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54.魔王の話

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 響の体を借りた魔王は、椅子に座るとテ-ブルに置かれたワインの酒瓶を持ち、空いたグラスに並々とワインを注ぐと、一気に飲み干してしまう。
 
 「久しぶりの酒は、美味いものだな」

 『響の体で、酒をあんなに一気に飲んで大丈夫なのか』と言う、ジュリアン達の心配をよそに、魔王は二杯目をグラスに注ぎ空にしてしまう。

 「魔王様は死んだと、聞きましたが………なぜ、今、ここに?」

 涙をぬぐい去りながら、クロエは魔王に問うのであった。
 本来であれば敵対する人間達の前で、聞いて良い内容の話でもないのだが、今となっては、ここに居る者達はクロエにとっての、仲間も同然の仲となっていたのだ。

 「ふっふっ………ここで聞くか………まあ、それもよいわ!」

 その薄ら笑いは、魔王としての器の大きさを、ジュリアン達に知らしめるのに、十分な衝撃があった。
 ジュリアンは、あらがう事をあきらめて、椅子に座り酒を飲み始めるのであった。
 クロエとティスも、ジュリアンにならい魔王の話を聞くために、テ-ブルに集まった。

 「我が死した理由は分からん………だが、我の核を埋め込んだリングが二つ揃い、アストラル体として覚醒したと言う事は、我の本体は消滅していると言う事だ」

 「と言う事はだなぁ~リングが九つ揃ったらぁ………お前はどうなるんだ?」

 開き直ったジュリアンは、魔王が話している間に酒瓶を一人で開けていた。
 酒の勢いを借りて、魔王の威圧感に対抗する作戦のようだ。
 戦いになったら『どうとでもしてくれ』と言ったところだろう………

 「復活するに決まっておろう!」

 「お前、そんな事俺達に教えていいのか? そんなこと聞いたら、リング探しなんか誰もやらないぞ!」

 ジュリアンの指摘に、クロエもうなずいてしまう。



 響は、夢の世界を漂っていた。

 何だこれはぁ………

 響の目の前には、三人の大男に追われる。マント姿の少女が、背中から血しぶきを上げている光景が見えていた。

 だめだ、行くなお前じゃぁ勝てない!

 マント姿の少女を助けようと、仲間らしい少女が剣を抜き向かって行く。

 ………………

 その少女は、右腕を斬り飛ばされて、倒れたかと思うとそのまま気を失ってしまう。
 すぐさま、冒険者達が三人の男達を取り囲み戦闘に入るが、その三人の男はワーウルフであった。
 そして、後方に居た三人が、冒険者達に何かを言われて、後退しようとしている。

 アリシア………………アリシア危ない! 後ろだぁ~!

 響の目に、剣で胸を貫かれ血を流す、アリシアの姿が飛び込んで来た。
 
 うぅぉぉぉぉお!

 言葉にならない雄叫おたけびをあげながら、響の体は光り輝き、目は赤く鋭く燃え上がっていた。



 魔王とジュリアンの話は続く………

 「それは、出来ないであろうなぁ………我を倒した相手だ、ナインリングが無くば、人間に勝ち目はない! そ奴らの世で、奴隷として生きるか? 我と戦うにしてもナインリングは必要となるぞ………どうする?」

 「俺達に選択の余地は無いって事か………………」

 魔王の言った事について、納得したようなクロエの態度と対照的に、落ち込むジュリアンであった。

 「何、どうした! くっ首が………」

 魔王に乗っ取られた響の体に異変が起きる。クロエの時と同じように、響の首にチョウカ-の紋様が浮かび上がって来る。

 「魔王様、その紋様はっ! ………………加護持ち!」

 クロエは、思い出していた。響を始めて見付けたあの日の事を………

 返して貰うぞ! 俺の体を………お前は引っ込んでいろ!
 
 「どこにその様な力を、隠しておったぁ~」

 響の体にあったチョウカ-の紋様が、消える。
 そして次の瞬間、響の姿はジュリアン達の目の前から消え去っていた。



 アリシアは、自分に起きた出来事を、受け入れられなかった。
 倒れ行く体は、自分の物とは思えないように力が入らず、意識が朦朧もうろうとして来ていた。

 「「アリシアさん!」」

 倒れるアリシアをかばい、剣を抜く駆け出し二人に容赦なく、老齢の男が持つブロードソードが振るわれる。
 二人の駆け出しは、声を上げる事もなく、一太刀で絶命してしまう。

 ワーウルフと戦っていた冒険者達も、その数を減らし、残った四人も深手の傷を負っていた。

 「おや、まだ意識があるようですねぇ~ もう、眠りなさい!」

 倒れているアリシアを覗き込み、ブロードソードを喉に目がけて突き刺そうとする。

 「………………」

 アリシアの薄れる目の前で、スロ-モ-ションのように老齢の男の首が飛ぶ。
 その後ろには、突如とつじょ、半裸状態の響が現れる。

 「ひ・.び・き・さぁ………ん………」

 響の名を弱々しく呼び、力なく目を閉じるアリシアを見た響は、一足飛びに三体のワーウルフに近づき、首を手刀で次々にねて行った。
 最後のワーウルフを倒し、冒険者達の目にも止まらない速さで、アリシアの所に戻った響は、アリシアをきかかえ、魔王のスキル『空間移動』でレオンへ帰還した。

 「今、何が起こった? 誰か見えた奴はいないか?」

 古参の冒険者の問いに、答える者は誰一人いなかった。
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