【完結】伯爵家当主になりますので、お飾りの婚約者の僕は早く捨てて下さいね？

第一章・僕が公爵家に居るワケ

1・もしかして異世界転生か！？

　　──く、苦しい…

　僕は水の中で藻掻もがき苦しんで、今にも死にそうになっている。

　水死するのって、こんなに苦しいものだったとは…遠のく意識の中でそう思った。
　薄暗くヌルヌルとした池の水がまるで自分を離すまいとしているかのように纏まとわりついてどんどん沈んでいく。
　目を開けても藻が蔓延はびこっていてまるで見えない。
　大体、この世界の衣装ってゴテゴテして重いんだよ！んっ？

　ち、ちょっと待て！『この世界』って何だ！？なんで…
　そういやぁ、僕って名前は…マリン・ロテシュ？なんか違和感ない？

　海…海人！カイトだ！！み、宮崎みやざき海人かいとだよ。

　何だろう？これは…一体。

　──ゴボッ、ガフォッ。
　そんな事を考えていたら相当な量の水を飲んでしまった…

　あぁ、もうダメだ…死んだな。
　僕はいよいよそう覚悟して意識を手放した──。




　「ん…ん、んん…ぐぁ！」

　次の瞬間、目を開けると見慣れた天井が見える…僕の部屋？天国ではないな？
　この一年の間、毎日見ているから間違いない。

　──死んでないんだ…その事実にビックリ！だけどあの状況でよく死ななかったよね？

　身体が鉛のように動かないし、そしてあちこち痛い。おまけに…

　「臭っさ！何？この匂いは～」

　沼臭いっていうか…池か？全身から独特の生臭い匂いがする。
　だけど当たり前だよね？あの池に落ちたんだから。
　ここまで運んでくれた人もさぞかし臭かっただろう。

　「うっ！う…んっ。」
　僕は何とか自分で身体を起こしてみる。

　確かに全身は痛いけど、大きなケガとかは無さそうだ。
　もう我慢できない！この臭いのを何とかしなければ。

　──ズッ…ズ…ズズ

　重い脚を引きずりながら移動する。
　直ぐ側の筈のドアがこんなに遠いなんて！

　息も絶えだえになりながらバスルームまで来た。
　ウッ！ドアノブを回す手も筋肉痛に似た痛みが走って思わず声が出る。

　そのままバスタブまで這はっていき、腰掛ける。
　そのまま蛇口をひねり湯と水を調整しながら温かい湯を張っていく。

　──はぁ～っ疲れた…

　こんな苦労をするくらいなら、メイドや召使いを呼べばいいのは分かってるけど、僕はまだ一人で居たかったんだ。
　湯が溜まっていく間に、ちょっと考える。

　──僕って、異世界転生者だったんだ！！

　池で死にそうになったおかげで前世の記憶が戻る…そんなのよくある話しだと思ってたけど、まさか僕もだとはねぇ～。
　これからどうしたもんかなー！頭痛いや～。

　「おっと！湯、張りすぎるところだったわ。」

　丁度よいところで湯を止めて、誰が着せてくれたのか知らないが生臭いパジャマを脱ぐ。
　勿体ないが、このパジャマ捨てなきゃならないだろうなぁ…って思いながら洗面台に置いて、バブルボムを二つ湯に投げ入れる。

　あっという間に泡立つ湯になり、そっと足から入っていく。

　「うーっ、ハァ！気持ちいい！！もうこのまま頭まで洗ってしまおう。」

　取り敢えず、この臭いのを何とかしないといけないので構わずに風呂の中でゴシゴシと身体と頭を洗う。
　生まれ変わったような気持ち良さだ！
　きっと何度か風呂に入らないと完全には匂いはとれないだろうが、我慢出来る程度にはなるだろう。

　風呂に入ったまま一度汚れた湯を抜いて、また湯を張っていく。
　今度は身体を濯ゆすぐように泡を落として綺麗さっぱりだ。

　滑らないように慎重にバスタブから出てお次は？ってなったところで、アッしまった！着替えを用意して来なかったのに気付く。
　これは仕方がない…だけど僕が意識を取り戻した事は誰も知らない筈だから。裸でも部屋の中なら平気だろうね？

　そう思って、一応腰にはタオルを巻いて肩にバスタオルを掛けてバスルームを出た。

　「クローゼットから着替え、取って来なきゃなぁ～」

　その格好のままクローゼットに向かおうとしていた時、イキナリ部屋の扉が開いた。

　──えっ、誰だよ？ノックしろってー！！

　僕が驚いて扉の方に向き変えると、そこには意外な人物が驚愕の表情で立っていた。

　──ヤバい…ミシェル。