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果てしなく優しい世界
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「おとうさん!おかあさん!」
ホテルの部屋のドアを開けると、翼と舞が笑顔で飛びついてきた。
「翼、舞、会いたかった!」
恵真も大和も、笑顔で二人を抱きしめる。
フライトを終え、先にホテルに向かっていた両親達と部屋で合流することになっていた。
「どうだった?飛行機」
「うん!すごかった!あのね、ぐーんってとんだの」
「そう、とんだの!それでね、おねえさんがりんごジュースくれたの!」
「あと、おもちゃも!」
「ひこうきの、ふわふわしたおもちゃ!」
「ごはんもね、おいしかった!」
「ハンバーグと、ゼリーと、あと…」
「ソーセージとめだまやき!」
止まらない二人の話に、大和は苦笑いする。
「そうかそうか。感想がおもちゃと食べ物のことばっかりだけど、楽しんでくれたようで何よりだよ」
すると、大和の母が笑いながら話す。
「二人とも、離陸の時は窓の外に夢中だったけど、お姉さんに色々もらったら、もう景色はそっちのけよ。ご飯もパクパク食べて、コテンって寝ちゃって」
「そうそう。結局、着陸のアナウンスの時にようやく起きたの」
恵真の母と二人で、思い出したように笑い合う。
「でも、夜明けの瞬間はきれいだったなあ」
「そうですよね。もう感動しましたよ」
父親達は、どうやら二人ともロマンチストで気が合うらしい。
二人で、いかに空がきれいなグラデーションだったかを語り合っている。
「とにかく二人とも着替えてらっしゃい」
「そうね。これ、あなた達の部屋のキーよ」
母親達に促されて着替えに行こうとすると、父親達が止めた。
「ちょっと待って!せっかくだから、写真撮ろう」
「そうだよ。こんな素晴らしい日なんだから、記念に撮っておかなくちゃ」
タイマーをセットすると、8人でバルコニーから見える海をバックに写真を撮った。
「おおー、いい写真だ!」
「本当に。これ、引き伸ばして飾りましょうよ」
父親達は、またもや盛り上がっている。
恵真と大和は隣の部屋に行き、着替えてくることにした。
「はあー、気持ちいいな!」
半袖シャツに着替えると、大和はバルコニーから海を眺める。
「ほんとに。風も心地良いですね」
赤いノースリーブのワンピースを着た恵真も、隣に並んで海を眺めた。
「また恵真とここに来られたなんて。しかも今回は、子ども達も一緒!それに両親を乗せて飛ぶっていう親孝行も出来たしな。会社は、4泊5日の日程でスケジュール組んでくれたし。あー、もう俺、幸せすぎるー!」
恵真は苦笑いして大和を促す。
「さあ、子ども達を迎えに行きましょ」
「んー、あともう少し恵真と二人でいたい」
大和は恵真の肩をグッと抱き寄せると、いきなり恵真の唇を奪う。
驚いて身を引こうとすると、大和は更に強く恵真を抱きしめ、深いキスをする。
「んっ…」
何度も角度を変えて落とされるキスに、恵真の口から吐息が漏れた。
大和はそのままうしろのベッドに恵真を押し倒すと、唇が触れるすれすれのところで恵真の瞳を覗き込む。
「恵真、愛してる。あの時よりもずっとずっと、何倍も。心の底から君のことを愛してる。愛しくてたまらない」
切なそうに目を潤ませると、大和はまた恵真に何度もキスをする。
「大和、さん…」
恵真の身体から力が抜ける。
うっとりとキスに酔いしれると、少しずつ大和に身体を預けていった。
メッセージの着信音に我に返った恵真が、スマートフォンに手を伸ばす。
『翼も舞も、コテンとお昼寝始めちゃったの。あなた達もしばらく休みなさい』
