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第十一章・僕らの幸せ
88・兄弟の絆
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「それで何でエリオットが怪我したことを言わなかった訳?おまけに身を隠したりして…」
アルベルトさんが、そうジェイデンに詰め寄る。だけどジェイデンは、俯いて押し黙ったままで…
あれから僕達は、込み入った話になるだろうかと取り敢えず家の中へと入った。テーブルに僕と坊ちゃまが隣同士で座り、僕の前にはジェイデンが。そして坊ちゃまの前にはアルベルトさんが座った。えっ?何でアルベルトさんもなのかって?それは正直僕だって思うが、成り行きでとでもいいましょうか…。この際、話し合いの進行でもしてもらいましょ!
そしてジェイデンは、家に入ってから一言も発していない。それはそうだろう…誰にも言わず逃げるようにしてここに来たからだ。僕が怪我をしたのは元を正せば自分の不注意からで、ジェイデンのせいではない。正確に言うと、言い争いというか喧嘩みたいになったのは本当だ。だけど喧嘩両成敗っていうだろ?結局は片方だけが悪いんでもないし…
だけど坊ちゃまやアルベルトさん、それに公爵家の人々や学園の使用人仲間のことを考えると…やっぱり正直に言って欲しかったなとは思う。皆んなどんなにか心配しただろう…それを考えると、ジェイデンのやったことは赦されることではない。だけどそれは僕以外の人の場合だ。だから僕に限っては、少し気持ちが分かる気がする。だから…
「僕のことを心配してくれたり探してくださった方には、本当に申し訳ないことをしたと思っています。お叱りもご尤もだとも。だけど僕は…ジェイデンを責めることは出来ません!申し訳ありませんが、僕だけはどうしても…」
僕はそう言って目の前のジェイデンを見る。ジェイデンは、泣きそうな顔でテーブルの上で拳を握っている。その手に両手を伸ばして、上から覆うようにしてぎゅっと握った。それに驚いたようにバッと顔を上げて…
「兄さん…何で責めないんだよ!僕は兄さんの幸せな日常を奪ったんだよ?それなのに…」
そう言うジェイデンの頬に一筋の涙が溢れる。それに僕は、気持ちは分かっているんだと伝える為に、顔を見ながらウンウンと何度も頷いた。
「その件については、実は二人の父親であるアノー伯爵代理から話を伺ってあるんだ。私がここに辿り着く上で重要な情報をくれたのが伯爵代理で…君達も初めて聞く内容かも知れない」
その坊ちゃまの言葉には非常に驚いた。ここで父の名が出るなんて、思ってもみなかった!僕は勿論ジェイデンも、その内容が気になって坊ちゃまを見つめる。それから坊ちゃまは、父から伝えられた一部始終を話してくれた。
──信じられない!そんなことが?と愕然とする。
僕は今の今まで、父と義母は愛し合っていたのだと思っていた。それが…違っただって!?おまけに愛していたのは、僕の母だと。そして僕も…だと?
いっぺんに意外な話を聞かされて、頭が整理出来ない。それと同時に腹立ちもあった。まったく不器用過ぎるあの父のせいで、苦労するのは息子の僕達だったじゃないか!と。まだ父を赦すことは出来ないが、理解はしてあげたいと思った。だけどジェイは知っていたのか?と疑問に思って、チラッと見ると…やはり同じように呆然としている。
「僕もそれは知らなかった!母はもちろん、僕達にも愛情を向けない父上を何故だろうと思っていたけど…。あの母は、父上にもそんな仕打ちを?それなら尚更、僕なんて生きていたって…」
それからボロボロとテーブルを濡らすジェイデン。そんな弟を見ていられず僕は椅子から立ち上がり、ジェイデンの方へと近付く。そして大きな身体を小さく丸めるようにして泣いている背中を、そっと抱いてやった。僕と暮らすようになって少しふっくらとしたが、まだまだ肉付きが悪いその背中。それに切なくなって泣きそうになる…
「ジェイ、大丈夫だ…僕もイーライも君が必要だよ?それはこれからも変わることなどないんだ!心配しないで」
僕達が兄弟なのは変わらないんだと伝えて、その背中を何度も擦った。それには鼻息荒く文句を言っていたアルベルトさんも、それ以上は言えずに…
「ん…まあ、怪我はソイツのせいでもないようだし。それにこうやって無事会えたからいいとするか!」
何やかんやで泣いている者には滅法弱いアルベルトさんが、その場を収めようと明るく言ってくれて、僕もそれに安心する。それから坊ちゃまも…
「エリオット…明日王都に帰ろう。見つかった旨の一報は公爵家へと入れておいたが…皆んながずっと帰りを待っているから。それでいいね?」
僕は大きく頷いてそれに同意する。だけど、どうしても一つだけお願いがある。それで…
「坊ちゃま、アルベルトさん。すみませんが、今夜だけはジェイデンと二人でこの家で過ごさせて貰えませんか?二人きりで過ごす最後になりますから…。明日迎えに来ていただいたら、直ぐに出発出来るように準備しておきますから」
それに坊ちゃまとアルベルトさんは、笑顔で頷いてくれる。それから二人はこの家から出て、アジャンタの宿へと帰って行った。ここに残ったのは、兄弟二人だ…
「夕飯は、腕によりをかけて美味しいものを作るよ!ジェイも手伝って~」
そう明るく言った僕に、ジェイデンもやっと笑顔になって…
「うん…そうしよう!」
そして二人は、何事も無かったように料理を始める。そしてモリモリと食事をして、それから寝る時は一つのベッドで一緒に寝たんだ。それ程大きくもないベッドに、ぎゅうぎゅうになって。幼い頃は出来なかった『初めて』をしようと…
アルベルトさんが、そうジェイデンに詰め寄る。だけどジェイデンは、俯いて押し黙ったままで…
あれから僕達は、込み入った話になるだろうかと取り敢えず家の中へと入った。テーブルに僕と坊ちゃまが隣同士で座り、僕の前にはジェイデンが。そして坊ちゃまの前にはアルベルトさんが座った。えっ?何でアルベルトさんもなのかって?それは正直僕だって思うが、成り行きでとでもいいましょうか…。この際、話し合いの進行でもしてもらいましょ!
