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聖夜の果たし状
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気がつけばあっという間に師走に入り、街はクリスマスの飾りで彩られ始めた。
菜乃花は図書館の一角に大きなツリーを飾り、クリスマス関連の本を並べて紹介する。
イベントもクリスマスに関するものを企画し、同時にみなと医療センターでも子ども達に楽しんでもらえるよう、あれこれ準備をしていた。
「菜乃花ちゃん。クリスマスイブのシフト、変わろうか?お休み欲しいよね?」
谷川が気を利かせて菜乃花に尋ねる。
「ありがとうございます。でも特に予定はないので大丈夫です」
「そう?でももし予定が入ったら、遠慮なく言ってね。女の子にとってクリスマスイブは大切な日だものね。おばちゃんにもそんな時期があったのよー」
谷川は頬に手を当ててうっとりと宙を見つめる。
「ふふ、谷川さんのそのお話、聞いてみたいです。クリスマスイブにいいことあったんですか?」
「まあね。菜乃花ちゃんにもきっと素敵なサンタさんが現れるわよ」
そう言うと、クリスマスソングを鼻歌で歌いながら谷川はカウンターへと戻っていった。
◇
「それでは、申し送りを始めます」
みなと医療センターの小児科病棟。
ドクターやナースが集まり、遅番スタッフから夜勤スタッフへの申し送りが行われていた。
今夜はクリスマスイブ。
遅番のスタッフは、このあと恋人と街へ繰り出すのだろうか。
心なしか明るい表情だった。
よく見ると夜勤スタッフは、家庭持ちのメンバーが多い。
(ナースも今夜のシフトは、若いメンバーに配慮してあげたのかな)
そんなことを考えながら、三浦は看護師長の言葉に耳を傾けていた。
「それから今夜は、深夜にサンタクロースが子ども達の枕元にプレゼントを置きに来ます。静かに案内してあげてください」
皆は、笑いながら頷く。
「あ、それと。図書ボランティアの鈴原さんが、子ども達の就寝後の21時に来てくれます。プレイルームに飾り付けしてくれるそうです」
「は?!」
思わず三浦は声を上げる。
「21時に?クリスマスイブなのに?」
「え?はい。そんなに時間はかからないから、少し飾り付けしたいと。いけませんでしたか?」
「いえ、大丈夫です」
そう言って視線を落しながらも、三浦はフツフツと怒りが込み上げてくるのを感じていた。
◇
「宮瀬先生、ちょっといいかな?」
「はい。え?」
ERのデスクでパソコンに向かっていた颯真は、入り口から三浦に声をかけられて顔を上げた。
だが、三浦の顔が恐ろしく引きつっているのが分かり、思わずたじろぐ。
恐る恐る近づくと、廊下の端まで連れて行かれた。
「宮瀬先生」
「は、はい」
向き合った三浦は、一見笑みを浮かべているが、こめかみに青筋が立っている。
颯真はゴクリと生唾を飲み込んだ。
「俺はね、よく温和な性格だと言われるけど、実は怒らせるとタチが悪いんだ。知ってた?」
「あ、その…。今、身を持ってヒシヒシと感じております」
「そう、それなら話は早い。君、一体いつまでボケーッとしてるつもり?曲がりなりにも医師だよね?一番大切な人も幸せに出来ないで、他の人を救えると思うの?」
冷たい口調で一気にまくし立てると、グイッと顔を寄せて小声でとどめを刺す。
「手が空いたら、小児科病棟のプレイルームに来て。待ってるから」
「は、はい」
直立不動で返事をすると、三浦はサッと身を翻し、ツカツカと足早に去っていった。
「お、どした?宮瀬。顔色悪いぞ?」
デスクに戻ると、近くの席の塚本に声をかけられる。
両手を頭の後ろで組み、椅子をクルクル揺らしながら気軽に聞いてきた。
急患が運び込まれると一気に顔つきを変える塚本は、普段はこんなふうにのほほんとしていることが多い。
「三浦先生、何の用だったんだ?果たし状でも渡されたか?」
うぐっと颯真は言葉に詰まる。
「なんだ、図星か?お前、あのおっとりした三浦先生を怒らせたのかよ。なかなかの強者だな。あはは!」
「笑いごとじゃないですよ」
颯真は半泣きの表情になる。
「よほどのことしたんだなあ。で?決闘はいつ?俺も見に行っていいか?」
「ダメです!絶対に!」
「えー、見たいのに。ま、とにかく頑張れ!これ以上怒らせる前に行ってこいよ」
