【完結】お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO

文字の大きさ
上 下
85 / 107
第十章・不思議の国のエリィ

84・ジェイの出発

しおりを挟む
 フライパンに油を引いて、分厚いハムを焼く。ジュージューと焼色が付いてきたら、その上に卵をパカッと割り落とした。そしてちょっと火を弱めて、蓋をする。蒸し焼きにして、もういいかな?って蓋を開けると…モアっと美味しそうな湯気が立って…出来上がりっ!

 「ジェイ、朝食が出来たよ~早くおいで」

 それにジェイは、まだ眠そうに目をこすりながらキッチンへとやってくる。

 「おはよー兄さん。昨日寝るのが遅くなっちゃったからさ、まだ眠くって…」

 最近ジェイは、制作に何日もかかるような大作を取り掛かっていた。何でも例のギルドに依頼されたとかで、流石のジェイもそれに困難を極めて…。魔道具といっても、イマイチどうやって作るのか僕は知らないけど、こうやって産みの苦しみを味わって出来た物が、目ん玉が飛び出るほど高くても仕方がないと思った。

 「体調は大丈夫なのか?それがまだ続くんだったら、これ以上は心配なんだけど…」

 もう何日も僅かな睡眠時間で働き詰めのジェイは、少し情けない顔をしながら、フーッと溜め息を吐いた。

 「もうすぐ完成しそうなんだ。だけど今回はちょっと時間がかかり過ぎたから…直ぐに王都まで運ばないと!納期ギリギリになっちゃって…」

 「そうなの?それは大変だ!休むまもなく行かないといけないんだね?準備も急がないと」

 テーブルに座ったジェイに、白パンを渡しながらそう言う。渡した後で、待てよ?もっと精をつけないと!と、もう一つパンを皿に置く。それから作り立てのハムエッグもね!

 「あのね、実は前から思ってたんだけど、僕も王都へついて行ってもいいかな?一度また行ってみたいと思ってるんだけど…どう?」

 意を決して聞いてみる。冬は無理だろうけど、今はまだ暖かい。もちろんジェイがお世話になっているギルドのオーナーも気になるが、実はもう一つ。僕が怪我をしたところに行ってみたいと思っている。ジェイが王都で住んでいた家の…そう思って、ハッと気付いた。それならさ、僕って何処に住んでいたのかなぁ?
 確かジェイはアジャンタで、僕らは一緒に住んでいなかったと言っていた。僕が怪我をして、このルンダ村に来るまでは…ということは、それまでは一人で何処かに住んでいたという事になる。おまけにあの日の、喧嘩した理由だって聞いてないし…

 何処かで住み込みで働いていた…ってことはないだろうか?それとも結婚してたとか…?流石にそれはないだろ!?
 想像しだすと止まらないが、もしも再び王都に行くとこが出来たら、何か思い出すかも知れないし。そう思ってジェイを見ると、何だか渋い顔をしている。「は、反対なの?」と恐る恐る聞いてみる。

 「兄さん、王都まで二日かかるんだよ?アジャンタ行きの半日でさえあんなことになったのに、行けると思う?乗り合い馬車で行くには安全とは言えないし、貴族が乗るような立派な馬車でもないと…無理じゃない?」

 ──ご指摘ごもっとも!そうだよね…行きたいけど、遠すぎるんだよ…

 こっちに来た時は、怪我をしていたこともあって、ジェイは知り合いに頼んで、御者付きの大きな馬車を借りてくれた。そのおかげで快適だったし、頭が痛すぎて他の痛みは気にならなかったんだ。それがこっちから王都へ…ってなると、それだけ立派な馬車などそもそも無くて…せいぜいマロリー爺さんの荷馬車を借りれるくらいだ。この前のアジャンタくらいの規模の街なら、もう少しマシな馬車を借りれるんだけど…

 「だからさ、今回は我慢して!大きな仕事だし安全に運びたいんだ。そのうち小さな物を王都まで…って仕事もあるだろうから。その時は一緒に行こう!ねっ?」

 それに僕は、渋々頷く。今回は諦めて、次の機会を待とうと思った。これ以上の問答は、更にジェイを疲れさせてしまうし。それから僕は気持ちを切り替えて、ジェイの王都行きの準備を手伝う。そして出発の日…

 
 「兄さん、危ないことはしないように!分かった?」

 「わ、分かった…」

 僕って、どれだけ信用ないのって思う。最近はそれなりに、しっかりしてきたつもりだけど?なんか複雑…

 「帰りはお土産沢山買って帰るからね?では、行ってきます!」

 そう言ってジェイは、王都へと旅立った。往復四日ほど移動にかかって、それから何日か王都で過ごしてからだと、帰るのは一週間以上かかるだろう。これほど長い間、一人で過ごすのは初めてで…ちょっと不安だ。だけどジャッキーもいるし、なんとかなる!そう思って、ジェイが見えなくなるまで手を降っていた。


 +++++


 「一人だと、料理もしなくなる…って、ホントだねぇ…」

 一人、ボンヤリとしてそう呟く。ジェイが出発してから二日が経った。元々狭い家でも、一人だと広く感じる。それに殆どやる事もなくて…
 食事に洗濯も、一人分だとあっという間に終わってしまう。それで今、ジャッキー用のヒマワリの種を収穫している。
 夏の間に咲かせたヒマワリが沢山種を付けた。花が終わってから真っ黒になるまで放って置いて、ちょうど今種が採れる時期になっている。それで大分萎れたヒマワリを、根ごと引き抜いて種だけを取る。

