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チョコの進捗
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「透ー、透?おい、透!!」
「わっ!なんだよ、大河。急に大声出さないでよ」
「急じゃないっつーの!何度も声かけたわ」
夏のミュージアムの準備も佳境に入ったオフィスで。
いつものやり取りが始まった、と思いきや、ん?と吾郎と洋平は顔を見合わせた。
「なんか、いつもと逆だな?」
「ああ」
どうしたのかと、二人で大河と透の様子をうかがう。
「透、お前なんでおやつ食べないんだ?」
「は?大河、何言ってんの?」
「だって、いつもならチョコ1箱食べ終える頃なのに、今日は全然食べてる気配ないし」
「別にいいだろ?チョコの進捗なんて」
「いや、気になる。透がチョコ食べないなんて、天変地異の前触れかも知れん」
「そんな訳あるかよ!」
「それくらい珍しいっつーの!どうしたんだよ、何かあったのか?」
すると透は、黙ってうつむく。
大河は、いよいよ深刻に透の顔を覗き込んだ。
「と、透?あの、その…。何か俺に出来ることはあるか?」
「はあ?何それ」
「いや、だって。お調子者のお前がそんな真面目な顔してるなんて、不気味で仕方なくて…」
「ちょっと、大河。ケンカ売ってるの?」
「まさか!全然!めちゃくちゃ心配してる」
真剣に訴える大河に、透も真顔になる。
「大丈夫だよ、何でもない。仕事はちゃんとするから」
「それはいいんだ。けど、何かあるならいつでも相談してくれ」
「うん、分かった。ありがとう、大河」
話を締めくくられ、大河はそれ以上何も言えずに、ただひたすら透の様子を気にしながら仕事をしていた。
◇
「ただいま」
「お帰りなさい!大河さん」
玄関を開けると、瞳子が笑顔で出迎えてくれる。
それだけで大河の心は、ふわっと軽くなった。
「ただいま、瞳子」
優しく抱き寄せて額にキスをする。
瞳子はにっこり微笑んだあと、ん?と視線を落とした。
「大河さん、すごい荷物ね。何かお買い物してきたの?」
「え?ああ、これね」
そう言って、手にしていた袋を開けてみせる。
「なあに?わっ、お菓子がいっぱい!」
中には、ありとあらゆるスナック菓子やチョコレートが入っていた。
「どうしたの?ハロウィンで配るにはまだ早いし」
「うん。これ、透に買ったんだ」
「透さんに?」
「ああ。最近あいつ、ちょっと元気がなくて。チョコも食べないし」
「えっ?あの透さんが?」
「そう。あの透が」
「そうなんですね。それは心配…」
うつむく瞳子を見て、大河は急にハッとした。
(もしかしてあいつ、瞳子のことを想って?)
いつもなら
「そろそろアリシアの顔が見たいー。エネルギーが切れるー」
と騒ぎ出す頃なのに、最近はアリシアのアの字も言わない。
(もしや、今頃になって失恋の痛手がジワジワと?)
一度考え出すと、そうに違いないと思えてくる。
「大河さん?大丈夫?」
瞳子が心配そうに顔を覗き込んできた。
可愛くて優しくて、世界でたった一人の愛する人。
瞳子を手放すことなど、絶対にあり得ない。
たとえ透の為でも。
「瞳子…」
たまらず大河は瞳子を抱きしめた。
「大河さん…。あの、透さんのことは心配だけど、大河さんまで思い詰めないで。私に出来ることなら何でもするから。ね?」
瞳を潤ませながら見上げてくる瞳子に、大河は切なさが込み上げる。
「瞳子…。ずっとそばにいて欲しい。俺の望みは、ただそれだけだ」
「もちろんよ。ずっと大河さんのそばにいさせてね」
「ああ。瞳子、ありがとう」
玄関にも関わらず、二人はしばらく互いを抱きしめ合っていた。
◇
「はあ…」
次の日も、オフィスの水槽を見ながら、カウンターでパソコン作業をしていた透がため息をつく。
じっと魚を見ている透に、大河はまた焦り始めた。
(やっぱりそうか。この間は、水槽越しに瞳子を見てはしゃいでたもんな)
「ひときわ可愛いお魚がいる…と思ったら、アリシアの綺麗な瞳だった。あはは!」
と笑っていた透を思い出す。
透も今、その時のことを思い出しているのかもしれない。
「あー、えっと、透。その、良かったら、これ…」
大河は立ち上がると、カウンターにお菓子のたくさん詰まった袋を置いた。
「ん?どうしたの?これ」
「いや、透が好きそうかなと思って」
「わざわざ買ってきてくれたの?なんで?」
「それは、その。元気になって欲しくて」
「ええー?!俺に?大河、どうしたんだよ。なんか変だぞ?」
「いや、変なのはお前だっつーの!」
二人のやり取りに、吾郎と洋平は眉間にしわを寄せて顔を見合わせる。
いつもの不毛な言い争いが戻ってきたのはいいが、どうにも調子が狂う。
「透、何でもいいから話してくれ。今考えてること、そのまましゃべってくれればいいからさ。俺はなんだって受け止める。うん。どんなお前の気持ちも受け止めるから。な?」
「うげ、なんか気持ち悪っ」
「なんだと?!」
「ええ?!考えてることそのまましゃべれって言うからしゃべったのに」
「あ、そうか。うん、分かった。俺の気持ち悪さも受け止める。他には何かあるか?」
「他にー?うーん、そうだな。傷ついた心を癒やすには、どうすればいいと思う?」
…………は?と、大河はしばらく固まったあと、あたふたとお菓子の袋を探る。
「透、チョコじゃだめか?やっぱりチョコなんかじゃ、癒やされないか?」
「ん?何言ってんの。傷ついてるのは俺じゃないよ」
「へ?じゃあ、誰なんだ?」
「まだ若い18歳の女の子」
「ええー?」
「あ、違った。22だった。また怒られちゃう。あはは!」
「あはは?」
大河はもう、何が何やら訳が分からない。
「あ!ミュージアムの内装業者と打ち合わせがあるんだった。行ってくる」
透は手早く準備をすると、
「行ってきまーす」
とオフィスを出て行った。
「わっ!なんだよ、大河。急に大声出さないでよ」
「急じゃないっつーの!何度も声かけたわ」
夏のミュージアムの準備も佳境に入ったオフィスで。
いつものやり取りが始まった、と思いきや、ん?と吾郎と洋平は顔を見合わせた。
「なんか、いつもと逆だな?」
「ああ」
どうしたのかと、二人で大河と透の様子をうかがう。
「透、お前なんでおやつ食べないんだ?」
「は?大河、何言ってんの?」
「だって、いつもならチョコ1箱食べ終える頃なのに、今日は全然食べてる気配ないし」
「別にいいだろ?チョコの進捗なんて」
「いや、気になる。透がチョコ食べないなんて、天変地異の前触れかも知れん」
「そんな訳あるかよ!」
「それくらい珍しいっつーの!どうしたんだよ、何かあったのか?」
すると透は、黙ってうつむく。
大河は、いよいよ深刻に透の顔を覗き込んだ。
「と、透?あの、その…。何か俺に出来ることはあるか?」
「はあ?何それ」
「いや、だって。お調子者のお前がそんな真面目な顔してるなんて、不気味で仕方なくて…」
「ちょっと、大河。ケンカ売ってるの?」
「まさか!全然!めちゃくちゃ心配してる」
真剣に訴える大河に、透も真顔になる。
「大丈夫だよ、何でもない。仕事はちゃんとするから」
「それはいいんだ。けど、何かあるならいつでも相談してくれ」
「うん、分かった。ありがとう、大河」
話を締めくくられ、大河はそれ以上何も言えずに、ただひたすら透の様子を気にしながら仕事をしていた。
◇
「ただいま」
「お帰りなさい!大河さん」
玄関を開けると、瞳子が笑顔で出迎えてくれる。
それだけで大河の心は、ふわっと軽くなった。
「ただいま、瞳子」
優しく抱き寄せて額にキスをする。
瞳子はにっこり微笑んだあと、ん?と視線を落とした。
「大河さん、すごい荷物ね。何かお買い物してきたの?」
「え?ああ、これね」
そう言って、手にしていた袋を開けてみせる。
「なあに?わっ、お菓子がいっぱい!」
中には、ありとあらゆるスナック菓子やチョコレートが入っていた。
「どうしたの?ハロウィンで配るにはまだ早いし」
「うん。これ、透に買ったんだ」
「透さんに?」
「ああ。最近あいつ、ちょっと元気がなくて。チョコも食べないし」
「えっ?あの透さんが?」
「そう。あの透が」
「そうなんですね。それは心配…」
うつむく瞳子を見て、大河は急にハッとした。
(もしかしてあいつ、瞳子のことを想って?)
