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第8章 友との決闘
第180話 春風vs水音10 そして、少年は……
しおりを挟むそれは、マールが特別席の方へ飛び立ってからすぐのことだった。
「ま、待て!」
春風がマールを追いかけようとすると、
「うわっ!」
マールに操られた水音が、春風に切り掛かってきた。
「やめろ水音、目を覚ますんだ!」
春風は水音に向かってそう呼びかけたが、
「マール様の命令、悪魔、倒す」
と返すだけで、春風への攻撃を止めることはなかった。
「く! だったら……」
春風は水音から距離をとると、すぐに[気配遮断]のスキルを発動させた。
「!」
春風を見失った水音は、その場に立ち止まって辺りを見回した。
その隙をついて、春風は水音の背後に移動し、
(水音、ごめん!)
水音の首筋めがけて彼岸花を振り下ろした。勿論、峰打ちで気を失わせるのが目的だ。
だが、
「無駄だよ」
「!?」
水音は後ろを振り返って春風の彼岸花を神器で弾いた。
「くぅっ!」
峰打ちを弾かれた春風は、その勢いで背後に吹っ飛ばされたが、すぐに体勢を立て直して着地した。
「うぅ、み、水音、頼むから目を覚ましてくれ」
「……」
春風は何度も水音に呼びかけたが、水音はそれに応える事はなかった。
次の瞬間、
「え?」
春風の目の前の景色が、一瞬違うものになった。
春風は首を横に振るってもう一度目の前を見たが、やはり一瞬だけ水音から別のものになっていた。
(い、今のは、まさか!)
その時、春風は今見た景色が何であるかを理解した。
それは、2年前の「あの日」、拐われた子供達を助ける為に、たった1人で乗り込んだ「悪い奴ら」のアジトでの「記憶」。
春風が、オリジナルの彼岸花を抜き、それを振るった時の「記憶」で、同時にそれは、春風の心に深い傷を負わせることになった「記憶」でもあった。
そして現在、水音を前にその記憶が呼び起こされ、それが春風を苦しめたのだ。
(ち、違う! これは、あの時とは違う! 違うんだよ!)
苦しそうに胸を押さえながら、春風は心の中で必死にそう叫んだ。
(な、何かある筈だ! 水音を助ける方法が絶対にある筈だ! でも、急がないと、みんなが、リアナが、イブリーヌ様が、ユメちゃんが!)
必死に頭を働かせて考える春風。
しかし、
「悪魔、倒す」
目の前の水音はそんな春風に構う事なく、持っている神器に力を注いだ。
それが、大きな技を放つ為の準備だと、春風は理解した。
(あぁ、まずい! 何とかしなきゃ!)
春風は何とかしなければと考えたが、焦っている為か良い案が全く浮かばなかった。
そして、準備を終えた水音が、春風に向かって技を放とうとした、その時、
「ぐぅあああああああっ!」
「!?」
「え?」
突然あがった悲鳴の様なものに驚いて、春風と水音はその悲鳴があがった方向を見ると、そこには体をくの字に曲げて吹っ飛ばされたマールの姿があった。
そしてその後、そのマールの後を追う様に、特別席から1人のワイシャツとジーンズ姿の若い男性が飛んできた。
(あ、あの方は……)
春風はすぐに、その若い男性が地球の神の1柱だと理解した。
その後、
(あ、あれは……)
春風はすぐに特別席の方を見ると、そこにはダメージは受けていたが無事な様子のリアナ達の姿があった。
春風はそれを見て、
(そうか、地球の神様が助けてくれたんだ)
と理解して、
「ありがとうございます」
と、ワイシャツとジーンズ姿のその神に向かって、小さくそう呟いた。
(うん。大丈夫だ)
春風は気持ちが落ち着いてきたのを確認すると、真っ直ぐ水音を見た。肝心の水音はというと、先程からマールの方をずっと見ていた。
リアナ達の無事を確認して心に余裕が出来た春風は、手に持っている彼岸花を見て、冷静になって考える。
(そうだ、水音を助ける為に必要なものは、こいつじゃない。必要なのは……)
そして考えた末、春風は、
「水音」
「?」
と水音に声をかけると、彼岸花を鞘に収めて、腕を組んで仁王立ちになった。
その後、春風は水音を真っ直ぐ見て、
「来いよ」
と誘った。
それに応えたかの様に、水音は再び神器に力を注ぎ、春風に向かって突進した。
やがて、春風の側まで近づくと、神器を振り上げた。
その瞬間、
「信じてるからな、水音」
と、春風は水音に向かってそう呟いた。
そんな春風に向かって、
「悪魔、倒す」
と、水音はそう言って、神器を振り下ろした。
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