138 / 608
第7章 襲来、「邪神の眷属」
第126話 集う者達
しおりを挟む「お願いだ、通してくれよ!」
「お、お願いします!」
「駄目だ! 向こうは危険なんだ、ここを通すわけにはいかない!」
それは、春風とレイモンドが鳥の様な魔物にさらわれて直ぐのことだった。
シャーサルの門の側では、取り残されたアデル、ルーシー、ケイト、クレイグらが、門番であるロベルトと揉めていた。
「春風を助けたい」と言うアデル達に対し、「危険だから駄目だ」と言うロベルト。両者がお互い一歩も譲らない状況の中、そこへ、
「どうしたのですか?」
と、背後で声がしたので、アデル達が一斉にその方向を向くと、そこにはイブリーヌがいた。
「い、イブリーヌ様!? どうしてこちらに!?」
ロベルトは思わず背筋を伸ばしてそう尋ねると、
「あの、レイモンド様を見かけませんでしたか? ちょっと席を外すと言って出ていってから戻ってきてないのですが」
と、イブリーヌは困った様な表情でそう答えた。どうやら中々戻って来ないレイモンドを心配して、王女であるイブリーヌ自ら探しにきた様だった。
「う、そ、それは……」
イブリーヌに問われて、ロベルトが答えるの躊躇っていると、
「おい! あれを見ろ!」
と、ロベルトと同じ門番がとある方向を指差してそう叫んだので、ロベルトだけでなくアデル達もその方向を見た。
「な、何だあれは?」
それは、巨大なドームの様なものが発生した瞬間だった。
ロベルトとアデル達、そしてその周囲の人達が突然の事で呆然となっていると、
「お、オイ! 魔物達が!」
と、別の誰かがそう叫んだので、視線をドームから魔物に移すと、なんと魔物達が一斉に動きを止めて、その後光の粒の様なものになってドームの方に吸い寄せられたのだ。
目の前で起きたその異常事態の最中、それまで戦っていたハンターの1人が口を開く。
「なあ、あそこって確か、邪神の眷属がいなかったか?」
その質問に、別のハンターが答える。
「あ、ああ。それに何か、デカい鳥みたいな魔物もいたぞ」
そのセリフを聞いて、アデル達はハッとなった。
「アニキ!」
アデルはロベルトを横に突き飛ばして、そのドームに向かって駆け出そうとした。
その時、
「ま、待ってください!」
「!?」
イブリーヌに呼び止められ、アデルは足を止める。
「あ、あの、何かあったのですか?」
震えた声でそう尋ねるイブリーヌに、アデルは余裕がないのか敬語を使うことを忘れて、
「アニキと帝国の皇子様があそこにいるんだよ!」
と、怒鳴るように答えた。
イブリーヌは「そ、そんな!」とショックを受けたが、
「あの、わたくしも、ご一緒させてください!」
と、アデル達を真っ直ぐ見てそう言った。
アデル達だけでなくロベルトも『ええっ!?』と叫ぶ中、クレイグは無言でイブリーヌに近づき、
「すみません」
「え? キャッ!」
何と、彼女をお姫様抱っこした。
その後、クレイグはその状態で、
「行こう」
とアデル達に言うと、そのままドームのもとへ駆け出した。
「あ、コラ! たく、しょうがない! ここを頼むぞ!」
ロベルトは相方にそう言うと、アデル達を追いかけた。
ドームの側に着くと、そこには先程まで戦っていたハンターと騎士が集まっていた。
アデル達がドームに近づこうとすると、
「あ、ディック!」
と、イブリーヌが見知った顔、セイクリア王国の騎士ディックの姿を見つけたので、アデル達は彼のもとに駆け寄った。
「!? お前達! それにイブリーヌ様!」
駆け寄ってきたアデル達とイブリーヌに驚くディック。そんな彼に、イブリーヌは尋ねる。
「ディック、一体何が起きたのですか? それに、このドームの様なものは?」
「ハッ! これは、邪神の眷属によるものです! 奴が吠えた瞬間、このドームが形成され、先程まで戦っていた魔物達は、全て奴に吸収されてしまったのです」
イブリーヌの問いに、ディックは姿勢を正して答えた。
さらにイブリーヌは、
「そうだったのですか。それで、中はどうなっているのですか?」
と質問を続けた。
「そ、それが……」
ディックは気まずそうに、ドームの方を見るようにと促した。
イブリーヌとアデル達は「?」を浮かべてドームの中を見ると、そこには球体に閉じ込められた勇者達、リアナ、レイモンドと、巨大な狼の様な魔物に向かって彼岸花を構えた春風の姿があった。
「ああ、勇者様方、レイモンド様、それに、春風様、どうして!?」
中の状況を見てショックを受けたイブリーヌに、ディックは説明する。
「どうやら彼は、囚われた仲間を救う為に、たった1人で邪神の眷属と戦うつもりのようです」
「そ、そんな! 何とかならないのですか!?」
ディックの言葉に青ざめながらも、何か出来ることはないかと尋ねるイブリーヌ。しかし、ディックは悔しそうに首を横に振るって、
「残念ですが、我々に出来ることは、ただこうやって見てることしかできません」
その答えを聞いて、イブリーヌだけでなくアデル達も顔を真っ青にした後、ドームの中を食い入るように見つめた。
しかし、この時神官達が、何やら怪しげな行動をしていることに、彼女達は気づかなかった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
185
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる