NineRing~捕らわれし者たち~

吉備津 慶

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6.治療と強化

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 衛星軌道上にうかぶ『宇宙戦艦メモリア』のメディカルルーム内は、薄暗い部屋の中に、カプセル状のメディカルポッドが、碁盤の目のように三十機が並んでいる。

 五人の患者に対して、五人のメイド服に似た白い服を着た女性が、コンソールパネルを操作して、医療行為を行っている。
 一人の患者に対して一人の看護師と言うのは、今日の日本では考えられない破格の待遇である。
 ここに収容されている患者の殆どは、八日前の夜、倉庫街で起きた巨大トカゲの事件で、怪我をした人達である。
 その中には、酸素マスクを付け、全身を『ナノマシン安定溶液』につかり、治療を受ける響の姿もある。
 巨大トカゲの一撃は、思いもよらず強力で、内蔵損傷、あばら骨の骨折、脊髄損傷等の大怪我を追って、いまだに意識が戻らない状態が続いている。
 
 「ティス、彼の容態はどうですか?」

 ティスと呼ばれる彼女は、ティス・メイリン十七歳、ショ-トカット、細身なのに胸が大きく魅力的な容姿をしている響の担当のメイドである。

 「姫様! まだ意識はありません。内蔵損傷と骨折は、時がたてば直りますが、脊髄の損傷の方は何とも」

 「そうですか……やはり再生強化を、施すしかありませんね」

 姫と呼ばれる彼女は、先日、巨大トカゲに襲われていた少女。ブロッサム十五歳、オルレオン皇国第五皇女、黒髪ロングに巻き髪の殿下である。

 「ですが姫様、この脊髄損傷を直すには、皇家の再生強化を行いませんと、完治は無理かと」

 「ティス、言いたい事は分かりますが、彼は私の命を……盾となってくれたのです」

 「しかし姫様、皇家の再生強化を施しては、貴族諸侯の中に、不満を持つ者が現れるかと存じます」

 「そうですね、母上に相談してみましょう」

 姫は、自分の考えが甘い事を指摘され、素直にティスの助言を受け入れる。

 その後、姫は何かを決意したかのように、メディカルルームを後にする。

 ティス・メイリンが言っていた『再生強化』には、治癒、再生、身体強化、寿命延長等の効果があるり、皇家用と貴族用の二種類がある。大きな違いは、再生能力が『完全再生』に対して『部分再生』、身体強化のベクトルが『千倍』に対して『五百倍』、寿命延長が『五千年』に対して『二千年』と、かなり差がある。
 これらの差に付いては、皇家の優位性を保つためだ。

 ティスが言っていた『脊髄損傷を直すには、皇家の再生強化を行いませんと』と言うのも、貴族用のものでは脊髄損傷の完全再生が出来ない為である。



 ブロッサム姫は、艦内の通路を通り警護騎士が守る、扉の中へ入って行く。
 中では、豪華なドレスをまとった一人の女性が、大きなソファーに座り、目の前に浮かぶモニターの男性と言い合っていた。

 「何を言っているの、その話はこの間の会議で決まったでしょ!」

 「私が参加していない所で決められても……」

 「ネ-デル侯爵、あなた何を言っているの!」

 「・・・・・・」

 「もぉ~! 言いたかないけどネ! 侯爵、あなた会議を欠席した日、三番目の愛人と旅行してたそうじゃない! それで後からとやかく言って来るんじゃないわよ! 他にも色々あるけど、あなたの奥さんは知っているのかしら?」

 「いやぁ~、やっぱり賛成します!」

 侯爵は、あたふたと画面の向こうで立ち上がり、賛成したのであった。

 「ありがとう、侯爵」

 女王陛下の圧勝であった。

 ブロッサム姫はいつもの事ながら、相手の情報を集めて、息の根を絶つ戦法の見事さに、思わず拍手をしていた。

 「あら、どうしたの?」
 女王陛下は、拍手に気づき、先程までの表情とは違う顔を見せる。

 「お母さま、彼の事なんですが……脊髄損傷が酷くて、皇家の再生強化でないと治らないそうです。」

 「そう。それでどうしたの?」

 「はい、ですから、皇家の再生強化でないと・・・・・・」

 お互いに何が言いたいのか理解できない。

 「再生強化すれば、いいんじゃないの?」

 「ですが、貴族諸侯に不満を持つ方が、出るのではないでしょうか?」

 「あなたを助けてくれたのでしょう?」

 ブロッサム姫は、小さく頷く。

 「だったら迷わずに、やる事をやりなさい。貴族共が何か言って来たら、たたき潰せばいいんだから。」

 母の頼もしい、一言であった。

 「はい、お母さま」

 ブロッサム姫は嬉しそうに、メディカルルームへと駆けて行った。

 「メディカルチェック、オ-ルグリーン、再生強化シークエンス、スタ-ト」

 カプセル内に、緑色の光りが輝き始める。

 皇家専用のメディカルルームで、ティス・メイリンが、響の再生強化を行っている。
 その側には、ブロッサム姫の姿もあった。



 響の再生強化は無事に終わり、響の胸には、皇家再生強化の証とも言える、三センチ程のダイヤ形をした赤いクリスタルが、胸に埋まっていた。因みに、貴族用は緑色をしている。

 その後響は、再びメディカルルームへと戻された。

 その男は鼻歌をたてながら、メディカルルームに入ってくる。

 「おい、そこのメイド! この間姫を助けたとか言う奴はそいつか?」

 「はい、そうでございます。グウノネ-デル様」

 看護していたメイドが、慌てて答える。

 「グウ・ウノ・ネ-デルじゃ! 間違えるでない、潰すぞ!」

 この男、グウ・ウノ・ネ-デル、二十一歳は、先日、王女様に脅されていた、ネ-デル侯爵の長男である。

 「姫を助けたからと言って、平民風情が……こぉ……これは、どうした事じゃ! なぜ、皇家の再生強化が、施されておる?」

 響の赤いクリスタルを見て、驚くグウ・ウノ・ネ-デルであった。

 「女王陛下の、ご指示にございます」

 「なに!」

 女王陛下の指示だと知ると、グウ・ウノ・ネ-デルは、慌ててメディカルルームを去って行った。
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