23 / 25
認めてもらえるでしょうか?!
しおりを挟む
「おやおやー?ひょっとして私は、見事なアシストをしたのかな?」
真菜の休日に合わせて報告に来た二人に、社長は意味ありげな視線を投げてくる。
「は、いや、その」
「ふっ、まあそれはいい。とにかく、おめでとう!私も本当に嬉しいよ。真菜さん、よくぞこんな偏屈な男をもらってくれた。叔父として、その勇気に感謝するよ」
「お、叔父さん!何を言って…」
真がアタフタする。
「いやー、本当に良かった。お前が結婚するなんて。しかも真菜さんと!でかしたぞ、真。あのお前が真菜さんを射止めるなんて。どんな仕事よりも難しい事をやってのけたな」
「あの、何ですか?俺、褒められてるのか、けなされてるのか…」
「それはもちろん、両方だ」
そう言って、心底嬉しそうに社長は笑う。
「で?兄さんには報告したのか?」
真は急に顔を引き締める。
「いえ、これからです」
「そうか。まあそんなに硬くなるな。きっと喜んでくれるはずだ」
そして真の肩に手を置くと、
俺も、もう1度アシストしておいてやるよ、と社長は二人に笑いかけた。
*****
「真さん、私、大丈夫かな?反対されないかな?」
助手席から不安そうな声をかけると、真は真っ直ぐ前を見て運転しながら、分からん、とひと言返す。
「ちょっと!そこは嘘でも、大丈夫だって言って下さいよ!」
真菜は、思わず身を乗り出して真を見る。
今日は真の両親に挨拶をする為、真の車で実家に向かっていた。
「やっぱり、家柄とか身分の違いで反対されるかな…」
ぽつりと真菜がこぼすと、それはない、と真は即座に否定する。
「そんな考えをする親じゃない。ただ、なにせ俺も会うのは何年ぶりか分からん。人格変わってなきゃいいけど…」
「ちょ、ちょっと!ますます不安になるんですけど」
すると真は、ふっと優しく笑った。
「大丈夫だ。何があっても俺は真菜を守る。それに、何がなんでも俺は真菜と結婚する。だから安心して、俺のそばにいろ」
真菜は、うんと頷いて笑った。
「まあまあ、ようこそ!お待ちしてたのよ。さあ、入ってちょうだい」
「は、はい」
玄関で、綺麗な50代の女性に出迎えられ、真菜は緊張気味に靴を脱ぐ。
(この方が真さんのお母様?凄くお綺麗、若い!うちの、ザ・おばちゃん!みたいなお母さんとは違うわー)
そして、どうぞ、と通されたリビングに、真菜はまたもや驚く。
(広い!何ここ、ホームパーティーとか出来ちゃうよね?)
キョロキョロしていると、にこにこと笑みを浮かべた、社長に良く似た顔の男性がソファから立ち上がった。
「これはこれは。初めまして。真の父の進です。こっちは家内の和歌子」
「初めまして」
にこやかに頭を下げられ、真菜も慌ててお辞儀する。
「は、初めまして!齊藤 真菜と申します。よろしくお願い致します」
「あら?齊藤って…。もう入籍済ませたのね?あなた達」
「あ、いえ、違うんです!」
真菜は手を振って否定する。
「たまたま名字が一緒なんだ。ちなみに漢字も同じ」
真が言うと、父親は、お?と驚いた。
「へえー、じゃあ、うちと親戚なのかもね」
「と、とんでもない!うちはこちら様とは違って、庶民の中の庶民でございます」
ぶっ、と真が吹き出す。
「真菜、お前、男の中の男!みたいだな」
「ええ?私、一応女なんだけど…」
「だから、そうじゃなくて!」
すると母親が笑い出す。
「まあ、なんだか楽しそうね。さ、どうぞ座って。今、お茶をお持ちしますね」
「あ、私もお手伝いに参ります」
「あら、いいのよ、そんな」
「いえ。チーズケーキをお持ちしたので、もしよろしければこれもご一緒に…」
「まあ!チーズケーキ?嬉しい!じゃあそれも頂きましょう」
そして、二人でキッチンに立つ。
「美味しそうなチーズケーキね。私も主人も、チーズケーキが大好きなの」
「ええ。真さんからうかがいました。手土産を考えていたら、お二人ともチーズケーキがお好きだって」
え、真が?と、意外そうに聞き返され、真菜は不思議に思いながら頷いた。
「そう、あの子がそんなふうに…」
ティーポットにお湯を注ぎながら、母親が話し始める。
「あの子は、高校を卒業してから1度もこの家に帰って来なくてね」
「え!そうなんですか?」
「ええ。アメリカに留学して、その後そのままうちの関連会社の海外事業部に就職したの。今年の3月に帰国したのは知っていたけど、実家ではなく寮に入るとか言って。それで今は、横浜で暮らしてるとか?」
「あ、はい。みなとみらいに」
「そう。住所も教えてくれないのよ」
「あの…それは何か理由があるんでしょうか?」
「そうねえ。あの子、本当は父親の会社を継ぐつもりだったのよ。なのにいきなり、関連会社の方に行けって言われて。それで心を閉ざしてしまったのかもね。訳を話そうとしても聞く耳を持たなくて、気付いたら何年も顔を合わせなくなっていて…」
そこまで言うと顔を上げ、ぱっと笑顔になる。
「だからね、今日はもう、嬉しくて!真が結婚の報告に来るなんて。しかも、こんなに素敵なお嬢さんと!」
「い、いえ、そんな、私なんて」
「ううん。私、もう既に、あなたのことが大好きよ!よろしくね、真菜さん」
「こ、こちらこそ!よろしくお願いします」
二人で、ふふっと微笑み合った。
「真、お前、うちの会社に来るか?」
ひとしきり雑談をしたあと、やがて父親がひと言そう言い、真は、えっ?と顔を上げた。
真菜も、そんな真の横顔を見つめる。
「お前、本当は院を卒業後、うちの会社に来るつもりだったんだろう?もちろん私もそのつもりだった。だがな、あの時、うちの社は、何て言うか、派閥争いが激しくてな」
「…派閥?」
「ああ。齊藤の血縁者だけで会社を組織するのに反発されてな。もちろん、私もその気持ちは分かるし、そもそも血縁者だけを役員にするつもりもない。だが、彼らの言い分を聞いていたら、単なる自分の保身の為としか思えなかった。会長の親父とも話し、時間をかけて分かってもらおうという事になったんだ。だが、そこに、大学院を卒業したばかりのお前を放り込む訳にもいかない。標的にされるからな。それで、昇の所に行かせたんだよ」
知らなかった…と、真は小さく呟く。
「話したくても、お前はあの時まともに口をきいてくれなかったからな。ずっとお前のことを心配していた。だが、聞いたぞ?昇から。お前と真菜さんのおかげで、アニヴェルセル・エトワールは、飛躍的に業績を伸ばしたそうじゃないか。真菜さんとお前の結婚を、万が一にも反対しようものなら、親戚としても会社としても大損害だと言われたよ」
そう言って嬉しそうに笑う。
「もちろん、反対なんてする訳がない。こんなに喜ばしい事はないよ。それにもう、うちのプルミエール・エトワールも落ち着いた。どうだ?お前もこっちに来るか?」
真はじっと手元を見つめて考える。
そして顔を上げると、はっきりと答えた。
「いいえ、私はこれからもアニヴェルセル・エトワールにいます。我が社は素晴らしい会社です。日々感動と感謝に触れ、私自身も多くの事を学ばせてもらっています。そして、この仕事の素晴らしさを誰よりも私に教えてくれたのが、真菜です」
そう言って隣の真菜に微笑む。
「私はこれからも、この仕事に誇りを持ち、彼女に感謝しながらこの会社をより良いものにしていきたいと思っています」
母親が目頭を押さえながら、何度も頷いている。
「そうか、分かった。お前は私達の知らない間に、随分しっかりと成長したんだな。これも真菜さんのおかげだ。本当にありがとう。これからも、よろしくお願いしますね」
「こちらこそ、よろしくお願い致します」
そして真菜は、真と顔を見合わせて笑顔で頷いた。
*****
「ひゃー!イケメンー!」
「すげー、姉ちゃん、マジかよー」
実家の玄関を開けるなり、真菜の母親と弟の真吾は、真を見て大声を上げた。
「ちょっと!恥ずかしいでしょ!」
真菜が慌てて止める。
「お、お父さん!凄い人が来たわよ!」
母親がバタバタと走って行き、父親の手を引いて戻って来た。
「こりゃまたー、盆と正月が一緒に来たなー」
「な、何言ってんのよ?お父さんまで。真さん、すみません。もう上がって下さい」
「ああ。じゃあ、お邪魔します」
笑いを堪えながら真がそう言うと、
「ひゃー!声までイケてる!」
「マジだよ、イケボ!」
またもや大騒ぎする。
