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第8章 友との決闘
第182話 春風vs水音12 「桜庭水音」という少年
しおりを挟む桜庭水音、17歳。
とある裕福な家庭に生まれた彼は、両親と母方の祖父母、そして2歳下の妹と共に、何不自由ない暮らしを送っていたのだが、彼には決して他人には言えない、ある「秘密」があった。
それは、彼には特別な「力」があったのだ。
それも、使い方を誤れば、自身や自身の大切なものさえも傷つけてしまう、とても大きな「力」だ。
しかし、水音の家族はその「力」に理解のある者達だった。というよりも、母親が水音と同じ「力」を持っていて、それ故に水音は母親から「力」を制御する為の訓練を受けていた。水音自身も真面目な性格の持ち主なので、訓練自体も特に嫌がる事はなかった。
ところが中学2年生の時、ガラの悪い同級生数名に妹が傷つけられそうになり、ブチ切れた水音は怒りに任せて「力」を振るい、結果、その「力」を暴走させてしまった。
結果的に妹を助ける事に成功したのだが、同級生達は1人残らず病院送りになってしまった。そして退院してからも、その時の恐怖で彼らは皆、他の学校に転校するか、自宅に引きこもる様になった。
ここへきて、水音は初めて自分の「力」に恐怖した。元々真面目で争い事を嫌う優しい性格でもあった為、自身が持つ「力」の大きさと、いくら妹を傷つけようとした連中だからといって、その「力」で人を傷つけたという事実が、水音の心を苛んだ。後になって知った事なのだが、水音が持つ「力」の大きさは、母親を大きく超えていたものだったのだ。
それ以来、水音は「力」を恐るあまり、訓練を受けなくなったどころか、自分の殻に閉じこもる様になり、やがて家族に対しても心を閉ざしてしまった。
だがそれから暫くして、水音は出会う。
後に自身が「師匠」と呼ぶ事になる女性と、彼女の弟子である1人の少年に。
その後、なんやかんやあって、水音はその女性、間凛依冴の弟子となり、その弟子である少年、幸村春風と共に、世界中を回った。
勿論、楽しい事ばかりじゃない。いく先々で水音達は様々なトラブルに巻き込まれたが、その度に凛依冴と春風の活躍によって、それらは全てねじ伏せられた。特に水音と同い年の春風は、水音と同じ様な特別な「力」を持っていても、それに頼る事なく大人顔負けの強い意志と大胆な発想で窮地を乗り切ると同時に、幾度も水音を危険から守ってきた。
水音はそんな春風を、時には「カッコいい」と感じ、時には「羨ましい」と嫉妬した。
そして、それから1年後、拐われた子供達を救う為、春風はたった1人で悪い奴らのアジトへ行き、無事に全員助け出して帰ってきた「あの日」、
「僕は絶対に強くなる。強くなって、今度は僕が春風を助けるよ」
と、水音は春風に向かってそう宣言した。
それを聞いた春風は、
「うん。すっごく楽しみにしているよ」
と、笑顔でそう返した。
そして、現在、
ーー信じてるからな、水音。
「! 春風!」
その言葉で、暗闇に囚われていた水音は意識を取り戻した。
目の前のスクリーンを見ると、腕を組んで仁王立ちになった春風が、今にも攻撃を受けそうになっていた。
それを見て、
「やめろぉおおおおおおおっ!」
水音は力いっぱいそう叫んだ。
次の瞬間、水音の体から青い光が発せられた。
そして、スクリーンの向こう、即ち「現実」では、女神マールに操られて水音が、春風に向かって手に持った剣型の神器を振り下ろそうとした、まさにその時、
ーーやめろぉおおおおおおおっ!
その叫びが届いたのか、水音の攻撃は春風に当たる寸前の所で、ピタッと止まった。
『え?』
突然の事に観客達が驚いていると、水音が持つ剣型神器が、まるで霧の様にスゥッと消えて、残ったのは黒い刀身を持つ長剣、ガッツだった。
「ど、どうしたの勇者水音?」
女神マールは激しく動揺しながら水音にそう尋ねた。
すると、
「い……や……だ……」
「……え?」
「い、嫌だ。こ、こんなの、絶対に、嫌だ」
必死になってそう呟く水音の声を聞いて、マールはカッとなったのか、
「私に逆らうな!」
と、水音に向かってそう命令したが、
「いや、だ。絶対に、い、嫌だ」
それに対しても、水音は必死に抵抗した。
「よせ! 抵抗するな! 女神に従え!」
マールは諦める事なく、水音に向かって更に命令したが、
「嫌だぁああああああっ!」
水音はそれでもマールに逆らった。
次の瞬間、水音の全身が、青く輝いた。
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