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第十章・不思議の国のエリィ
80・あの日の真相
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「私は以前から疑問でした。失礼ですが、あなたのような口下手で不器用な方が、何故浮気などしたのかと…」
自分の親ほどのこの人に、このような物言いは御法度だと分かっている。それにこんな質問を投げかけるのも…だけど聞かずにはいられなかった!これは愛するエリオットが、何故あのような目に遭わなければならなかったのかを、判断する上で重要なのではないかと思ったから。だが、そんな質問は答えにくいのだろう、伯爵代理の眉間の皺は更に深くなり、その表情は私を睨んでいるようにも見える。だが…
「本当は本意では無かった!私は浮気するつもりなど、最初から無かったんだ…何故なら、エリオットの母親を心から愛していたから」
私の予想が当たったらしい。そんなことだろうと思っていた。この無骨な男が、そんな浮気などを器用に、自ら仕出かす筈などない。
「エリオットの母親は、世間では私に一目惚れしたことになっています。だけどそれは事実とは少し違う。実は、一目惚れしたのは私の兄になのです。そして結婚話がとんとん拍子に決まっていきました。そんな時、王都には乱暴を働く狼藉者が他国から入り込みました。私と同じ騎士をしていた兄は、ある日宿直でその者達が暴れていると通報を受けました。その戦闘の末その者達に殺されてしまったのです。悲しみに暮れる伯爵令嬢を、私は精一杯慰めました。それで暫くして、次の候補に上がったのが私だったのです」
そう辛そうに話す伯爵代理。エリオットは、確か母親似だと言っていた。それなら一目惚れをしたのは、この男もだったのかも知れないと思った。もちろん兄の死を願っていたのではないだろうが、好きな人を手に入れられるかも知れないチャンスが巡って来たことに心が浮き立ったことだろう。
「それで結婚したのですね?男爵家出身のあなたが、伯爵家に婿入りしたと」
それに目の前の男は力強く頷く。亡くなった兄に後ろめたい気持ちはあっただろうが、それと同時に嬉しかったに違いない。それなら何故…
「世間では逆玉の輿だと言われました。だけど、そんなことがどうでもいいくらい幸せだったのです。愛する人を得て、それから直ぐに妻は妊娠して…それがエリオットです。だけど、幸せだと思えば思うほど、妻はどう思っているのかと気になってしまった!私は兄の身代わりで、愛されてないのだと…それが不幸の始まりでした」
この男は、愛するが故に疑心暗鬼になってしまったのだな…と思った。気持ちは分かるような気がするが、それは奥方の、ましてやエリオットのせいでもない。一体何故だと、解せぬ思いが…
「そんな私の気持ちにつけ込んだのが、イーライとジェイデンの母です。元婚約者ということで、私に執着していたのかも知れません。エリオットの母と知り合う前から性格が合わず、婚約破棄しようと思っていました…そんな程度の間柄です。ある時、友人として会って欲しいと言われて…妻のことで悩んでいた私は、それに頷いてしまいました。薬を盛られ、関係を迫られる罠とも知らずに」
「それでイーライが出来てしまったのですね?それで息子のためを思って、抜き差し出来ない関係になってしまったと…」
それには伯爵代理はガックリと項垂れる。薬を盛られた上だと言っても、子供に罪はない。それで妻やエリオットに隠れて、もう一つの家庭を援助することになったのか…知られたら愛する妻に離婚を迫られるとも思ったのだろうな。そしてその妻に先立たれ、どうでも良くなってしまったのだろうか?そんな女を伯爵家に迎え入れるなど…
「あの時…エリオットが家出した時、二番目の妻を問いただすつもりでした。必要ならば家から追い出すつもりで…。そして自分の子供達をも虐待していた事実を知って、話し合うつもりで。だけど、エリオットの前でそうしない方がいいと判断したせいで、誤解を与えてしまいました。エリオットが家を出て行ってしまうなど、夢にも思わずに…」
エリオットの父はそう言ってポタリ、ポタリと涙を流している。不幸なことに、色々な誤解が重なってしまっている。そしてそれでは、誤解を受けることも無理からぬことだと思う。やはりこの男は、問答無用で会話が足りて無かった。それが何もかもの原因なんだ!
「お話しはよく分かりました。そういう家庭で育ったそのジェイデンも、あなたに似て不器用なのかも知れませんね?それで納得しました…」
私は確信した。エリオットはジェイデンと一緒なのだと。だけど何か理由があって、私の元に帰れないのだと…
ジェイデンが魔道具作りで収入を得ているのなら、そのルートで網を張ってみるのがいいのかもと思う。
魔法石や魔道具を扱っているギルドや、魔法石の産地も候補に入れるべきだろう。
魔法石が採れる土地とは…我がロウヘンボクとエリク、それにアジャンタか…
私はそれらを、一つ一つあたってみることに決めた。漏れがないように徹底的に。待っていて!エリオット…
自分の親ほどのこの人に、このような物言いは御法度だと分かっている。それにこんな質問を投げかけるのも…だけど聞かずにはいられなかった!これは愛するエリオットが、何故あのような目に遭わなければならなかったのかを、判断する上で重要なのではないかと思ったから。だが、そんな質問は答えにくいのだろう、伯爵代理の眉間の皺は更に深くなり、その表情は私を睨んでいるようにも見える。だが…
「本当は本意では無かった!私は浮気するつもりなど、最初から無かったんだ…何故なら、エリオットの母親を心から愛していたから」
私の予想が当たったらしい。そんなことだろうと思っていた。この無骨な男が、そんな浮気などを器用に、自ら仕出かす筈などない。
「エリオットの母親は、世間では私に一目惚れしたことになっています。だけどそれは事実とは少し違う。実は、一目惚れしたのは私の兄になのです。そして結婚話がとんとん拍子に決まっていきました。そんな時、王都には乱暴を働く狼藉者が他国から入り込みました。私と同じ騎士をしていた兄は、ある日宿直でその者達が暴れていると通報を受けました。その戦闘の末その者達に殺されてしまったのです。悲しみに暮れる伯爵令嬢を、私は精一杯慰めました。それで暫くして、次の候補に上がったのが私だったのです」
そう辛そうに話す伯爵代理。エリオットは、確か母親似だと言っていた。それなら一目惚れをしたのは、この男もだったのかも知れないと思った。もちろん兄の死を願っていたのではないだろうが、好きな人を手に入れられるかも知れないチャンスが巡って来たことに心が浮き立ったことだろう。
「それで結婚したのですね?男爵家出身のあなたが、伯爵家に婿入りしたと」
それに目の前の男は力強く頷く。亡くなった兄に後ろめたい気持ちはあっただろうが、それと同時に嬉しかったに違いない。それなら何故…
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「そんな私の気持ちにつけ込んだのが、イーライとジェイデンの母です。元婚約者ということで、私に執着していたのかも知れません。エリオットの母と知り合う前から性格が合わず、婚約破棄しようと思っていました…そんな程度の間柄です。ある時、友人として会って欲しいと言われて…妻のことで悩んでいた私は、それに頷いてしまいました。薬を盛られ、関係を迫られる罠とも知らずに」
「それでイーライが出来てしまったのですね?それで息子のためを思って、抜き差し出来ない関係になってしまったと…」
それには伯爵代理はガックリと項垂れる。薬を盛られた上だと言っても、子供に罪はない。それで妻やエリオットに隠れて、もう一つの家庭を援助することになったのか…知られたら愛する妻に離婚を迫られるとも思ったのだろうな。そしてその妻に先立たれ、どうでも良くなってしまったのだろうか?そんな女を伯爵家に迎え入れるなど…
「あの時…エリオットが家出した時、二番目の妻を問いただすつもりでした。必要ならば家から追い出すつもりで…。そして自分の子供達をも虐待していた事実を知って、話し合うつもりで。だけど、エリオットの前でそうしない方がいいと判断したせいで、誤解を与えてしまいました。エリオットが家を出て行ってしまうなど、夢にも思わずに…」
エリオットの父はそう言ってポタリ、ポタリと涙を流している。不幸なことに、色々な誤解が重なってしまっている。そしてそれでは、誤解を受けることも無理からぬことだと思う。やはりこの男は、問答無用で会話が足りて無かった。それが何もかもの原因なんだ!
「お話しはよく分かりました。そういう家庭で育ったそのジェイデンも、あなたに似て不器用なのかも知れませんね?それで納得しました…」
私は確信した。エリオットはジェイデンと一緒なのだと。だけど何か理由があって、私の元に帰れないのだと…
ジェイデンが魔道具作りで収入を得ているのなら、そのルートで網を張ってみるのがいいのかもと思う。
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