うん」
目を潤ませたあどけない表情の朱里は、本当に幼い頃の子どもに戻ったようだった。
素直に自分達の気持ちを伝え合っていた、二人の幸せだった日々。
「ゆっくり休めよ、朱里」
「うん、ありがとう。瑛、だいすき」
そう言うと朱里は安心したように微笑んだまま、スーッと眠りに落ちていった。
「朱里…」
瑛は切なさに胸が締めつけられる。
あの頃と同じ純粋な眼差しで、だいすきと微笑んでくれた朱里。
朱里の心は綺麗なままなのだ。
ずっと自分に変わらない眼差しを向けてくれているのだ。
(それなのに俺は…)
瑛の目に涙が浮かぶ。
「朱里、朱里…」
胸が張り裂けそうに辛かった。
ポタポタと涙がこぼれ落ちる。
自分がどうにかなってしまいそうだった。
思わず朱里を抱き締めそうになる。
だが、だめだ!と必死で自分を律した。
(桐生の人間だというだけで、心許せる友人も出来ない。好奇の目で見られ、誘拐されそうにもなる。あらぬ噂を立てられたり、逆恨みされたり。自分に近づく人物が、自分を陥れようとしているかもしれない。誰を信じていいのかも分からなくなる。そんな世界に朱里を入れる訳にはいかない。朱里は自由で明るい世界に生きるんだ。朱里には幸せになって欲しい。朱里だけは、どうか…)
グッと拳を握りしめ、肩を震わせて必死で気持ちを落ち着かせると、瑛は朱里を振り返らずに部屋を出た。
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◇この小説はNOVELDAYSにも掲載しています。
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