同じくメッセージを確認した大和が、嬉しそうに笑った。
「だってさ!じゃあ俺達も寝ようか」
「や、大和さん?寝るってお昼寝ですよね?」
「当たり前でしょ?恵真は何を想像してたの?」
「いえ、その、お昼寝です」
「よし!じゃあ、ほら、おいで」
パリッと整えられたベッドのシーツをめくって、大和が不敵な笑みで恵真を誘う。
「あの、お昼寝ですよね?」
確認しながら恐る恐る近づくと、大和は、捕まえた!とばかりに恵真を抱きしめて身体を密着させる。
「や、大和さん!お昼寝!」
「んー、分かってるよ」
「じゃ、じゃあ、どうしてこんなにくっついてるの?」
「こうしてると安心するから。あー、良く眠れそうだなー」
恵真の首筋や鎖骨にキスの雨を降らせながら、大和はしれっと答える。
「ほら、恵真もお休み。良く寝るんだよ」
「や、大和さん!言ってる事とやってる事が!!」
身を固くして抵抗していた恵真も、最後には大和に甘くとろけさせられたのだった。
◇
「わー、うみだー!」
「うみだー!」
翼と舞は、裸足になって砂浜を走り出す。
波打ち際で足に水がかかると、キャッキャとはしゃいだ声を上げた。
そんな二人を、恵真も大和も笑顔で見守る。
会社が配慮してくれたスケジュールのおかげで、恵真も大和も、ハワイでの滞在を大いに満喫していた。
ホテルのビュッフェで美味しい食事を楽しむと、ショッピングや観光に行く。
シーライフ・パークでは、翼も舞も可愛いイルカに夢中になり、お揃いのぬいぐるみをお土産に買った。
夕方にサーッとにわか雨が降り、止んだあとにきれいな虹が空に架かった。
子ども達は、目で見るもの全てに感激し、大はしゃぎする。
興奮して疲れ気味なので、ホテルの部屋に戻ってお昼寝させていると、改めて両親がフライトデビューのプレゼントを見せてくれた。
「おもちゃはね、これをもらったの。ふわふわした手触りの飛行機のマスコットと、ノートとクレヨン。ほら、たくさんお絵描きしてるでしょ?」
「わー、飛行機の絵ね。可愛い」
恵真は、パラパラと二人のノートをめくる。
「それで、これが機内食。二人ともパクパク食べてたわよ」
「飛行機の形の入れ物なんだ。凄いね」
写真で見せてもらった機内食は、飛行機のプレートに可愛らしく盛りつけられている。
「それから、はい!これが搭乗証明書よ」
あ…と、恵真と大和は真顔に戻る。
また自分達のサイン入りで、大勢の子ども達に配られたのかと思うと、途端に恥ずかしくなってくる。
二人で意を決してそっと台紙を開いた。
「わあ、可愛い!」
ハネムーンフライトの時とは違って、イラスト入りで子ども向けに仕上がっていた。
………………………………………………
『JWA フライトデビュー 搭乗証明書』
2027年12月15日
日本ウイング航空 186便
羽田発ーホノルル行き
さくら つばさ くん
あなたは このフライトで
うまれてはじめて ひこうきに のって
そらをとびました
すばらしい たいけんを したことを
ここに しるします
日本ウイング航空
機長 佐倉 大和
副操縦士 佐倉 恵真
………………………………………………
「おおー、これはいい記念になるな」
父親達が、もう一冊の舞の台紙を開いてそう言うと、母親達も頷く。
「でしょう?それに何と言っても、翼も舞も、お父さんとお母さんの名前が書いてあるんだもの。もう一生の宝物よね」
さっきまで恥ずかしかったのが嘘のように、恵真は自分と大和の名前を誇らしく見つめる。
(翼も舞も、このフライトのことをいつまでも覚えていてくれますように…)
そう心の中で願うと、隣の大和に、ふふっと微笑みかけた。
◇
楽しかったハワイでの日々も、あっという間に最終日となる。
「明日のフライトも楽しんでくれるかな?」
