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第十章・不思議の国のエリィ
83・普通だけど楽しい日常
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「かぁ~わいそーなエリイ、売られていーくよぉ~」
またまた独特の節でそう歌った。何でって?それはまさにそんな状況だからだ。
あれから僕は胸がドキドキしながらも、疲れには勝てなくって、いつの間にか完全に眠りに落ちていた。起きたら朝だった…ってやつ?
それから慌ただしく帰る用意をして、宿屋を出なければならなかった。
外に出るとそこは祭りのあとで、人々は疲れて眠り呆けているのかほぼ人が居ない。そんな中僕達は家に帰ろうと荷馬車に乗り込んだ。うーんと、乗り込めたら良かったんだけどね?僕のお尻は限界を迎えていた。なかなかに腫れて、とてもじゃないけど座れない。無理せずに大人しくしていればまだ良かったんだろうが、踊りに参加なんかしちゃったおかげで腫れに腫れた。完熟の桃くらいに…ううっ!
それで苦肉の策で荷台の方に敷物を敷いて、そこに寝そべり只今出荷されて行くところで…ハハハッ、情けない。
「兄さん、本当に大丈夫?荷台の方がガタガタしないかなぁ。それに兄さんを売ったりしないから!」
そう焦りながらジェイが振り返って、いいからいいから!と手を振った。エリイお得意のお約束、It's a joke !と笑う。
荷台に呑気に寝そべって、空を見上げれば陽が燦々と降り注いでいる。だけどジェイが言うように、荷馬車が道の石や段差に車輪が取られるたびにガタガタ揺れて、その度にウッ!となる。
「それでジェイさ、魔法石はどのくらい仕入れたの?前から不思議だったんだけど、あんな高価な物を買うお金ってどこから…」
前からそう思っていた。魔道具を売ったお金だろうと思うけど、それだと事前に自分で魔法石を買わなければならない。売れた時に後で回収出来るとしても、先立つお金がなければ…と思うんだが。それに僕のせいで新しく家を買い、家財道具なども揃えないといけなくなったし。そう心配するとジェイは…
「それはね、死んだ母さんと関係がある。馬車の事故で亡くなったって言ったよね?その時一緒に乗っていたのが、その当時母さんが付き合っていた人だ。その人との結婚も考えていたんじゃないのかな?まあ、悪く言うと金づるだよ。その人はギルドを運営している裕福な平民でさ、その人だけ無事だったんだけど母さんの死に責任を感じて…だから御見舞金を渡された。それを使って買ってるんだ。ちなみに魔道具を売っているのもそのギルドなんだよ」
それは初耳だった…っていうか、ジェイの口から母の話自体聞かない。どんな人だったとか興味があるけど、ジェイの様子から碌でもない人なんだろうな…。もはや亡くなった人だし、ジェイが話すのが嫌なら聞かなくてもいいかとそのままにしていた。それならなるほど…と思う。
「そうなんだ…分かった。もうこれ以上聞かないよ!ジェイが無理してるんじゃないかと心配になっただけだし。さあ、そろそろルグル村が見えてくるかな?ジャッキーが待ち構えてるだろうなぁフフッ」
僕はジャッキーがお迎えに来てくれる様子を想像して笑った。チョロチョロと忙しなく動いて、僕の身体を登ってくるに違いない。そしてあの綿毛のような尻尾に頬ずりしようって…ん?そういえば僕は、ああいうふわふわとしたものに目がない。可愛いんだよね~
そう思ってワクワクし、家に帰り着くのが楽しみになった。ただ一つの気がかりを除いて…
そして昨日の夜のことを思い浮かべる。僕が寝ていると思い込んで、ジェイが呟いていた言葉を。
『ジュリアスが来たのか…?アイツ、諦めてはいないのだろうか…』
ジェイは確か、そう言っていた。どういう意味なんだろうか…ジュリアス、諦める?
