魔法のいらないシンデレラ 3

葉月 まい

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いよいよ産休

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7月の半ばになると、会議室にまたリーダー達が集められた。

「えー、ではこれより第二回リーダーミーティングを始めます。と、その前に…」

司会の早瀬に目配せされ、青木と奈々が立ち上がった。

「皆様、前回は大事な会議中にご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」

二人は揃って頭を下げる。

「あの後、総支配人のご厚意を有難く頂戴し、私はレストランで彼女にプロポーズ致しました」
「そ、それで?お返事は?」

今井が前のめりになって聞く。

「はい。OKの返事をもらえました」

わあっ!と皆から拍手が起こる。

「おめでとう!良かったわねー」
「いやー、めでたい。私もずっと気になってたんだよ」
「挙式は是非、当ホテルでお願いしますよ」

今井に続き、田口や福原も笑顔で声をかける。

青木と奈々が、照れたように笑ってもう一度皆に頭を下げ、和やかな雰囲気の中、2回目のミーティングが始まった。

「えー、まずこの2回目のミーティングを迎えるに当たり、ここにいるメンバーから、様々な情報や資料を寄せて頂きました。どれも貴重な資料でしたので、コピーして皆様にもお配りしました。今日はこれを見ながら、話を進めていきたいと思います。総支配人」

話を振られ、一生は皆を見渡す。

「私からはまず、資料の2ページ目の説明をしたい。社員全員に、2度目のアンケートを取った時の回答結果だ」

皆は手元の資料をめくる。

『このプロジェクトに興味があるか』
という質問に対しての、社員の回答がグラフになっていた。

「私は当初、このプロジェクトを進めても、実際に引っ越しを決める社員は、多くても3割くらいかと思っていた。仕事とプライベートはきっちり分けたい、休日に職場の人とバッタリ会いたくない、という社員も多いだろうからと。ところがこのアンケート結果を見ると、プロジェクトに興味があると答えた社員は約8割、良い条件なら引っ越しを検討したいと答えた社員も、7割いた。これは、私の予想を遥かに上回っている」

一生の話に、今井が頷いて口を開く。

「私の周りでも、はやりこのプロジェクトに興味がある社員が多いです。どんな感じなのかと、私に聞いてきたりしますし」

福原も同意した。

「そうですよね。若い人は、仕事とプライベートのオン・オフを切り替えたいと思うでしょうが、我々の年代になるとねえ。そんな事はもう思いません」

そして田口が、妙に高い声を出す。

「一人で年老いていくのは嫌じゃー。みんなと日向ぼっこして、お茶でも飲んで暮らしたいー」
「田口部長、仕事はどうしたんですか?」

加藤が笑いながら突っ込み、皆もあはは!と笑った。

「まあ、そんな訳で、ちょっと驚いているんだ。まずは少ない物件数から始めて、希望者を募るが、もしそれでも希望者が後を絶たなければ、もっと手広く探すかもしれない。そうなると、このプロジェクトも長期に渡る可能性がある。みんな、お付き合い願えるだろうか?」
「もちろんですわ」

今井が笑顔で一生に頷くと、皆も同じように頷く。

「ありがとう!心強いよ。もちろん無理なくで大丈夫だ。よろしく頼む」

ホッとしたように一生が笑いかけ、皆も一層気持ちを1つにした。

そして分厚い資料をめくりながら、皆で検討していく。

前回挙げられた都心部と郊外の計3ヶ所に、メンバーが見つけてきた物件が紹介される。

そこからいくつか絞り、一生が下見に行く事になった。

小雪が提出した資料についても取り上げられ、皆は興味深く小雪の補足を聞く。

一生は小雪に、委託している小雪のシッター派遣会社に、社宅へのシッターもいずれ頼みたいと言い、上層部に話をしてもいいか?と尋ねた。

「も、もちろんです!私のような下々の人間ではなく、どうぞトップの方同士でお話して頂ければと思います」
「分かった、ありがとう。介護やホームヘルパーについてはどうだろう。誰か心当たりあるかな?」

すると今井が、時々お願いしているヘルパー派遣会社の資料を、次回提出すると言う。

他のメンバーも、引き続き情報収集や社員の意見を拾っていくことを確認し、ミーティングは終了となった。

最後に、瑠璃が立ち上がって挨拶する。

「産休に入る為、次回以降しばらくはオンラインでの参加になります。情報収集は続けていきますし、プロジェクトにも今後変わらず取り組みますので、どうぞよろしくお願い致します」

頭を下げると、皆が一斉に拍手する。

「産まれたら、教えて下さいね」
「可愛いでしょうねー、お二人の赤ちゃん。オンラインで会わせて下さいね」

最後に今井が声をかける。

「瑠璃様、どうぞお身体お大事に。元気な赤ちゃんが産まれてくるようお祈りしています」
「皆様、ありがとうございます」

一生も立ち上がり、瑠璃と二人で頭を下げてから微笑んだ。

その翌週、いよいよ瑠璃の産休前最後の勤務日になった。

仕事を終えると、企画広報課の皆から花束を渡され激励される。

「瑠璃ちゃん、出産頑張って!」
「いつでも顔出してね」
「産まれたら写真送ってねー」

ありがとうございますと皆にお礼を言ってから、瑠璃は最後に奈々と向き合った。

「瑠璃ちゃん、しばらく会えなくなって寂しい…」

奈々は、目に涙を浮かべてハグをする。

「私も。でもいつでも電話してね。それと、結婚の準備、頑張ってね」

山下が二人を交互に見て言う。

「そうだよー、二人ともますます幸せになるんだからさ。嬉しい門出だよ」

バンザーイ!と皆で手を上げる。

瑠璃は、思わず笑って奈々と頷いた。

大きな花束を抱えて、瑠璃はナーサリーにすみれを迎えに行く。

「すみれちゃん、しばらく会えないけど元気でね」

小雪は必死に涙を堪えて、すみれに笑いかける。

すみれも、今にも泣き出しそうな表情で小雪に抱きつく。

一生懸命泣かないように頑張るすみれを見て、瑠璃が小雪に口を開いた。

「小雪先生、私の産休中も、週に2回くらいすみれを預かって頂けませんか?」

小雪とすみれが、パッと顔を上げて瑠璃を見る。

「いいんですか?瑠璃さん」
「いいの?かあさま」

瑠璃はニッコリ笑って頷いた。

やったー!と二人は抱き合って喜んでいる。

(良かった。すみれには、なるべく今の生活を続けて安心させたい)

自分の出産に向けて、すみれが心細くならないよう、瑠璃はいつも以上にすみれに気を配ろうと思った。
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