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間章2
間話7 そして、「彼」は語り始める
しおりを挟むそれは、春風がシャーサルでハンター活動を始めたばかりのことだった。
その頃のセイクリア王国では、残された「勇者」こと担任教師の小夜子とクラスメイト達が、王城の中庭で騎士達と共に勇者としての訓練を受けていた。
しかし、訓練に精が出ている騎士達とは対照的に、小夜子とクラスメイト達の表情はどこか暗かった。
何故なら、春風が自分達のもとを去った「あの日」から、彼らの中で、ある「疑念」が生まれていたからだ。それは、
ーー「幸村春風」って、あんな感じの奴だっけ?
勇者達が知ってる「幸村春風」という少年は、とにかく静かで、真面目で、滅多に感情を表に出さない、そんな感じの少年だった。
しかし、エルードに召喚されたあの日、国王ウィルフレッドを前に激しい怒りをあらわにした春風を見て、勇者達は皆「信じられない」とショックを受けた。それ故に、春風が謁見の間を出ていくのを、彼らは止める事が出来なかったのだ。その時声をかけた、ただ1人を除いては……。
それ以来勇者達は、春風のことについては触れない様にしていた。春風が出ていって間もなく、彼のことを「卑劣な裏切り者」と罵る者達と、「何かわけがあるんだ」と擁護する者達、そして、そのどちらでもない者達にわかれてしまったからだ。担任教師として「このままではいけない」と考えた小夜子は、必死にみんなを説得した。その結果、多少のわだかまりはあるが、これ以上関係が悪化することはなかった。
ところが、訓練を始めてから数日が過ぎた頃、新たな問題が起こった。
勇者達の1人、桜庭水音が訓練に来なくなったのだ。
最初の頃は普通に参加していたのだが、だんだんその回数が減り、しまいにはウィルフレッドや騎士達どころか勇者達の前にも姿を出さなくなったのだ。
しかし、勇者と王族達は知っていた。実は水音は、昼間は王城内にある書庫で本を読み漁り、夜は1人で訓練をしていたのだ。
それを知って、最初はホッと胸を撫で下ろした小夜子だったが、何日か経つうちに再び勇者達の関係が悪化しかけたので、再び「このままではいけない」と考え、とうとう行動を起こすことにした。
その日の夜、水音はいつもの様に王城内にある厨房に向かった。そこの料理人に予め頼んでおいた、夜食を取りに行く為だ。
そして、警備兵の目を掻い潜って厨房に入ると、
「桜庭」
「わぁっ!」
突然、背後から声をかけられて、驚いた水音は思わず悲鳴をあげた。恐る恐る振り返ると、そこには火のついたランプを片手に持った小夜子がいた。
「せ、先生、どうしてここに!?」
「お前がここに来ていることはわかっていた。だから、待っていたんだ」
「ええ!? バレない様にしていたのに!」
「因みに、みんなも既に知っている。隠すのが下手なんだよ、お前は」
「そ、そんな……」
バレていたという事実にショックを受けた水音に、小夜子は真面目な表情で話す。
「桜庭、お前に聞きたいことがある。ここではなんだから、移動しようか。みんなも知りたがっているから」
そう言って、小夜子は自分の後ろを指差した。
「え、みんなって……」
水音がソッと小夜子の後ろを見ると、そこには他の勇者達全員がいた。否、勇者達だけでなく、国王夫妻と2人の王女の姿もあった。
それを見て、水音は逃げられないと悟り、
「……わかりました」
と、小夜子の言葉に従った。
所変わって、厨房から広い王城内の食堂。
「あの、それで僕に聞きたいことってなんですか?」
勇者と王族達に囲まれて、水音は小夜子に尋ねた。
「単刀直入に言おう、幸村のことだ。お前は、あいつとどういう関係なんだ?」
「どうって、幸村君とはクラスメイト以外何も……」
と、水音が最後まで言いかけると、小夜子はスッと手を水音の前に出して遮った。
「誤魔化しても無駄だ。お前、幸村が謁見の間を出ようとした時、あいつの事を『春風』って呼んでいたのを私は覚えている」
「!」
それを聞いて、水音は「しまった!」という表情になった。
さらに小夜子は続ける。
「桜庭、私は教師として、これ以上クラスのみんなの関係が悪くなるのを黙って見過ごすわけにはいかない。だから頼む、あいつの事について、お前が知っている全てを教えてほしい」
頭を下げて頼む小夜子の姿を見て、居た堪れなくなった水音は顔を下に向けて、
「……君が悪いんだからね、春風」
と、ボソリと呟くと、
「わかりました、全部お話しします」
「! ありがとう、桜庭」
頭を上げてお礼を言った小夜子と、それを見てホッとなった勇者と王族達。
そして、水音は周りを見回すと、静かに語り始めた。
「僕と幸村君……いえ、春風は、同じ『師匠』を持つ弟子なんです」
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