28 / 33
婚約指輪
しおりを挟む
真美の誕生日、4月21日がやって来た。
金曜日の為普通に仕事があるが、夜は二人でホテルのレストランに行くことになっている。
真美には内緒にしているが、潤はホテルの部屋も押さえてあった。
定時で退社すると一度マンションに戻り、着替えてから車で都内のホテルに向かった。
「ここって、前に樹さんと初めて会ったホテルですよね?」
前方に高くそびえ立つホテルを見上げながら、真美が尋ねる。
「ああ。三原ホールディングスのグループ会社のホテルなんだって」
「そうなんだ!知らなかった。あ、だから樹さん、あの時会員制のスイートルームを使えたんですね」
「まあ、樹さんならどんなホテルのスイートルームもじゃんじゃん使えるだろうけど」
「そうか、そうですよね。樹さん、いつも気さくな雰囲気だからつい忘れちゃうけど、ものすごい御曹司なんですもんね」
話しているうちに駐車場に着き、車を停めた潤は助手席のドアを開けて真美に手を差し伸べた。
「足元気をつけて。真美、今夜はめちゃくちゃ可愛いな。ピンクのワンピース、よく似合ってる」
「ふふっ、ありがとう。潤さんも、とってもかっこいいです」
二人で顔を見合わせて微笑むと、腕を組んで33階のフレンチレストランに入った。
夜景を見下ろしながら、二人は美味しいフルコースを味わう。
毎日一緒に食事しているが、今夜は互いの姿に改めて胸がドキドキし、目が合うと照れ笑いを浮かべてしまった。
「なんか、こういう時間ってよく考えたら久しぶりじゃないか?いつも岳達とワイワイ賑やかに集まってる気がする」
「そう言えばそうですね。がっくん達といるのも楽しいけど、時々は潤さんと二人切りでお出かけしたいな」
可愛い真美のおねだりに、潤は頬を緩める。
「そうだな。これからはもっともっと、真美と二人の時間を楽しもう。今までなんだかんだで岳といることが多かったから、恋人を通り越して夫婦みたいになっちゃってたもんな」
「ふふっ、確かに。スーパーで3人で買い物してた時も、親子に見られたりして」
「ああ。だから真美、今夜はとことん甘い恋人の時間にしよう。綺麗な真美に、俺は改めて恋に落ちるよ」
潤に優しく見つめられ、真美は顔を真っ赤にする。
「ははっ!またイチゴ真美ちゃんになった。可愛いな」
「なんですか?それ」
ふくれっ面になると「今度はリンゴ真美ちゃん!」と笑い出す。
「美味しそっ、あとで食べちゃおう」
色っぽい切れ長の目で見つめられ、今度はタコのように更に真っ赤になる真美だった。
デザートに「Happy Birthday!」と美しくデコレーションされたケーキがサーブされ、おめでとうございますとスタッフ達にも祝福される。
「ありがとうございます。こんなに素敵な誕生日は初めて」
真美の幸せそうな笑顔に、潤も思わず微笑み返す。
するとスタッフが、スッと潤の手元にカードサイズの封筒を滑らせ、目礼してから去っていった。
なんだろう?と中を見てみると、どうやら部屋のカードキーのようだった。
おそらくチェックインを済ませてくれたのだろう。
(気が利くな。さすがは三原グループのホテルマンだ。ん?)