それに恐らく人の名前だろう『ジュリアス』。その名を聞いただけで動悸が止まらない!それは何故なの?そのことが今僕に起きている不思議な感覚に、関係している気がする。そしてそれは、間違いないだろうことも…。だけど僕を一番迷わせるのは、それを聞いていいの?ってことだ。あのジェイの様子を思い出すと、それが最善とは思えずに…僕がそれを聞いたことは、秘密にしよう!それが僕の出した答えだ。ただ漠然と思うのは、もう少し待とうということ。いずれそのことを聞く時がくるだろうけど、今はその時ではない…そう結論付けた。
+++++
それから僕達の、普通だけど楽しい日常が過ぎていき、春から夏になり、そして今は秋になろうとしている。ジェイから聞くところによると、あの怪我をした日が僕の誕生日だったそうで、あれからもうすぐ一年になるのか…あっという間だったなと感慨深い。怪我のせいでちんちくりんだった髪も大分伸びて、寝癖に間違えられることも少なくなった。僕はといえば、残念ながら記憶が戻ることはなかったけど、そろそろ何処かで働いてみたらいいんじゃ?と思っている。ジェイにそう話してみたら、大反対で…兄さんは家事をしてくれてるんだからいいんだよ?とか言われてしまった。だけどさ、いつまでも弟の脛を齧っているのもどうなのよ?って思うんだよねぇ…
最近ジェイは、工房に籠もりきりになっている。何か大きな仕事を任せられているようだ。出来上がると王都にあるギルドに売りに行くんだけど、今度僕も一緒に行ってみようかと密かに思っている。そこで何処か働き口を見つけられたら…って。ここでの生活は大好きだけど、そうすればジェイも、二日もかけて売りに行く必要がなくなるし。僕は決心した…一年が経ったら、行動を起こさなきゃ!って。
僕がそう決意を新たにしているそんな裏で、実はジェイも決心していることがあった。それにあの人も…
ただ、僕はこの時そんなこととは全く思わずに、将来の僕達の姿を思い描いていたんだ。
またまた独特の節でそう歌った。何でって?それはまさにそんな状況だからだ。
あれから僕は胸がドキドキしながらも、疲れには勝てなくって、いつの間にか完全に眠りに落ちていた。起きたら朝だった…ってやつ?
それから慌ただしく帰る用意をして、宿屋を出なければならなかった。
外に出るとそこは祭りのあとで、人々は疲れて眠り呆けているのかほぼ人が居ない。そんな中僕達は家に帰ろうと荷馬車に乗り込んだ。うーんと、乗り込めたら良かったんだけどね?僕のお尻は限界を迎えていた。なかなかに腫れて、とてもじゃないけど座れない。無理せずに大人しくしていればまだ良かったんだろうが、踊りに参加なんかしちゃったおかげで腫れに腫れた。完熟の桃くらいに…ううっ!
