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第5章 対決、断罪官
第69話 春風の「答え」、そして……
しおりを挟む「これが、全ての理由だ」
そう語り終えたアリシアの表情は、語る前よりも一層暗くなっていた。アリシアだけじゃない。フィオナやアデル達の表情も、同じ様に暗くなっていた。
(そういう事かよ……)
春風と零号内のジゼルも、事情を知って複雑な表情になった。ただ、春風にはそれ以上に、どうしても譲れない「思い」があるのだが、今はそれを言う時ではない思い、この場は黙る事にした。
その後、春風はアリシアに、アデル達が盗んだ物のもとへと案内された。そこには食糧の他にも、武器や回復薬といったものまでもが保管されていた。
当然、そこには白い風見鶏から盗まれた「特製モーニングスープ」の鍋もあったのだが、中身が空っぽになっているのを知ると、春風はショックでその場に膝から崩れ落ちた。
それから暫くして、漸くショックから立ち直った春風は、アリシア達の前で口を開いた。
「アンタらの事情はよくわかった。だけど、わかったうえで、敢えて言わせて貰う」
春風は真っ直ぐアリシア達を見て言い放つ。
「やっぱアンタらは許せないし、このまま放置するわけにもいかねぇよ! アンタらには悪いが、俺と一緒にシャーサルにきて貰う!」
『っ!』
その答えを聞いた瞬間、アデルが怒りに駆られて春風の胸ぐらを掴んだ。
「お前に……お前に何がわかる! 目の前で家族を殺された俺達の気持ちが! お前なんかにわかるのかよ!?」
春風に悲しみと怒りの眼差しを向けるアデル。だが、
「わかるさ! 何故なら、俺もアンタらと同じだからだ!」
「な、何だと!?」
春風のまさかの即答に、アデルは思わず胸ぐらを掴んでいた手を話した。これにはアリシア達も驚いたようだ。
そんな彼らを前に、春風はさらに話を続けた。
「事情があって詳しくは言えないけど、俺は小さい頃、とある人物達の欲望が引き起こした『惨劇』に巻き込まれて、大好きな両親を失った。両親だけじゃない、その日は多くの人達も死んだんだ。あれから時が経った今でも、俺はその時の記憶にずっと苦しめられてきた。それは、今でも変わっていない」
「そ、そんな」
「まぁでも、今は新しい『家族』や、今日までに出会った『大切な人達』のおかげで、こうして普通に生きているけどね」
春風の言葉に、アリシア達は空いた口が塞がらなかった。
「ま、今はそれは置いといて、そんな俺には、どうしても譲れない『思い』というか、『信念』っぽいものがある。それは……」
春風を除く全員が、ゴクリと固唾を飲む。
「『美味しいは、正義である』、だ!」
その言葉を聞いた次の瞬間、アリシア達は一斉に叫んだ。
『なんじゃそりゃあああああああっ!』
だが、春風は彼らを無視してさらに話を続けた。
「まぁ、黙って聞け。俺はな、本当に美味しいものってのは、人を心の底から笑顔にするものだと信じているんだ。それは、食べる側の人だけじゃない、提供する側の人も一緒だ。そして今回、アンタらが盗んだものの中には、俺が世話になっている宿屋の料理人が作った料理も入っていた。それが盗まれたと聞いた時、俺とその料理を作った料理人、そして料理を楽しみにしていた人達は凄くショックを受けた。その時のその人達の顔は、とても辛そうだったよ」
『……』
「大切な人達を失った悲しみや辛さはわかる。だけど、だからといって、それを言い訳にして、他の人を悲しませるのは違うだろ! それは、アンタらから大切な人達を奪った、断罪官の連中と一緒なんじゃないのか!?」
『っ!?』
その瞬間、アリシア達は激しいショックを受けた。
「酷い事を言っているのはわかっている。綺麗事だと、凄く最低な事を言っている事も。だけど、これは俺にとって、どうしても譲れない『思い』なんだ」
春風はそう言った後、アリシア達に向かって手を差し出した。
「一緒にシャーサルに来てください。アンタらがした事は俺は今でも許せないけど、だからこそアンタらには生きて罪を償ってほしいと思っているんだ。だから……」
「その必要はない」
『!?』
春風が最後まで言おうとした、まさにその時だった。
小屋近くの茂みから、漆黒の鎧を纏った集団が現れたのだ。
「だ、断罪官!?」
そう、彼らは断罪官だった。
そして、彼らのリーダーらしき40代くらいの男性が、春風とアリシア達に向かって告げる。
「貴様らは、ここで死んでもらう!」
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