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第6章 結成、ユニークなレギオン?
第82話 激闘の後
しおりを挟む「うう、美味い! 美味いっすぅううううう!」
それは、ウォーレン達断罪官との戦いが終わってすぐの事。春風はシャーサルにあるギルド総本部内の食堂で食事をしていた。余程腹を空かせてたのか、もの凄く勢いのある食べっぷりに、リアナをはじめ、周囲の人達はたらりと冷や汗を流していた。幼いイアン、ニコラ、マークの3人は『おー』と感心した様子だったが。
そんな春風に、1人の男性が声をかけた。
「おぉう、スゲー食いっぷりだなぁ」
春風は「ん?」と思ってその声がした方を向くと、
「あ、ラッセルさん」
そこには、軽装備に身を包んだ、いかにもノリの軽そうな雰囲気の男性が立っていた。
彼の名は、ラッセル・ジンクス。世界で数少ない最高ランクである「白金級」のハンターの1人だ。
なんでもラッセルは、春風がハンターになった日から、総本部長であるフレデリックの依頼でずっと春風の事を陰ながら見守っていたという。本来は姿を現す予定は無かったのだが、春風が断罪官との戦いの後に空腹で倒れ、さらに仲間の方はどうすれば良いのかわからず慌てふためいていた為、こうして姿を現す事にしたのだ。その後、春風をヒョイと担ぐと、リアナ達と共にこの食堂へ運び、目の前に大量の食事を用意した。その際、お代はラッセルが払ってくれた。
「助けてくださってありがとうございました。おかげでこうして美味しいご飯にありつくことが出来ました」
春風はラッセルにそうお礼を言うと、
「いやいや、礼を言われることはしてないさ。こっちは『良いもの』を見せてもらったしな」
と、ラッセルは照れくさそうに答えた。因みに、彼が言った「良いもの」とは、春風とリアナの断罪官との戦いぶりだ。
その後、ラッセルはすぐに真面目な表情になって、
「と、それはさておきだ。今、総本部長と話をつけてきた。飯食い終わり次第、総本部長室に来いとのことだ。勿論、そこのお嬢さん方も一緒にだ」
それを聞いた途端、春風は表情を暗くして、
「うぅ、わ、わかりました」
「お、おい、どうした?」
「いえ、これで、俺のハンター生活は終了かなと……」
「ああ。うん、まぁ、確かにあれだけの事をすれば、ギルドカード剥奪どころか、最悪この都市から追ほ……」
ラッセルがそう言いかけた瞬間、春風の隣に座るリアナが、ラッセルを鋭い目で睨みつけた。
そう、
「おい何ハルを脅しとるんだコラァ」
という強い怒りを込めて、だ。
それに気づいたのか、ラッセルは大慌てで、
「お、おいおい、そんな怖い顔すんなよ! だ、大丈夫だって、多分!」
と、春風に向かってそう言った。
春風は「ハァ」と溜め息を吐くと、
「わかりました。こっちが終わり次第、総本部長室に向かいます」
と、ラッセルに笑顔で言った。ただそれでも不安なのか、ちょっと弱々しい笑顔なのだが。
ラッセルは「すまん」と言いたげな表情をすると、
「じ、じゃあ、次の仕事があるんで、俺はこの辺でな」
と言って、そそくさとその場を後にした。
暫くの間沈黙していると、それまで黙っていたアリシアが口を開いて、
「すまない、私達の事情に、君達まで巻き込んでしまって」
と、春風とリアナに深々と頭を下げて謝罪した。
現在、彼女は断罪官の証である黒と銀の鎧鎧を脱いで、代わりに簡素なマントを羽織っている。それは、シャーサルに入る前に、
「その鎧は脱いだ方がいい。断罪官の鎧を着たままだと、色々とややこしい事になるからな」
と、ラッセルに言われたからだ。
そんな彼女に、春風とリアナは、
「いえ、謝らないでください。あいつらをぶっ飛ばすと決めたのはこちらの意志ですので」
「そうそう、悪いのはあいつらなんだし」
と、優しくそう言った。
しかし、アリシアはそれでも「だが……」と言ったので、春風は目の前の残った料理を平らげると、
「よし、ご馳走様でした! それじゃあ、続きは総本部長室でって事で、行きましょうか!」
と、元気よく立ち上がって言った。そして、リアナもそれに続く様に、
「うん、行こう行こう!」
と、元気よく言った。
アリシアは呆気に取られながらも、
「……わかった」
と言うと、スッと立ち上がり、それに続いてアデル達も立ち上がった。
その後、春風とリアナはアリシア達と共に食堂を後にし、総本部長室の扉の前に立つと、トントンとノックした。
「どうぞ」
扉の向こうからそう声が聞こえたので、春風は意を決して、
「失礼します」
と、ノブに手をかけて扉を開けると、
「お待ちしておりましたよ、ハルさん」
そこには、穏やかな笑みのフレデリック総本部長が1人待ち構えていた。
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