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息子と弟をよろしく
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それから数日後。
今日こそは!と意気込んで、真美は定時で仕事を終えた。
「お先に失礼します」と紗絵達に挨拶して、意気揚々とオフィスをあとにする。
潤は数分前に退社しており、真美は一緒にならないように、けれど遅れないようにと気をつけながら電車に乗った。
改札を出て急いで保育園に向かうと、ちょうど潤が岳と手を繋いで出て来るところだった。
「がっくん!」
大きな声で呼ぶと、顔を上げた岳がパッと笑顔になる
「まみ!」
「良かったー、会えて。がっくんに会いたくて急いで帰って来たの。元気だった?」
「うん、げんき。まみ、そんなにおれにあいたかったのかよ?」
「あはは!そうなの。もうがっくんに会いたくて会いたくて。それにお礼も言いたかったし。可愛くて素敵な絵をどうもありがとう!とっても嬉しかった」
すると岳は、照れたように目を逸らす。
「あんまりみるなよな。おれ、おえかきへただから」
「え?まさか!すっごく上手だよ。あんなに心がポカポカする絵を描けるなんて、がっくんすごいんだからね?」
「そうかな?」
「そうだよ。私もお礼にがっくんに絵を描こうかと思ったけど、絶対敵わないからやめたんだ」
真美が真顔でそう言うと、岳は驚いたように目を丸くする。
「まみ、おえかきへたなんだ?」
「うん、下手なの」
「そっか。まあ、だいじょうぶだよ。まみは、りょうりがうまいからな」
「ふふっ、ありがと。あ、じゃあお礼にご飯作らせてくれる?」
ええ?!と、それまで黙って聞いていた潤が声を上げる。
だが既に岳は、やったー!と飛び跳ねて喜んでいた。
「課長、よろしければこれからうちで、ごちそうさせていただけませんか?」
「いや、こっちは構わないけど。迷惑じゃない?」
「私からお誘いしたんですから、迷惑な訳ないです。がっくん、行こうか」
うん!と返事をして、岳は真美と手を繋ぐ。
「何食べたいー?がっくん」
「えっとね、オムライス!」
「お、いいねー。お絵描きオムライスにしようか」
「まみ、おえかきへたなんじゃないの?」
「うん。だからがっくんが描いてね」
仲良く繋いだ手を揺らしながら歩く真美と岳を、潤は後ろから微笑ましく見守っていた。
真美の部屋に着くと、3人でうがい手洗いを済ませる。
真美はローテーブルに岳の麦茶と潤のコーヒーを置いてから、早速炊飯器をセットした。
「がっくん、嫌いな食べ物ある?」
「ピーマン。おれ、あれだけは、ぜったいむり」
「あはは!ほんとにだめなんだね。実感こもってる。じゃあ今日もコーンとソーセージを入れる?」
「うん!」
ご飯が炊き上がるのを待つ間、真美はローテーブルに食材を並べた。
「じゃあ、がっくん。一緒にソーセージを切ってみようか」
「え、やってもいいの?」
「うん。一人ではやらないでね。私と一緒にやってみよう」
そう言って真美は、正座した膝の上に岳を座らせた。
まな板の上にソーセージを置き、小さな果物ナイフを岳に握らせて、その上から右手でしっかりと岳の手を包み込む。
「いい?ソーセージを左手でこんなふうに押さえるの。そしたら、この端っこをサクッと切るよ?」
うん、と岳は真剣に頷く。
「いくよ?いちにの、さん」
右手に力を入れてソーセージの端を切る。
「ほら、切れた」
「うん!やった!」
岳は目を輝かせて真美を振り返った。
「やったねー。じゃあもう一回いくよ?」
いちにの、さん、と声を揃えてまた端を切る。
何度も繰り返し、全て切り終えると、岳は満足そうにパチパチと手を叩いた。
「やったー!おれもおとなになったなー」
ブッと思わず潤が吹き出すと、課長!と真美は横目でいさめた。
「がっくん、上手に出来たね。今日はがっくんのお料理デビューの日だよ」
「きねんび?」
