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これは一体何事ですか?!

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 その2週間後。
 本社からフェリシア 横浜に連絡が来た。

 「サプライズウェディングの様子、無事にテレビ放送してもらえるんだって!」

 久保が届いたメールを読み上げると、皆は、やったー!と両手を挙げて喜ぶ。

 「しかもね、当初10分の予定が、編集で切るに切れなくて、20分になったらしいわ。うちの映像事業部が撮影した動画も、一緒に編集されたそうよ。あとは仕上げて、新郎新婦とうちの社長がチェックして、オッケーなら放送されるみたい」
 「ひゃー、楽しみ!放送っていつなんですか?」
 「えーっと、なになに、8月の4日だって」

 ええー?と一斉に皆は驚く。

 「そんな先なんですか?」
 「忘れそう…」
 「うん。録画予約もまだ出来なくない?」

 そしてその通り、日々の忙しさの中で、皆はすっかり失念していた。

*****

 「おはようございまーす」
 「おはよう、真菜。今日は挙式ないのに早いのね」
 「ちょっと打ち合わせが立て込んでるので、早めに準備したくて…」

 真菜が久保と話していると、オフィスの電話が鳴った。

 営業時間にはまだ早く、珍しいなと思いながら受話器を上げる。

 「お電話ありがとうございます。アニヴェルセル・エトワール、フェリシア 横浜の齊藤でございます」
 「えっ?!齊藤さんですか?」
 「は?はい。そうですが…」
 「あのあの、俺達、そちらで結婚式挙げたくて…。空いてる日、ありますか?」
 「はい?あの、このお電話で日取りを押さえられるのでしょうか?失礼ですが、こちらをご見学された事は?」
 「ないです。だめですか?」
 「いえ、大丈夫ですが。その、一度式場をご覧頂いて、説明させて頂いてからでは…」
 「もう、そこで挙げようって決めたんです、俺達。他の人に取られちゃう前に、急いで日程押さえようと思って」

 真菜は、戸惑いつつも分厚い予約ファイルを取り出した。

 「かしこまりました。それではご希望のお日にちはございますか?」
 「土日で、なるべく早くお願いします」
 「承知しました。それですと…」

 すると、また別の外線電話が入り、久保が応答する。

 「はい?挙式のご予約ですか?ご見学はされなくても大丈夫でしょうか?」

 ん?同じ様な内容?と、ファイルをめくりながら真菜が考えた時、またもや別の電話が鳴り始める。

 (ええ?!どういう事?なんでこんな、営業時間前に電話が次々かかってくるの?)

 電話に応対しながら、久保と視線を合わせて無言のやり取りをする。

 (なんで?何事?)

 対応し切れず鳴り響いていた電話が留守番電話になり、相手が諦めて電話を切ったと思ったそばから、また次々と鳴り始める。

 (ヒーッ!一体なぜー?)

 やがて、事務のパートの女性が二人出勤して来るなり、鳴り続ける電話の受話器を急いで上げた。

 そしてまた同じ様に、挙式のご予約ですか?と驚いている。

 皆が予約ファイルに手を伸ばし、ペンで次々と日にちに印を入れていく。

 お名前と連絡先を聞き、来店の予約を入れて、ようやく通話を終えると、すぐまた電話が鳴る。

 他の社員も出勤してくる度、異様な光景に驚いて、皆で必死に電話に応対する。

 しばらくしてから、耐え切れなくなった様に久保が声を上げた。

 「ちょっと待って!どういう事?何が起こってるの?」

 電話の呼び出し音が響き渡る中、美佳が、あっ!と声を上げた。

 「な、何?美佳ちゃん」
 「今日、8月4日ですよ!」
 「それが何?」
 「テレビ放送の日です!ほら、サプライズウェディングの」

 ああー!と皆は声を上げた。

*****

 電話に応対しながら、真菜は久保のパソコンに釘付けになる。

 ちょうど、テレビでサプライズウェディングの様子が放送されているところだった。

 (これの影響?それにしても、まだ放送の途中なのに?)

 画面では、挙式を終えた新郎新婦が、びっくりしたーと話している。

 つまりこの後まだ、写真撮影やパーティーの様子も流れるはずだ。

 (いつまで鳴り響くのー?この電話)

 結局、この日は1日中電話が鳴りっぱなし。

 挙式の仮予約は、あっという間に翌年の9月までの土日が埋まってしまった。

 「はあー、もう、なんなの?この怒涛の展開は…」

 夜になり、ようやく落ち着いたオフィスで、久保はデスクにバタッと突っ伏す。

 「ほんとですよー。テレビの影響って恐ろしいですね」
 「しかも、サプライズウェディングのご希望の電話も多くて」
 「そう!あと、仮予約はまだだけど、打ち合わせのご希望も凄いですよ」
 「うわー、予約表が真っ黒!どうするんですか?店長。これ、さばけますか?」

 久保は、ぐったりしたまま、無ー理ーと呟いた。

 するとまた電話が鳴り始め、皆はビクッとする。

 1番近くにいた梓が受話器を上げた。

 「お電話ありがとう…あ、お疲れ様です。はい。今、店長に代わりますね」

 そう言ってから、久保に声をかける。

 「店長、エリア統括マネージャーからです。大丈夫かー?ですって」

 久保は、ガバッと顔を上げると、梓から受話器を奪い、声を荒げた。

 「マネージャー!ぜんっぜん大丈夫じゃないんですけど!どうしてくれるんですか?!うち、パンクしちゃいますよ!」

 まあまあ、と言うマネージャーの声が、電話から漏れ聞こえる。

 「明日から、他店のスタッフもヘルプに行かせるから。なんとかしばらく頑張ってね。じゃあね!」

 そして電話はプツリと切れた。

*****

 「うわ、なんだか凄いですね」

 数日後、打ち合わせの為来店した、園田様・上村様は、驚いた様子でサロンを見渡す。

 「こんなに混んでるなんて…。あ、美佳さんも別の接客中なんですね」

 お二人が驚くのも無理はない。

 あのテレビ放送以降、フェリシア 横浜は連日挙式と打ち合わせに追われ、普段はゆったり使えるサロンも常に満席状態。

 今日はさらに、予備のテーブルと椅子まで使っていた。

 真菜のサポート役だった美佳も、忙しさのあまり半強制的に独り立ちさせられてしまった。

 「もしかして、テレビの影響ですか?」

 そっと聞いてくる新郎に、真菜は苦笑いで頷く。

 「凄いですねー、テレビって。でもあの放送、俺らも見たけど、とっても良かったですよ。な?亜希」
 「ええ。私、感動しちゃって…思わずもらい泣きしちゃいました。だって、真菜さんもポロポロ泣いてらっしゃるんだもん」

 お恥ずかしい…と、真菜はうつむく。

 「ううん、本当に素敵でしたよ。私達も、ここで挙式するのが本当に楽しみになって。あ、そうそう!あのリングボーイやってた男の子が可愛くて!うちの姪っ子も、リングガール出来ますか?4才なんですけど」
 「あ、はい!大丈夫ですよ。お名前は?」

 真菜は、ようやく打ち合わせに集中し始めた。
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