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間章3
間話16 春風とルーシー
しおりを挟むそれは、春風がエドマンドとオズワルドを部屋に招き入れた、その日の夜のことだった。
「ふぅ。良いものが出来てよかったぁ」
その時の春風は、大変上機嫌だった。
理由は、アガートラームの改造と新しいタクティカル・アタッチメントの製作が上手くいっただけじゃなく、早速完成したものを試したところ、とても満足のいく結果を出せたからだ。
(でも、これだけじゃあ駄目だ。もっとじっくり調整しなきゃ!)
と、そんな事を考えながら、春風は帝城の廊下を歩いていると、
(お?)
知らないうちに中庭に出てしまっていた。
その瞬間、春風は昨夜のことを思い出した。
(うう。今思い出しても、我ながら恥ずかしいっことをしてしまったなぁ)
先程まで上機嫌だったが、昨夜の事を思い出して、春風は「ハハ」と苦笑いした。
その時、
「ハ、ハル兄さん」
「ん?」
背後から聞こえた声に反応した春風は、「誰だ!?」と言わんばかりに無言で後ろを振り向くと、そこにいたのは、
「あれ、ルーシー? 何でここに?」
ルーシーだった。
「あ、え、えっと、散歩、です」
春風にそう尋ねられたルーシーは、何処か恥ずかしそうな表情でそう答えた。
「あぁ、そうなんだ」
「え、えっと、ハル兄さんは、何で、ここに?」
「俺? あー、恥ずかしい話、ちょっと考え事してたら、ここに来ていたって感じかな」
「そ、そうですか」
ルーシーがそう言い終えた瞬間、
(あ、あれ? 何この空気?)
2人の間に、微妙な空気が流れた。
どうしたものかと春風が考え込んでいると、
「は、ハル兄さん」
「ん? 何……て、え!?」
いつの間にか側まで来ていたルーシーに、春風が驚いて固まっていると、
「え、えぇい!」
突然、ルーシーがガバッと春風に抱きついてきたのだ。
「……えっと、ルーシー、さん? 何を、しているのかな?」
春風は若干混乱しながらも、ルーシーに何のつもりか尋ねたが、
「……っ」
ルーシーは何も言わず、抱きしめる力を強くしていた。
「ル、ルーシー!?」
春風がもう一度尋ねると、
「う、あ、あの、わ、私、私、は……」
ルーシーは何か言おうとしているのだが、どうもそれ以上続かない様子だ。
そして、それから少しすると、ルーシーは勢いよく春風から離れて、
「ご、ご、ごめんなさいいいいい! 決闘、頑張ってくださいいいいい!」
と叫ぶと、そのまま走り去ってしまった。
残された春風はというと、
「な、何だったんだ? 今のは」
と、ボソリと呟くのだった。
さて、走り去ってしまったルーシーはというと、
「ううう、言えなかったぁあああああ!」
自身に与えられた客室のベッドに飛び込んで、先程春風にしたことを思い出していた。
そして、もう1つ、
(うう、昨夜のハル兄さん達、凄かったなぁ)
ルーシーは、昨夜中庭で見た春風と歩夢と凛依冴とのやり取りを思い出していた。
(まさかハル兄さん、あそこで2人同時に告白するなんて……)
そう、実はルーシーは、昨夜の春風達の会話を目撃していたのだ。
それを見た瞬間、ルーシーは、
(わ、私も、いつかあそこに)
と考えてはいたのだが、
(あああああああ! 無理無理無理! 絶対無理だよぉ! 言えないよこんなことを!)
どうやら上手くいかなかったようだった。
しかし、
(うう、つ、次こそは、次こそは……)
どうやら、諦める気はないようだった。
そんなルーシーの様子を、
(ルーシー、頑張れ!)
と、部屋の外から人形のアイザックが、扉の隙間から見守っていた。
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