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第二章・小説の中の僕

34・嘘の上塗り

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 僕は唖然として、二人を見つめた。

 ミシェルはクリスと同じテーブルに座って、楽しげに何やら話している。
 店の外に居る僕がその会話を聞くことは出来ないが、二人が既に親しげなのは分かる。

 この前と言ってもほんの三ヶ月ほど前だが、初めてクリスに会ったあの時、ミシェルは名前を聞いても知らないと…確証はないが、それは嘘では無かったように思う。

 という事は、あれから知り合ったのだろうか…?
 だけど、もしそうなら僕に言ってもいいように思うんだ。
 ただの知り合いなら、こんなふうに黙って二人で会わなくっても…

 「あ、あれ?店の中にいる方、ミシェル様じゃないですか?それに┉あれは皇太子殿下と一緒にいた赤毛の令息の…クリス?」

 隣に居たオリヴァーも、僕の目線の先に二人を見つける。

 ──やはり二人で間違いないんだ…僕だけじゃなく、オリヴァーにもそう見えるのなら、正真正銘あの二人だという事だ。

 「な、何か用事がお有りなんですよ、きっと!」と、僕の様子を見てマズいと思ったらしいオリヴァーが慌てて言ったけど、一度感じた疑惑は決して消せない。

 小説「真実の愛を求めて!」の、主人公とヒロイン(?)がとうとう出会ってしまった…

 ヤバい…これは僕史上最大の危機では!?

 それから無言で考え込んでしまった僕を、オリヴァーが引っ張って公爵家まで帰る。

 部屋に戻ってからも落ち着かない気持ちが続いて、取り敢えず僕はミシェルが帰って来るのを待った。

 ──ミシェルに直接、今日の事を聞いてみよう!

 それから遅い時間に帰って来たミシェルは、かなり疲れた様子だった。
 疲れているのに悪いかも?って思ったけれど、聞かずにはいられない!

 「ミシェルお帰りなさい!すごく遅い時間になったんだね?ところで今日は…どこへ行ってたの?」

 ミシェルの帰りをずっと待ち構えていた僕は、玄関ホールで出迎えてそう尋ねた。
 そんな僕の行動に少しだけ驚いていた様子だったけど、嬉しそうに微笑んでそれから家業の取引の為に、隣街まで行って来た…って答えた。

 ──隣街?行ったのは本当かもしれないが、さっきこの城下街に居たよね?

 「そうなんだ…忙しいみたいで大変だったね。今日はずっと隣街に?」

 ミシェルはその問いに、朝から帰るまでずっと隣街で仕事をしていたと…そう言った。

 ──これは間違いなく、嘘をついている!
 やましい気持ちはないのかも知れないが、クリスと会った事を僕には隠したいんだ…そう理解した。

 そしてこの日を境にミシェルは行き先を告げずに出掛ける事が増えた。
 その度にまたクリスと?って思ってしまって…
 
 ──これはもしかして決まりなの?
 ミシェルは僕に隠れてクリスと会っている。
 そして、僕よりもクリスを好きになっていくんだろうか?

 元々それを覚悟して始めた商売は順調で、ある程度のお金は貯まっている。
 だから、もういつでもこの公爵家を出ては行けるのだ。
 
 ──だけど…もう少し居れるのかな?ミシェルの側に…

 そう思ってこの公爵家を去る決心がつかない僕に、意外なところからその決断を迫られる事態になる。

 何と僕がロテシュ伯爵家の当主に!?
 もしそうなると、僕達はどうなってしまうのだろう。
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