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第五章・西の離宮

32・運命の邂逅 2

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 目を離せなかった┉。

 あまりにも神々こうごうしい光に満ちたその人を──。


 「大丈夫ですか?お怪我┉ありませんか。」

 「┉┉うっ。」

 何も言えない┉言えるはずないだろう?
 こんなにも美しい人を前にして──。

 その人は、肩まである銀色の綺麗な髪をサラリと揺らしながら近づいて来た。
 真っ白な雪のような肌┉その全ての人を惹きつけるようにきらめく紫の瞳。
 小さく閉じられた果実のような唇──。

 な、何だ┉この世の者とは思えぬ美しさは┉。

 あまりの衝撃に言葉が出ない。私を痛みで話す事が出来ないのだと誤解したその人は、他の御使い達に私を神殿内に運ぶように告げる。

 そこに慌てて護衛が私の方に近付いてこようとしていたが、無言むごんで首を振りそれをせいした。
 剣をたずさえた者を神殿に入れる訳ないだろう?
 この場に控えているように目で合図して伝える。

 その美しい人とは違い、比較的ガッシリとした体格の御使いに軽々と抱えられた私は神殿の中に連れて行かれたのだ。

 神殿の中はせいの空気に満ちている┉。
 御使い達の足音以外は聞こえない。
 神殿をりそのまま奥に進んでやがて居住区のような所の一室の前で止まった。

 「中に運んでおくれ。」その人がそう言うと抱えてくれている御使いはうなずき運んでくれる┉。
 
 御使いにも位があるのだろうか?明らかに歳下とししたに見えるその人の言う事を黙って従っている。
 それから部屋に入ると、ベッドの上に私を座らせて、さっと出て行った。

 ──すると┉急に笑顔になり
 「ごめんね!驚かせちゃって┉痛くない?手当てさせてね!」と言って、着ていた詰襟つめえり神衣しんいを脱ぎそれを椅子に掛け、近くの棚の奥から薬箱らしい物を出した。

 「ここ。あなたの部屋ですか?」と尋ねると

 「そうだよ。私の部屋だ。何にも無いだろう?」ごめんね~と何故か謝りながら言う。

 膝のりむいた所を丹念たんねんに消毒し、薬を塗って包帯を巻く。
 そして┉

 「不思議でしょ?癒やしの力で治せばいいのに┉って思わなかった?」
 そう言えばそうだな┉何故だろう?と見ていると

 「君はもしかして癒やしの力に助けられた事があるんじゃないかな?」と。

 何故判るのか┉と不思議に思っていると、波動を感じるのだと言う。

 あっ!先程私も感じた波動か┉?

 「癒やしの力ね、少し制約があって、三年以内に再度力を使われるとそれが毒になってしまうんだよ┉。」

 ──毒?癒やしの力が毒に!?

 ビックリして目を丸くすると、その人が笑いながら┉

 「大丈夫、大丈夫!毒と言っても命に危険がある訳じゃないよ!ただ┉生命力が弱まるって言うのかな?」そして暫く眠ったままの状態になってしまうんだと言った。 

 「でもその後、必ず目覚めるからね。それが半年か一年か┉なんだけど。」

 そんな秘密があるんだ┉と驚く。
 そんな様子の私に、実は他にも沢山秘密あるんだよ~と楽しげに笑った。


 ──なんて綺麗な笑顔なんだ┉こんな素晴らしい人が写し身様?

 会った瞬間、分かってしまった┉この人が私を救ってくれた人なんだ┉と。

 写し身┉女神アイリスの写し身だ。

 その事に感動しきりで、じっとその人を見つめた┉。
 
 ──男の方┉なんだよな?それに凄く若い。私ともあまり変わらないのか?

 「あの┉失礼を承知でお尋ねしますが、男の方┉なんですね?それにかなりお若いのではないかと┉」

 それにはフフフッっと可笑おかしそうに笑い「そうだよ、男だ。私は16歳になる。」と言った。

 16歳?そんなに若いのか?写し身様が!まだ子供ではないか!!

 10歳の私とは意外と離れていたが、それでも神の御使いの最高位さいこういに近いであろうその人がそんな年齢である事には驚く┉。

 ──だけど凄く人懐っこくて優しくて、素敵な方だなぁ。

 すっかりその事に興奮してしまった私は王子だと言う事はもちろん隠すが、お礼をしにここに訪れた事や旅で経験した話しなどを楽しげに話してしまっていた。

 うん。うん!と嬉しそうに私の話しを聞いてくれるその人┉もっと話したい!一緒に居たい!との気持ちが膨れ上がる。

 しかし┉名残惜なごりおしいがもう戻らねばならない┉皆を心配させる訳にはいかないから。

 丁寧にお礼を言い神殿を後にする事に。
 そして振り向いた私は┉。

 「是非またお会いしたいのですが┉。」

 「┉うん。そうだね!機会があったらまた会おう。」
 そう言って満面の笑顔を見せてくれた──。




 ──まぶしい、眩しいその笑顔。私の中で忘れられない記憶┉。

 この結婚の話しがグラン聖国からもたらされ、もしや?と言う想いに駆られた┉あの人ではないか?と。

 ──あの美しい人┉。

 馬車から降りて来たスリジャ様を見た時┉歓喜した!!
 あぁ┉あの人だ!なんて私は幸せなんだ┉あの人をついに手に入れられるのだ┉と。

 
 私の初恋のあの人を──。
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