それで苦肉の策で荷台の方に敷物を敷いて、そこに寝そべり只今出荷されて行くところで…ハハハッ、情けない。
「兄さん、本当に大丈夫?荷台の方がガタガタしないかなぁ。それに兄さんを売ったりしないから!」
そう焦りながらジェイが振り返って、いいからいいから!と手を振った。エリイお得意のお約束、It's a joke !と笑う。
荷台に呑気に寝そべって、空を見上げれば陽が燦々と降り注いでいる。だけどジェイが言うように、荷馬車が道の石や段差に車輪が取られるたびにガタガタ揺れて、その度にウッ!となる。
「それでジェイさ、魔法石はどのくらい仕入れたの?前から不思議だったんだけど、あんな高価な物を買うお金ってどこから…」
前からそう思っていた。魔道具を売ったお金だろうと思うけど、それだと事前に自分で魔法石を買わなければならない。売れた時に後で回収出来るとしても、先立つお金がなければ…と思うんだが。それに僕のせいで新しく家を買い、家財道具なども揃えないといけなくなったし。そう心配するとジェイは…
「それはね、死んだ母さんと関係がある。馬車の事故で亡くなったって言ったよね?その時一緒に乗っていたのが、その当時母さんが付き合っていた人だ。その人との結婚も考えていたんじゃないのかな?まあ、悪く言うと金づるだよ。その人はギルドを運営している裕福な平民でさ、その人だけ無事だったんだけど母さんの死に責任を感じて…だから御見舞金を渡された。それを使って買ってるんだ。ちなみに魔道具を売っているのもそのギルドなんだよ」
それは初耳だった…っていうか、ジェイの口から母の話自体聞かない。どんな人だったとか興味があるけど、ジェイの様子から碌でもない人なんだろうな…。もはや亡くなった人だし、ジェイが話すのが嫌なら聞かなくてもいいかとそのままにしていた。それならなるほど…と思う。
「そうなんだ…分かった。もうこれ以上聞かないよ!ジェイが無理してるんじゃないかと心配になっただけだし。さあ、そろそろルグル村が見えてくるかな?ジャッキーが待ち構えてるだろうなぁフフッ」
僕はジャッキーがお迎えに来てくれる様子を想像して笑った。チョロチョロと忙しなく動いて、僕の身体を登ってくるに違いない。そしてあの綿毛のような尻尾に頬ずりしようって…ん?そういえば僕は、ああいうふわふわとしたものに目がない。可愛いんだよね~
そう思ってワクワクし、家に帰り着くのが楽しみになった。ただ一つの気がかりを除いて…
そして昨日の夜のことを思い浮かべる。僕が寝ていると思い込んで、ジェイが呟いていた言葉を。
『ジュリアスが来たのか…?アイツ、諦めてはいないのだろうか…』
ジェイは確か、そう言っていた。どういう意味なんだろうか…ジュリアス、諦める?
それに恐らく人の名前だろう『ジュリアス』。その名を聞いただけで動悸が止まらない!それは何故なの?そのことが今僕に起きている不思議な感覚に、関係している気がする。そしてそれは、間違いないだろうことも…。だけど僕を一番迷わせるのは、それを聞いていいの?ってことだ。あのジェイの様子を思い出すと、それが最善とは思えずに…僕がそれを聞いたことは、秘密にしよう!それが僕の出した答えだ。ただ漠然と思うのは、もう少し待とうということ。いずれそのことを聞く時がくるだろうけど、今はその時ではない…そう結論付けた。
+++++
それから僕達の、普通だけど楽しい日常が過ぎていき、春から夏になり、そして今は秋になろうとしている。ジェイから聞くところによると、あの怪我をした日が僕の誕生日だったそうで、あれからもうすぐ一年になるのか…あっという間だったなと感慨深い。怪我のせいでちんちくりんだった髪も大分伸びて、寝癖に間違えられることも少なくなった。僕はといえば、残念ながら記憶が戻ることはなかったけど、そろそろ何処かで働いてみたらいいんじゃ?と思っている。ジェイにそう話してみたら、大反対で…兄さんは家事をしてくれてるんだからいいんだよ?とか言われてしまった。だけどさ、いつまでも弟の脛を齧っているのもどうなのよ?って思うんだよねぇ…
最近ジェイは、工房に籠もりきりになっている。何か大きな仕事を任せられているようだ。出来上がると王都にあるギルドに売りに行くんだけど、今度僕も一緒に行ってみようかと密かに思っている。そこで何処か働き口を見つけられたら…って。ここでの生活は大好きだけど、そうすればジェイも、二日もかけて売りに行く必要がなくなるし。僕は決心した…一年が経ったら、行動を起こさなきゃ!って。
僕がそう決意を新たにしているそんな裏で、実はジェイも決心していることがあった。それにあの人も…
ただ、僕はこの時そんなこととは全く思わずに、将来の僕達の姿を思い描いていたんだ。
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