リビングに入ると挨拶もそこそこに、真は質問攻めにされる。
「真さん、視力は大丈夫?真菜の顔は良く見えてますか?」
「姉ちゃん、泣くと、すんげーブサイクになるんですよ。見たら、ドン引きしますよ」
「やー、でも、そのあと返品されても困るんで。やめるなら、今のうちに…」
真菜は、もうー!と怒って遮る。
「何言ってんのよ?みんな」
「だってお前、あとで真さんが正気に戻った時の為に、なあ?」
「そうそう。クーリングオフについて、説明をね」
「私は通販で売ってないっつーの!」
真菜が大声を出すと、真は我慢の限界とばかりに笑い出した。
「いや、そのすみません。どうにも、堪え切れなくて…」
そしてようやく笑いを収めると、真剣に話し出す。
「私は、視力も問題なく、真菜さんの顔も良く見えています。彼女が号泣すると顔が、その、やや変形するのも承知しています。それに、彼女を一生手放すつもりはありません。どうか、私を真菜さんと結婚させて頂けないでしょうか?」
そう言って頭を下げると、また皆は、わー!と騒ぎ出す。
「そ、そんな!頭を上げて下さい!」
「そうですよ。私達の許可なんていりませんから!」
「どうぞ!ご自由にお持ち下さい」
「私はレジの横の飴玉かー!」
真菜が叫んで、皆は大笑いする。
「いやー、とにかく良かった!な、真菜」
「ほんとよー。これは、この町の奇跡よ!あんた、伝説になるわよ」
お酒も入り、寿司を囲みながら、終始嬉しそうな両親の横で、真吾がそっと真に話しかける。
「でも真さん。これは単なるバカな弟の呟きなんですけど…。姉ちゃんを選んだ真さんは、なかなかお目が高いと俺は思います」
すると真もニヤッと笑った。
「真吾くん。実は俺もそう思ってるんだ」
二人は、ニッと笑いながら、グラスをカチンと合わせた。
「これからよろしくな、真吾くん」
「はい、お兄さん」
真菜の休日に合わせて報告に来た二人に、社長は意味ありげな視線を投げてくる。
「は、いや、その」
「ふっ、まあそれはいい。とにかく、おめでとう!私も本当に嬉しいよ。真菜さん、よくぞこんな偏屈な男をもらってくれた。叔父として、その勇気に感謝するよ」
「お、叔父さん!何を言って…」
真がアタフタする。
「いやー、本当に良かった。お前が結婚するなんて。しかも真菜さんと!でかしたぞ、真。あのお前が真菜さんを射止めるなんて。どんな仕事よりも難しい事をやってのけたな」
「あの、何ですか?俺、褒められてるのか、けなされてるのか…」
「それはもちろん、両方だ」
そう言って、心底嬉しそうに社長は笑う。
「で?兄さんには報告したのか?」
真は急に顔を引き締める。
「いえ、これからです」
「そうか。まあそんなに硬くなるな。きっと喜んでくれるはずだ」
そして真の肩に手を置くと、
俺も、もう1度アシストしておいてやるよ、と社長は二人に笑いかけた。
*****
「真さん、私、大丈夫かな?反対されないかな?」
助手席から不安そうな声をかけると、真は真っ直ぐ前を見て運転しながら、分からん、とひと言返す。
「ちょっと!そこは嘘でも、大丈夫だって言って下さいよ!」
真菜は、思わず身を乗り出して真を見る。
今日は真の両親に挨拶をする為、真の車で実家に向かっていた。
「やっぱり、家柄とか身分の違いで反対されるかな…」
ぽつりと真菜がこぼすと、それはない、と真は即座に否定する。
「そんな考えをする親じゃない。ただ、なにせ俺も会うのは何年ぶりか分からん。人格変わってなきゃいいけど…」
「ちょ、ちょっと!ますます不安になるんですけど」
すると真は、ふっと優しく笑った。
「大丈夫だ。何があっても俺は真菜を守る。それに、何がなんでも俺は真菜と結婚する。だから安心して、俺のそばにいろ」
真菜は、うんと頷いて笑った。
「まあまあ、ようこそ!お待ちしてたのよ。さあ、入ってちょうだい」
「は、はい」
玄関で、綺麗な50代の女性に出迎えられ、真菜は緊張気味に靴を脱ぐ。
(この方が真さんのお母様?凄くお綺麗、若い!うちの、ザ・おばちゃん!みたいなお母さんとは違うわー)
そして、どうぞ、と通されたリビングに、真菜はまたもや驚く。
(広い!何ここ、ホームパーティーとか出来ちゃうよね?)