「はい…」
既にノックアウトされたように、颯真はヨロヨロと立ち上がった。
菜乃花は図書館の一角に大きなツリーを飾り、クリスマス関連の本を並べて紹介する。
イベントもクリスマスに関するものを企画し、同時にみなと医療センターでも子ども達に楽しんでもらえるよう、あれこれ準備をしていた。
「菜乃花ちゃん。クリスマスイブのシフト、変わろうか?お休み欲しいよね?」
谷川が気を利かせて菜乃花に尋ねる。
「ありがとうございます。でも特に予定はないので大丈夫です」
「そう?でももし予定が入ったら、遠慮なく言ってね。女の子にとってクリスマスイブは大切な日だものね。おばちゃんにもそんな時期があったのよー」
谷川は頬に手を当ててうっとりと宙を見つめる。
「ふふ、谷川さんのそのお話、聞いてみたいです。クリスマスイブにいいことあったんですか?」
「まあね。菜乃花ちゃんにもきっと素敵なサンタさんが現れるわよ」
そう言うと、クリスマスソングを鼻歌で歌いながら谷川はカウンターへと戻っていった。
◇
「それでは、申し送りを始めます」
みなと医療センターの小児科病棟。
ドクターやナースが集まり、遅番スタッフから夜勤スタッフへの申し送りが行われていた。
今夜はクリスマスイブ。
遅番のスタッフは、このあと恋人と街へ繰り出すのだろうか。
心なしか明るい表情だった。
よく見ると夜勤スタッフは、家庭持ちのメンバーが多い。
(ナースも今夜のシフトは、若いメンバーに配慮してあげたのかな)
そんなことを考えながら、三浦は看護師長の言葉に耳を傾けていた。
「それから今夜は、深夜にサンタクロースが子ども達の枕元にプレゼントを置きに来ます。静かに案内してあげてください」
皆は、笑いながら頷く。
「あ、それと。図書ボランティアの鈴原さんが、子ども達の就寝後の21時に来てくれます。プレイルームに飾り付けしてくれるそうです」
「は?!」
思わず三浦は声を上げる。
「21時に?クリスマスイブなのに?」
「え?はい。そんなに時間はかからないから、少し飾り付けしたいと。いけませんでしたか?」
「いえ、大丈夫です」
そう言って視線を落しながらも、三浦はフツフツと怒りが込み上げてくるのを感じていた。
◇
「宮瀬先生、ちょっといいかな?」
「はい。え?」
ERのデスクでパソコンに向かっていた颯真は、入り口から三浦に声をかけられて顔を上げた。
だが、三浦の顔が恐ろしく引きつっているのが分かり、思わずたじろぐ。
恐る恐る近づくと、廊下の端まで連れて行かれた。
「宮瀬先生」
「は、はい」
向き合った三浦は、一見笑みを浮かべているが、こめかみに青筋が立っている。
颯真はゴクリと生唾を飲み込んだ。
「俺はね、よく温和な性格だと言われるけど、実は怒らせるとタチが悪いんだ。知ってた?」
「あ、その…。今、身を持ってヒシヒシと感じております」
「そう、それなら話は早い。君、一体いつまでボケーッとしてるつもり?曲がりなりにも医師だよね?一番大切な人も幸せに出来ないで、他の人を救えると思うの?」
冷たい口調で一気にまくし立てると、グイッと顔を寄せて小声でとどめを刺す。
「手が空いたら、小児科病棟のプレイルームに来て。待ってるから」
「は、はい」
直立不動で返事をすると、三浦はサッと身を翻し、ツカツカと足早に去っていった。
「お、どした?宮瀬。顔色悪いぞ?」
デスクに戻ると、近くの席の塚本に声をかけられる。
両手を頭の後ろで組み、椅子をクルクル揺らしながら気軽に聞いてきた。
急患が運び込まれると一気に顔つきを変える塚本は、普段はこんなふうにのほほんとしていることが多い。
「三浦先生、何の用だったんだ?果たし状でも渡されたか?」
うぐっと颯真は言葉に詰まる。
「なんだ、図星か?お前、あのおっとりした三浦先生を怒らせたのかよ。なかなかの強者だな。あはは!」
「笑いごとじゃないですよ」
颯真は半泣きの表情になる。
「よほどのことしたんだなあ。で?決闘はいつ?俺も見に行っていいか?」
「ダメです!絶対に!」
「えー、見たいのに。ま、とにかく頑張れ!これ以上怒らせる前に行ってこいよ」
「はい…」
既にノックアウトされたように、颯真はヨロヨロと立ち上がった。
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