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旅行

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「すみれ、準備はいい?」

一生の言葉に、すみれは、背負った小さなリュックの持ち手を両手で握りながら、うん!と頷く。

「よーし。じゃあしゅっぱーつ!」

グーにした片手を挙げて玄関を出て行く二人に笑いながら、瑠璃もあとに続く。

今日はいよいよ三人で京都に行く日。

マンションの1階に下りると、ロータリーに停めた車の横で、運転手の白石しらいしがにこやかに挨拶してくれる。

「おはようございます!」
「おはよう、白石」
「白石さん、おはようございます。よろしくお願いします」

一生と瑠璃に続き、すみれも両手を揃えて挨拶する。

「おはようございます」
「すみれちゃん、おはようございます。いよいよ京都ですね!新幹線の駅まで車でお送りしますね」
「はい!」

すみれは、楽しみで仕方ないとばかりに、笑顔で返事をする。

「さあ、どうぞ」

白石の開けたドアから車に乗り込むと、すみれはチャイルドシートに座る。

ベルトをしっかり締めて緩みがないか確かめると、白石は反対側のドアを開けて瑠璃に促した。

「足元お気を付けて」
「ありがとう」

腰を下ろした瑠璃は、ふと隣のすみれを見て微笑む。

「すみれ、リュック背負ったままじゃない。下ろしたら?」
「ううん。いいの」
「あら、中に入ってるおやつとぬいぐるみがペチャンコになっちゃうわよ?」
「えっ?たいへん!」

両手で口元を押さえてから、慌ててリュックを下ろそうとするすみれを、瑠璃はふふっと笑って手伝った。

「それでは、安全運転で参ります」

そう言ってゆっくりと車を走らせ始めた白石が、長い信号待ちで、思い出したように瑠璃に話しかける。

「瑠璃様、赤ちゃんのベビーシートのカタログ、いくつか集めました。シートごと取り外して持ち運べるタイプもありまして、なかなか良さそうです。ベビーカーにもセットして使えるみたいですよ」
「え、そうなの?それは良さそう!」
「お時間がある時に、またお店にご案内しますね」
「ええ。とっても楽しみ!よろしくお願いします」

やがて駅に着くと、白石はトランクから荷物を降ろして三人に向き合った。

「お帰りの日に、またここにお迎えに上がります。どうぞお気を付けて行ってらっしゃいませ。すみれちゃん、楽しんできて下さいね!」
「はい!」

元気の良いすみれの返事に、白石も笑顔で頷いた。

「わあ!これが、しんかんせん?これにのるの?」

ホームに滑るように入って来た新幹線に、すみれは圧倒されたように一生に聞いてくる。

「そうだよー。さ、乗ろう!」

一生と手を繋ぎ、すみれはドキドキした様子で車内に乗り込む。

窓際の席に座って外を眺めると、ちょうどホームのベンチに座っていた小さな男の子と目が合う。

男の子は、バイバイとすみれに手を振ってくれる。

すみれもおずおずと手を振った時、音もなくスーッと新幹線が動き始めた。

「と、とうさま!うごいた?うごいたの?」
「あはは!そうだよ、動いたよ」

すみれは緊張気味に外を眺める。

「す、すごいのね。はやくて、とんでいるみたい」

一生は、瑠璃と顔を見合わせて笑った。

その後も、ひたすら窓の外を眺めて興奮していたすみれだったが、車内販売のお姉さんからアイスクリームを受け取ると、とたんに目を輝かせた。

「とうさま!アイスクリーム、たべてもいいの?」
「ああ、もちろん。新幹線で食べるアイスクリームは特別おいしいよ」

嬉しそうにアイスクリームを食べ、また窓から見える景色に夢中になる。

そんなすみれを、一生と瑠璃が微笑みながら見守っていると、あっという間に京都に到着した。

駅からすぐの『ホテル 高坂こうさか 京都』にチェックインする。

案内された部屋に1歩入ると、瑠璃と一生は驚いて足を止めた。

「い、一生さん。こ、このお部屋は…?」

予約したデラックスダブルの部屋とはほど遠く、広々とした豪華なその部屋は、おそらくスイートルーム。

「…バレたか」

一生は顔をしかめた。

「ネットで普通に予約したんだけどなあ。名前で気付くとは、さすがホテル 高坂のスタッフだな」
「いいのでしょうか?こんな豪華なお部屋…」
「うん、まあ仕方ない。ご厚意を有り難く受け取ろう。後日、高坂会長にお礼をしておくよ」

そして一生は、心配そうにこちらの様子をうかがっているすみれに笑いかける。

「すみれ、このお部屋に泊まるんだぞ。広いなー。よし!早速探検しよう!」
「いいの?うん!たんけんする!」

次々とドアを開けては、はしゃいだ声を上げるすみれと一生に、瑠璃も嬉しそうに笑った。
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