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50.ガズール帝国からの使者

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 ランベル王国の現在の統治者は、十二歳になったばかりの王女フランシスカ・ランベルである。

 フランシスカが八歳の時に、国王夫婦は西北の国リプトン皇国に向かう途中、何者かの襲撃に会い亡くなっていた。
 病で国元に残っていたフランシスカは、カ-ル・オクタ-ビア大公とマクマオン・シ-ドル公爵の尽力じんりょくにより、亡き国王の後を継ぎランベル王国の王女となったのだ。
 その後、オクタ-ビア大公、シ-ドル公爵、ム-ス公爵の三人で、幼いフランシスカ王女を補佐して、国政を行っていた。
 しかし、悪魔による王都襲撃でシ-ドル公爵亡き後、ム-ス公爵は自分の領地から王都の警備を理由に、五千の兵隊を呼び寄せていた。

 各地の野人討伐に六千名の王国警備隊を送り出している現在、この数はオクタ-ビア大公率いる近衛部隊千名、王国警備隊二千名を凌ぐ数であった。
 ム-ス公爵は、五千の兵隊を後ろ盾に王都での商取引を牛耳ぎゅうじり、利ざやを稼いでいた。
 シ-ドル公爵家お抱えのロックフェル商会に、横やりを入れて来たのも、自分の思い道理にならなかったからだ。

 そんなム-ス公爵は、夕方運び込まれた財宝を、執務室で一人ニヤニヤ仕訳をしていた。

 「ム-ス公爵、大層なお宝ですなぁ~」

 何処からともなく現れたその悪魔は、背中の羽を隠し人間の姿へと変わって行く。
 ガルニアにとっては、財宝など何の興味もない。
 どちらかと言えば、財宝を奪われた人間の悲壮な顔を眺める方に、興味があった。

 「ガルニアか、お前の手下がダンジョンで冒険者に倒されたそうだな。ミノタウロスにキングワ-ム、そんなに弱かったか?」

 金貨を机に積み上げながら、ム-ス公爵は問いかける。
 無表情なガルニアは公爵に近づき、金貨を一枚手に取ると壁に貼られた地図に投げ付ける。
 その金貨は、東の隣国ガズール帝国の領地に突き刺さる。

 「ム-ス公爵、我が秘密結社アーネストは、ガズール帝国の中枢を押さえましたよ。貴方は何時になったらこの国を、その手に治められるのですか? 貴方の家を何代にも渡って、後押しして来た事をお忘れか! 私にも立場と言う物があるんだよ!」
 
 悪魔ガルニアは、眉間みけんしわを寄せて怒鳴どなる。

 今まで、悪魔ガルニアがこのように、表情を表に出して怒る事は無かった。
 そんな悪魔ガルニアを前にして、ム-ス公爵は、座っていた椅子から崩れ落ちて震え出す。

 悪魔ガルニアも、先日のダンジョンの一件で、追い込まれていた。
 ランベル王国の攻略は遅れ、ダンジョンの奥で二千年に渡り隠していた。
 魔王の秘宝『ナインリング』の一つは、ダンジョン水没で行方知れず。
 秘密結社アーネスト、ランベル王国担当の悪魔ガルニアとしては、焦るのも当然である。





 ローソクのランタンを腰に下げたマント姿の五人が、王都サリュースの人気ひとけのない裏町筋を走り抜けて行く。
 何者かに追われているのか、曲がり角では辺りを確認して順次前に進み、 けしてかたまりになる事はない。
 その動きは洗練されており、野党のたぐいでない事は明らかだ。
 先頭を走る男が曲がり角に差し掛かった時、暗闇から労働者風の男が七人行く手をさえぎり、後ろからも五人現れ逃げ道を押さえられてしまう。

 「あんたらこんな夜中に、何処へ行こうってんだ! ここは、俺達の縄張りだァ~ タダで通ろうて言うんじゃねぇだろうなぁ~ 無事に通りたければ出す物だしなぁ」

 この無頼者ぶらいもの達のリ-ダ-らしき男は、数の多さを盾に強気で前に出て来る。
 夜中だと言うのに、これだけの人数が集まっているのだ。
 いつもこの辺りで、獲物を見付けては待ち伏せて、金の具申をしているのであろう。

 「シアン、マゼンタ、お前達は二手に分かれて、二人の公爵に密書を渡すんだ……ここは、俺達三人で十分だから。事が済んだら冒険者組合で落ち合おう……行くぞ!」

 マント姿の三人が、突破口を開くために無頼者のリ-ダ-達に殴りかかる。

 「何しやがる!」

 まさか先に反撃して来るとは、無頼者のリ-ダ-も思ってもみなかった。

 三対七、普通であれば無頼者達の勝ちである。
 さらに後に五人迫っているのだ。
 だが、無頼者達は知らなかった。
 このマント姿の五人が、ガズール帝国の秘密機関タンバの一員である事を…………
 
 秘密機関タンバは、ガズール帝王の直轄組織で、情報収集から警護、暗殺まで行うチ-ムを持つ組織である。
 そのチ-ムの数は機密扱いであり、今回派遣されて来たチ-ムは、帝王の警護チ-ムであった。

 「うわぁ~ やめろ! うぅぅぅ………」

 後から来ていた五人が、剣で刺され、斧で頭を割られ、次々と三人の男達に襲われて行く。

 「………来たか!」

 マント姿の三人は、無頼者達の相手をするのをやめて、腰の剣を抜き後を振り返る。
 この男達は、ガズール帝国を出てから、ずっと後を追いかけて来ていた奴らだ。
 ここに来るまでに、仲間三人が奴らによって、亡き者にされている。

 「隊長!」

 「シアン、マゼンタ、行け~!」

 マント姿の三人は、果敢かかんにも真正面から三人の男達に向かって行く。
 その姿を見たシアンとマゼンタは、手を剣に添えて後を振り向く事なく、それぞれの目的の場所へと走り去って行った。
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