「ああ。もしかしたら、またおもちゃと機内食に夢中かもしれないけどな」
「ふふ、ま、それでもいいか」
「そうだな」
ベッドでぐっすり眠っている二人に笑いかけてから、恵真と大和はバルコニーからの夜景を眺めていた。
すると、メッセージアプリの家族のグループに、大和の父からメッセージが届いた。
『送りそびれていたけど…。フライト中、大和のアナウンスが聞こえてきた時、ちょうど撮ってたんだ。二人とも可愛かったぞ』
そして動画が送られていた。
早速再生してみると、翼と舞が佐々木から絵本を貸してもらい、ありがとう!とお礼を言っているところだった。
『ご搭乗の皆様に、コックピットよりご案内申し上げます』
ふいに大和の機内アナウンスが聞こえてきて、二人はハッと顔を上げる。
「おとうさんだ!」
そしてじっと上を見ながら耳を傾けている。
しばらくすると、
「おかあさん!」と声を上げ、更に、
「つばさっていった!」
「まいっていったよ!」
と、目を輝かせて喜んでいる。
やがてアナウンスが終わると、二人でパチパチと手を叩きながら顔を見合わせた。
「おとうさんだったね!」
「うん。おかあさんもね!」
「つばさもね!」
「まいもね!」
にこにこと嬉しそうに笑う二人に、恵真も大和もじんわりと涙が込み上げてくる。
お互い泣き笑いの表情で顔を見合わせた。
「大和さんの想い、伝わりましたね」
「ああ、そうだな」
大和が更に目を潤ませる。
「恵真。俺、今回のフライトほど、パイロットになって良かったと思ったことはないよ。恵真と一緒に、子ども達と一緒に、両親と一緒に飛べたなんて。俺はなんて幸せなパイロットなんだろう」
恵真も、はいと頷く。
「私もです。パイロットの道を選んだ時、まさかこんなにも幸せな瞬間が待っているなんて、夢にも思っていませんでした。パイロットになれて、大和さんと出会えて、本当に良かった」
大和は恵真を優しく抱きしめて頷く。
「世界一幸せなパイロット夫婦だな、俺達」
「ええ」
「この先も、どんな幸せがあるんだろう。これ以上の幸せなんて、あるのかな?」
すると恵真は、思い出したようにクスッと笑う。
「ん?何?恵真」
「あのね、部長に言われたんです。翼と舞が20歳になったら、フルムーンフライトで飛んでくれって」
ええ?!と大和は驚いて恵真の顔を見る。
「フルムーンフライト?!子ども達が20歳って…何年後だよ?」
「17年後です。部長、定年退職してるけど見届けに来るって。それにSNSのコメントでもお客様から、ハネムーンフライトも子どものフライトデビューも乗ったら、あとはフルムーンフライトでコンプリート!って書かれてましたよ」
はあ…と大和は気の抜けた返事をする。
「考えてもみなかった。そんな先のこと…」
だが、だんだんと大和の顔に笑顔が広がる。
「いや、いいな!17年後のフルムーンフライト。やってやろうじゃない。な?恵真」
「ふふふ、そうですね」
「ちょっと待てよ。17年後、俺は57歳か!わー、鍛えておかないと。親父とおふくろは?82歳か。長生きしてもらわないとな」
真顔でブツブツ呟いてから、大和は恵真に笑いかける。
「恵真、俺達の幸せって、まだまだもっと続くんだな。楽しみだな!」
「ええ。翼も舞も、どんな子に成長してるでしょうね」
「ああ。もう想像するだけで楽しみで仕方ないよ」
大和はもう一度、恵真を抱きしめて耳元でささやく。
「恵真、これから先もずっとずっと一緒にいよう。そしてもっともっと幸せにする。恵真も、翼も舞もね」
「はい。大和さんと一緒なら、私はいつまでも幸せでいられます。翼も、舞も」
大和は微笑んで頷くと、恵真に心からの愛を込めてキスをした。
夜空に輝く星、打ち寄せる波の音、ふわりと心地良い風、そして可愛い子ども達の寝顔。
二人を包み込む世界は、果てしなく優しかった。
ホテルの部屋のドアを開けると、翼と舞が笑顔で飛びついてきた。
「翼、舞、会いたかった!」
恵真も大和も、笑顔で二人を抱きしめる。
フライトを終え、先にホテルに向かっていた両親達と部屋で合流することになっていた。
「どうだった?飛行機」
「うん!すごかった!あのね、ぐーんってとんだの」
「そう、とんだの!それでね、おねえさんがりんごジュースくれたの!」
「あと、おもちゃも!」
「ひこうきの、ふわふわしたおもちゃ!」
「ごはんもね、おいしかった!」
「ハンバーグと、ゼリーと、あと…」
「ソーセージとめだまやき!」
止まらない二人の話に、大和は苦笑いする。
「そうかそうか。感想がおもちゃと食べ物のことばっかりだけど、楽しんでくれたようで何よりだよ」
すると、大和の母が笑いながら話す。
「二人とも、離陸の時は窓の外に夢中だったけど、お姉さんに色々もらったら、もう景色はそっちのけよ。ご飯もパクパク食べて、コテンって寝ちゃって」
「そうそう。結局、着陸のアナウンスの時にようやく起きたの」
恵真の母と二人で、思い出したように笑い合う。
「でも、夜明けの瞬間はきれいだったなあ」
「そうですよね。もう感動しましたよ」
父親達は、どうやら二人ともロマンチストで気が合うらしい。
二人で、いかに空がきれいなグラデーションだったかを語り合っている。
「とにかく二人とも着替えてらっしゃい」
「そうね。これ、あなた達の部屋のキーよ」
母親達に促されて着替えに行こうとすると、父親達が止めた。
「ちょっと待って!せっかくだから、写真撮ろう」
「そうだよ。こんな素晴らしい日なんだから、記念に撮っておかなくちゃ」
タイマーをセットすると、8人でバルコニーから見える海をバックに写真を撮った。
「おおー、いい写真だ!」
「本当に。これ、引き伸ばして飾りましょうよ」
父親達は、またもや盛り上がっている。
恵真と大和は隣の部屋に行き、着替えてくることにした。
「はあー、気持ちいいな!」
半袖シャツに着替えると、大和はバルコニーから海を眺める。
「ほんとに。風も心地良いですね」
赤いノースリーブのワンピースを着た恵真も、隣に並んで海を眺めた。
「また恵真とここに来られたなんて。しかも今回は、子ども達も一緒!それに両親を乗せて飛ぶっていう親孝行も出来たしな。会社は、4泊5日の日程でスケジュール組んでくれたし。あー、もう俺、幸せすぎるー!」
恵真は苦笑いして大和を促す。
「さあ、子ども達を迎えに行きましょ」
「んー、あともう少し恵真と二人でいたい」
大和は恵真の肩をグッと抱き寄せると、いきなり恵真の唇を奪う。
驚いて身を引こうとすると、大和は更に強く恵真を抱きしめ、深いキスをする。
「んっ…」
何度も角度を変えて落とされるキスに、恵真の口から吐息が漏れた。
大和はそのままうしろのベッドに恵真を押し倒すと、唇が触れるすれすれのところで恵真の瞳を覗き込む。
「恵真、愛してる。あの時よりもずっとずっと、何倍も。心の底から君のことを愛してる。愛しくてたまらない」
切なそうに目を潤ませると、大和はまた恵真に何度もキスをする。
「大和、さん…」
恵真の身体から力が抜ける。
うっとりとキスに酔いしれると、少しずつ大和に身体を預けていった。
メッセージの着信音に我に返った恵真が、スマートフォンに手を伸ばす。
『翼も舞も、コテンとお昼寝始めちゃったの。あなた達もしばらく休みなさい』
同じくメッセージを確認した大和が、嬉しそうに笑った。
「だってさ!じゃあ俺達も寝ようか」
「や、大和さん?寝るってお昼寝ですよね?」
「当たり前でしょ?恵真は何を想像してたの?」
「いえ、その、お昼寝です」
「よし!じゃあ、ほら、おいで」
パリッと整えられたベッドのシーツをめくって、大和が不敵な笑みで恵真を誘う。
「あの、お昼寝ですよね?」
確認しながら恐る恐る近づくと、大和は、捕まえた!とばかりに恵真を抱きしめて身体を密着させる。
「や、大和さん!お昼寝!」
「んー、分かってるよ」
「じゃ、じゃあ、どうしてこんなにくっついてるの?」
「こうしてると安心するから。あー、良く眠れそうだなー」
恵真の首筋や鎖骨にキスの雨を降らせながら、大和はしれっと答える。
「ほら、恵真もお休み。良く寝るんだよ」
「や、大和さん!言ってる事とやってる事が!!」
身を固くして抵抗していた恵真も、最後には大和に甘くとろけさせられたのだった。
◇
「わー、うみだー!」
「うみだー!」
翼と舞は、裸足になって砂浜を走り出す。
波打ち際で足に水がかかると、キャッキャとはしゃいだ声を上げた。
そんな二人を、恵真も大和も笑顔で見守る。
会社が配慮してくれたスケジュールのおかげで、恵真も大和も、ハワイでの滞在を大いに満喫していた。
ホテルのビュッフェで美味しい食事を楽しむと、ショッピングや観光に行く。
シーライフ・パークでは、翼も舞も可愛いイルカに夢中になり、お揃いのぬいぐるみをお土産に買った。
夕方にサーッとにわか雨が降り、止んだあとにきれいな虹が空に架かった。
子ども達は、目で見るもの全てに感激し、大はしゃぎする。
興奮して疲れ気味なので、ホテルの部屋に戻ってお昼寝させていると、改めて両親がフライトデビューのプレゼントを見せてくれた。
「おもちゃはね、これをもらったの。ふわふわした手触りの飛行機のマスコットと、ノートとクレヨン。ほら、たくさんお絵描きしてるでしょ?」
「わー、飛行機の絵ね。可愛い」
恵真は、パラパラと二人のノートをめくる。
「それで、これが機内食。二人ともパクパク食べてたわよ」
「飛行機の形の入れ物なんだ。凄いね」
写真で見せてもらった機内食は、飛行機のプレートに可愛らしく盛りつけられている。
「それから、はい!これが搭乗証明書よ」
あ…と、恵真と大和は真顔に戻る。
また自分達のサイン入りで、大勢の子ども達に配られたのかと思うと、途端に恥ずかしくなってくる。
二人で意を決してそっと台紙を開いた。
「わあ、可愛い!」
ハネムーンフライトの時とは違って、イラスト入りで子ども向けに仕上がっていた。
………………………………………………
『JWA フライトデビュー 搭乗証明書』
2027年12月15日
日本ウイング航空 186便
羽田発ーホノルル行き
さくら つばさ くん
あなたは このフライトで
うまれてはじめて ひこうきに のって
そらをとびました
すばらしい たいけんを したことを
ここに しるします
日本ウイング航空
機長 佐倉 大和
副操縦士 佐倉 恵真
………………………………………………
「おおー、これはいい記念になるな」
父親達が、もう一冊の舞の台紙を開いてそう言うと、母親達も頷く。
「でしょう?それに何と言っても、翼も舞も、お父さんとお母さんの名前が書いてあるんだもの。もう一生の宝物よね」
さっきまで恥ずかしかったのが嘘のように、恵真は自分と大和の名前を誇らしく見つめる。
(翼も舞も、このフライトのことをいつまでも覚えていてくれますように…)
そう心の中で願うと、隣の大和に、ふふっと微笑みかけた。
◇
楽しかったハワイでの日々も、あっという間に最終日となる。
「明日のフライトも楽しんでくれるかな?」
「ああ。もしかしたら、またおもちゃと機内食に夢中かもしれないけどな」
「ふふ、ま、それでもいいか」
「そうだな」
ベッドでぐっすり眠っている二人に笑いかけてから、恵真と大和はバルコニーからの夜景を眺めていた。
すると、メッセージアプリの家族のグループに、大和の父からメッセージが届いた。
『送りそびれていたけど…。フライト中、大和のアナウンスが聞こえてきた時、ちょうど撮ってたんだ。二人とも可愛かったぞ』
そして動画が送られていた。
早速再生してみると、翼と舞が佐々木から絵本を貸してもらい、ありがとう!とお礼を言っているところだった。
『ご搭乗の皆様に、コックピットよりご案内申し上げます』
ふいに大和の機内アナウンスが聞こえてきて、二人はハッと顔を上げる。
「おとうさんだ!」
そしてじっと上を見ながら耳を傾けている。
しばらくすると、
「おかあさん!」と声を上げ、更に、
「つばさっていった!」
「まいっていったよ!」
と、目を輝かせて喜んでいる。
やがてアナウンスが終わると、二人でパチパチと手を叩きながら顔を見合わせた。
「おとうさんだったね!」
「うん。おかあさんもね!」
「つばさもね!」
「まいもね!」
にこにこと嬉しそうに笑う二人に、恵真も大和もじんわりと涙が込み上げてくる。
お互い泣き笑いの表情で顔を見合わせた。
「大和さんの想い、伝わりましたね」
「ああ、そうだな」
大和が更に目を潤ませる。
「恵真。俺、今回のフライトほど、パイロットになって良かったと思ったことはないよ。恵真と一緒に、子ども達と一緒に、両親と一緒に飛べたなんて。俺はなんて幸せなパイロットなんだろう」
恵真も、はいと頷く。
「私もです。パイロットの道を選んだ時、まさかこんなにも幸せな瞬間が待っているなんて、夢にも思っていませんでした。パイロットになれて、大和さんと出会えて、本当に良かった」
大和は恵真を優しく抱きしめて頷く。
「世界一幸せなパイロット夫婦だな、俺達」
「ええ」
「この先も、どんな幸せがあるんだろう。これ以上の幸せなんて、あるのかな?」
すると恵真は、思い出したようにクスッと笑う。
「ん?何?恵真」
「あのね、部長に言われたんです。翼と舞が20歳になったら、フルムーンフライトで飛んでくれって」
ええ?!と大和は驚いて恵真の顔を見る。
「フルムーンフライト?!子ども達が20歳って…何年後だよ?」
「17年後です。部長、定年退職してるけど見届けに来るって。それにSNSのコメントでもお客様から、ハネムーンフライトも子どものフライトデビューも乗ったら、あとはフルムーンフライトでコンプリート!って書かれてましたよ」
はあ…と大和は気の抜けた返事をする。
「考えてもみなかった。そんな先のこと…」
だが、だんだんと大和の顔に笑顔が広がる。
「いや、いいな!17年後のフルムーンフライト。やってやろうじゃない。な?恵真」
「ふふふ、そうですね」
「ちょっと待てよ。17年後、俺は57歳か!わー、鍛えておかないと。親父とおふくろは?82歳か。長生きしてもらわないとな」
真顔でブツブツ呟いてから、大和は恵真に笑いかける。
「恵真、俺達の幸せって、まだまだもっと続くんだな。楽しみだな!」
「ええ。翼も舞も、どんな子に成長してるでしょうね」
「ああ。もう想像するだけで楽しみで仕方ないよ」
大和はもう一度、恵真を抱きしめて耳元でささやく。
「恵真、これから先もずっとずっと一緒にいよう。そしてもっともっと幸せにする。恵真も、翼も舞もね」
「はい。大和さんと一緒なら、私はいつまでも幸せでいられます。翼も、舞も」
大和は微笑んで頷くと、恵真に心からの愛を込めてキスをした。
夜空に輝く星、打ち寄せる波の音、ふわりと心地良い風、そして可愛い子ども達の寝顔。
二人を包み込む世界は、果てしなく優しかった。
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