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第8章 友との決闘
第160話 再会、春風と水音と「師匠」
しおりを挟む今から6年前、場所は喫茶店「風の家」。
それは、春風が「とある事件」によって両親を亡くし、幸村涼司ーー今の家族と暮らし始めてから1年が経った、ある日のことだった。
「春風君を……息子さんを私にください!」
「駄目だ! あんたみたいな奴に、春風は渡さねぇ!」
目の前の涼司に土下座しながらそう叫ぶ女性と、そんな彼女に対して「NO」と叫ぶ涼司。2人のやり取りを、春風と他の客は、口をあんぐりさせて見ていた。
(いや、ホントにこの人は何を言ってるんだ?)
春風が心の中でそう思うのは当然だろう。
何故なら、目の前で土下座をしているのは20代の女性。その女性が「ください」と叫ぶ対象である春風は、当時11歳の小学生だからだ。
その後、涼司と女性の口論が激しさを増すと、客の1人がこう提案した。
「それなら、『弟子』にしたら良いのではないか?」
その案について詳しく聞くと、女性は「それだ!」と叫び、その後、春風と涼司と3人で話し合った結果、その案を採用することが決まった。
「えっと、それじゃあ、あなたの事はなんて呼べば良いのでしょうか?」
春風は恥ずかしそうに女性にそう尋ねると、
「決まってるでしょ? 『師匠』と呼びなさい」
こうして、春風はその女性ーー間凛依冴の弟子になり、以後涼司との生活を大切にしつつ、休みの日は凛依冴と共に時には日本中、更には世界中を飛び回った。その3年後、新しく水音が凛依冴の弟子になり、共に切磋琢磨していった。
そして、更に3年が経った現在。ウォーリス帝国帝城の謁見の間にて。
「はーるーかーっ!」
「ぶわっ!」
突如、零号を通して春風達の目の前に現れた凛依冴が、もの凄い勢いで春風に抱きついてきた。
「あーん、会いたかったわ春風! 愛しの弟子兼マイスウィートハニー!」
凛依冴は春風抱きしめたままぐるぐると回転した。
「ぐ、ぐるじぃ。師匠、離れて……」
春風は苦しそうにもがきながら凛依冴にそう頼むが、
「やーだよー! 離れないもーん!」
と、凛依冴は離れるどころか更に強く春風を抱きしめた。
目の前で起こっている出来事に周囲が唖然としていると、
「あの、師匠? 春風が苦しそうなんで、その辺にしてもらえませんか?」
と、水音が「コホン」と咳き込んだ後で、そう凛依冴に声をかけた。
凛依冴はその声に「ん?」となって水音の方を向くと、
「あら、水音。随分と立派になったじゃない!」
と、凛依冴は水音に近づいて喜びの声をあげた。勿論、春風を抱きしめたままで、だ。
「はい、ここですっごく鍛えられましたから」
水音は落ち着いた表情でそう返すと、凛依冴は「そう」と言って、左腕を伸ばして水音を抱き寄せた。
「うわっ! 師匠、やめてください! 恥ずかしいです!」
水音は春風と同じ様にもがきながらそう言うと、
「ダーメーよ、久しぶり会えたんだもん。2人共立派になっちゃって、流石、私の弟子達だわ」
と、凛依冴は2人を抱きしめながらそう褒めた。
するとそこへ、
「ウォッホン!」
「ん?」
突然の咳き込む声に、凛依冴は何事かとその方向を向くと、そこには玉座に座るギルバートがいた。
「あー、感動の再会(?)はその辺にして、ちょっと良いかい?」
「……どちら様ですか?」
凛依冴は怪しいものを見る様な表情でそう尋ねると、
「ウォーリス帝国皇帝、ギルバート・アーチボルト・ウォーリスだ」
と、ギルバートは皇帝としての姿勢を崩さずにそう答えた。
それを見て、凛依冴は「ああ」と言うと、抱きしめていた春風と水音を解放して、
「これは失礼しました。私の名は、間凛依冴。こちらにいる幸村春風と桜庭水音の『師匠』を務めています」
と、先程とは打って変わって丁寧な挨拶をした。
「あぁ、これはご丁寧にどうも。早速だが、凛依冴さんと呼べば良いだろうか?」
「ええ、構いません」
「すまねぇな。で、凛依冴さんとやら、単刀直入に聞くが……あんた、一体何モンなんだ? そこにいる幸村春風が持っていた魔導具の様なものから出てきたのはわかったが」
「そ、そうだ! 師匠、一体どうしてこの世界に!? ていうか、どうやってこの世界に来たんですか!?」
ギルバートの質問を聞いてハッとなった春風は、少し慌てた様子で凛依冴に尋ねた。
「ああ、それはね……」
凛依冴が答えようとしたその時、
「あなたは……」
『?』
春風と周囲の人達が一斉にその声がした方を向くと、そこには口元を押さえたヘリアテスがいた。
そんなヘリアテスを見て、リアナが声をかけようとすると、それより先にヘリアテスが口を開く。
「あなたはまさか、『異界渡り』ですか?」
『プレインズ?』
『ウォーカー?』
そう尋ねたヘリアテスに、春風達が一斉に首を傾げると、
「へぇ、私の事知ってるんだぁ?」
と、凛依冴は不敵な笑みを浮かべてそう答えた。
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