書かれていた部屋番号、3501に、潤は首をひねる。
(35階?それって…)
「潤さん?どうかしましたか?」
真美に尋ねられ、何でもないよ、と潤はカードキーをジャケットの内ポケットにしまった。
◇
「ごちそうさまでした。とても美味しかったです」
「こちらこそ、ありがとうございました。お誕生日おめでとうございます。またのお越しを心よりお待ちしております」
「また伺います。ありがとうございました」
レストランのスタッフに笑顔で挨拶した真美に、潤は優しく手を差し伸べる。
「真美、行くよ」
「はい」
腕を組んでエレベーターに乗ると、潤は35の階数ボタンを押す。
「え?潤さん。駐車場は地下じゃない?」
真美がキョトンと顔を見上げてくる。
「そうなんだけど、ちょっとね」
「ちょっと、なに?」
「ん?だから、ちょっとそこまで」
「お買い物?」
「そうそう、大根買いにね。って、違うから」
その時、ポーンと扉が開いて、タキシード姿のスタッフがうやうやしく頭を下げるのが見えた。
(うわっ、テジャヴ?いや違う。2度目ましてだ)
潤は確信する。
おそらくこれは、都と樹の仕業だ。
(姉貴に今夜このホテルのレストランに行くこと話したからなあ。そこから樹さんが全て手配してくれたんだろう)
フレンチレストランでもお会計は請求されず、予約した部屋も以前と同じスイートルームに変更してくれたに違いない。
「ねえ、潤さん。一体どういうこと?」
真美が小さく尋ねてくる。
「ん?まあ、樹さんからの誕生日プレゼントかな?」
「ええ?!何が?」
するとスタッフが、にこやかに話しかけてきた。
「五十嵐様、本日もようこそお越しくださいました。お部屋にご案内いたします。どうぞ」
そう言って歩き始めたスタッフについて行くと、案の定以前と同じ部屋に案内された。
しかもテーブルには豪華なバラの花とホールケーキ、シャンパンにフルーツの盛り合わせが用意されている。
「こ、これは、一体……」
真美はもはや呆然と呟くばかりだった。
「お誕生日おめでとうございます、お嬢様。何かありましたら、いつでも内線でお申しつけくださいませ。それでは、失礼いたします」
「はい、ありがとうございます」
スタッフが退室すると、真美は未だに信じられない様子で立ち尽くしている。
「あの、潤さん?このお部屋は?それに、こんなに大きなお花に、ケーキやシャンパン、フルーツまで。ここは魔法のお部屋なの?」
「ははは!まあ、そうかな。今夜の真美はプリンセスだね。ほら、座って」
潤は真美をテーブルの横のソファに座らせた。
そして自分はその前にひざまずく。
えっ?と真美は目を見開いた。
「真美。最初に好きになったのは、多分岳に向けた笑顔だったと思う。岳を見つめる優しくて愛おしそうな眼差しに目を奪われた」
真美の両手を握り、潤は少し視線を落としてゆっくりと語る。
「次に心惹かれたのは、真美のきっぱりとしたあのセリフ。岳はこんなに小さな身体で、毎日を一生懸命に生きている。叱ることなんて、何一つないって。あの言葉に俺がどれほど救われたか分からない」
「潤さん……」
真美は潤の手をキュッと握り返して目を潤ませた。
「岳に美味しい料理を作ってくれて、おゆうぎ会では衣装も作って見に来てくれた。よその子なのに、血の繋がりなんて関係ないって、たくさんの愛情を岳に注いでくれた。地震の時は己を顧みずに岳のもとへ駆けつけてくれて、岳の心も守ってくれた。そのうちに俺は、真美のその笑顔を俺にも向けて欲しいって思い始めたんだ。岳に寄り添ってたくさんの幸せを与えてくれる真美を、俺がこの手で守りたい。本当は寂しさを抱えて、岳の描いた絵にぽろぽろ涙をこぼす真美を、これからは俺が幸せにしたいって思った。これほど誰かに心を奪われたことはない。こんなにも誰かを愛おしいと思ったこともなかった。結婚願望なんてまるでなかった俺が、真美と築く幸せな家庭を夢見るようになった。俺のこの先の人生は、真美と共にある。世界でたった一人、心の底から愛する人を見つけられたんだ。真美、俺と結婚して欲しい」
真美の瞳からとめどなく涙が溢れる。
