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先はまだまだ長いですか?!

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 「え?拓真くん、寮に入るの?」

 次の日、挙式を終えた控え室で、真菜や拓真、希や有紗は、それぞれ自分の片付けをしていた。

 「そ!いい年の男がいつまでも実家暮らしってのもどうかと思ってな。問い合わせたら、ちょうどお前の所の寮に空きがあるって」
 「そうなのね!拓真くん来てくれると嬉しい!引っ越しはいつ?」
 「6月入ると挙式続きになるからさ。5月中には引っ越そうと思ってる」
 「そっか。決まったら教えてね。私、手伝いに行くよ」
 「おお、ありがとう」

 二人のやり取りに、希と有紗はニヤリと顔を見合わせた。

 「拓真」

 希が後ろからグイッと首に手を回す。

 「ぐえっ!苦しいっすよ、先輩」
 「やるじゃんよー、このこの!」

 拓真の髪をくしゃくしゃにする希に、有紗も頷く。

 「ほんと!拓真くん、ついに行動に出たわね。頑張って!応援してる」

 そういうんじゃないですって!と、拓真は希の手から逃れようとする。

 「まあまあ、いつでも相談に乗るからさ」
 「そうそう、逐一報告してね」

 二人で顔を寄せると、拓真は諦めたように頷いた。

*****

 「ふう、ただいま」

 誰もいない寮の部屋に帰ると、真菜は買い物袋の中身を冷蔵庫に入れる。

 (1人分の食事なんて、作る気にならないな)

 そう思いながら、今まで3年間、ずっとそうやってひとり暮らししてたのに、と苦笑いする。

 適当に夕飯を作って食べると、お風呂に入る。

 (やっぱりまだ怖いな。でも、もうすぐ拓真くんが引っ越してきてくれる!心強いなー)

 以前、拓真に真との関係を問い詰められ、気まずくなった事は、すっかり忘れていた。

 明日の仕事の準備をし、早々にベッドに入る。

 だが、やはり夜は怖くて寝付けない。

 (真さん、今日も電話してきてくれないかなー)

 そう思いながら、何度か寝返りを打った時、ふとローテーブルの引き出しが目に入った。

 「そうだ!」

 真菜は急いでベッドから降りると、引き出しを開けて封筒を取り出す。

 そこには、拓真が撮ってくれた、例の模擬挙式の写真が入っていた。

 「わー、真さんがいっぱい!かっこいいなー」

 以前は何も思わなかったのに、今は懐かしい様な照れくさい様な、色んな気持ちで写真をめくる。

 「ふふっ、素敵な写真だなー。あ、そうだ!」

 真菜は顔を上げると、引き出しからマスキングテープを取り出した。

 そして、写真をベッドの横の壁に次々とテープで留めていく。

 「ぐふふ、これで真さんに囲まれて眠れるー」

 ニヤニヤしながら貼っていたが、途中でピタリと手を止めた。

 「こ、こ、これ…」

 手にした写真に写っていたのは、誓いのキスの時の二人。

 (そうだ、私、キスしたんだ、真さんと)

 なぜ今まで忘れていたのだろう。
 しかも、自分にとってはファーストキスだったのに…

 (いや、忘れていて良かったのかも。でなければ、真さんと一緒になんて住めなかったもん)

 そうだ、良かったのだと頷きながら、とにかくこの写真はしまっておこうと封筒に戻した。

*****

 次の週。
 拓真が真菜の住む寮に引っ越して来た。

 部屋番号は302。
 真が住んでいた部屋だった。

 (そりゃそうだよねー。滅多に空きが出ない寮だもん。空いてるとすれば、先月まで真さんが住んでいたこの部屋だよね)

 そう思いながら、真菜は拓真の部屋の食器棚にカップやお皿を並べていく。

 「助かるよ、真菜が手伝いに来てくれて。何だかんだ、引っ越しって大変なんだな。そんなに荷物多くないと思ってたのに」
 「そうだよね、分かる。しばらくは落ち着かないかも。あ、私、夕飯作ってくるね。あとで届けに来るから」
 「おおー、悪いな。サンキュー」

 真菜は頷いて自分の部屋に帰ると、ナスやさつまいもを天ぷらにし、蕎麦を茹でてトレーに載せ、302号室に戻る。

 引っ越し作業を中断して、温かいうちに二人で天ぷら蕎麦を食べ始めた。

 「うまい!」
 「ほんと?良かった。やっぱり引っ越しの日はお蕎麦だよね」

 セレブは違うけど、と、真菜は真の引っ越しの日を思い出し、ふふっと笑う。

 「今日はありがとな、真菜」

 食後のコーヒーを飲みながら、拓真が真菜に礼を言う。

 「ううん。ほんの少ししかお手伝い出来なかったけど」
 「いや、充分だよ。あとは俺1人でボチボチやるわ」
 「うん。無理せずゆっくりね」

 すると拓真は、少しためらいながら口を開いた。

 「真菜、この間はごめんな。キツイ言い方して」
 「この間って?」
 「ほら、専務との事で…。俺、先走っちゃってあんな言い方。でも、真菜はちゃんと寮に帰って来たんだもんな。誤解してて、本当に悪かった」

 ううん、と真菜は微笑んで首を振る。

 「拓真くん、心配してくれたんだよね、私のこと」
 「ああ、うん。真菜、俺、これからは真菜のすぐ近くにいるから、だから、だからさ」

 拓真は、真菜の顔をじっと見つめた。

 「これからは、俺を頼ってくれないか?お前の1番近くで、俺にお前を守らせて欲しい。だめか?」

 拓真は、ゴクッと唾を飲み込んで、真菜の返事を待った。

*****

 「で?どうなったの?それから」

 次の日。
 仕事の合間に夕べの事を話し出した拓真に、希と有紗が、グッと顔を近付けてくる。

 拓真は、はあとため息をついた。

 「ため息ついてちゃ分からんでしょうよ。何て言ったの?真菜は」
 「それが…。にっこり笑って、ありがとう、心強いわって」
 「で?」
 「だから、それだけ。また普通にコーヒー飲み始めて、そろそろ帰るねーお休みって」

 またため息をつく拓真に、希と有紗は苦い表情で顔を見合わせる。

 「ね、どう思います?真菜はどういう意味に捉えたんでしょうか?」

 拓真がすがる様に、希と有紗に聞いてくる。

 「どうって、それは…」
 「ねえ、つまり、そのまんま…」

 ガクッと拓真は肩を落とす。

 「まあまあ、ほら、そう落ち込むなって」
 「真菜ちゃんにはねえ、なかなか伝わりにくかったのかもね」
 「俺…どうすりゃ良かったんでしょうか」
 「めげないの!何度でもチャレンジあるのみよ!」
 「そうそう。拓真くん、今度はもう少し計画的に進めてみれば?シチュエーション考えて」

 その時、ガチャッとドアが開いて控え室に真菜が入って来た。

 「お疲れ様です。あら?皆さんお揃いで、何か楽しい話でもしてるんですか?」

 拓真が、またもやガクリと肩を落とした。

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