キョロキョロしていると、にこにこと笑みを浮かべた、社長に良く似た顔の男性がソファから立ち上がった。
「これはこれは。初めまして。真の父の進です。こっちは家内の和歌子」
「初めまして」
にこやかに頭を下げられ、真菜も慌ててお辞儀する。
「は、初めまして!齊藤 真菜と申します。よろしくお願い致します」
「あら?齊藤って…。もう入籍済ませたのね?あなた達」
「あ、いえ、違うんです!」
真菜は手を振って否定する。
「たまたま名字が一緒なんだ。ちなみに漢字も同じ」
真が言うと、父親は、お?と驚いた。
「へえー、じゃあ、うちと親戚なのかもね」
「と、とんでもない!うちはこちら様とは違って、庶民の中の庶民でございます」
ぶっ、と真が吹き出す。
「真菜、お前、男の中の男!みたいだな」
「ええ?私、一応女なんだけど…」
「だから、そうじゃなくて!」
すると母親が笑い出す。
「まあ、なんだか楽しそうね。さ、どうぞ座って。今、お茶をお持ちしますね」
「あ、私もお手伝いに参ります」
「あら、いいのよ、そんな」
「いえ。チーズケーキをお持ちしたので、もしよろしければこれもご一緒に…」
「まあ!チーズケーキ?嬉しい!じゃあそれも頂きましょう」
そして、二人でキッチンに立つ。
「美味しそうなチーズケーキね。私も主人も、チーズケーキが大好きなの」
「ええ。真さんからうかがいました。手土産を考えていたら、お二人ともチーズケーキがお好きだって」
え、真が?と、意外そうに聞き返され、真菜は不思議に思いながら頷いた。
「そう、あの子がそんなふうに…」
ティーポットにお湯を注ぎながら、母親が話し始める。
「あの子は、高校を卒業してから1度もこの家に帰って来なくてね」
「え!そうなんですか?」
「ええ。アメリカに留学して、その後そのままうちの関連会社の海外事業部に就職したの。今年の3月に帰国したのは知っていたけど、実家ではなく寮に入るとか言って。それで今は、横浜で暮らしてるとか?」
「あ、はい。みなとみらいに」
「そう。住所も教えてくれないのよ」
「あの…それは何か理由があるんでしょうか?」
「そうねえ。あの子、本当は父親の会社を継ぐつもりだったのよ。なのにいきなり、関連会社の方に行けって言われて。それで心を閉ざしてしまったのかもね。訳を話そうとしても聞く耳を持たなくて、気付いたら何年も顔を合わせなくなっていて…」
そこまで言うと顔を上げ、ぱっと笑顔になる。
「だからね、今日はもう、嬉しくて!真が結婚の報告に来るなんて。しかも、こんなに素敵なお嬢さんと!」
「い、いえ、そんな、私なんて」
「ううん。私、もう既に、あなたのことが大好きよ!よろしくね、真菜さん」
「こ、こちらこそ!よろしくお願いします」
二人で、ふふっと微笑み合った。
「真、お前、うちの会社に来るか?」
ひとしきり雑談をしたあと、やがて父親がひと言そう言い、真は、えっ?と顔を上げた。
真菜も、そんな真の横顔を見つめる。
「お前、本当は院を卒業後、うちの会社に来るつもりだったんだろう?もちろん私もそのつもりだった。だがな、あの時、うちの社は、何て言うか、派閥争いが激しくてな」
「…派閥?」
「ああ。齊藤の血縁者だけで会社を組織するのに反発されてな。もちろん、私もその気持ちは分かるし、そもそも血縁者だけを役員にするつもりもない。だが、彼らの言い分を聞いていたら、単なる自分の保身の為としか思えなかった。会長の親父とも話し、時間をかけて分かってもらおうという事になったんだ。だが、そこに、大学院を卒業したばかりのお前を放り込む訳にもいかない。標的にされるからな。それで、昇の所に行かせたんだよ」
知らなかった…と、真は小さく呟く。
「話したくても、お前はあの時まともに口をきいてくれなかったからな。ずっとお前のことを心配していた。だが、聞いたぞ?昇から。お前と真菜さんのおかげで、アニヴェルセル・エトワールは、飛躍的に業績を伸ばしたそうじゃないか。真菜さんとお前の結婚を、万が一にも反対しようものなら、親戚としても会社としても大損害だと言われたよ」
そう言って嬉しそうに笑う。