 「チチッ、チ、チチ、チッ」

 ジャッキーがゴキゲンで、僕の周りを回っている。それに微笑んで持っている種を渡す。それを器用に硬い殻を破って、中の白くて柔らかい部分だけを食べている。それを見ていると楽しくなって、笑いながら何度も繰り返した。

 「すみません…」

 突如、そんな声が聞こえる。この村に住んでいる者で、そんな呼び掛けをする人はいない。
やあ!…とか、おーい!…とかそんな感じ?それに少し驚いて、その声の方へと見上げる。

 「あ、あなたは!」

 僕は度肝を抜かれる!そこには見たこともないくらい美麗な人が立っていた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

推しのために、モブの俺は悪役令息に成り代わることに決めました!

華抹茶
BL
ある日突然、超強火のオタクだった前世の記憶が蘇った伯爵令息のエルバート。しかも今の自分は大好きだったBLゲームのモブだと気が付いた彼は、このままだと最推しの悪役令息が不幸な未来を迎えることも思い出す。そこで最推しに代わって自分が悪役令息になるためエルバートは猛勉強してゲームの舞台となる学園に入学し、悪役令息として振舞い始める。その結果、主人公やメインキャラクター達には目の敵にされ嫌われ生活を送る彼だけど、何故か最推しだけはエルバートに接近してきて――クールビューティ公爵令息と猪突猛進モブのハイテンションコミカルBLファンタジー!

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

完結|ひそかに片想いしていた公爵がテンセイとやらで突然甘くなった上、私が12回死んでいる隠しきゃらとは初耳ですが?

七角@中華BL発売中
BL
第12回BL大賞奨励賞をいただきました♡第二王子のユーリィは、美しい兄と違って国を統べる使命もなく、兄の婚約者・エドゥアルド公爵に十年間叶わぬ片想いをしている。 その公爵が今日、亡くなった。と思いきや、禁忌の蘇生魔法で悪魔的な美貌を復活させた上、ユーリィを抱き締め、「君は一年以内に死ぬが、私が守る」と囁いてー? 十二個もあるユーリィの「死亡ふらぐ」を壊していく中で、この世界が「びいえるげえむ」の舞台であり、公爵は「テンセイシャ」だと判明していく。 転生者と登場人物ゆえのすれ違い、ゲームで割り振られた役割と人格のギャップ、世界の強制力に知らず翻弄されるうち、ユーリィは知る。自分が最悪の「カクシきゃら」だと。そして公爵の中の"創真"が、ユーリィを救うため十二回死んでまでやり直していることを。 どんでん返しからの甘々ハピエンです。

【完結】幽閉の王を救えっ、でも周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?

北川晶
BL
 BLゲームじゃないのに、嫌われから溺愛って嘘でしょ? 不遇の若き王×モブの、ハートフル、ファンタジー、ちょっとサスペンスな、大逆転ラブです。  乙女ゲーム『愛の力で王(キング)を救え!』通称アイキンの中に異世界転生した九郎は、顔の見えない仕立て屋のモブキャラ、クロウ(かろうじて名前だけはあったよ)に生まれ変わる。  子供のときに石をぶつけられ、前世のことを思い出したが。顔のないモブキャラになったところで、どうにもできないよね? でも。いざ、孤島にそびえる王城に、王の婚礼衣装を作るため、仕立て屋として上がったら…王を助ける人がいないんですけどぉ? 本編完結。そして、続編「前作はモブ、でも続編は悪役令嬢ポジなんですけどぉ?」も同時収録。

出来損ないのオメガは貴公子アルファに愛され尽くす エデンの王子様

冬之ゆたんぽ
BL
旧題:エデンの王子様~ぼろぼろアルファを救ったら、貴公子に成長して求愛してくる~ 二次性徴が始まり、オメガと判定されたら収容される、全寮制学園型施設『エデン』。そこで全校のオメガたちを虜にした〝王子様〟キャラクターであるレオンは、卒業後のダンスパーティーで至上のアルファに見初められる。「踊ってください、私の王子様」と言って跪くアルファに、レオンは全てを悟る。〝この美丈夫は立派な見た目と違い、王子様を求めるお姫様志望なのだ〟と。それが、初恋の女の子――誤認識であり実際は少年――の成長した姿だと知らずに。 ■受けが誤解したまま進んでいきますが、攻めの中身は普通にアルファです。 ■表情の薄い黒騎士アルファ(攻め)×ハンサム王子様オメガ(受け)

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

【完結】竜を愛する悪役令嬢と、転生従者の謀りゴト

しゃもじ
BL
貴族の間で婚約破棄が流行し、歪みに歪んだサンドレア王国。 飛竜騎士団率いる悪役令嬢のもとに従者として転生した主人公グレイの目的は、前世で成し遂げられなかったゲームクリア=大陸統治を目指すこと、そして敬愛するメルロロッティ嬢の幸せを成就すること。 前世の記憶『予知』のもと、目的達成のためグレイは奔走するが、メルロロッティ嬢の婚約破棄後、少しずつ歴史は歪曲しグレイの予知からズレはじめる…… *主人公の股緩め、登場キャラ貞操観念低め、性癖尖り目、ピュア成分低めです。苦手な方はご注意ください。 *他サイト様にも投稿している作品です。

処理中です...