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パイロット夫婦の誕生
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「かんぱーい!」
大和が海外フライトの日、恵真は仕事上がりに伊沢やこずえと三人で食事に来ていた。
「おめでとう!伊沢くん、こずえちゃん」
「ありがとう。恵真の方こそ、おめでとう!その婚約指輪、すっごくきれいね」
「ふふ、ありがとう」
照れたように恵真は微笑む。
「なんか俺達、一気に幸せになったな」
伊沢がしみじみ言う。
「いい夫婦の日。こずえが誕生日で俺はこずえとつき合い始めて。恵真は佐倉さんと婚約、野中さんと彩乃さんも結婚披露宴。俺達毎年さ、11月22日を感慨深く思い出すんだろうな、この先も」
「そうだね」
恵真も頷く。
「はあー、まさかこんな結果になるなんてね。20歳の自分に教えたら、びっくりたまげるだろうな」
「なんだよ?それ。俺とつき合うのが不満みたいだな」
こずえの言葉に、伊沢がむくれる。
「不満じゃないけど、驚きの展開なんだもん。まあ、あの頃はパイロットになる為に必死で、誰とつき合うかなんて考える余裕もなかったけどね」
確かに、と恵真も笑う。
「俺さ、今でも時々スマホに保存してあるこの写真、見返すんだ。ほら」
そう言って伊沢は二人に画像を見せる。
それは、ファーストソロフライトを終えた三人が、制服姿で笑っている写真だった。
「うわ、懐かしい!」
「ほんと!顔があどけないね」
恵真とこずえは、笑顔で写真を見つめる。
「あの頃、本当にパイロットとしてやっていけるか不安だった自分に教えてあげたい。パイロット、凄くいい仕事だよって」
恵真がそう言うとこずえも頷く。
「そうだよね。あの時の苦労が報われて、何倍も楽しく空を飛べるから、大丈夫って言ってあげたい」
そんな二人の横で、伊沢も真面目に続ける。
「それに最高の恋人も出来るぞって。パイロット目指して良かったな」
はあ?と、女子二人が眉を寄せる。
「もう、何その不純な発想。伊沢さ、なんかキャラ変わったよね」
「だって俺にとっては大事な事だもん。二人と知り合えて、こずえと一緒になれた事が」
思わずうつむいたこずえの顔を、恵真が覗き込む。
「ふふ、こずえちゃん、照れてるの?」
「ち、違うわよ!」
「なんか伊沢くんもかっこよくキャラ変したけど、こずえちゃんも可愛くなったよね」
「ちょっと!恵真こそキャラ変わったわよ。何?その余裕ぶった発言。既にマダムみたいな貫禄」
マダムー?!と恵真が声を上げる。
「やだ!何それ?」
まあまあ、と伊沢が苦笑いする。
「とにかく俺達の前途は明るいよな。俺、頑張って同期の誰よりも早く機長に昇格してみせるよ」
「え、凄い!伊沢くん」
「まあな。いつまでもこずえを頼ってばかりじゃ情けない。俺も頼られる男にならないとな」
こずえは頬を染めて言葉を失っている。
「良かったね!こずえちゃん」
「もう、恵真。またそうやって…」
「だって嬉しいんだもん。私達三人が、今こうやって幸せにパイロットとして空を飛べてる事が」
「うん、確かにね」
「よし、じゃあもう一回乾杯するか。俺達の明るい未来に…」
かんぱーい!と、三人は笑顔でグラスを上げる。
恵真は心の中で、20歳の頃の自分に語りかけた。
数々の不運に見舞われて、自信を失くしていた自分。
果たしてパイロットになれるのか、不安で仕方なかった日々。
(大丈夫。あなたは幸せなパイロットになれる。大好きな人に巡り会って、たくさんの愛で包んでもらえる。パイロットとしても力強く導いてくれる素敵な人に会えたあなたは、最高に幸せになれるよ)
恵真はあの頃の自分に微笑みかけた。
♢
12月に入り、1年前に二人がつき合い始めた同じ日に、恵真と大和は婚姻届を提出した。
晴れて夫婦となった事を会社に報告する。
するとあっという間に話が広まっていった。
「おめでとうございます!」
「あ、その、ありがとうございます…」
会う人会う人に声をかけられ、その度に恵真は頭を下げる。
(なんて速い情報の伝わり方なの。マッハの速さ?)
真剣にそう考えていると、うしろから藤崎さん!と呼ばれた。
振り返ると、広報課の川原がにこにこと近づいてくる。
「聞いたわよー、おめでとうございます!」
「あ、ありがとうございます」
「なんだー、佐倉キャプテンとおつき合いされてたなら、そう教えてくれたら良かったのに。でもそっか、だからあの時…」
あの時?と恵真は首をかしげる。
「あのね、倉科キャプテンとの動画をSNSにアップしたあと、あなたの追っかけが空港であなたのことを、その、じっと見てたらしいの。それに佐倉キャプテンが気づいて、私に話をしに来たのよ。もう動画を上げないように、それから警備スタッフにあなたを守らせるようにって」
ええー?!と恵真は驚いて仰け反る。
そんな話は聞いた事がなかった。
(大和さんが、私の為にそんな事を?)
「うふふ、愛されてるわね。羨ましい。それでね、実は広報課で、早速お二人のことを記事にしようって話してるの。父親と息子が一緒に操縦する親子フライトはたまに聞くけど、夫婦フライトなんて珍しいでしょう?ぜひ、大々的に取り上げようって。あとで佐倉キャプテンにも話しておくわね。忙しくなるわー。それじゃ!」
そそくさと立ち去る川原の背中を見ながら、恵真は、ん?と首をひねる。
「夫婦フライト?何それ?」
だがそれはすぐに現実のものとなる。
スケジューラーから急なシフト変更を告げられた恵真は、1週間後、大和と一緒に福岡に飛ぶ事になった。
コックピットに並んで座り、ブリーフィングをしている二人を川原が写真撮影する。
往路の福岡へのフライトを終えて休憩を取っていると、スマートフォンを見ていた大和が驚きの声を上げた。
「うわ、もうSNSにアップされてるぞ」
「ええ?もう?」
恵真も画面を覗き込む。
二人が並んで座っている笑顔の写真の下には…。
『日本ウイング航空初のパイロット夫妻が誕生しました!
本日が夫婦としての初フライトです。
息の合ったコンビネーションで、皆様を安全に目的地まで送り届けます。
本日もどうぞごゆっくり空の旅をお楽しみください』
ひえー!と恵真は、思わず頬を押さえる。
「か、川原さん。こんな文章を…」
それになぜ撮影の時、左手でサムアップするように指示し、何度も角度を変えて写真を撮っていたのかが分かった。
二人の左手の結婚指輪が写っていたからだ。
「やれやれ。仕事が速いな、川原さんは」
大和も肩をすくめる。
写真をSNSで紹介する事に、大和は最初渋っていた。
恵真がまた注目され、空港で追いかけられたら?と。
たが川原は、逆に恵真が既婚者だと知らせた方が追っかけも減るし、何よりこれからは堂々と大和が守ってやれるのでは?と大和を納得させた。
それにこの話は川原の一存ではなく、広報課の課長の意向だと言われれば、断る事は出来なかった。
「コメントも凄い勢いで次々書き込まれてる」
「本当に?」
大和が画面をスクロールさせる。
『夫婦揃ってパイロットなんてすごい!』
『美男美女でパイロット!最強じゃない?』
『いいなー、この夫婦の便に乗ってみたい』
そんなコメントが続く中『あれ?』と誰かが書き込んだ。
『この女性パイロット、前にも紹介されてなかったっけ?』
『あー!藤崎コーパイだ!』
『じゃあやっぱりあの時二人は恋人同士だったんですねー。素敵!』
『でも隣の人、あの時の機長と違うよね?』
『本当だ!あれ?』
だんだん大和の顔が能面のようになる。
「や、大和さん。もう読まなくても。ね?」
「むーっ、面白くない!恵真は俺の妻だぞ?もっとドドーン!とお知らせしないと」
ええー?!と恵真は仰け反る。
「大和さん。SNSに載せるのもあんなに嫌がってたのに?」
「だからって、恵真が倉科さんと結婚したと勘違いされるなんて。このままにはしておけん!」
またしてもメラメラと、大和は倉科への対抗意識を燃えたぎらせた。
♢
「ハネムーンフライト?何ですか、それ」
福岡のフライトを終えた次の週。
オフィスの会議室で、大和と恵真は川原に呼ばれて説明を受けていた。
「年明け早々に発売が開始される、新婚旅行のカップルに向けてのプランなんです」
二人は川原が差し出した資料を覗き込む。
「ハネムーンと申告して予約して頂くと、色々な特典が受けられるんです。まず隣同士の席の確約、会社のマスコットベアのぬいぐるみを、花嫁と花婿バージョンでプレゼント、アメニティも特別仕様。それになんと!あなた方お二人のサイン入り、ハネムーンフライト搭乗証明書を発行するんです!」
………はい?と、川原のテンションとは真逆に二人は首をかしげる。
「何ですか?その、ハネムーンフライト、搭乗証明書って?」
「日付と便名、目的地の他に、機長と副操縦士、つまりあなた方ご夫婦の署名を入れてお渡しするんです。あ、別に公的な物じゃなくて。まあ記念品みたいな感じですね、結婚証明書みたいな」
はあ、と二人は気の抜けた返事をする。
「えっと、つまり…。俺達がまた一緒に飛ぶって事ですか?」
「そうなんです。行き先はホノルル。日程は、今旅行会社とも調整中ですが、おそらく3月の初旬になるかと」
旅行会社と調整中?と、恵真が尋ねる。
「それって、ホテルとパッケージにして発売するって事ですか?」
「そうなの。うちで取り扱うのは飛行機のチケットだけだけど、旅行会社が既に半分以上買い取ってくれる事になっていてね。で、その旅行会社は更にホテルと提携して、ハネムーン特典を付けて発売するみたい」
思いがけない大きな話に、思わず恵真は大和と顔を見合わせる。
「とにかくお二人は、普段通りに操縦して頂ければ大丈夫ですから。よろしくお願いします」
「分かりました」
それと…と、川原はチラリと大和の顔色をうかがいながら言葉を続けた。
「えーっと、機内誌にお二人のインタビュー記事を取り上げてもいいですか?」
上層部からのお達しなので、断られると私の立場が…と小さくなる川原に、大丈夫です!と大和が即答する。
「本当ですか?!」
川原が目を輝かせて身を乗り出した。
「ちょっと、佐倉さん…」
恵真が声をかけるが、大和は聞く耳を持たず川原に大きく頷く。
「もちろんです。会社の意向には従わなければいけません。我々は、いち会社員にすぎませんから」
そう言われると恵真も従うしかない。
「あー、良かった!じゃあすぐにインタビューの日を設定しますね。パイロットの制服姿で色々お話聞かせてください」
「はい!喜んで!」
妙に張り切る大和に、これはもしや、あの倉科キャプテンへの対抗意識がまだ?と、恵真は困った顔になる。
「あ、そうそう藤崎さん。会社では旧姓を使用するとの事だったけど、対外的な場面では新姓でも構わないかしら?」
「え?あ、はい。大丈夫です」
「ありがとう。じゃあインタビュー記事では、佐倉 恵真 副操縦士って紹介するわね」
「は、は、はい!」
恵真は思わず真っ赤になってうつむいた。
「あら?どうかした?」
「あ、いえ、あの。まだ呼ばれ慣れてなくて…」
「そうなのね。ふふふ、新婚さんだものね」
すると大和が、ポンポンと肩に手を置いて話しかけてきた。
「早く慣れてもらわないとなあ。だって君は、佐倉 恵真なんだから。はは!」
恵真は今度こそ、思い切り眉をひそめて大和を見た。
♢
早速2日後、乗務の合間を縫って機内誌に掲載されるインタビューが行われた。
恵真は大和と一緒に会議室に向かう。
前回、倉科との動画を撮った部屋と同じだった。
(今回は大和さんと一緒だもん。楽しみ!)
恵真はウキウキして顔をほころばせていた。
二人は窓越しに滑走路を背にして座り、ICレコーダーを置いたテーブルを挟んで座った川原の質問に答えていく。
もう一人広報課の社員が来て、インタビューの様子を写真撮影していた。
「では夫婦共にパイロットで良かったと思うのは、どんなところでしょうか?佐倉キャプテン」
促されて大和が口を開く。
「そうですね。まず何より仕事に対する理解があります。パイロットは常に健康に気をつけなければいけませんし、勤務も不規則で、海外フライトでは何日も家を不在にします。妻は栄養のバランスを考えた身体に良い美味しい料理を作ってくれますし、時差がある勤務のあとはゆっくり休ませてくれます。海外に飛んでしばらく会えない時は寂しいですが、必ずステイ先から電話するようにしています」
川原はメモを取りながら頷く。
「素敵ですね。恵真さんはいかがですか?」
「はい。私もとても助けられています。朝が早かったり夜遅くまでの勤務の時は、家事が疎かになってしまいますし、海外フライトでは家を空けなければいけません。そんな時も、しゅ…主人は理解を示してくれますし、帰ってきた私を休ませて代わりに家事をやってくれます。それから私はまだまだ勉強する事が多い副操縦士なのですが、いつでも優秀で素晴らしい機長に質問が出来ます。これはとても有り難いです」
なるほど…と川原は真剣にメモに書き込む。
「では夫婦揃ってパイロットというのは、ライフスタイルとしてはベストな感じですね」
すると大和が真顔で答えた。
「私と妻が常に同じフライトならベストですね。四六時中一緒にいられますから」
ちょ、ちょっと、佐倉キャプテン!と、隣で恵真が小声で止める。
「あらあら、ご馳走様です。じゃあもう少し踏み込んだお話をしてもいいですか?今後お子さんが生まれたら、どのようにお二人の生活は変わるのでしょうか?女性パイロットも増えてきていますので、ぜひ参考にお聞かせ頂ければ」
こ、子ども?!と、恵真は顔を真っ赤にするが、大和は真剣な表情のまま答える。
「そうですね。女性パイロットは妊娠、出産で乗務出来なくなる期間が出てきます。ですがそこを全力でカバーするのが私の役目です。マニュアルの変更点や情報のアップデートなどは、常に共有していきますし、もちろん家事育児も率先してやります。妻が育児休暇を終えて乗務復帰する際は、あらゆるサポートをしてスムーズに復帰出来るように支えます。そしてまた夫婦で乗務する日々が始まれば、互いに助け合いながら、無理なく子育ても楽しんでいきたいと思っています」
(大和さん、そこまで考えてくれていたなんて…)
恵真は感激してうつむく。
「恵真さんはどうですか?妊娠や出産は、どうしても乗務出来ない期間が出てきます。機長への道のりも長くなりますし、女性にとってはやはりハンデになるでしょうか?」
そうですね…と少し思案してから、恵真は微笑んで顔を上げた。
「私はハンデだとは思いません。確かにしばらく操縦桿を握れなくなれば、勘を取り戻すのに時間がかかるかもしれません。ですが私は、急いで昇格したいとは思っていません。ゆっくりじっくり、時間と経験を重ねていきたいと思っています。それに、良い点もあると思います。例えば、妊娠中や小さなお子様連れのお客様の気持ちに、もっと寄り添う事が出来るかもしれませんし、子ども達に飛行機の魅力を伝えたい気持ちも大きくなるのではないかと思います」
川原は、恵真の言葉ににっこり笑う。
「そうですね。そんなお二人のお子さんなら、きっと飛行機好きになるのでしょうか?楽しみですね!パパ・ママパイロットになった時には、ぜひまたお話を聞かせてください」
「あ、はい。ありがとうございます」
恵真は顔を赤くしてうつむいた。
「まだまだ聞きたい事はたくさんありますが、今回はこの辺で。恵真さんの女性パイロットとしての今後の活躍、そしてパイロット夫婦としてのお二人の今後にも注目したいと思います。お二人、今日はありがとうございました」
ありがとうございました、と大和と恵真も頭を下げてインタビューは終わった。
「んー、いい記事になりそう!」
ICレコーダーを止めて川原は嬉しそうに笑う。
「なんとか、1月の機内誌に間に合わせますね。会社のホームページからもWeb機内誌として読めるので、SNSでも告知したいと思います。お二人には、今後も時々インタビューさせてもらうと思うので、どうぞよろしくお願いしますね」
「こちらこそよろしくお願いします」
挨拶をしてから、恵真は大和と一緒に部屋を出る。
二人で廊下を歩きながら、恵真は先程のインタビューでの大和の言葉を思い出していた。
「大和さん、ありがとうございます」
「ん?何が?」
「私のこと、いつもたくさんサポートしてくださって。これからのことも、あんなに色々と考えてくださっていたんですね」
大和は優しく微笑んで恵真に顔を向ける。
「当たり前だよ。俺達二人の将来なんだから。恵真、女性パイロットにとって、仕事と家庭の両立は難しいと思う。でも忘れないで。俺はいつだって恵真と一緒にいる。自分だけでなんとかしようとしないで、必ず俺にも相談してね」
「はい!とっても心強いです」
恵真もとびきりの笑顔をみせて頷いた。
♢
慌ただしい日々の中、クリスマス・イヴがやって来た。
その日は恵真も大和も乗務だったが、夕方にひと足早く帰宅した恵真は、急いでクリスマスディナーを準備する。
ローストチキンやポットパイのシチューの他に、クリスマスリースに見立てたサラダ、ツリーのように重ねたピンチョス。
そしてデザートのブッシュドノエルの横には、カットしたイチゴを生クリームで挟み、チョコペンで目を描いたサンタクロースを飾った。
「出来た!あとはツリーにプレゼントを置いて…」
リビングの窓際に飾ってある大きなクリスマスツリーの下に、大和へのプレゼントを置く。
これでよし!と思わず笑みを漏らした時、ただいまーと大和の声がした。
「お帰りなさい!」
恵真は玄関まで大和を出迎えに行く。
「ただいま、恵真」
そう言って、恵真の頬に優しくキスをすると、ん?と大和は部屋の奥に目をやった。
「なんだか美味しそうな匂いがするんだけど」
恵真は、ふふっと笑ってダイニングへ促す。
「うわー、凄い!これ全部恵真が作ったの?」
「うん。クリスマス・イヴだから張り切っちゃった」
「いつの間にこんなに?恵真も今日フライトだったんでしょ?」
「うん。終わってすぐ飛んで帰って来たの」
すると大和はおかしそうに笑う。
「パイロットが飛んで帰って来たの、なんて言ったら、本当に飛行機で帰って来たと思われるよ?」
「あはは!そうかな?」
二人はひとしきり笑ってから、ダイニングテーブルを挟んで座った。
明日も乗務の為、ノンアルコールのサイダーで乾杯する。
「メリークリスマス!」
二人でグラスを掲げて乾杯してから、大和は早速料理に手を伸ばす。
「んー、うまい!チキンもパイのシチューも、絶品だな」
「ほんと?良かった!」
恵真はホッとして、大和の皿にサラダを取り分ける。
「へえー、これ、クリスマスリースになってるのか。ブロッコリーとポテトサラダと、この星の形は…チーズか。凄いなー。食べるのがもったいない」
一つ一つ手をかけて作った料理を、じっくりと味わってくれる大和に、恵真は嬉しくなって微笑んだ。
食後の紅茶をソファで淹れると、恵真は冷蔵庫からブッシュドノエルを取り出した。
「うわ!可愛いなー。ちっちゃいサンタクロースがいる」
大和はローテーブルに置いたブッシュドノエルを、身を乗り出して眺めている。
「あはは!サンタクロースのこの顔、愛嬌あっていいな。可愛い」
最初は嬉しそうにしていた恵真の顔から、だんだん笑顔が消えていく。
「こんなに可愛いと食べられない。な?恵真」
隣の恵真の顔を見た大和が、ん?と真顔になる。
「恵真?どうかした?」
「ううん。別に…」
「いいや。どうかしたんだろう?拗ねてるもん」
「だって…」
「何?」
「大和さん、可愛い可愛いって、サンタクロースにばっかり目が行ってるし」
は?と大和は呆気に取られて瞬きする。
「恵真、サンタクロースにヤキモチ焼いてるの?恵真が作ったのに?それにサンタクロースって、おっさんだよ?」
あはは!と思わず恵真は笑い出した。
「大和さん、サンタクロースのことおっさんなんて言っちゃダメ。夢がないですよ?」
「じゃあそのおっさんにヤキモチ焼いたのは誰?」
「もう!ヤキモチなんて焼いてません!」
恵真は、ぷうーっと頬を膨らませる。
「焼いてる焼いてる。いい感じにお餅が膨らんでるよ?」
そう言って大和は、恵真の膨れたほっぺたをツンとつついた。
「大和さん!」
「ごめんって。可愛くてつい。恵真、サンタクロースのおっさんよりも、遥かに恵真の方が可愛いよ。ほら、ケーキ食べよう。ね?」
恵真はようやく機嫌を直して、ブッシュドノエルを切り分けた。
サンタクロースを隣にちょこんと添えてケーキ皿を渡すと、またもや大和はぷっと吹き出す。
そしてじっとサンタクロースを見つめると、「いただきます」と神妙に呟いてパクッと口に入れた。
「うん、美味しい!」
「やだ、大和さん。サンタクロース食べて美味しいって…」
「えー、だって美味しいんだもん。恵真、サンタクロースに感情移入し過ぎだぞ?」
「そうだけど…。そんなだと大和さんには、サンタクロースからプレゼントもらえませんよ?」
そう言って恵真は、ツリーの下に置いたプレゼントに目をやる。
恵真の視線の先を追った大和が、それに気づいた。
「え?このプレゼント、俺に?」
恵真は、コクリと頷く。
「本当に?!開けてもいい?」
「いいですけど…。喜んでもらえるか、自信はないです」
大和は恵真の言葉を聞き流し、きれいにラッピングされた箱を開ける。
中にはカシミアの濃紺のマフラーが入っていた。
早速手に取ってみる。
「おおー!手触りいいな。暖かいし、早速使わせてもらうよ」
「はい。ヨーロッパの冬は寒いので、ステイ先で風邪引かないでくださいね」
「うん。ありがとう、恵真」
大和は恵真を抱き寄せて額に口づけた。
「ごめん、恵真。俺、プレゼントまだ用意してなくて…」
申し訳なさそうに言う大和に、恵真は首を振る。
「ううん。大和さんにはとっても素敵な婚約指輪を頂いたから、これ以上何もいらないの。私からのお返しがマフラーだけでごめんなさい」
「そんな事ないよ。凄く嬉しい。ありがとう、恵真」
恵真は微笑んで頷いた。
♢
次の日、クリスマスの朝。
恵真は早朝便のフライトの為、朝4時半に起きる。
アラームで大和を起こしたくないと思っていたら、5分前に目が覚めた。
腕を伸ばしてアラームをオフにした恵真は、ふと、枕元にリボンのついた箱が置いてあるのに気づいた。
リボンにはカードが挟んである。
……………………………………
Dear. Ema
Merry Christmas!
From Santa Claus
……………………………………
え…?と小さく恵真は呟く。
「サンタクロース?え…サンタさんから?」
首をかしげながら小声で呟く恵真の声に、大和は寝たフリをしながら笑いを堪える。
「サンタさんからのプレゼント?Emaって、私に?え、開けてもいいのかな?」
いいに決まっているのに、恵真は困ったように小さく呟いている。
大和は我慢出来なくなり、目をうっすら開けて様子をうかがった。
戸惑いながら、恵真がそっとリボンを解き箱を開ける。
「わあ!」
途端に恵真は、子どものように目を輝かせた。
「素敵…」
箱からプレゼントを取り出し、うっとりと見つめるあどけなく可愛い表情に、大和は思わず頬を緩める。
夕べはあんな事を言ったが、大和はちゃんとプレゼントを用意しており、どうやって渡そうかと考えて、恵真が眠ったあと枕元に置くことにした。
ロンドンフライトの時、ステイ先で探した恵真へのクリスマスプレゼントは、オルゴール付きのスノードームだった。
恵真はドームを一度逆さまにして雪を降らせると、オルゴールのネジを少し巻く。
クリスマスツリーの周りを踊るようにくるくる回り始める男の子と女の子。
そして澄んだ音色で流れてきたメロディは…
恵真の大好きな曲『ラベンダーズ ブルー』
恵真は驚いて目を大きくしたあと、何とも言えない優しい表情で両手に載せたドームを見つめている。
オルゴールがゆっくり止まると感嘆のため息をつき、恵真は寝ているはずの大和を振り返った。
慌てて大和は目をつむる。
「ありがとう、大和サンタさん」
耳元で小さくささやき、恵真は大和の頬にチュッとキスをした。
やがてスノードームを手にベッドからそっと降りて部屋から出ていくと、大和は顔を真っ赤にして、はあーと大きく息をつく。
「あぶね!バレてないかな…」
恵真のキスに身体がピクッと反応してしまい、顔が赤くなってしまった。
「それにしても、可愛かったな…」
恵真の無邪気な笑顔を思い出し、大和はニヤニヤと顔をとろけさせた。
♢
年が明け、新しい一年が始まった。
パイロットには年末年始も関係ない。
恵真も大和も、ゆっくりと休みを取れずに仕事をこなす毎日だった。
だが1月の機内誌に二人のインタビュー記事が載り、ハネムーンフライトの予約が開始されると、二人の周囲は慌ただしくなった。
「よーう、恵真。見たぞ、機内誌。佐倉さんの目からラブラブ光線出てたな。ひゃー、真冬なのにお熱いこと」
「ちょっと、伊沢くん!からかわないでよ」
「だってほんとなんだもん。話してる恵真の横顔をじーっと見つめてる写真なんて、もう佐倉さんの周りにハートマークが飛び交って見えたぞ」
「もう、声が大きいってば」
こんなふうに会う人会う人に冷やかされ、恵真はその度に縮こまっていた。
「あ、藤崎さん!聞いてー。ハネムーンフライトの予約、あっという間に満席になったのよ」
オフィスで川原に声をかけられ、え!と恵真は驚いた。
「もうですか?だってまだ、発売開始から1週間しか経ってないのに」
「そうなのよー。もう上層部もホクホクよ。強気の価格設定だったのに、こんなにすぐに満席になるなんてね。あ、それから、出版社やテレビ局からもお二人に取材の依頼が来てるの。夫婦でパイロットって珍しい上に、絵になるお二人だもんね。無理もないわー。広報課で吟味して、また落ち着いたらお願いするかも。我が社が注目される大チャンス!しかもイメージアップ間違いなし!私も忙しくて嬉しい悲鳴よ。あ、もう行かなきゃ。それじゃあね!」
「は、はい」
勢いについていけず、恵真はポカーンとしながら、川原を見送った。
大和が海外フライトの日、恵真は仕事上がりに伊沢やこずえと三人で食事に来ていた。
「おめでとう!伊沢くん、こずえちゃん」
「ありがとう。恵真の方こそ、おめでとう!その婚約指輪、すっごくきれいね」
「ふふ、ありがとう」
照れたように恵真は微笑む。
「なんか俺達、一気に幸せになったな」
伊沢がしみじみ言う。
「いい夫婦の日。こずえが誕生日で俺はこずえとつき合い始めて。恵真は佐倉さんと婚約、野中さんと彩乃さんも結婚披露宴。俺達毎年さ、11月22日を感慨深く思い出すんだろうな、この先も」
「そうだね」
恵真も頷く。
「はあー、まさかこんな結果になるなんてね。20歳の自分に教えたら、びっくりたまげるだろうな」
「なんだよ?それ。俺とつき合うのが不満みたいだな」
こずえの言葉に、伊沢がむくれる。
「不満じゃないけど、驚きの展開なんだもん。まあ、あの頃はパイロットになる為に必死で、誰とつき合うかなんて考える余裕もなかったけどね」
確かに、と恵真も笑う。
「俺さ、今でも時々スマホに保存してあるこの写真、見返すんだ。ほら」
そう言って伊沢は二人に画像を見せる。
それは、ファーストソロフライトを終えた三人が、制服姿で笑っている写真だった。
「うわ、懐かしい!」
「ほんと!顔があどけないね」
恵真とこずえは、笑顔で写真を見つめる。
「あの頃、本当にパイロットとしてやっていけるか不安だった自分に教えてあげたい。パイロット、凄くいい仕事だよって」
恵真がそう言うとこずえも頷く。
「そうだよね。あの時の苦労が報われて、何倍も楽しく空を飛べるから、大丈夫って言ってあげたい」
そんな二人の横で、伊沢も真面目に続ける。
「それに最高の恋人も出来るぞって。パイロット目指して良かったな」
はあ?と、女子二人が眉を寄せる。
「もう、何その不純な発想。伊沢さ、なんかキャラ変わったよね」
「だって俺にとっては大事な事だもん。二人と知り合えて、こずえと一緒になれた事が」
思わずうつむいたこずえの顔を、恵真が覗き込む。
「ふふ、こずえちゃん、照れてるの?」
「ち、違うわよ!」
「なんか伊沢くんもかっこよくキャラ変したけど、こずえちゃんも可愛くなったよね」
「ちょっと!恵真こそキャラ変わったわよ。何?その余裕ぶった発言。既にマダムみたいな貫禄」
マダムー?!と恵真が声を上げる。
「やだ!何それ?」
まあまあ、と伊沢が苦笑いする。
「とにかく俺達の前途は明るいよな。俺、頑張って同期の誰よりも早く機長に昇格してみせるよ」
「え、凄い!伊沢くん」
「まあな。いつまでもこずえを頼ってばかりじゃ情けない。俺も頼られる男にならないとな」
こずえは頬を染めて言葉を失っている。
「良かったね!こずえちゃん」
「もう、恵真。またそうやって…」
「だって嬉しいんだもん。私達三人が、今こうやって幸せにパイロットとして空を飛べてる事が」
「うん、確かにね」
「よし、じゃあもう一回乾杯するか。俺達の明るい未来に…」
かんぱーい!と、三人は笑顔でグラスを上げる。
恵真は心の中で、20歳の頃の自分に語りかけた。
数々の不運に見舞われて、自信を失くしていた自分。
果たしてパイロットになれるのか、不安で仕方なかった日々。
(大丈夫。あなたは幸せなパイロットになれる。大好きな人に巡り会って、たくさんの愛で包んでもらえる。パイロットとしても力強く導いてくれる素敵な人に会えたあなたは、最高に幸せになれるよ)
恵真はあの頃の自分に微笑みかけた。
♢
12月に入り、1年前に二人がつき合い始めた同じ日に、恵真と大和は婚姻届を提出した。
晴れて夫婦となった事を会社に報告する。
するとあっという間に話が広まっていった。
「おめでとうございます!」
「あ、その、ありがとうございます…」
会う人会う人に声をかけられ、その度に恵真は頭を下げる。
(なんて速い情報の伝わり方なの。マッハの速さ?)
真剣にそう考えていると、うしろから藤崎さん!と呼ばれた。
振り返ると、広報課の川原がにこにこと近づいてくる。
「聞いたわよー、おめでとうございます!」
「あ、ありがとうございます」
「なんだー、佐倉キャプテンとおつき合いされてたなら、そう教えてくれたら良かったのに。でもそっか、だからあの時…」
あの時?と恵真は首をかしげる。
「あのね、倉科キャプテンとの動画をSNSにアップしたあと、あなたの追っかけが空港であなたのことを、その、じっと見てたらしいの。それに佐倉キャプテンが気づいて、私に話をしに来たのよ。もう動画を上げないように、それから警備スタッフにあなたを守らせるようにって」
ええー?!と恵真は驚いて仰け反る。
そんな話は聞いた事がなかった。
(大和さんが、私の為にそんな事を?)
「うふふ、愛されてるわね。羨ましい。それでね、実は広報課で、早速お二人のことを記事にしようって話してるの。父親と息子が一緒に操縦する親子フライトはたまに聞くけど、夫婦フライトなんて珍しいでしょう?ぜひ、大々的に取り上げようって。あとで佐倉キャプテンにも話しておくわね。忙しくなるわー。それじゃ!」
そそくさと立ち去る川原の背中を見ながら、恵真は、ん?と首をひねる。
「夫婦フライト?何それ?」
だがそれはすぐに現実のものとなる。
スケジューラーから急なシフト変更を告げられた恵真は、1週間後、大和と一緒に福岡に飛ぶ事になった。
コックピットに並んで座り、ブリーフィングをしている二人を川原が写真撮影する。
往路の福岡へのフライトを終えて休憩を取っていると、スマートフォンを見ていた大和が驚きの声を上げた。
「うわ、もうSNSにアップされてるぞ」
「ええ?もう?」
恵真も画面を覗き込む。
二人が並んで座っている笑顔の写真の下には…。
『日本ウイング航空初のパイロット夫妻が誕生しました!
本日が夫婦としての初フライトです。
息の合ったコンビネーションで、皆様を安全に目的地まで送り届けます。
本日もどうぞごゆっくり空の旅をお楽しみください』
ひえー!と恵真は、思わず頬を押さえる。
「か、川原さん。こんな文章を…」
それになぜ撮影の時、左手でサムアップするように指示し、何度も角度を変えて写真を撮っていたのかが分かった。
二人の左手の結婚指輪が写っていたからだ。
「やれやれ。仕事が速いな、川原さんは」
大和も肩をすくめる。
写真をSNSで紹介する事に、大和は最初渋っていた。
恵真がまた注目され、空港で追いかけられたら?と。
たが川原は、逆に恵真が既婚者だと知らせた方が追っかけも減るし、何よりこれからは堂々と大和が守ってやれるのでは?と大和を納得させた。
それにこの話は川原の一存ではなく、広報課の課長の意向だと言われれば、断る事は出来なかった。
「コメントも凄い勢いで次々書き込まれてる」
「本当に?」
大和が画面をスクロールさせる。
『夫婦揃ってパイロットなんてすごい!』
『美男美女でパイロット!最強じゃない?』
『いいなー、この夫婦の便に乗ってみたい』
そんなコメントが続く中『あれ?』と誰かが書き込んだ。
『この女性パイロット、前にも紹介されてなかったっけ?』
『あー!藤崎コーパイだ!』
『じゃあやっぱりあの時二人は恋人同士だったんですねー。素敵!』
『でも隣の人、あの時の機長と違うよね?』
『本当だ!あれ?』
だんだん大和の顔が能面のようになる。
「や、大和さん。もう読まなくても。ね?」
「むーっ、面白くない!恵真は俺の妻だぞ?もっとドドーン!とお知らせしないと」
ええー?!と恵真は仰け反る。
「大和さん。SNSに載せるのもあんなに嫌がってたのに?」
「だからって、恵真が倉科さんと結婚したと勘違いされるなんて。このままにはしておけん!」
またしてもメラメラと、大和は倉科への対抗意識を燃えたぎらせた。
♢
「ハネムーンフライト?何ですか、それ」
福岡のフライトを終えた次の週。
オフィスの会議室で、大和と恵真は川原に呼ばれて説明を受けていた。
「年明け早々に発売が開始される、新婚旅行のカップルに向けてのプランなんです」
二人は川原が差し出した資料を覗き込む。
「ハネムーンと申告して予約して頂くと、色々な特典が受けられるんです。まず隣同士の席の確約、会社のマスコットベアのぬいぐるみを、花嫁と花婿バージョンでプレゼント、アメニティも特別仕様。それになんと!あなた方お二人のサイン入り、ハネムーンフライト搭乗証明書を発行するんです!」
………はい?と、川原のテンションとは真逆に二人は首をかしげる。
「何ですか?その、ハネムーンフライト、搭乗証明書って?」
「日付と便名、目的地の他に、機長と副操縦士、つまりあなた方ご夫婦の署名を入れてお渡しするんです。あ、別に公的な物じゃなくて。まあ記念品みたいな感じですね、結婚証明書みたいな」
はあ、と二人は気の抜けた返事をする。
「えっと、つまり…。俺達がまた一緒に飛ぶって事ですか?」
「そうなんです。行き先はホノルル。日程は、今旅行会社とも調整中ですが、おそらく3月の初旬になるかと」
旅行会社と調整中?と、恵真が尋ねる。
「それって、ホテルとパッケージにして発売するって事ですか?」
「そうなの。うちで取り扱うのは飛行機のチケットだけだけど、旅行会社が既に半分以上買い取ってくれる事になっていてね。で、その旅行会社は更にホテルと提携して、ハネムーン特典を付けて発売するみたい」
思いがけない大きな話に、思わず恵真は大和と顔を見合わせる。
「とにかくお二人は、普段通りに操縦して頂ければ大丈夫ですから。よろしくお願いします」
「分かりました」
それと…と、川原はチラリと大和の顔色をうかがいながら言葉を続けた。
「えーっと、機内誌にお二人のインタビュー記事を取り上げてもいいですか?」
上層部からのお達しなので、断られると私の立場が…と小さくなる川原に、大丈夫です!と大和が即答する。
「本当ですか?!」
川原が目を輝かせて身を乗り出した。
「ちょっと、佐倉さん…」
恵真が声をかけるが、大和は聞く耳を持たず川原に大きく頷く。
「もちろんです。会社の意向には従わなければいけません。我々は、いち会社員にすぎませんから」
そう言われると恵真も従うしかない。
「あー、良かった!じゃあすぐにインタビューの日を設定しますね。パイロットの制服姿で色々お話聞かせてください」
「はい!喜んで!」
妙に張り切る大和に、これはもしや、あの倉科キャプテンへの対抗意識がまだ?と、恵真は困った顔になる。
「あ、そうそう藤崎さん。会社では旧姓を使用するとの事だったけど、対外的な場面では新姓でも構わないかしら?」
「え?あ、はい。大丈夫です」
「ありがとう。じゃあインタビュー記事では、佐倉 恵真 副操縦士って紹介するわね」
「は、は、はい!」
恵真は思わず真っ赤になってうつむいた。
「あら?どうかした?」
「あ、いえ、あの。まだ呼ばれ慣れてなくて…」
「そうなのね。ふふふ、新婚さんだものね」
すると大和が、ポンポンと肩に手を置いて話しかけてきた。
「早く慣れてもらわないとなあ。だって君は、佐倉 恵真なんだから。はは!」
恵真は今度こそ、思い切り眉をひそめて大和を見た。
♢
早速2日後、乗務の合間を縫って機内誌に掲載されるインタビューが行われた。
恵真は大和と一緒に会議室に向かう。
前回、倉科との動画を撮った部屋と同じだった。
(今回は大和さんと一緒だもん。楽しみ!)
恵真はウキウキして顔をほころばせていた。
二人は窓越しに滑走路を背にして座り、ICレコーダーを置いたテーブルを挟んで座った川原の質問に答えていく。
もう一人広報課の社員が来て、インタビューの様子を写真撮影していた。
「では夫婦共にパイロットで良かったと思うのは、どんなところでしょうか?佐倉キャプテン」
促されて大和が口を開く。
「そうですね。まず何より仕事に対する理解があります。パイロットは常に健康に気をつけなければいけませんし、勤務も不規則で、海外フライトでは何日も家を不在にします。妻は栄養のバランスを考えた身体に良い美味しい料理を作ってくれますし、時差がある勤務のあとはゆっくり休ませてくれます。海外に飛んでしばらく会えない時は寂しいですが、必ずステイ先から電話するようにしています」
川原はメモを取りながら頷く。
「素敵ですね。恵真さんはいかがですか?」
「はい。私もとても助けられています。朝が早かったり夜遅くまでの勤務の時は、家事が疎かになってしまいますし、海外フライトでは家を空けなければいけません。そんな時も、しゅ…主人は理解を示してくれますし、帰ってきた私を休ませて代わりに家事をやってくれます。それから私はまだまだ勉強する事が多い副操縦士なのですが、いつでも優秀で素晴らしい機長に質問が出来ます。これはとても有り難いです」
なるほど…と川原は真剣にメモに書き込む。
「では夫婦揃ってパイロットというのは、ライフスタイルとしてはベストな感じですね」
すると大和が真顔で答えた。
「私と妻が常に同じフライトならベストですね。四六時中一緒にいられますから」
ちょ、ちょっと、佐倉キャプテン!と、隣で恵真が小声で止める。
「あらあら、ご馳走様です。じゃあもう少し踏み込んだお話をしてもいいですか?今後お子さんが生まれたら、どのようにお二人の生活は変わるのでしょうか?女性パイロットも増えてきていますので、ぜひ参考にお聞かせ頂ければ」
こ、子ども?!と、恵真は顔を真っ赤にするが、大和は真剣な表情のまま答える。
「そうですね。女性パイロットは妊娠、出産で乗務出来なくなる期間が出てきます。ですがそこを全力でカバーするのが私の役目です。マニュアルの変更点や情報のアップデートなどは、常に共有していきますし、もちろん家事育児も率先してやります。妻が育児休暇を終えて乗務復帰する際は、あらゆるサポートをしてスムーズに復帰出来るように支えます。そしてまた夫婦で乗務する日々が始まれば、互いに助け合いながら、無理なく子育ても楽しんでいきたいと思っています」
(大和さん、そこまで考えてくれていたなんて…)
恵真は感激してうつむく。
「恵真さんはどうですか?妊娠や出産は、どうしても乗務出来ない期間が出てきます。機長への道のりも長くなりますし、女性にとってはやはりハンデになるでしょうか?」
そうですね…と少し思案してから、恵真は微笑んで顔を上げた。
「私はハンデだとは思いません。確かにしばらく操縦桿を握れなくなれば、勘を取り戻すのに時間がかかるかもしれません。ですが私は、急いで昇格したいとは思っていません。ゆっくりじっくり、時間と経験を重ねていきたいと思っています。それに、良い点もあると思います。例えば、妊娠中や小さなお子様連れのお客様の気持ちに、もっと寄り添う事が出来るかもしれませんし、子ども達に飛行機の魅力を伝えたい気持ちも大きくなるのではないかと思います」
川原は、恵真の言葉ににっこり笑う。
「そうですね。そんなお二人のお子さんなら、きっと飛行機好きになるのでしょうか?楽しみですね!パパ・ママパイロットになった時には、ぜひまたお話を聞かせてください」
「あ、はい。ありがとうございます」
恵真は顔を赤くしてうつむいた。
「まだまだ聞きたい事はたくさんありますが、今回はこの辺で。恵真さんの女性パイロットとしての今後の活躍、そしてパイロット夫婦としてのお二人の今後にも注目したいと思います。お二人、今日はありがとうございました」
ありがとうございました、と大和と恵真も頭を下げてインタビューは終わった。
「んー、いい記事になりそう!」
ICレコーダーを止めて川原は嬉しそうに笑う。
「なんとか、1月の機内誌に間に合わせますね。会社のホームページからもWeb機内誌として読めるので、SNSでも告知したいと思います。お二人には、今後も時々インタビューさせてもらうと思うので、どうぞよろしくお願いしますね」
「こちらこそよろしくお願いします」
挨拶をしてから、恵真は大和と一緒に部屋を出る。
二人で廊下を歩きながら、恵真は先程のインタビューでの大和の言葉を思い出していた。
「大和さん、ありがとうございます」
「ん?何が?」
「私のこと、いつもたくさんサポートしてくださって。これからのことも、あんなに色々と考えてくださっていたんですね」
大和は優しく微笑んで恵真に顔を向ける。
「当たり前だよ。俺達二人の将来なんだから。恵真、女性パイロットにとって、仕事と家庭の両立は難しいと思う。でも忘れないで。俺はいつだって恵真と一緒にいる。自分だけでなんとかしようとしないで、必ず俺にも相談してね」
「はい!とっても心強いです」
恵真もとびきりの笑顔をみせて頷いた。
♢
慌ただしい日々の中、クリスマス・イヴがやって来た。
その日は恵真も大和も乗務だったが、夕方にひと足早く帰宅した恵真は、急いでクリスマスディナーを準備する。
ローストチキンやポットパイのシチューの他に、クリスマスリースに見立てたサラダ、ツリーのように重ねたピンチョス。
そしてデザートのブッシュドノエルの横には、カットしたイチゴを生クリームで挟み、チョコペンで目を描いたサンタクロースを飾った。
「出来た!あとはツリーにプレゼントを置いて…」
リビングの窓際に飾ってある大きなクリスマスツリーの下に、大和へのプレゼントを置く。
これでよし!と思わず笑みを漏らした時、ただいまーと大和の声がした。
「お帰りなさい!」
恵真は玄関まで大和を出迎えに行く。
「ただいま、恵真」
そう言って、恵真の頬に優しくキスをすると、ん?と大和は部屋の奥に目をやった。
「なんだか美味しそうな匂いがするんだけど」
恵真は、ふふっと笑ってダイニングへ促す。
「うわー、凄い!これ全部恵真が作ったの?」
「うん。クリスマス・イヴだから張り切っちゃった」
「いつの間にこんなに?恵真も今日フライトだったんでしょ?」
「うん。終わってすぐ飛んで帰って来たの」
すると大和はおかしそうに笑う。
「パイロットが飛んで帰って来たの、なんて言ったら、本当に飛行機で帰って来たと思われるよ?」
「あはは!そうかな?」
二人はひとしきり笑ってから、ダイニングテーブルを挟んで座った。
明日も乗務の為、ノンアルコールのサイダーで乾杯する。
「メリークリスマス!」
二人でグラスを掲げて乾杯してから、大和は早速料理に手を伸ばす。
「んー、うまい!チキンもパイのシチューも、絶品だな」
「ほんと?良かった!」
恵真はホッとして、大和の皿にサラダを取り分ける。
「へえー、これ、クリスマスリースになってるのか。ブロッコリーとポテトサラダと、この星の形は…チーズか。凄いなー。食べるのがもったいない」
一つ一つ手をかけて作った料理を、じっくりと味わってくれる大和に、恵真は嬉しくなって微笑んだ。
食後の紅茶をソファで淹れると、恵真は冷蔵庫からブッシュドノエルを取り出した。
「うわ!可愛いなー。ちっちゃいサンタクロースがいる」
大和はローテーブルに置いたブッシュドノエルを、身を乗り出して眺めている。
「あはは!サンタクロースのこの顔、愛嬌あっていいな。可愛い」
最初は嬉しそうにしていた恵真の顔から、だんだん笑顔が消えていく。
「こんなに可愛いと食べられない。な?恵真」
隣の恵真の顔を見た大和が、ん?と真顔になる。
「恵真?どうかした?」
「ううん。別に…」
「いいや。どうかしたんだろう?拗ねてるもん」
「だって…」
「何?」
「大和さん、可愛い可愛いって、サンタクロースにばっかり目が行ってるし」
は?と大和は呆気に取られて瞬きする。
「恵真、サンタクロースにヤキモチ焼いてるの?恵真が作ったのに?それにサンタクロースって、おっさんだよ?」
あはは!と思わず恵真は笑い出した。
「大和さん、サンタクロースのことおっさんなんて言っちゃダメ。夢がないですよ?」
「じゃあそのおっさんにヤキモチ焼いたのは誰?」
「もう!ヤキモチなんて焼いてません!」
恵真は、ぷうーっと頬を膨らませる。
「焼いてる焼いてる。いい感じにお餅が膨らんでるよ?」
そう言って大和は、恵真の膨れたほっぺたをツンとつついた。
「大和さん!」
「ごめんって。可愛くてつい。恵真、サンタクロースのおっさんよりも、遥かに恵真の方が可愛いよ。ほら、ケーキ食べよう。ね?」
恵真はようやく機嫌を直して、ブッシュドノエルを切り分けた。
サンタクロースを隣にちょこんと添えてケーキ皿を渡すと、またもや大和はぷっと吹き出す。
そしてじっとサンタクロースを見つめると、「いただきます」と神妙に呟いてパクッと口に入れた。
「うん、美味しい!」
「やだ、大和さん。サンタクロース食べて美味しいって…」
「えー、だって美味しいんだもん。恵真、サンタクロースに感情移入し過ぎだぞ?」
「そうだけど…。そんなだと大和さんには、サンタクロースからプレゼントもらえませんよ?」
そう言って恵真は、ツリーの下に置いたプレゼントに目をやる。
恵真の視線の先を追った大和が、それに気づいた。
「え?このプレゼント、俺に?」
恵真は、コクリと頷く。
「本当に?!開けてもいい?」
「いいですけど…。喜んでもらえるか、自信はないです」
大和は恵真の言葉を聞き流し、きれいにラッピングされた箱を開ける。
中にはカシミアの濃紺のマフラーが入っていた。
早速手に取ってみる。
「おおー!手触りいいな。暖かいし、早速使わせてもらうよ」
「はい。ヨーロッパの冬は寒いので、ステイ先で風邪引かないでくださいね」
「うん。ありがとう、恵真」
大和は恵真を抱き寄せて額に口づけた。
「ごめん、恵真。俺、プレゼントまだ用意してなくて…」
申し訳なさそうに言う大和に、恵真は首を振る。
「ううん。大和さんにはとっても素敵な婚約指輪を頂いたから、これ以上何もいらないの。私からのお返しがマフラーだけでごめんなさい」
「そんな事ないよ。凄く嬉しい。ありがとう、恵真」
恵真は微笑んで頷いた。
♢
次の日、クリスマスの朝。
恵真は早朝便のフライトの為、朝4時半に起きる。
アラームで大和を起こしたくないと思っていたら、5分前に目が覚めた。
腕を伸ばしてアラームをオフにした恵真は、ふと、枕元にリボンのついた箱が置いてあるのに気づいた。
リボンにはカードが挟んである。
……………………………………
Dear. Ema
Merry Christmas!
From Santa Claus
……………………………………
え…?と小さく恵真は呟く。
「サンタクロース?え…サンタさんから?」
首をかしげながら小声で呟く恵真の声に、大和は寝たフリをしながら笑いを堪える。
「サンタさんからのプレゼント?Emaって、私に?え、開けてもいいのかな?」
いいに決まっているのに、恵真は困ったように小さく呟いている。
大和は我慢出来なくなり、目をうっすら開けて様子をうかがった。
戸惑いながら、恵真がそっとリボンを解き箱を開ける。
「わあ!」
途端に恵真は、子どものように目を輝かせた。
「素敵…」
箱からプレゼントを取り出し、うっとりと見つめるあどけなく可愛い表情に、大和は思わず頬を緩める。
夕べはあんな事を言ったが、大和はちゃんとプレゼントを用意しており、どうやって渡そうかと考えて、恵真が眠ったあと枕元に置くことにした。
ロンドンフライトの時、ステイ先で探した恵真へのクリスマスプレゼントは、オルゴール付きのスノードームだった。
恵真はドームを一度逆さまにして雪を降らせると、オルゴールのネジを少し巻く。
クリスマスツリーの周りを踊るようにくるくる回り始める男の子と女の子。
そして澄んだ音色で流れてきたメロディは…
恵真の大好きな曲『ラベンダーズ ブルー』
恵真は驚いて目を大きくしたあと、何とも言えない優しい表情で両手に載せたドームを見つめている。
オルゴールがゆっくり止まると感嘆のため息をつき、恵真は寝ているはずの大和を振り返った。
慌てて大和は目をつむる。
「ありがとう、大和サンタさん」
耳元で小さくささやき、恵真は大和の頬にチュッとキスをした。
やがてスノードームを手にベッドからそっと降りて部屋から出ていくと、大和は顔を真っ赤にして、はあーと大きく息をつく。
「あぶね!バレてないかな…」
恵真のキスに身体がピクッと反応してしまい、顔が赤くなってしまった。
「それにしても、可愛かったな…」
恵真の無邪気な笑顔を思い出し、大和はニヤニヤと顔をとろけさせた。
♢
年が明け、新しい一年が始まった。
パイロットには年末年始も関係ない。
恵真も大和も、ゆっくりと休みを取れずに仕事をこなす毎日だった。
だが1月の機内誌に二人のインタビュー記事が載り、ハネムーンフライトの予約が開始されると、二人の周囲は慌ただしくなった。
「よーう、恵真。見たぞ、機内誌。佐倉さんの目からラブラブ光線出てたな。ひゃー、真冬なのにお熱いこと」
「ちょっと、伊沢くん!からかわないでよ」
「だってほんとなんだもん。話してる恵真の横顔をじーっと見つめてる写真なんて、もう佐倉さんの周りにハートマークが飛び交って見えたぞ」
「もう、声が大きいってば」
こんなふうに会う人会う人に冷やかされ、恵真はその度に縮こまっていた。
「あ、藤崎さん!聞いてー。ハネムーンフライトの予約、あっという間に満席になったのよ」
オフィスで川原に声をかけられ、え!と恵真は驚いた。
「もうですか?だってまだ、発売開始から1週間しか経ってないのに」
「そうなのよー。もう上層部もホクホクよ。強気の価格設定だったのに、こんなにすぐに満席になるなんてね。あ、それから、出版社やテレビ局からもお二人に取材の依頼が来てるの。夫婦でパイロットって珍しい上に、絵になるお二人だもんね。無理もないわー。広報課で吟味して、また落ち着いたらお願いするかも。我が社が注目される大チャンス!しかもイメージアップ間違いなし!私も忙しくて嬉しい悲鳴よ。あ、もう行かなきゃ。それじゃあね!」
「は、はい」
勢いについていけず、恵真はポカーンとしながら、川原を見送った。
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