NineRing~捕らわれし者たち~

吉備津 慶

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37.大臣ガンド

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 シスターマリンは教会を出て、元フェスタ-騎士団六十名の前に、一人で立っている。
 
 「シスターマリン、教会を引き渡して下さい。そうしないと、あなたと子供達に、命の危険があります」

 ある程度言葉を選んでいる所を見ると、シスターマリン達の事を考えてくれているのは理解出来る。
 しかし、今後を考えるとシスターマリンは、黙ってはいられない。
 
 「教会を渡して、私達にどこに行けと言うのですか!」

 怒りを抑えつつシスターマリンは、毅然とした態度で言い放つ。

 「…………」

 騎士達に、何の反論が出来る訳もなく、返答がない事が、この決定が間違っている事を示していた。




 「何をやっているんですか?」

 騎士達の後ろから、タイリン男爵家の大臣ガンドが、鋭士隊百名を連れて突如現れたのだ。

 「ガンド大臣……どうして此方に?」

 ここへ来るまで、後ろには誰もいなかったはずなのだ。
 これ程の数の鋭士隊が付いて来ていれば、気付かない訳がない。

 「あなた達のやり方が、甘いからに決まっているじゃないですか! これ以上、放ってはおけません! 今すぐ、教会から追い出すか、殺してしまいなさい」

 後ろから騎士を追い立てて、決断を迫ろうとしているのか。
 鋭士隊の兵士が剣を抜き、騎士達を取り囲む。
 その顔は覆面に隠され、どのような表情をしているのかは分からない。
 
 「ガンド大臣、これはどう言う事ですか? 我らに剣を向けるなど、反逆ですぞ!」 

 騎士達も剣に手を掛けながら、反撃の姿勢をとる。

 「お前達など、初めから仲間ではないわ! 皆殺しだ!」

 大臣の形相が変わり、魔族の風貌ふうぼうへと変化して行く。
 そして、騎士と鋭士隊の戦いが始まった。

 「なんか厄介なのが出て来たなぁ~あいつ魔族だよな? てことは…………死人だな!」

 響は、教会の窓から見ていた。覆面姿の兵隊には、見覚えがあった。あの夜の奴と同じなのだ。
 
 「当たり前の事、言ってんじゃないよ!」

 響の後ろから、クロエが姿を現す。

 「「「「ワァ~!」」」」

 「悪魔じゃ!」 

 「あぁぁ」 

 急に姿を現したクロエの姿お見て、子供達は逃げ出し、老夫婦は腰を抜かしてしまう。
 アリシアは、子供達の所に駆け寄り、落ち着くようになだめている。

 「お前なぁ~急に出て来るなよ~ こうなるのは、分かってるだろうがぁ~」
 
 「そんな事より、あっちを何とかしないと、いけないんじゃないかい?」

 平然と現れたクロエは、子供達の騒動をよそに、窓の外を指さしながら、響に微笑む。

 こいつ、暴れる気だな…………

 「よし! クロエは、空から攻撃。騎士は倒すなよ! 俺は、シスターマリンを連れて来る。アリシアは、ここを頼む」

 クロエは、話の途中で飛び出して行った。
 響もクロエに続き、シスターマリンの元に向かう。

 王都での事件と同じく、騎士達は鋭士隊への攻撃が効かない事に驚き、後退の一途を続ける。
 そこへ、空から鋭士隊へ向けて攻撃が仕掛けられる。
 次から次へと、鋭士隊兵士の頭を吹き飛ばして行くのだ。

 「あの魔族は、何なんだ!」
 
 「味方じゃないんですか! あいつらの頭を飛ばしていますから」

 「そうか! 全員頭だ! 頭か首を狙え~」

 劣勢気味の騎士達に、明確な攻撃の支持が伝えられる。

 響は、シスターマリンを教会に連れ戻し、盗賊討伐の時の戦利品を取り出す。
 盗賊のお頭が持っていた『魔剣』だ。
 『魔剣』の切れ味は、響のブロードソードを斬り落とす程で、琴祢の調査の結果『魔剣』は、持った者の属性に応じて、その能力が変化して行くらしく。  

 響が持つと黒刀に変化して、黒炎が刀身に現れて来る。
 響が騎士の横を駆け抜けて、鋭士隊の中へ斬り込む。
 斬られた鋭士隊の兵士は、斬り口から黒炎が巻き上がり、黒炎に包まれて燃え上がる。

 うっわぁ~! この魔剣、ソ-ドブレ-ドよりもエゲツナイ…………
 使う相手を、選んで使わないと後ろ指を指されそう……

 響は、鋭士隊の死人達を、次々と斬り倒して行く。



 「このサキュバスが、我が主の邪魔をしおって!」

 ガンド大臣は、背中から翼を広げて飛びあがり、クロエと空中戦を展開し始める。

 「何を言うか! お前も魔族なら、魔王様以外誰の指図で動いているのじゃ!」

 魔王が亡くなったと聞かされていたクロエにとって、魔王以外の者に従う魔族が許せなかった。
 
 クロエも響の指図で動いているのは、ご愛嬌と言う事で……

 クロエとガンド大臣の間で、『ダ-クショット』の撃ち合いから、接近戦に移り、徐々にレベルの高い
クロエが優勢となる。

 押され気味のガンド大臣が、近距離から『ダ-クショット』を撃とうとしたスキをつき、クロエの『ダ-クブロー』が、右、左とガンド大臣の溝内から顔面に、二発炸裂してガンド大臣を地面に叩き落した。

 地上では、響の活躍で鋭士隊十名を、残すのみとなっていた。
 
 「後は、騎士に任せてもよさそうだな」

 騎士八人が鋭士隊によって倒されたが、残り五十二人に花を持たせる為、響はクロエの元に向かった。

 
 「ほら! 吐け! バシッ! お前の主は誰だ! ドスッ! 次は右肩を吹き飛ばすぞ!」

 クロエが馬乗りになって、ガンド大臣を傷め付けている。
 最後には、至近距離から『ダ-クショット』を、最大出力で撃とうとしていた。

 「分かった! 言うからやめてくれ! あっ、主は、ガルニア様だ……」

 クロエは、その名を聞いて眉間に力が入っる。
 悪魔ガルニアは、何をしようと言うのか……
 アイツにも、主がいると言っていた。
 その主とは誰なのか…………

 その時、クロエの隙を付き、ガンド大臣が空へと逃げ出す。

 響は魔剣を抜き、ガンド大臣の背中に向けて投げ付ける。
 魔剣は、黒炎をあげながら、ガンド大臣の背中に突き刺さり、黒炎に包まれたガンド大臣は、またしても地面に落ちて行き、黒炎の炎にその体は、焼き尽くされるように燃え上がり、ガンド大臣は絶命した。

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