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第14章 更なる「力」を求めて
第449話 春風編10 「光国春風」の「夢」
しおりを挟む第2の「光国春風」の記憶を見た後に現れた、新たな通路。
その通路を、春風達は無言で進んでいた。
何故、皆無言なのか?
それは、記憶に現れた人物達や風景にそれぞれ思うところがあって、どう話せばいいのかわからなくなっていたからだ。
そんな感じで通路を進んでいると、新たな部屋に辿り着いた。
それと同時に、部屋の中央にまた謎の火の玉が現れたので、
(さて、今度はどんな記憶を見ることになるのかなぁ……)
と、春風は若干不安になりながらも、その火の玉に触れた。
そして、眩い光と共に周囲の景色が変わり、春風はまた別の場所に立っていた。
(あれ? ここって、昔の俺の部屋?)
そこは、春風がまだ「光国春風」だった時の自室で、今まさに、その自室の机の前で、昔の春風が椅子に座って何やら考え事をしていた。
「うーん、どうしよう」
どうやら机の上に置いてあるものを見て何か悩んでいる様子だったので、春風は「何だろう?」と思ってその机の上にあるものを見てみると、
(あ、これ……!)
そこに置いてあるのは、1枚の原稿用紙で、最初の行には「僕の夢」と書かれていた。
そしてそれがタイトルだと理解した春風は、昔の春風が何を悩んでいるのかを思い出した。
(そうだ。これは、俺が小学2年生の時に、担任の先生から出された『宿題』だ!)
それは、春風が小学校に上がって1年が経った時のことだった。
2年生になった春風は、当時の担任教師から、
「今度の授業参観で、みんなには自分の『将来の夢』について発表してもらいますので、その原稿用紙に自分の『夢』を書くように」
と言われて、春風は家に帰って早速書こうとしたが、
「『夢』ならあるけど、どう書けばいいんだろう?」
と、原稿用紙を前に悩んでしまったのだ。
その時、
「はーるか!」
ーーガバ!
「うひゃあ!」
後ろから誰かに抱きつかれて、思わずびっくりした春風。
振り返ってみると、
「……マリーさん、いきなりなんですか?」
そこにいたのは、高校の学生服を着た「マリーさん」こと間凛依冴だった。因みに、この時高校2年生だという。
凛依冴は昔の春風を抱きしめながら、
「エヘヘ、来ちゃった」
と、満面の笑みで言った。頬にキスのおまけ付きで。
その後、凛依冴は「ん?」と机の上の原稿用紙を見ると、
「あ、もしかして、宿題の途中だったり?」
と、春風を抱きしめたまま尋ねた。
それに対して、昔の春風は恥ずかしそうに答える。
「……はい。今度の授業参観で発表するんですけど……」
「あ~も、もしかして、『夢』がなかったり?」
と、凛依冴は気まずそうに再び尋ねたが、
「いえ、『夢』はありますけど、2つあるんです」
と、昔の春風はハッキリとそう答えた。
「え、2つもあるの!?」
と、凛依冴が驚きながらそう尋ねると、
「はい。1つはお父さん同じ『科学者』で、もう1つは『料理人』なんです」
と、春風は再びハッキリとそう答えた。
「えぇ? 『科学者』はわかるけど、何でもう1つが『料理人』なの?」
「だってお父さん達、研究に集中しすぎると何も食べないことがありまして、この間なんて2日も水しか口にしてないってことがあったんです。食べたとしても、保存食みたいなものばかりで……」
「あららぁ……」
「だから、料理人になって、美味しいだけじゃなく健康的なものを食べさせて、お父さん達を助けようって思ったんです」
「なるほど、『料理人』というより、『栄養士』に近いものってわけね」
「まぁ、そんなところです。で、どっちにしようかなって迷ってて……」
と、凛依冴とそうやり取りした後、春風は「うーん」と考え込む仕草をした。
そんな春風に、凛依冴は「ん?」となって、
「ねぇ、その夢って1個じゃないとダメなの?」
と、首を傾げながら尋ねた。
春風はその質問に対して、
「え? 確かにいくつまでかは特に言われてませんけど……」
と、答えると、
「だったら、何も1つじゃなくてもいいじゃない。『2つあって、悩んでます』って、きちんと正直に書けば、きっと先生もわかってくれるんじゃないかな? 寧ろ相談に乗ってくれるかもしれないし」
と、凛依冴がそう提案してきたので、
「……それもそうですね」
と、春風は「ああ、その手があったか」納得したような表情になり、早速それについて原稿用紙に書きだした。
すると、
「ねぇ春風。一応念の為に聞くけど、1つめの『科学者』って夢は、お父さん達の影響かな?」
と、凛依冴がそんなことを尋ねてきたので、春風は書きながら答えた。
「はい。科学者として活動しているお父さんや所長さん達に憧れまして、僕も一緒にお父さん達と仕事をしたいなって考えてるんです。ただ……」
「ただ?」
「僕にとって最高の科学者はお父さん達だって思ってますから、そんなお父さん達と肩を並べるとなると、やっぱり『世界一』になった方がいいかなって思ってるんです」
「おお、世界一! 夢があっていいねぇ!」
昔の春風の「夢」を聞いて、凛依冴が目をキラキラと輝かせていると、昔の春風は「うーん」と考え込んで、こんなことを尋ねた。
「あの、マリーさん」
「なぁに?」
「『世界一の科学者』って、なんて呼ばれてるんですか? ああ、別に深い意味はないです。ただ、なんとなく的なものでして……」
その質問に対して、凛依冴は即答する。
「決まってるでしょ、『賢者』よ!」
「け、賢者!? それってゲームとかに出てくる『優れた魔法使い』のことですよね!?」
「ゲームじゃね! でも、現実での『賢者』ってのは、優れた頭脳と豊富な知識を駆使する存在のことよ。それなら、『世界一の科学者』にも該当するんじゃないかしら?」
と、凛依冴のその答えを聞いて、昔の春風は、
「ああ、確かにそうかも……」
と、納得した表情になり、
「世界一の科学者、『賢者』か。うん、凄くいいですね」
と、凛依冴に向かって笑顔でそう言った。それを見て、凛依冴も「うふふ」と笑顔になった。
さて、そんな2人のやり取りを見た春風はというと、
「……そうだ。これが、俺の『夢』だったんだ」
と、白く染まっていく目の前の景色を眺めながらそう呟いた。
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