「そう。記念日」
「じゃあ、パーティーしなきゃな」
「あはは!うん、しようしよう」
真美は岳を膝から下ろして立ち上がった。
「じゃあ、あとはがっくんに任せるね。この間みたいにコーンをお皿に出してくれる?」
「うん!つめたーいやつね」
「そう。つめたーいから気をつけてね」
ローテーブルにスイートコーンの袋と小皿を置き、真美は冷蔵庫から野菜を取り出してキッチンで手早くみじん切りにした。
ご飯が炊き上がると、フライパンで具材と一緒にバターで炒め、塩コショウとケチャップで味付けする。
卵を1つ溶くと小ぶりのフライパンに流し入れ、ケチャップライスを載せて端に寄せてから、手首を返して皿に盛り付けた。
「ほら、出来た!」
岳に見せると、うわー!と目をまん丸にしてほっぺに手をやっている。
「ふふふ、がっくん可愛い。じゃあ、このオムライスにケチャップでお絵描きしてね。何でも描いていいよ」
テーブルに皿とケチャップを置き、真美はもう一度キッチンに戻ってあと2つオムライスを仕上げた。
「どう?お絵描き出来たかな?」
皿をテーブルに置くと、岳の手元を覗き込む。
岳は真剣な表情でケチャップを握りしめていた。
よれよれとしているが、どうやら車を描いているらしい。
「できた!」
「おお、いいね。車でしょ?かっこいい!」
「うん。まみもなんかかいて」
「えー、お絵描き下手だからなー」
「だいじょうぶだって」
真美は岳からケチャップを受け取ると、チューリップを描き、横に『まみ』とひらがなを添えた。
「おっ!まみ、なまえかけるんだ?」
「え?う、うん。一応ね」
「おれもかけるぜ」
そう言って『がく』と大きくよれよれと書き添える。
「わあ、がっくんも上手!世界で一つのスペシャルオムライスだね」
「うん!スペシャル!」
「あはは、スペシャル!」
二人で盛り上がってから、岳は潤の顔を見上げた。
「じゅんもおえかきして」
「え、俺?いや、いいよ。なんか恥ずかしいし」
「きどってんなー。ま、いいや。じゃあおれがかいてやるよ」
岳は潤の膝に座ると、今度は電車を描き始めた。
「できた!まみ、じゅんのなまえかいて」
「え、ええ?!」
ケチャップを手渡され、真美はたじろぐ。
「ほら、はやく。じゅんってかける?」
「か、書けます。一応」
「じゃあかいて」
「は、はい」
ここはやっぱり、『かちょう』って書いちゃだめだよね?と思いつつ、えい!と意を決して『じゅん』と書く。
「おお、かけるじゃん。じゃあハートマークは?」
「か、書けません!」
「そうなの?おんなのこは、みんなかいてるぜ?」
「そそそうですか。すみません」
「あやまるなって。じゃあ、たべてもいい?」
「はい!召し上がれ」
3人で「いただきます」と手を合わせてから食べ始めた。
「おいしい!」
岳は口を大きく開けて勢い良く頬張る。
「岳、喉詰まらせるなよ?」
潤の言葉は聞こえていないようで、岳は夢中でスプーンを口に運んでいる。
「ごちそうさまでした!」
ぺろりと平らげた岳に、真美はふふっと笑いかけた。
「がっくん。実はね、そのオムライスにピーマン入ってたんだよ」
「ええ?うそだ!なかったぞ?」
「ほんと。すっごーく小さくして入れてたの。がっくん、知らない間にピーマン食べられるようになったんだよ」
「じゃあ、ピーマンきねんび?」
「そう!ピーマン記念日。お祝いしなきゃね。かんぱーい!」
真美は岳と麦茶のグラスを合わせて笑い合った。
「ごちそうさま。ありがとな、望月」
食器洗いを終えた潤が、まくったワイシャツの袖を直しながら真美に声をかける。
「いいえ、こちらこそ。とっても楽しかったです」
「いや、俺達こそ美味しい食事を作ってもらって嬉しかった。いつも買ってきた惣菜ばかりで、岳の栄養バランスも気になってたんだ」
「そうなんですね。またいつでも作ります。がっくん、次は何が食べたいか考えておいてね」
うん!と元気良く返事をする岳に、真美はまた頬を緩めた。
「じゃあ帰るぞ、岳」
声をかけながら荷物を手にした潤に、真美も床に置いてあった岳の保育園バッグなどをまとめて渡す。
「ありがとう」
受け取った潤と手が触れてしまい、思わずピクッとした真美の手から紙袋が落ちて中身が床に広がった。
「あ、すみません」
慌てて拾い上げながら、真美は、ん?と首をひねる。
「課長、これって洋服の生地ですか?」
「あー、そうなんだよ」
潤は思い切り顔をしかめる。
「来月、保育園で岳のおゆうぎ会があるんだ。その衣装を作るようにって、今日先生から作り方の紙と一緒に布を渡されてさ。どうしようって困り果てたのを今思い出した」
「そうだったんですか。あの、よかったら見せていただいてもいいですか?」
「うん。これが作り方だって」
潤が差し出したプリントには、手書きのイラスト入りで作り方が書かれていた。
「そんなに難しくはなさそうですね。型紙もありますし」
「ええ?!ほんとに?この解説読んでも、俺にはさっぱり分からん」
「まあ、そうですよね。型紙なんて見たことない人には訳が分からないと思います。この青い布に型紙を載せて、チャコペンで印を付けてから……」
「ちょ、ちょっと待って。チャコって誰?」
「は?違いますよ。人の名前じゃなくて、チャコールペンシルの略です。それで、チャコペンの印に沿って布を裁断してから……」
ふと顔を上げると、潤は眉を八の字に下げ、見たこともないほど情けない表情を浮かべている。
「課長?大丈夫ですか?」
「いや、ちょっと、だめかも。俺、人生でこんなにも途方に暮れたことない」
「そんな大げさな」
そう言って笑いかけるが、潤はしょぼんと肩を落としたままだ。
真美は壁の時計で時間を確かめてから口を開いた。
「課長、がっくんとお風呂に入っててください」
は?!と、今度は鳩が豆鉄砲食ったような顔になる。
「もう8時過ぎてますし、そろそろがっくん寝る準備をしないと。ここでお風呂に入って歯磨きも済ませてください。その間に私、これを作りますから」
固まったままの潤を尻目に、真美はてきぱきとお風呂にお湯を張り、クローゼットの中から小型の簡易ミシンを取り出した。
「がっくん、おじさんとお風呂に入ってね。お着替えと歯ブラシ持ってる?」
「あるよ」
岳は保育園の手提げバッグから、お昼寝用のパジャマと歯ブラシを取り出した。
「お、ばっちり!じゃあ、バスタオルはこれを使ってね。ドライヤーは洗面所にあるから」
「わかった。じゅん、おふろいくぞ」
スタスタとバスルームに向かう岳に、潤はハッと我に返る。
「いや、待て!岳!そそ、そんな。女性のうちでお風呂借りるなんて、そんなこと……」
「はやくー。おれもうすっぽんぽんだぞ」
「わー!待てってば!」
慌ててあとを追った潤は、仕方なく岳とお風呂に入ることになった。
「うぎゃー!じゅん、つめたい!それおみずだぞ?」
「あ、ごめん。えっと、こっちがお湯かな?」
バスルームからシャワーの音と賑やかな声が聞こえてくる。
裁ちばさみで布を裁ち、手早くミシンをかけながら、真美はふふっと思わず笑みをこぼした。
「このシャンプー、いいにおいだなー。まみのにおいがする。な?じゅん」
「そ、そうかな。おい、岳。そんなにたくさん使うな。ちょびっとにしろ」
「なんで?」
「なんでって……、まみちゃんのだぞ?」
グインッと手元が滑り、真美は危うく手を縫いそうになった。
(危なっ!か、課長ったら、なんてことを……)
思わず両手で頬を押さえると、真っ赤に顔が火照っているのが分かる。
(いけない。平常心、平常心)
必死で真顔に戻り、またカタカタとミシンを動かす。
子どものサイズということもあり、あっという間に完成した。
(出来た!えっと、最後にこのポンチョみたいなのに、赤いマントを縫い付けるのね。なんだろう、この衣装)
テカテカとしたサテンの青い袖なしの衣装は、下に白いシャツを着てから被るらしい。
ズボンも手持ちの黒や紺のもの、と書かれていた。
頭の中で完成図を想像し、真美は、あ!と閃いた。
(ひょっとして、王子様?)
その時、パジャマ姿の岳が部屋に戻って来た。
「まみー、おふろきもちよかった」
「おかえり。髪も乾かした?」
「うん。はみがきもした。あ、できたの?おうじさまのふく」
「出来たよ。やっぱりがっくん、王子様なんだね。着てみる?」
うん!と岳は大きく頷く。
「ほんとは白いシャツの上に着るんだけど、今はパジャマの上からね。はい」
岳の頭から衣装を被らせて、サイズを確かめる。
「いいね。ぴったり!どう?がっくん」
「すげー!マントがひらひらする。そら、とべる?」
「あはは!飛べそうだよね」
ブーン!と手を広げて岳が部屋の中を回っていると、髪をタオルで乾かしながら潤が入って来た。
「お、もう出来たの?」
「はい、簡単でしたよ。当日は、上は白いポロシャツ、下は黒っぽいズボンを履いてからこの衣装を着るみたいです」
「そうなんだ!ありがとう、望月。ほんとに助かったよ」
「いいえ」
その時、潤のスマートフォンの着信音が鳴り始めた。
画面の表示を確かめた潤は、ちょっと困った顔になる。
「ごめん、望月。岳の母親からテレビ電話なんだけど、出てもいいかな?」
「もちろんです。どうぞ」
「ありがとう。背景はバーチャルにするから」
そう言って潤は手早く画面を操作する。
『やっほーい!岳、元気ー?』
「ママ!みてみて、おれ、おうじさま!」
『ひゃー!かっこいい!それどうしたの?岳』
「まみにつくってもらった!」
『まみちゃんって、潤の彼女の?やーん!いつの間に?』
聞こえてきた声に、ヒエッと真美は身を縮こまらせた。
「ごめん、望月。違うんだ、その……」
慌てて否定する潤をよそに、岳と母親の会話は続く。
『あれ?ねえ、岳。今どこにいるの?背景が変なんだけど』
「いまね、まみのうち」
ええー?!と、もはや絶叫が聞こえてきた。
「ちがっ、姉貴!」
たまらず潤が画面に割り込む。
「誤解するな。違うからな!」
『何が違うの?じゃあ今どこなのよ』
「そ、それは、あの……。そう!つまり、俺がこの衣装を作れないから、代わりに作ってもらっただけで……」
『で?今まみちゃんちにいるんだ』
「いや、だからそれは……」
『もう、男なんだからビシッとしなさい。お世話になったんでしょ?ちゃんとお礼言ったの?』
「うん、まあ、一応……」
はあ、と深いため息のあと、大きな声が響く。
『まみちゃーん!初めまして。岳の母の五十嵐 都でーす』
「あ、は、はい!初めまして、望月 真美と申します。いつも五十嵐課長にはお世話になっております」
真美は画面を覗き込むと、居住まいを正して頭を下げた。
『あら、可愛らしいお嬢さん!ごめんなさいね、岳がすっかりお世話になった上に、潤は不甲斐ない弟で』
「とんでもない!私の方こそ、がっくんにはいつも遊んでいただいて、感謝しております」
『やだー!まみちゃんったら、面白い。どうぞこれからも、息子と弟をよろしくお願いします』
「こちらこそ。よろしくお願いいたします」
『うふふ、帰国したら改めてお礼をさせてね、まみちゃん。岳ー、まみちゃんに言われたこと、よく聞くのよ?』
マントを翻しながら、わかったー!と遠くから岳が返事をする。
『あらあら、もうママのことなんて眼中にないわね。じゃあねー、岳。潤、まみちゃんに愛想つかされないようにね。またねー、まみちゃん』
「あ、は、はい!それでは失礼します」
プツンと通話が切れ、真美はしばし呆然と固まっていた。
「あ、あの、望月。色々とほんとにごめん!」
潤に頭を下げられ、いえいえと真美は取り繕う。
(な、なんだったの?一体。まるで嵐が過ぎ去ったかのよう)
正座して神妙に向き合っている潤と真美の間を、ブーン!と岳が何度も通り過ぎる。
ヒラヒラとマントが顔の前を舞い、どうにも真面目にやり取り出来ない。
「えっと、とにかく今日はこれで帰ります。ごめんな」
「いえ、大丈夫です。では今タクシーを呼びますね」
「うん、ありがとう」
潤は立ち上がると荷物をまとめて岳に声をかけた。
「岳、帰るぞ」
「うん!これきててもいい?」
「ええ?うん、まあ、タクシーだからいいけど」
「やった!」
両手にたくさんの荷物を持った潤の代わりに、真美が岳の手を繋いで部屋を出る。
二人に続いて玄関に向かった潤は、ふと小さな本棚の上にコルクボードがあるのに気づいた。
そこに飾られていたのは、岳が描いたあの絵。
立ち止まってじっと見つめてから、潤はふっと優しく笑って部屋を出た。
今日こそは!と意気込んで、真美は定時で仕事を終えた。
「お先に失礼します」と紗絵達に挨拶して、意気揚々とオフィスをあとにする。
潤は数分前に退社しており、真美は一緒にならないように、けれど遅れないようにと気をつけながら電車に乗った。
改札を出て急いで保育園に向かうと、ちょうど潤が岳と手を繋いで出て来るところだった。
「がっくん!」
大きな声で呼ぶと、顔を上げた岳がパッと笑顔になる
「まみ!」
「良かったー、会えて。がっくんに会いたくて急いで帰って来たの。元気だった?」
「うん、げんき。まみ、そんなにおれにあいたかったのかよ?」
「あはは!そうなの。もうがっくんに会いたくて会いたくて。それにお礼も言いたかったし。可愛くて素敵な絵をどうもありがとう!とっても嬉しかった」
すると岳は、照れたように目を逸らす。
「あんまりみるなよな。おれ、おえかきへただから」
「え?まさか!すっごく上手だよ。あんなに心がポカポカする絵を描けるなんて、がっくんすごいんだからね?」
「そうかな?」
「そうだよ。私もお礼にがっくんに絵を描こうかと思ったけど、絶対敵わないからやめたんだ」
真美が真顔でそう言うと、岳は驚いたように目を丸くする。
「まみ、おえかきへたなんだ?」
「うん、下手なの」
「そっか。まあ、だいじょうぶだよ。まみは、りょうりがうまいからな」
「ふふっ、ありがと。あ、じゃあお礼にご飯作らせてくれる?」
ええ?!と、それまで黙って聞いていた潤が声を上げる。
だが既に岳は、やったー!と飛び跳ねて喜んでいた。
「課長、よろしければこれからうちで、ごちそうさせていただけませんか?」
「いや、こっちは構わないけど。迷惑じゃない?」
「私からお誘いしたんですから、迷惑な訳ないです。がっくん、行こうか」
うん!と返事をして、岳は真美と手を繋ぐ。
「何食べたいー?がっくん」
「えっとね、オムライス!」
「お、いいねー。お絵描きオムライスにしようか」
「まみ、おえかきへたなんじゃないの?」
「うん。だからがっくんが描いてね」
仲良く繋いだ手を揺らしながら歩く真美と岳を、潤は後ろから微笑ましく見守っていた。
真美の部屋に着くと、3人でうがい手洗いを済ませる。
真美はローテーブルに岳の麦茶と潤のコーヒーを置いてから、早速炊飯器をセットした。
「がっくん、嫌いな食べ物ある?」
「ピーマン。おれ、あれだけは、ぜったいむり」
「あはは!ほんとにだめなんだね。実感こもってる。じゃあ今日もコーンとソーセージを入れる?」
「うん!」
ご飯が炊き上がるのを待つ間、真美はローテーブルに食材を並べた。
「じゃあ、がっくん。一緒にソーセージを切ってみようか」
「え、やってもいいの?」
「うん。一人ではやらないでね。私と一緒にやってみよう」
そう言って真美は、正座した膝の上に岳を座らせた。
まな板の上にソーセージを置き、小さな果物ナイフを岳に握らせて、その上から右手でしっかりと岳の手を包み込む。
「いい?ソーセージを左手でこんなふうに押さえるの。そしたら、この端っこをサクッと切るよ?」
うん、と岳は真剣に頷く。
「いくよ?いちにの、さん」
右手に力を入れてソーセージの端を切る。
「ほら、切れた」
「うん!やった!」
岳は目を輝かせて真美を振り返った。
「やったねー。じゃあもう一回いくよ?」
いちにの、さん、と声を揃えてまた端を切る。
何度も繰り返し、全て切り終えると、岳は満足そうにパチパチと手を叩いた。
「やったー!おれもおとなになったなー」
ブッと思わず潤が吹き出すと、課長!と真美は横目でいさめた。
「がっくん、上手に出来たね。今日はがっくんのお料理デビューの日だよ」
「きねんび?」
「そう。記念日」
「じゃあ、パーティーしなきゃな」
「あはは!うん、しようしよう」
真美は岳を膝から下ろして立ち上がった。
「じゃあ、あとはがっくんに任せるね。この間みたいにコーンをお皿に出してくれる?」
「うん!つめたーいやつね」
「そう。つめたーいから気をつけてね」
ローテーブルにスイートコーンの袋と小皿を置き、真美は冷蔵庫から野菜を取り出してキッチンで手早くみじん切りにした。
ご飯が炊き上がると、フライパンで具材と一緒にバターで炒め、塩コショウとケチャップで味付けする。
卵を1つ溶くと小ぶりのフライパンに流し入れ、ケチャップライスを載せて端に寄せてから、手首を返して皿に盛り付けた。
「ほら、出来た!」
岳に見せると、うわー!と目をまん丸にしてほっぺに手をやっている。
「ふふふ、がっくん可愛い。じゃあ、このオムライスにケチャップでお絵描きしてね。何でも描いていいよ」
テーブルに皿とケチャップを置き、真美はもう一度キッチンに戻ってあと2つオムライスを仕上げた。
「どう?お絵描き出来たかな?」
皿をテーブルに置くと、岳の手元を覗き込む。
岳は真剣な表情でケチャップを握りしめていた。
よれよれとしているが、どうやら車を描いているらしい。
「できた!」
「おお、いいね。車でしょ?かっこいい!」
「うん。まみもなんかかいて」
「えー、お絵描き下手だからなー」
「だいじょうぶだって」
真美は岳からケチャップを受け取ると、チューリップを描き、横に『まみ』とひらがなを添えた。
「おっ!まみ、なまえかけるんだ?」
「え?う、うん。一応ね」
「おれもかけるぜ」
そう言って『がく』と大きくよれよれと書き添える。
「わあ、がっくんも上手!世界で一つのスペシャルオムライスだね」
「うん!スペシャル!」
「あはは、スペシャル!」
二人で盛り上がってから、岳は潤の顔を見上げた。
「じゅんもおえかきして」
「え、俺?いや、いいよ。なんか恥ずかしいし」
「きどってんなー。ま、いいや。じゃあおれがかいてやるよ」
岳は潤の膝に座ると、今度は電車を描き始めた。
「できた!まみ、じゅんのなまえかいて」
「え、ええ?!」
ケチャップを手渡され、真美はたじろぐ。
「ほら、はやく。じゅんってかける?」
「か、書けます。一応」
「じゃあかいて」
「は、はい」
ここはやっぱり、『かちょう』って書いちゃだめだよね?と思いつつ、えい!と意を決して『じゅん』と書く。
「おお、かけるじゃん。じゃあハートマークは?」
「か、書けません!」
「そうなの?おんなのこは、みんなかいてるぜ?」
「そそそうですか。すみません」
「あやまるなって。じゃあ、たべてもいい?」
「はい!召し上がれ」
3人で「いただきます」と手を合わせてから食べ始めた。
「おいしい!」
岳は口を大きく開けて勢い良く頬張る。
「岳、喉詰まらせるなよ?」
潤の言葉は聞こえていないようで、岳は夢中でスプーンを口に運んでいる。
「ごちそうさまでした!」
ぺろりと平らげた岳に、真美はふふっと笑いかけた。
「がっくん。実はね、そのオムライスにピーマン入ってたんだよ」
「ええ?うそだ!なかったぞ?」
「ほんと。すっごーく小さくして入れてたの。がっくん、知らない間にピーマン食べられるようになったんだよ」
「じゃあ、ピーマンきねんび?」
「そう!ピーマン記念日。お祝いしなきゃね。かんぱーい!」
真美は岳と麦茶のグラスを合わせて笑い合った。
「ごちそうさま。ありがとな、望月」
食器洗いを終えた潤が、まくったワイシャツの袖を直しながら真美に声をかける。
「いいえ、こちらこそ。とっても楽しかったです」
「いや、俺達こそ美味しい食事を作ってもらって嬉しかった。いつも買ってきた惣菜ばかりで、岳の栄養バランスも気になってたんだ」
「そうなんですね。またいつでも作ります。がっくん、次は何が食べたいか考えておいてね」
うん!と元気良く返事をする岳に、真美はまた頬を緩めた。
「じゃあ帰るぞ、岳」
声をかけながら荷物を手にした潤に、真美も床に置いてあった岳の保育園バッグなどをまとめて渡す。
「ありがとう」
受け取った潤と手が触れてしまい、思わずピクッとした真美の手から紙袋が落ちて中身が床に広がった。
「あ、すみません」
慌てて拾い上げながら、真美は、ん?と首をひねる。
「課長、これって洋服の生地ですか?」
「あー、そうなんだよ」
潤は思い切り顔をしかめる。
「来月、保育園で岳のおゆうぎ会があるんだ。その衣装を作るようにって、今日先生から作り方の紙と一緒に布を渡されてさ。どうしようって困り果てたのを今思い出した」
「そうだったんですか。あの、よかったら見せていただいてもいいですか?」
「うん。これが作り方だって」
潤が差し出したプリントには、手書きのイラスト入りで作り方が書かれていた。
「そんなに難しくはなさそうですね。型紙もありますし」
「ええ?!ほんとに?この解説読んでも、俺にはさっぱり分からん」
「まあ、そうですよね。型紙なんて見たことない人には訳が分からないと思います。この青い布に型紙を載せて、チャコペンで印を付けてから……」
「ちょ、ちょっと待って。チャコって誰?」
「は?違いますよ。人の名前じゃなくて、チャコールペンシルの略です。それで、チャコペンの印に沿って布を裁断してから……」
ふと顔を上げると、潤は眉を八の字に下げ、見たこともないほど情けない表情を浮かべている。
「課長?大丈夫ですか?」
「いや、ちょっと、だめかも。俺、人生でこんなにも途方に暮れたことない」
「そんな大げさな」
そう言って笑いかけるが、潤はしょぼんと肩を落としたままだ。
真美は壁の時計で時間を確かめてから口を開いた。
「課長、がっくんとお風呂に入っててください」
は?!と、今度は鳩が豆鉄砲食ったような顔になる。
「もう8時過ぎてますし、そろそろがっくん寝る準備をしないと。ここでお風呂に入って歯磨きも済ませてください。その間に私、これを作りますから」
固まったままの潤を尻目に、真美はてきぱきとお風呂にお湯を張り、クローゼットの中から小型の簡易ミシンを取り出した。
「がっくん、おじさんとお風呂に入ってね。お着替えと歯ブラシ持ってる?」
「あるよ」
岳は保育園の手提げバッグから、お昼寝用のパジャマと歯ブラシを取り出した。
「お、ばっちり!じゃあ、バスタオルはこれを使ってね。ドライヤーは洗面所にあるから」
「わかった。じゅん、おふろいくぞ」
スタスタとバスルームに向かう岳に、潤はハッと我に返る。
「いや、待て!岳!そそ、そんな。女性のうちでお風呂借りるなんて、そんなこと……」
「はやくー。おれもうすっぽんぽんだぞ」
「わー!待てってば!」
慌ててあとを追った潤は、仕方なく岳とお風呂に入ることになった。
「うぎゃー!じゅん、つめたい!それおみずだぞ?」
「あ、ごめん。えっと、こっちがお湯かな?」
バスルームからシャワーの音と賑やかな声が聞こえてくる。
裁ちばさみで布を裁ち、手早くミシンをかけながら、真美はふふっと思わず笑みをこぼした。
「このシャンプー、いいにおいだなー。まみのにおいがする。な?じゅん」
「そ、そうかな。おい、岳。そんなにたくさん使うな。ちょびっとにしろ」
「なんで?」
「なんでって……、まみちゃんのだぞ?」
グインッと手元が滑り、真美は危うく手を縫いそうになった。
(危なっ!か、課長ったら、なんてことを……)
思わず両手で頬を押さえると、真っ赤に顔が火照っているのが分かる。
(いけない。平常心、平常心)
必死で真顔に戻り、またカタカタとミシンを動かす。
子どものサイズということもあり、あっという間に完成した。
(出来た!えっと、最後にこのポンチョみたいなのに、赤いマントを縫い付けるのね。なんだろう、この衣装)
テカテカとしたサテンの青い袖なしの衣装は、下に白いシャツを着てから被るらしい。
ズボンも手持ちの黒や紺のもの、と書かれていた。
頭の中で完成図を想像し、真美は、あ!と閃いた。
(ひょっとして、王子様?)
その時、パジャマ姿の岳が部屋に戻って来た。
「まみー、おふろきもちよかった」
「おかえり。髪も乾かした?」
「うん。はみがきもした。あ、できたの?おうじさまのふく」
「出来たよ。やっぱりがっくん、王子様なんだね。着てみる?」
うん!と岳は大きく頷く。
「ほんとは白いシャツの上に着るんだけど、今はパジャマの上からね。はい」
岳の頭から衣装を被らせて、サイズを確かめる。
「いいね。ぴったり!どう?がっくん」
「すげー!マントがひらひらする。そら、とべる?」
「あはは!飛べそうだよね」
ブーン!と手を広げて岳が部屋の中を回っていると、髪をタオルで乾かしながら潤が入って来た。
「お、もう出来たの?」
「はい、簡単でしたよ。当日は、上は白いポロシャツ、下は黒っぽいズボンを履いてからこの衣装を着るみたいです」
「そうなんだ!ありがとう、望月。ほんとに助かったよ」
「いいえ」
その時、潤のスマートフォンの着信音が鳴り始めた。
画面の表示を確かめた潤は、ちょっと困った顔になる。
「ごめん、望月。岳の母親からテレビ電話なんだけど、出てもいいかな?」
「もちろんです。どうぞ」
「ありがとう。背景はバーチャルにするから」
そう言って潤は手早く画面を操作する。
『やっほーい!岳、元気ー?』
「ママ!みてみて、おれ、おうじさま!」
『ひゃー!かっこいい!それどうしたの?岳』
「まみにつくってもらった!」
『まみちゃんって、潤の彼女の?やーん!いつの間に?』
聞こえてきた声に、ヒエッと真美は身を縮こまらせた。
「ごめん、望月。違うんだ、その……」
慌てて否定する潤をよそに、岳と母親の会話は続く。
『あれ?ねえ、岳。今どこにいるの?背景が変なんだけど』
「いまね、まみのうち」
ええー?!と、もはや絶叫が聞こえてきた。
「ちがっ、姉貴!」
たまらず潤が画面に割り込む。
「誤解するな。違うからな!」
『何が違うの?じゃあ今どこなのよ』
「そ、それは、あの……。そう!つまり、俺がこの衣装を作れないから、代わりに作ってもらっただけで……」
『で?今まみちゃんちにいるんだ』
「いや、だからそれは……」
『もう、男なんだからビシッとしなさい。お世話になったんでしょ?ちゃんとお礼言ったの?』
「うん、まあ、一応……」
はあ、と深いため息のあと、大きな声が響く。
『まみちゃーん!初めまして。岳の母の五十嵐 都でーす』
「あ、は、はい!初めまして、望月 真美と申します。いつも五十嵐課長にはお世話になっております」
真美は画面を覗き込むと、居住まいを正して頭を下げた。
『あら、可愛らしいお嬢さん!ごめんなさいね、岳がすっかりお世話になった上に、潤は不甲斐ない弟で』
「とんでもない!私の方こそ、がっくんにはいつも遊んでいただいて、感謝しております」
『やだー!まみちゃんったら、面白い。どうぞこれからも、息子と弟をよろしくお願いします』
「こちらこそ。よろしくお願いいたします」
『うふふ、帰国したら改めてお礼をさせてね、まみちゃん。岳ー、まみちゃんに言われたこと、よく聞くのよ?』
マントを翻しながら、わかったー!と遠くから岳が返事をする。
『あらあら、もうママのことなんて眼中にないわね。じゃあねー、岳。潤、まみちゃんに愛想つかされないようにね。またねー、まみちゃん』
「あ、は、はい!それでは失礼します」
プツンと通話が切れ、真美はしばし呆然と固まっていた。
「あ、あの、望月。色々とほんとにごめん!」
潤に頭を下げられ、いえいえと真美は取り繕う。
(な、なんだったの?一体。まるで嵐が過ぎ去ったかのよう)
正座して神妙に向き合っている潤と真美の間を、ブーン!と岳が何度も通り過ぎる。
ヒラヒラとマントが顔の前を舞い、どうにも真面目にやり取り出来ない。
「えっと、とにかく今日はこれで帰ります。ごめんな」
「いえ、大丈夫です。では今タクシーを呼びますね」
「うん、ありがとう」
潤は立ち上がると荷物をまとめて岳に声をかけた。
「岳、帰るぞ」
「うん!これきててもいい?」
「ええ?うん、まあ、タクシーだからいいけど」
「やった!」
両手にたくさんの荷物を持った潤の代わりに、真美が岳の手を繋いで部屋を出る。
二人に続いて玄関に向かった潤は、ふと小さな本棚の上にコルクボードがあるのに気づいた。
そこに飾られていたのは、岳が描いたあの絵。
立ち止まってじっと見つめてから、潤はふっと優しく笑って部屋を出た。
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