「もちろん、反対なんてする訳がない。こんなに喜ばしい事はないよ。それにもう、うちのプルミエール・エトワールも落ち着いた。どうだ?お前もこっちに来るか?」
真はじっと手元を見つめて考える。
そして顔を上げると、はっきりと答えた。
「いいえ、私はこれからもアニヴェルセル・エトワールにいます。我が社は素晴らしい会社です。日々感動と感謝に触れ、私自身も多くの事を学ばせてもらっています。そして、この仕事の素晴らしさを誰よりも私に教えてくれたのが、真菜です」
そう言って隣の真菜に微笑む。
「私はこれからも、この仕事に誇りを持ち、彼女に感謝しながらこの会社をより良いものにしていきたいと思っています」
母親が目頭を押さえながら、何度も頷いている。
「そうか、分かった。お前は私達の知らない間に、随分しっかりと成長したんだな。これも真菜さんのおかげだ。本当にありがとう。これからも、よろしくお願いしますね」
「こちらこそ、よろしくお願い致します」
そして真菜は、真と顔を見合わせて笑顔で頷いた。
*****
「ひゃー!イケメンー!」
「すげー、姉ちゃん、マジかよー」
実家の玄関を開けるなり、真菜の母親と弟の真吾は、真を見て大声を上げた。
「ちょっと!恥ずかしいでしょ!」
真菜が慌てて止める。
「お、お父さん!凄い人が来たわよ!」
母親がバタバタと走って行き、父親の手を引いて戻って来た。
「こりゃまたー、盆と正月が一緒に来たなー」
「な、何言ってんのよ?お父さんまで。真さん、すみません。もう上がって下さい」
「ああ。じゃあ、お邪魔します」
笑いを堪えながら真がそう言うと、
「ひゃー!声までイケてる!」
「マジだよ、イケボ!」
またもや大騒ぎする。
リビングに入ると挨拶もそこそこに、真は質問攻めにされる。
「真さん、視力は大丈夫?真菜の顔は良く見えてますか?」
「姉ちゃん、泣くと、すんげーブサイクになるんですよ。見たら、ドン引きしますよ」
「やー、でも、そのあと返品されても困るんで。やめるなら、今のうちに…」
真菜は、もうー!と怒って遮る。
「何言ってんのよ?みんな」
「だってお前、あとで真さんが正気に戻った時の為に、なあ?」
「そうそう。クーリングオフについて、説明をね」
「私は通販で売ってないっつーの!」
真菜が大声を出すと、真は我慢の限界とばかりに笑い出した。
「いや、そのすみません。どうにも、堪え切れなくて…」
そしてようやく笑いを収めると、真剣に話し出す。
「私は、視力も問題なく、真菜さんの顔も良く見えています。彼女が号泣すると顔が、その、やや変形するのも承知しています。それに、彼女を一生手放すつもりはありません。どうか、私を真菜さんと結婚させて頂けないでしょうか?」
そう言って頭を下げると、また皆は、わー!と騒ぎ出す。
「そ、そんな!頭を上げて下さい!」
「そうですよ。私達の許可なんていりませんから!」
「どうぞ!ご自由にお持ち下さい」
「私はレジの横の飴玉かー!」
真菜が叫んで、皆は大笑いする。
「いやー、とにかく良かった!な、真菜」
「ほんとよー。これは、この町の奇跡よ!あんた、伝説になるわよ」
お酒も入り、寿司を囲みながら、終始嬉しそうな両親の横で、真吾がそっと真に話しかける。
「でも真さん。これは単なるバカな弟の呟きなんですけど…。姉ちゃんを選んだ真さんは、なかなかお目が高いと俺は思います」
すると真もニヤッと笑った。
「真吾くん。実は俺もそう思ってるんだ」
二人は、ニッと笑いながら、グラスをカチンと合わせた。
「これからよろしくな、真吾くん」
「はい、お兄さん」
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
葉月 まい
恋愛
ー大好きな人とは、住む世界が違うー
たとえ好きになっても
気持ちを打ち明けるわけにはいかない
それは相手を想うからこそ…
純粋な二人の恋物語
永遠に続く六日間が、今、はじまる…
シンデレラは王子様と離婚することになりました。
及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・
