花咲くように 微笑んで

葉月 まい

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聖夜の果たし状

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 気がつけばあっという間に師走に入り、街はクリスマスの飾りで彩られ始めた。

 菜乃花は図書館の一角に大きなツリーを飾り、クリスマス関連の本を並べて紹介する。

 イベントもクリスマスに関するものを企画し、同時にみなと医療センターでも子ども達に楽しんでもらえるよう、あれこれ準備をしていた。

 「菜乃花ちゃん。クリスマスイブのシフト、変わろうか?お休み欲しいよね?」

 谷川が気を利かせて菜乃花に尋ねる。

 「ありがとうございます。でも特に予定はないので大丈夫です」
 「そう?でももし予定が入ったら、遠慮なく言ってね。女の子にとってクリスマスイブは大切な日だものね。おばちゃんにもそんな時期があったのよー」

 谷川は頬に手を当ててうっとりと宙を見つめる。

 「ふふ、谷川さんのそのお話、聞いてみたいです。クリスマスイブにいいことあったんですか?」
 「まあね。菜乃花ちゃんにもきっと素敵なサンタさんが現れるわよ」

 そう言うと、クリスマスソングを鼻歌で歌いながら谷川はカウンターへと戻っていった。



 「それでは、申し送りを始めます」

 みなと医療センターの小児科病棟。

 ドクターやナースが集まり、遅番スタッフから夜勤スタッフへの申し送りが行われていた。

 今夜はクリスマスイブ。

 遅番のスタッフは、このあと恋人と街へ繰り出すのだろうか。
 心なしか明るい表情だった。

 よく見ると夜勤スタッフは、家庭持ちのメンバーが多い。

 (ナースも今夜のシフトは、若いメンバーに配慮してあげたのかな)

 そんなことを考えながら、三浦は看護師長の言葉に耳を傾けていた。

 「それから今夜は、深夜にサンタクロースが子ども達の枕元にプレゼントを置きに来ます。静かに案内してあげてください」

 皆は、笑いながら頷く。

 「あ、それと。図書ボランティアの鈴原さんが、子ども達の就寝後の21時に来てくれます。プレイルームに飾り付けしてくれるそうです」
 「は?!」

 思わず三浦は声を上げる。

 「21時に?クリスマスイブなのに?」
 「え?はい。そんなに時間はかからないから、少し飾り付けしたいと。いけませんでしたか?」
 「いえ、大丈夫です」

 そう言って視線を落しながらも、三浦はフツフツと怒りが込み上げてくるのを感じていた。



 「宮瀬先生、ちょっといいかな?」
 「はい。え?」

 ERのデスクでパソコンに向かっていた颯真は、入り口から三浦に声をかけられて顔を上げた。

 だが、三浦の顔が恐ろしく引きつっているのが分かり、思わずたじろぐ。

 恐る恐る近づくと、廊下の端まで連れて行かれた。

 「宮瀬先生」
 「は、はい」

 向き合った三浦は、一見笑みを浮かべているが、こめかみに青筋が立っている。

 颯真はゴクリと生唾を飲み込んだ。

 「俺はね、よく温和な性格だと言われるけど、実は怒らせるとタチが悪いんだ。知ってた?」
 「あ、その…。今、身を持ってヒシヒシと感じております」
 「そう、それなら話は早い。君、一体いつまでボケーッとしてるつもり?曲がりなりにも医師だよね?一番大切な人も幸せに出来ないで、他の人を救えると思うの?」

 冷たい口調で一気にまくし立てると、グイッと顔を寄せて小声でとどめを刺す。

 「手が空いたら、小児科病棟のプレイルームに来て。待ってるから」
 「は、はい」

 直立不動で返事をすると、三浦はサッと身を翻し、ツカツカと足早に去っていった。

 「お、どした?宮瀬。顔色悪いぞ?」

 デスクに戻ると、近くの席の塚本に声をかけられる。

 両手を頭の後ろで組み、椅子をクルクル揺らしながら気軽に聞いてきた。

 急患が運び込まれると一気に顔つきを変える塚本は、普段はこんなふうにのほほんとしていることが多い。

 「三浦先生、何の用だったんだ?果たし状でも渡されたか?」

 うぐっと颯真は言葉に詰まる。

 「なんだ、図星か?お前、あのおっとりした三浦先生を怒らせたのかよ。なかなかの強者だな。あはは!」
 「笑いごとじゃないですよ」

 颯真は半泣きの表情になる。

 「よほどのことしたんだなあ。で?決闘はいつ?俺も見に行っていいか?」
 「ダメです!絶対に!」
 「えー、見たいのに。ま、とにかく頑張れ!これ以上怒らせる前に行ってこいよ」   
 「はい…」

 既にノックアウトされたように、颯真はヨロヨロと立ち上がった。
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