「潤さん……。私もあなたに救われました。ずっと自分に自信が持てなくて、いつも引け目を感じながら気を張っていた私に、潤さんは言ってくれました。俺になら何を話してくれてもいい、いつでも俺を頼れって。何の取り柄もない私を、誰よりも愛情に満ち溢れていて、陽だまりみたいに温かく優しい人だよって言ってくれました。もう一人でがんばらなくていい。寂しい夜を一人で過ごさなくてもいい。お前はもう、一人じゃないんだって。潤さんこそ、おひさまみたいに私の心を温かく溶かしてくれる人です」
「……真美」
「これから先も、ずっと潤さんと一緒にいたい。潤さんと過ごす宝物のような時間を知ってしまったから。あなたに心から愛される喜びを知ってしまったから。二人で過ごす何気ない日々が、どんなに幸せなものかに気づいてしまったから。あなたの……、優しくて大きな腕の温もりを覚えてしまったから。私はもうあなたから離れるなんて出来ません。潤さん、私とずっと一緒にいてください」
涙を堪えながら懸命にそう告げる真美を、たまらず潤はギュッと胸に抱きしめた。
「真美。可愛くて強くて、健気で優しくて、こんなにも愛おしい人。ありがとう、俺にたくさんの幸せを教えてくれて」
「潤さん……。私の方こそ、感謝しています。私を見つけてくれて、本当にありがとう」
潤は少し身体を離すと、ふっと笑って真美の涙を親指で拭う。
「真美が教えてくれた。幸せ過ぎると涙がこぼれることを。真美、これから先真美がこぼす涙は、全部幸せの涙だよ」
真美の笑顔がふわりと花開く。
「たくさんの幸せと笑顔が溢れる家族になろうな」
「はい、潤さん」
見つめ合って頷くと、潤はジャケットのポケットからリングケースを取り出した。
「俺達みんなで、真美をイメージしながらデザインした指輪なんだ」
そう言うと、そっとケースを開いて見せる。
「わあ……、なんて綺麗なの」
ハートのダイヤモンドと、その周りを彩る小さなピンクのモルガナイト。
今着けているネックレスとブレスレットと同じモチーフだが、メインのダイヤモンドの輝きは目もくらむばかりだった。
「姉貴と一緒に、俺と岳と樹さんとみんなで考えた。真美の純粋で真っ直ぐな心と、温かくて優しい笑顔をイメージして」
「私の為に、みんなで?なんて素敵な指輪なの。何よりも、みんなの気持ちが本当に嬉しい」
潤は指輪を手に取ると、真美の左手をすくい、薬指にゆっくりとはめた。
「うん、よく似合ってる」
「可愛い!世界でたった一つの、私の大切な人達が作ってくれた指輪。私、もう絶対に外さないわ。ありがとう、潤さん」
目の高さに掲げた指輪に輝くような笑顔を見せる真美を、潤はそっと抱き寄せる。
「愛してるよ、真美」
「私も。あなたを心から愛しています、潤さん」
二人は互いに微笑み合い、どちらからともなく顔を寄せて、長く幸せなキスをした。
金曜日の為普通に仕事があるが、夜は二人でホテルのレストランに行くことになっている。
真美には内緒にしているが、潤はホテルの部屋も押さえてあった。
定時で退社すると一度マンションに戻り、着替えてから車で都内のホテルに向かった。
「ここって、前に樹さんと初めて会ったホテルですよね?」
前方に高くそびえ立つホテルを見上げながら、真美が尋ねる。
「ああ。三原ホールディングスのグループ会社のホテルなんだって」
「そうなんだ!知らなかった。あ、だから樹さん、あの時会員制のスイートルームを使えたんですね」
「まあ、樹さんならどんなホテルのスイートルームもじゃんじゃん使えるだろうけど」
「そうか、そうですよね。樹さん、いつも気さくな雰囲気だからつい忘れちゃうけど、ものすごい御曹司なんですもんね」
話しているうちに駐車場に着き、車を停めた潤は助手席のドアを開けて真美に手を差し伸べた。
「足元気をつけて。真美、今夜はめちゃくちゃ可愛いな。ピンクのワンピース、よく似合ってる」
「ふふっ、ありがとう。潤さんも、とってもかっこいいです」
二人で顔を見合わせて微笑むと、腕を組んで33階のフレンチレストランに入った。
夜景を見下ろしながら、二人は美味しいフルコースを味わう。
毎日一緒に食事しているが、今夜は互いの姿に改めて胸がドキドキし、目が合うと照れ笑いを浮かべてしまった。
「なんか、こういう時間ってよく考えたら久しぶりじゃないか?いつも岳達とワイワイ賑やかに集まってる気がする」