いつもなら
「そろそろアリシアの顔が見たいー。エネルギーが切れるー」
と騒ぎ出す頃なのに、最近はアリシアのアの字も言わない。
(もしや、今頃になって失恋の痛手がジワジワと?)
一度考え出すと、そうに違いないと思えてくる。
「大河さん?大丈夫?」
瞳子が心配そうに顔を覗き込んできた。
可愛くて優しくて、世界でたった一人の愛する人。
瞳子を手放すことなど、絶対にあり得ない。
たとえ透の為でも。
「瞳子…」
たまらず大河は瞳子を抱きしめた。
「大河さん…。あの、透さんのことは心配だけど、大河さんまで思い詰めないで。私に出来ることなら何でもするから。ね?」
瞳を潤ませながら見上げてくる瞳子に、大河は切なさが込み上げる。
「瞳子…。ずっとそばにいて欲しい。俺の望みは、ただそれだけだ」
「もちろんよ。ずっと大河さんのそばにいさせてね」
「ああ。瞳子、ありがとう」
玄関にも関わらず、二人はしばらく互いを抱きしめ合っていた。
◇
「はあ…」
次の日も、オフィスの水槽を見ながら、カウンターでパソコン作業をしていた透がため息をつく。
じっと魚を見ている透に、大河はまた焦り始めた。
(やっぱりそうか。この間は、水槽越しに瞳子を見てはしゃいでたもんな)
「ひときわ可愛いお魚がいる…と思ったら、アリシアの綺麗な瞳だった。あはは!」
と笑っていた透を思い出す。
透も今、その時のことを思い出しているのかもしれない。
「あー、えっと、透。その、良かったら、これ…」
大河は立ち上がると、カウンターにお菓子のたくさん詰まった袋を置いた。
「ん?どうしたの?これ」
「いや、透が好きそうかなと思って」
「わざわざ買ってきてくれたの?なんで?」
「それは、その。元気になって欲しくて」
「ええー?!俺に?大河、どうしたんだよ。なんか変だぞ?」
「いや、変なのはお前だっつーの!」
二人のやり取りに、吾郎と洋平は眉間にしわを寄せて顔を見合わせる。
いつもの不毛な言い争いが戻ってきたのはいいが、どうにも調子が狂う。
「透、何でもいいから話してくれ。今考えてること、そのまましゃべってくれればいいからさ。俺はなんだって受け止める。うん。どんなお前の気持ちも受け止めるから。な?」
「うげ、なんか気持ち悪っ」
「なんだと?!」
「ええ?!考えてることそのまましゃべれって言うからしゃべったのに」
「あ、そうか。うん、分かった。俺の気持ち悪さも受け止める。他には何かあるか?」
「他にー?うーん、そうだな。傷ついた心を癒やすには、どうすればいいと思う?」
…………は?と、大河はしばらく固まったあと、あたふたとお菓子の袋を探る。
「透、チョコじゃだめか?やっぱりチョコなんかじゃ、癒やされないか?」
「ん?何言ってんの。傷ついてるのは俺じゃないよ」
「へ?じゃあ、誰なんだ?」
「まだ若い18歳の女の子」
「ええー?」
「あ、違った。22だった。また怒られちゃう。あはは!」
「あはは?」
大河はもう、何が何やら訳が分からない。
「あ!ミュージアムの内装業者と打ち合わせがあるんだった。行ってくる」
透は手早く準備をすると、
「行ってきまーす」
とオフィスを出て行った。
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