そしてジェイデンは、家に入ってから一言も発していない。それはそうだろう…誰にも言わず逃げるようにしてここに来たからだ。僕が怪我をしたのは元を正せば自分の不注意からで、ジェイデンのせいではない。正確に言うと、言い争いというか喧嘩みたいになったのは本当だ。だけど喧嘩両成敗っていうだろ?結局は片方だけが悪いんでもないし…
だけど坊ちゃまやアルベルトさん、それに公爵家の人々や学園の使用人仲間のことを考えると…やっぱり正直に言って欲しかったなとは思う。皆んなどんなにか心配しただろう…それを考えると、ジェイデンのやったことは赦されることではない。だけどそれは僕以外の人の場合だ。だから僕に限っては、少し気持ちが分かる気がする。だから…
「僕のことを心配してくれたり探してくださった方には、本当に申し訳ないことをしたと思っています。お叱りもご尤もだとも。だけど僕は…ジェイデンを責めることは出来ません!申し訳ありませんが、僕だけはどうしても…」
僕はそう言って目の前のジェイデンを見る。ジェイデンは、泣きそうな顔でテーブルの上で拳を握っている。その手に両手を伸ばして、上から覆うようにしてぎゅっと握った。それに驚いたようにバッと顔を上げて…
「兄さん…何で責めないんだよ!僕は兄さんの幸せな日常を奪ったんだよ?それなのに…」
そう言うジェイデンの頬に一筋の涙が溢れる。それに僕は、気持ちは分かっているんだと伝える為に、顔を見ながらウンウンと何度も頷いた。
「その件については、実は二人の父親であるアノー伯爵代理から話を伺ってあるんだ。私がここに辿り着く上で重要な情報をくれたのが伯爵代理で…君達も初めて聞く内容かも知れない」
その坊ちゃまの言葉には非常に驚いた。ここで父の名が出るなんて、思ってもみなかった!僕は勿論ジェイデンも、その内容が気になって坊ちゃまを見つめる。それから坊ちゃまは、父から伝えられた一部始終を話してくれた。
──信じられない!そんなことが?と愕然とする。
僕は今の今まで、父と義母は愛し合っていたのだと思っていた。それが…違っただって!?おまけに愛していたのは、僕の母だと。そして僕も…だと?
いっぺんに意外な話を聞かされて、頭が整理出来ない。それと同時に腹立ちもあった。まったく不器用過ぎるあの父のせいで、苦労するのは息子の僕達だったじゃないか!と。まだ父を赦すことは出来ないが、理解はしてあげたいと思った。だけどジェイは知っていたのか?と疑問に思って、チラッと見ると…やはり同じように呆然としている。
「僕もそれは知らなかった!母はもちろん、僕達にも愛情を向けない父上を何故だろうと思っていたけど…。あの母は、父上にもそんな仕打ちを?それなら尚更、僕なんて生きていたって…」
それからボロボロとテーブルを濡らすジェイデン。そんな弟を見ていられず僕は椅子から立ち上がり、ジェイデンの方へと近付く。そして大きな身体を小さく丸めるようにして泣いている背中を、そっと抱いてやった。僕と暮らすようになって少しふっくらとしたが、まだまだ肉付きが悪いその背中。それに切なくなって泣きそうになる…
「ジェイ、大丈夫だ…僕もイーライも君が必要だよ?それはこれからも変わることなどないんだ!心配しないで」
僕達が兄弟なのは変わらないんだと伝えて、その背中を何度も擦った。それには鼻息荒く文句を言っていたアルベルトさんも、それ以上は言えずに…
「ん…まあ、怪我はソイツのせいでもないようだし。それにこうやって無事会えたからいいとするか!」
何やかんやで泣いている者には滅法弱いアルベルトさんが、その場を収めようと明るく言ってくれて、僕もそれに安心する。それから坊ちゃまも…
「エリオット…明日王都に帰ろう。見つかった旨の一報は公爵家へと入れておいたが…皆んながずっと帰りを待っているから。それでいいね?」
僕は大きく頷いてそれに同意する。だけど、どうしても一つだけお願いがある。それで…
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それに坊ちゃまとアルベルトさんは、笑顔で頷いてくれる。それから二人はこの家から出て、アジャンタの宿へと帰って行った。ここに残ったのは、兄弟二人だ…
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「うん…そうしよう!」
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