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第8章 友との決闘
第178話 春風vs水音8 絶体絶命からの……
しおりを挟む「女神」を名乗るマールの登場と、そのマールに操られた水音が春風に攻撃を仕掛けるという異常事態に、闘技場内は次第にざわつき出した。
ある者は突然の女神の降臨に恐れ慄き、ある者はその姿を見て感激の涙を流していた。
そして、春風と操られた水音との戦いを見て高笑いするマールの背後に、2つの影が迫った。
「貴様ぁあああああああっ!」
「?」
マールは振り向いてすぐに水の防御壁を展開し、その2つの影が放った攻撃を防いだ。
攻撃を仕掛けてきた影の正体は、大きく鋭い穂先を持つ槍を握ったセレスティアと、春風の彼岸花よりも長い刀身を持つ日本刀を握った凛依冴だった。
「私の水音に何をしたぁっ!」
「私のスウィートハニーアンド可愛い弟子2号に何してくれてんの?」
「あら、帝国第一皇女のセレスティアと、そちらの貴方は確か、プレインズウォーカーの間凛依冴だったかしら?」
怒りをあらわにするセレスティアと凛依冴に、マールは冷徹な笑みを浮かべてそう尋ねると、
「たかが小娘と旅人風情が、でしゃばるんじゃない!」
と、自身が出した水の壁諸共2人を押し返した。
「!」
「グアッ!」
2人は背後の壁に激突すると、凛依冴は何とか立ちあがろうとしたが、セレスティアはそのまま意識を失った。
「セレス!」
「凛依冴さん!」
ギルバートと恵樹はすぐに実況席を立って、2人の側に駆け寄った。
マールはその状況を見て「フン」と鼻で笑うと、
「さて、次は……」
と言って、今度は特別席の方へと飛んでいった。
「ま、待て!」
春風はすぐに追いかけようとしたが、水音に邪魔されてその場を動くことが出来なかった。
そうこうしているうちに、特別席に着いたマールはというと、
「久しぶりねぇ」
と、いやらしい笑みを浮かべて、震えているヘリアテスに話しかけた。
「あ、貴方は……」
「まさか500年の封印から目覚めてずっと隠れていたなんて、随分と惨めになったものね」
「……」
見下しながらそう言ってくるマールに対し、ヘリアテスは何も言えず震えるだけだった。
そんなヘリアテスを見て、
「おおまあえええええええっ!」
と、激昂したリアナが燃え盛る薔薇を構えてマールに切り掛かったが、マールは表情を変えずに再び水の防御壁を展開し、それを防いだ。
「お母さんの力を返せ!」
「お母さん? ああ、そこにいるおチビさんね? 全く、力を奪われたとはいえ神ともあろう者が、人間の真似事とはね」
攻撃を防がれてもそう叫んだリアナを見て、マールは小馬鹿にした様に笑いながらそう言った。
するとそこへ、
「うおおおおおおおっ!」
と、それぞれの武器を構えた歩夢、鉄雄、詩織が、一斉にマールに飛びかかった。
しかし、彼らの攻撃をも、マールは全て水の防御壁で防いだ。
「フン、勇者ともあろう者が神に逆らうの?」
「うるせぇ! こっちは全部聞いてんだよ!」
「そうよ! 何が勇者よ! 何が神よ! この悪党が!」
「……悪党?」
詩織のその言葉に、マールはピキッとなると、
「誰が、悪党だぁ!」
と怒りのままに叫び、展開していた水の防御壁を破裂させてリアナ達を吹っ飛ばした。
それを見て、マールは視線をヘリアテスに向けると、
「やめてください!」
と、イブリーヌがマールの前に立って両腕を広げた。
「……セイクリア王国の、イブリーヌ姫ね」
「お、お願いします、もう、こんな事やめてください」
震えながらそう懇願したイブリーヌを見て、マールはニコリと笑うと、
「丁度いい。あの悪魔を世界に放った責任は、王女であるあなたに取ってもらうわ」
そう言って、「え?」とキョトンとなったイブリーヌの首を、リング状に生成した水で絞めた。
「う、く、苦しい……」
必死にもがくイブリーヌをそのままにして、マールは再びヘリアテス方を向くと、
「許さない!」
「む!?」
誰かがそう叫んだ次の瞬間、マールの体に黒い鎖が巻き付いた。
「これは!?」
突然の事に驚いたマールが鎖の出所の方を向くと、そこには濃い紫色のオーラを纏ったルーシーがいた。
「お前、まさか『裏スキル』の使い手か!?」
マールはそう問い詰めたが、怒りの形相のルーシーは何も答えなかった。
その態度に苛立ったのか、
「舐めるなぁ!」
と、マールは怒りに任せてその黒い鎖を破壊し、その衝撃を受けて、
「きゃあ!」
ルーシーは吹っ飛ばされた。
「ふう、危なかったわ」
マールは額に溜まった汗を拭うと、「さぁこいつらどうしてくれようか」と辺りを見回した。
すると、
「ああ、良いのがいたわ」
と言って、マールは倒れている歩夢に近づいて、
「貴方、あの悪魔……春風の事が好きだったわね?」
と尋ねた。
歩夢は「な、何を……」と聞き返そうとすると、マールはニヤリと笑って、
「貴方も操って、あいつを殺すとしましょうか」
「な、や、やめて!」
逃げようとしたが思うように体を動かす事が出来ない歩夢。そんな彼女に、マールは両手を近づけた。
(や、やだ、助けて!)
と、歩夢が心の中でそう叫んだ、まさにその時……。
ジリリリリリッ!
『!?』
歩夢の側に落ちていた零号が鳴り出した。
「な、何!?」
驚いたマールがその場を離れた隙をついて、歩夢は零号の画面に触れた。
次の瞬間、
「この子に触れないでください」
零号の画面の真上に魔法陣が展開されて、
「この、紛い物が」
ワイシャツとジーンズ姿の、1人の男性が現れた。
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