なりませんでした!!
【現代版 シンデレラストーリー】
貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。
はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。
しかしながら、その実態は?
離婚前提の結婚生活。
果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。
冷徹社長は幼馴染の私にだけ甘い
森本イチカ
恋愛
妹じゃなくて、女として見て欲しい。
14歳年下の凛子は幼馴染の優にずっと片想いしていた。
やっと社会人になり、社長である優と少しでも近づけたと思っていた矢先、優がお見合いをしている事を知る凛子。
女としてみて欲しくて迫るが拒まれてーー
★短編ですが長編に変更可能です。
小さな恋のトライアングル
葉月 まい
恋愛
OL × 課長 × 保育園児
わちゃわちゃ・ラブラブ・バチバチの三角関係
人づき合いが苦手な真美は ある日近所の保育園から 男の子と手を繋いで現れた課長を見かけ 親子だと勘違いする 小さな男の子、岳を中心に 三人のちょっと不思議で ほんわか温かい 恋の三角関係が始まった
*✻:::✻*✻:::✻* 登場人物 *✻:::✻*✻:::✻*
望月 真美(25歳)… ITソリューション課 OL
五十嵐 潤(29歳)… ITソリューション課 課長
五十嵐 岳(4歳)… 潤の甥
契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」
突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。
冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。
仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。
「お前を、誰にも渡すつもりはない」
冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。
これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?
割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。
不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。
これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。
愛のかたち
凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。
ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は……
情けない男の不器用な愛。
夕陽を映すあなたの瞳
葉月 まい
恋愛
恋愛に興味のないサバサバ女の 心
バリバリの商社マンで優等生タイプの 昴
そんな二人が、
高校の同窓会の幹事をすることに…
意思疎通は上手くいくのか?
ちゃんと幹事は出来るのか?
まさか、恋に発展なんて…
しないですよね?…あれ?
思わぬ二人の恋の行方は??
*✻:::✻*✻:::✻* *✻:::✻*✻:::✻* *✻:::✻*✻:::✻
高校の同窓会の幹事をすることになった
心と昴。
8年ぶりに再会し、準備を進めるうちに
いつしか二人は距離を縮めていく…。
高校時代は
決して交わることのなかった二人。
ぎこちなく、でも少しずつ
お互いを想い始め…
☆*:.。. 登場人物 .。.:*☆
久住 心 (26歳)… 水族館の飼育員
Kuzumi Kokoro
伊吹 昴 (26歳)… 海外を飛び回る商社マン
Ibuki Subaru
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる