恋とキスは背伸びして

葉月 まい

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バラの花が咲く頃

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「みみみ美怜!どうしたのよ、その指輪!」

翌日の卓と友香の結婚式。
ルミエール ホテルにアイスブルーのドレスで現れた美怜に、佳代と美沙が驚いて詰め寄った。

「それって、間違いなくそういう指輪よね?左手の薬指に、そんなに大きなダイヤモンド。ひゃー、素敵過ぎるー!」

そして二人は、美怜の後ろにいる成瀬に気づいた。

「成瀬本部長!お疲れ様です。ん?ええー?!美怜、あれって本当だったの?本部長が婚約者っていう…。私も美沙も、てっきり酔っ払って聞き間違えたかと…」

すると成瀬は美怜の肩を抱き寄せて、にっこりと二人に笑いかける。

「お疲れ様。私と美怜の結婚式にも、ぜひ参列して欲しい。ミュージアムチームの皆さん、揃ってね。その時はどうぞよろしく」
「ここ、こちらこそ。ってその前に、美怜?明日、しっかり事情聴取するからね!」

鼻息を荒くする佳代と美沙に、美怜は苦笑いしながら、はいと頷く。

成瀬は「では、失礼」と二人に断ると、美怜の肩を抱いたままチャペルへと向かった。

「あ、あの、本部長」
「ん?なに」
「えっと。卓は今日、営業部の皆さんをご招待しているようでして」
「それが何か?」
「さっきから色んな人の視線を感じるのですが」
「ああ、そうだね」

軽い返事しか返ってこないことに業を煮やし、美怜は立ち止まって抗議する。

「ですから!会社の人にバレてしまいます」
「バレる?そんなもんじゃ足りないね。見せつけてやらなきゃ」
「は、はい?」

ニヤリと笑う成瀬に美怜はおののく。

「本部長、一体何を企んで…?」
「美怜に手を出そうもんなら、本部長の権限振りかざしてこらしめてやるって、軽ーくお知らせしておこうかなって」

権限を…、振りかざす…?軽く…って、

「どこがですかー?!やめてください。パワハラで訴えられますよ?」
「これくらいしておかないと心配だ。美怜、鈍感だから気づいてないだろ?さっきから何人もの男が『ミュージアムの結城さんだ』って、嬉しそうにささやいてる」
「え?誰に?私の知ってる人いませんけど」

キョロキョロする美怜に、成瀬はため息をつく。

「これだから危なっかしいんだ。いいか?美怜。今日は一日俺のそばを離れるなよ?本部長命令だ」
「えー?!職権乱用!」
「何とでも言うがいい」

成瀬は更に美怜を強く抱き寄せて、チャペルに足を踏み入れた。

ステンドグラスが美しいルミエール ホテルのチャペルは、厳かな雰囲気に包まれていた。

時間になり、新郎の入場が告げられると、皆は後方に注目する。

重厚な扉が左右に開かれ、白いタキシードに身を包んだ卓が現れた。

(ひゃー、かっこいい!)

美怜は心の中で声を上げ、目の前をキリッとした顔つきで歩いて行く卓に大きな拍手を送る。

次いで、友香が父親の総支配人と腕を組んで姿を現した。

(友香ちゃん、なんて美しいの)

プリンセスラインのドレスとピンクのブーケが、清らかで純真な友香の雰囲気によく似合っている。

うつむき加減で一歩一歩バージンロードを踏みしめる友香にも、美怜はたくさんの祝福を込めて拍手を送った。

やがて卓のもとへたどり着くと、友香は卓と腕を組み、二人で祭壇を上がる。

誓いの言葉、指輪の交換。

その一つ一つに美怜は感激して、涙を溢れさせた。

そして誓いのキス。

卓と向き合った友香のベールを、卓がそっと上げて優しく微笑む。

友香も恥じらうような笑みを浮かべて、卓と見つめ合った。

卓が友香の肩に手を置き、ゆっくりと口づける。

美怜はポロポロと涙をこぼしながら、口元でハンカチを握りしめて嗚咽をこらえていた。

二人は列席者が見守る中、晴れて夫婦となり、祝福のフラワーシャワーを浴びながら幸せそうに退場する。

「おめでとう!卓、友香ちゃん」
「おめでとう!富樫、友香さん」

美怜と成瀬の言葉に、二人は笑顔になる。

「ありがとう、美怜、成瀬さん。次はお二人の番ですね」
「ありがとうございます。美怜さん、成瀬さん。美怜さんたら、目が真っ赤」

友香に言われて、美怜は「ええ?!」と顔を両手で押さえる。

「ははっ!友香より泣いてんな。さすがは美怜」

そう言いながら卓は友香と一緒に通り過ぎた。

美怜は顔を押さえたまま成瀬に尋ねる。

「本部長。私の目そんなに赤い?」
「ああ。いつぞやのボロ負けボクサー再びって感じだな」
「ボクサーって、あの時の…?」

美怜は、ルミエールの部屋に視察に行った時のことを思い出す。

成瀬に対して萎縮していた美怜に、ちゃんと泣きなさいと声をかけた成瀬。

あの時にはもう、成瀬のことを好きになっていたのではないかと、美怜は思った。

そっと視線を上げて隣に並ぶ成瀬を見ると、ん?と優しく微笑んでくれる。

「私、ずっと前からあなたのことが大好きです」

突然の美怜の言葉に少し驚いてから、成瀬は嬉しそうな笑顔を浮かべた。

「俺もだよ。ずっと前から美怜のことが好きだ。そしてこの先も、ずっとずっと愛してる」
「はい、私も。この先もずっとずっと、あなただけを愛し続けます、隼斗さん」

チャペルの中で微笑みながら見つめ合う二人。

タキシードとウェディングドレスに身を包み、思い出のホテルのチャペルで改めて愛を誓い合ったのは、それから五ヶ月後。

バラの花が綺麗に咲き誇る季節のことだった。

(完)
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