「そう言えばそうですね。がっくん達といるのも楽しいけど、時々は潤さんと二人切りでお出かけしたいな」
可愛い真美のおねだりに、潤は頬を緩める。
「そうだな。これからはもっともっと、真美と二人の時間を楽しもう。今までなんだかんだで岳といることが多かったから、恋人を通り越して夫婦みたいになっちゃってたもんな」
「ふふっ、確かに。スーパーで3人で買い物してた時も、親子に見られたりして」
「ああ。だから真美、今夜はとことん甘い恋人の時間にしよう。綺麗な真美に、俺は改めて恋に落ちるよ」
潤に優しく見つめられ、真美は顔を真っ赤にする。
「ははっ!またイチゴ真美ちゃんになった。可愛いな」
「なんですか?それ」
ふくれっ面になると「今度はリンゴ真美ちゃん!」と笑い出す。
「美味しそっ、あとで食べちゃおう」
色っぽい切れ長の目で見つめられ、今度はタコのように更に真っ赤になる真美だった。
デザートに「Happy Birthday!」と美しくデコレーションされたケーキがサーブされ、おめでとうございますとスタッフ達にも祝福される。
「ありがとうございます。こんなに素敵な誕生日は初めて」
真美の幸せそうな笑顔に、潤も思わず微笑み返す。
するとスタッフが、スッと潤の手元にカードサイズの封筒を滑らせ、目礼してから去っていった。
なんだろう?と中を見てみると、どうやら部屋のカードキーのようだった。
おそらくチェックインを済ませてくれたのだろう。
(気が利くな。さすがは三原グループのホテルマンだ。ん?)
書かれていた部屋番号、3501に、潤は首をひねる。
(35階?それって…)
「潤さん?どうかしましたか?」
真美に尋ねられ、何でもないよ、と潤はカードキーをジャケットの内ポケットにしまった。
◇
「ごちそうさまでした。とても美味しかったです」
「こちらこそ、ありがとうございました。お誕生日おめでとうございます。またのお越しを心よりお待ちしております」
「また伺います。ありがとうございました」
レストランのスタッフに笑顔で挨拶した真美に、潤は優しく手を差し伸べる。
「真美、行くよ」
「はい」
腕を組んでエレベーターに乗ると、潤は35の階数ボタンを押す。
「え?潤さん。駐車場は地下じゃない?」
真美がキョトンと顔を見上げてくる。
「そうなんだけど、ちょっとね」
「ちょっと、なに?」
「ん?だから、ちょっとそこまで」
「お買い物?」
「そうそう、大根買いにね。って、違うから」
その時、ポーンと扉が開いて、タキシード姿のスタッフがうやうやしく頭を下げるのが見えた。
(うわっ、テジャヴ?いや違う。2度目ましてだ)
潤は確信する。
おそらくこれは、都と樹の仕業だ。
(姉貴に今夜このホテルのレストランに行くこと話したからなあ。そこから樹さんが全て手配してくれたんだろう)
フレンチレストランでもお会計は請求されず、予約した部屋も以前と同じスイートルームに変更してくれたに違いない。
「ねえ、潤さん。一体どういうこと?」
真美が小さく尋ねてくる。
「ん?まあ、樹さんからの誕生日プレゼントかな?」
「ええ?!何が?」
するとスタッフが、にこやかに話しかけてきた。
「五十嵐様、本日もようこそお越しくださいました。お部屋にご案内いたします。どうぞ」
そう言って歩き始めたスタッフについて行くと、案の定以前と同じ部屋に案内された。
しかもテーブルには豪華なバラの花とホールケーキ、シャンパンにフルーツの盛り合わせが用意されている。
「こ、これは、一体……」
真美はもはや呆然と呟くばかりだった。
「お誕生日おめでとうございます、お嬢様。何かありましたら、いつでも内線でお申しつけくださいませ。それでは、失礼いたします」
「はい、ありがとうございます」
スタッフが退室すると、真美は未だに信じられない様子で立ち尽くしている。
「あの、潤さん?このお部屋は?それに、こんなに大きなお花に、ケーキやシャンパン、フルーツまで。ここは魔法のお部屋なの?」
「ははは!まあ、そうかな。今夜の真美はプリンセスだね。ほら、座って」
潤は真美をテーブルの横のソファに座らせた。
そして自分はその前にひざまずく。
えっ?と真美は目を見開いた。
「真美。最初に好きになったのは、多分岳に向けた笑顔だったと思う。岳を見つめる優しくて愛おしそうな眼差しに目を奪われた」
真美の両手を握り、潤は少し視線を落としてゆっくりと語る。
「次に心惹かれたのは、真美のきっぱりとしたあのセリフ。岳はこんなに小さな身体で、毎日を一生懸命に生きている。叱ることなんて、何一つないって。あの言葉に俺がどれほど救われたか分からない」
「潤さん……」
真美は潤の手をキュッと握り返して目を潤ませた。
「岳に美味しい料理を作ってくれて、おゆうぎ会では衣装も作って見に来てくれた。よその子なのに、血の繋がりなんて関係ないって、たくさんの愛情を岳に注いでくれた。地震の時は己を顧みずに岳のもとへ駆けつけてくれて、岳の心も守ってくれた。そのうちに俺は、真美のその笑顔を俺にも向けて欲しいって思い始めたんだ。岳に寄り添ってたくさんの幸せを与えてくれる真美を、俺がこの手で守りたい。本当は寂しさを抱えて、岳の描いた絵にぽろぽろ涙をこぼす真美を、これからは俺が幸せにしたいって思った。これほど誰かに心を奪われたことはない。こんなにも誰かを愛おしいと思ったこともなかった。結婚願望なんてまるでなかった俺が、真美と築く幸せな家庭を夢見るようになった。俺のこの先の人生は、真美と共にある。世界でたった一人、心の底から愛する人を見つけられたんだ。真美、俺と結婚して欲しい」
真美の瞳からとめどなく涙が溢れる。
「潤さん……。私もあなたに救われました。ずっと自分に自信が持てなくて、いつも引け目を感じながら気を張っていた私に、潤さんは言ってくれました。俺になら何を話してくれてもいい、いつでも俺を頼れって。何の取り柄もない私を、誰よりも愛情に満ち溢れていて、陽だまりみたいに温かく優しい人だよって言ってくれました。もう一人でがんばらなくていい。寂しい夜を一人で過ごさなくてもいい。お前はもう、一人じゃないんだって。潤さんこそ、おひさまみたいに私の心を温かく溶かしてくれる人です」
「……真美」
「これから先も、ずっと潤さんと一緒にいたい。潤さんと過ごす宝物のような時間を知ってしまったから。あなたに心から愛される喜びを知ってしまったから。二人で過ごす何気ない日々が、どんなに幸せなものかに気づいてしまったから。あなたの……、優しくて大きな腕の温もりを覚えてしまったから。私はもうあなたから離れるなんて出来ません。潤さん、私とずっと一緒にいてください」
涙を堪えながら懸命にそう告げる真美を、たまらず潤はギュッと胸に抱きしめた。
「真美。可愛くて強くて、健気で優しくて、こんなにも愛おしい人。ありがとう、俺にたくさんの幸せを教えてくれて」
「潤さん……。私の方こそ、感謝しています。私を見つけてくれて、本当にありがとう」
潤は少し身体を離すと、ふっと笑って真美の涙を親指で拭う。
「真美が教えてくれた。幸せ過ぎると涙がこぼれることを。真美、これから先真美がこぼす涙は、全部幸せの涙だよ」
真美の笑顔がふわりと花開く。
「たくさんの幸せと笑顔が溢れる家族になろうな」
「はい、潤さん」
見つめ合って頷くと、潤はジャケットのポケットからリングケースを取り出した。
「俺達みんなで、真美をイメージしながらデザインした指輪なんだ」
そう言うと、そっとケースを開いて見せる。
「わあ……、なんて綺麗なの」
ハートのダイヤモンドと、その周りを彩る小さなピンクのモルガナイト。
今着けているネックレスとブレスレットと同じモチーフだが、メインのダイヤモンドの輝きは目もくらむばかりだった。
「姉貴と一緒に、俺と岳と樹さんとみんなで考えた。真美の純粋で真っ直ぐな心と、温かくて優しい笑顔をイメージして」
「私の為に、みんなで?なんて素敵な指輪なの。何よりも、みんなの気持ちが本当に嬉しい」
潤は指輪を手に取ると、真美の左手をすくい、薬指にゆっくりとはめた。
「うん、よく似合ってる」
「可愛い!世界でたった一つの、私の大切な人達が作ってくれた指輪。私、もう絶対に外さないわ。ありがとう、潤さん」
目の高さに掲げた指輪に輝くような笑顔を見せる真美を、潤はそっと抱き寄せる。
「愛してるよ、真美」
「私も。あなたを心から愛しています、潤さん」
二人は互いに微笑み合い、どちらからともなく顔を寄せて、長く幸せなキスをした。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
蕩ける愛であなたを覆いつくしたい~最悪の失恋から救ってくれた年下の同僚に甘く翻弄されてます~
泉南佳那
恋愛
梶原茉衣 28歳 × 浅野一樹 25歳
最悪の失恋をしたその夜、茉衣を救ってくれたのは、3歳年下の同僚、その端正な容姿で、会社一の人気を誇る浅野一樹だった。
「抱きしめてもいいですか。今それしか、梶原さんを慰める方法が見つからない」
「行くところがなくて困ってるんなら家にきます? 避難所だと思ってくれればいいですよ」
成り行きで彼のマンションにやっかいになることになった茉衣。
徐々に傷ついた心を優しく慰めてくれる彼に惹かれてゆき……
超イケメンの年下同僚に甘く翻弄されるヒロイン。
一緒にドキドキしていただければ、嬉しいです❤️
社内恋愛の絶対条件!"溺愛は退勤時間が過ぎてから"
桜井 響華
恋愛
派遣受付嬢をしている胡桃沢 和奏は、副社長専属秘書である相良 大貴に一目惚れをして勢い余って告白してしまうが、冷たくあしらわれる。諦めモードで日々過ごしていたが、チャンス到来───!?
誘惑の延長線上、君を囲う。
桜井 響華
恋愛
私と貴方の間には
"恋"も"愛"も存在しない。
高校の同級生が上司となって
私の前に現れただけの話。
.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚
Иatural+ 企画開発部部長
日下部 郁弥(30)
×
転職したてのエリアマネージャー
佐藤 琴葉(30)
.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚
偶然にもバーカウンターで泥酔寸前の
貴方を見つけて…
高校時代の面影がない私は…
弱っていそうな貴方を誘惑した。
:
:
♡o。+..:*
:
「本当は大好きだった……」
───そんな気持ちを隠したままに
欲に溺れ、お互いの隙間を埋める。
【誘惑の延長線上、君を囲う。】
ケダモノ、148円ナリ
菱沼あゆ
恋愛
ケダモノを148円で買いました――。
「結婚するんだ」
大好きな従兄の顕人の結婚に衝撃を受けた明日実は、たまたま、そこに居たイケメンを捕まえ、
「私っ、この方と結婚するんですっ!」
と言ってしまう。
ところが、そのイケメン、貴継は、かつて道で出会ったケダモノだった。
貴継は、顕人にすべてをバラすと明日実を脅し、ちゃっかり、明日実の家に居座ってしまうのだが――。

私の婚活事情〜副社長の策に嵌まるまで〜
みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
身長172センチ。
高身長であること以外はいたって平凡なアラサーOLの佐伯花音。
婚活アプリに登録し、積極的に動いているのに中々上手く行かない。
名前からしてもっと可愛らしい人かと…ってどういうこと? そんな人こっちから願い下げ。
−−−でもだからってこんなハイスペ男子も求めてないっ!!
イケメン副社長に振り回される毎日…気が付いたときには既に副社長の手の内にいた。
極上の彼女と最愛の彼 Vol.3
葉月 まい
恋愛
『極上の彼女と最愛の彼』第3弾
メンバーが結婚ラッシュの中、未だ独り身の吾郎
果たして彼にも幸せの女神は微笑むのか?
そして瞳子や大河、メンバー達のその後は?
元体操のお兄さんとキャンプ場で過ごし、筋肉と優しさに包まれた日――。
立坂雪花
恋愛
夏休み、小日向美和(35歳)は
小学一年生の娘、碧に
キャンプに連れて行ってほしいと
お願いされる。
キャンプなんて、したことないし……
と思いながらもネットで安心快適な
キャンプ場を調べ、必要なものをチェックしながら娘のために準備をし、出発する。
だが、当日簡単に立てられると思っていた
テントに四苦八苦していた。
そんな時に現れたのが、
元子育て番組の体操のお兄さんであり
全国のキャンプ場を巡り、
筋トレしている動画を撮るのが趣味の
加賀谷大地さん(32)で――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる