NineRing~捕らわれし者たち~

吉備津 慶

文字の大きさ
上 下
85 / 95

84.恋心

しおりを挟む
 「このス-プは、何だ? スパイスが効いて………」

 「この平べったいパンと一緒に食べると、すごくうまいぞ!」

 『レオン』のホール隔離スペースに転送されたナルミ達は、傷の治療を受けた後、シャワ―で汚れた体を洗い、食事の提供を受ける。
 そこで提供された食事が、始めて口にする『カレ-』と『ナン』だった。

 「何じゃこのパンは! お嬢さん、このパンは何じゃな?」

 「はい。そのパンは、ナンでございます」

 「………だから、何じゃな?」
 
 「ナンでございます」

 「………………」

 給仕役のバイオレットと老騎士の、漫才の掛け合いの様な会話を、理解出来た者はいなかった。
 
 「姫、ここは何処なのでしょうか? アクラ殿は、隠れ家と言っておりましたが………我らを隔離する為に、ここに連れて来たように感じます。それに、この天井の灯りや、お湯の出るシャワ―と言う物等、初めて見る物ばかりです。これは裏に、何かありますぞ」

 「アンリ小隊長、私達は彼らに助けられたのです。今は、信じましょう。それに、父がアクラ族長に従えと言ったのです」

 「………分かりました」

 ナルミは、父ゾンネルから託された雷属性のリングを指にハメると、父と姉の事を考えるのであった。



 響は、食堂でナルミ達と同じ、『カレ-』と『ナン』を食べていた。
 そして、その響の両脇にティスとア-リンが座り、無言で食事をしていた。
 この様な時に、女性との会話に慣れている男なら、気の利いた一言を口にするのだろうが、響にそのようなスキルはない。
 だから今は、無言で食事を食べるだけだ。

 響、お前はこの二人に、何かしたのか?

 何かって、なんだよ~。何もする訳ないだろ。 

 そうか………

 魔王と話した所で、何が解決する訳も無く、ただ気まずい雰囲気が続くだけであった。

 「響! クロエから聞いたんだけど。ガズール帝国の、騎士を助けたそうだな。今、ランベル王国がどんな状況か、分かっているのか? この後どうする気なんだ?」

 「魔物に襲われていたんだから………仕方ないでしょ~」

 「彼らは、ガズール帝国の精鋭だと言うじゃないか。彼らが前面に出てくれば、王都の民兵に多くの死者がでるんだぞ! 多くの死者が………」
 
 ジュリアンは、誰かの死を恐れるかのように、響に訴えかけて来る。
 余程気に掛かる人がいるのだろう。
 響も、アクラ族長の事が無ければ、助けていなかったかもしれない。
 心情的には、ジュリアンと思いは同じなのである。

 「ティタニアさんのお父さんに、民兵の招集があったから、リ-ダ-も気が気じゃないよね~」

 「ティタニアさん?」

 いつの間にかジュリアンの横に座り、『カレ-』と『ナン』を頬張るモカ・ピンチが、響に教えてくれる。

 「モカ! なぁ、何を言い出すんだ!」

 「だってリ-ダ-、ティタニアさんに頼まれて、武器を探し回ってたじゃん」

 響は、モカの話で思い出していた。
 ロックフェル商会のマ-クに呼び出された時に、町でジュリアンと出くわした時、武器を持っていた事を………。 
 しかし、ジュリアンのティタニアに対する気持ちには、まだ気づいていない。
 
 「あぁ~、花屋のティタニアさんですか」

 「えっ、ア-リンさん知ってるの?」

 「はい、いつもリ-ダ-が花を買っていましたから………ふ~ん、そう言う事だったんですね」

 ジュリアンを見るア-リンの目は、何かを察したように半眼で、口の口角は上がり、ジュリアンを追い詰めるのであった。

 「何だア-リン! その目は! まだ何もしてないぞ!」

 「何かするつもりだったんですか?」

 ここに来て、ティスも話に参戦して来る。ア-リンを見て、『ナイン同盟』の一員としては、ジュリアンを追い詰めづには居られなかったようである。
 要するに、楽しんでいるのだった。

 へぇ~、なんか最近ティスも変わったなぁ~。前は、あまり人の話に入って来なかったのに。

 響、お主はまだ、分かっていないようだな。

 魔王。何の事だ。

 そこのジュリアンとやらは、ティタニアの事が好きだと言う事をだよ。

 「ジュリアンは、ティタニアが好きなのかぁ~?」

 魔王ベルランスが、口にした言葉に驚いた響は、思わず叫んでしまうのだった。

 「ひっひっ、響~! お前は急に何を言い出すんだ~。俺は、そんな事一言も言ってないぞ~!」

 「だから~。うむっ。その………態度が、うむっ。そう言ってるんだって」

 「………………」

 モカは、『ナン』を口に放り込みながら、ジュリアンにトドメを指すのであった。

 「もうその話はいいから! 響、本当にどうするつもりなんだ?」

 ジュリアンは、気を取り直して話をもとに戻す。
 モカ達も、これ以上追及して決着を付けるよりも、後々まで引きずった方が良いと踏んだのか、それ以上ジュリアンを問いただそうとはしなかった。

 「今は、傷の治療を優先しようと思っています。全員が動けるようになったら、ガズール帝国へ送り届けます」

 「そうか………分かった。ただし、出来るだけ帰すのを遅らせるんだぞ。出来れば、今回の戦が終わるまで、このまま引き留めておくんだ。三十一人とは言え精鋭だからな」

 響は、ジュリアンを見て一つ頷くと、『カレ-』を再び食べ始める。
 響も王都サリュースに住む、人々への思いは一緒なのであった。
 そして、その二人を見る。
 ティス、ア-リン、モカの三人も思いは同じであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

女神様の使い、5歳からやってます

めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。 「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」 女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに? 優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕! 基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。 戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。

アレク・プランタン

かえるまる
ファンタジー
長く辛い闘病が終わった と‥‥転生となった 剣と魔法が織りなす世界へ チートも特典も何もないまま ただ前世の記憶だけを頼りに 俺は精一杯やってみる 毎日更新中!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...