【完結】お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO

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第十章・不思議の国のエリィ

74・田舎の兄弟

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 「よお!エリィ買い物かい?今日は牛肉が安売りだぞ!弟に食べさてやったらどうだい?」

 道を歩いていたら、そう声をかけられた。僕はそれに「何だって…牛肉が!?」と鼻息荒く、声の主肉屋のゴッデムさんに近付いて行く。
 ゴッデムさんのところの肉は、とっても品質かいい。それにいつもは高い牛肉が、安売りなんて滅多にあるもんじゃない…これは!

 「今日は奮発して牛肉1キロだ!アハハハッ」

 「よっ!太っ腹だねぇ。これで食べ盛りのジェイも大喜びだな!」

 ガハハと笑い合って、僕は牛の塊肉を受け取る。それからオマケのコロッケ二つも。「わーい!ありがとう」とお礼を言って、次は野菜だ!と次のお店に行くことにする。

 「牛塊肉が買えたし、何を作ろうか?ローストビーフにしようか、ビーフシチューにする?」

 そう考えていると、再びゴッデムさんが後ろから大きな声を掛けてくる。

 「おーい、エリィ。その肉、何を作るんだい?参考までに聞かせてくれー」

 その大きな声に驚きながらも振り返る。そして、うーん…と悩んで出した答えが。

 「凄くいいお肉なので、今日はローストビーフを作ろうかと。この塊肉と野菜や香草と一緒にオーブンで蒸し焼きにするんです。それを薄く切って、ソースとピリッとするホースラディッシュを添えて食べるんですよ!」

 僕は笑顔でそう言った。あとは野菜を買ってから直ぐに帰らなきゃ!と。仕込みに時間がかかるからね?夕食に間に合うように作らないと。そう考えていると後ろからゴッデムさんが…

 「そのレシピ俺にも後で教えてくれよ?この前教えて貰ったコロッケも大盛況でよ~売れる売れる!またオマケするから頼むな」

 身体の大きなゴッデムさんが恐縮しながら身を小さくして、拝むように頼んでくる…ウルウルな目をして。僕はそれに思わず笑ってしまって…

 「分かったよ!今度教えるね~これも店の看板商品になる筈だよ?」

 そう言って笑顔で手をフリフリしながら去って行った。僕は、自分でも不思議なんだ…色んな料理を知ってるし、作ることが出来る。おまけに、誰も知らないような料理さえも。何故だろう?って考えるけど、全く答えか出ない。

 ある時僕は、頭から血を流して倒れていたんだ。気付いた時には、頭を包帯でグルグル巻きにされて病院にいた。その時気付いた…記憶が全く無いと。そんな僕の側で心配そうな顔で見下ろしていたのが、弟のジェイだったんだけど、それすらも忘れていて…

 お医者様が言うには、頭を強打したことによる記憶喪失だと。たまにそうなる人がいるんだそうだ。おまけに僕はその弾みで、突き出していた釘のような物が刺さってしまったようで、出血多量で危なかったらしいよ?そんな僕の目の前でジェイは無茶苦茶泣いて、「ごめん…」と何度も謝った。僕の不注意でそうなったのに、何故ジェイが謝るんだ?って思ったけど、どうもその前に喧嘩したらしい。だからそうなったんだって?全然覚えてないけどね。

 それで僕達は、それまで住んでいた王都を離れてこの田舎にとやって来た。ジェイが言うには、王都にあった小さな家を売ったお金で、ここに家を買ったって。空気の綺麗なところに住めば、僕の記憶も戻るかも知れないとお医者様から言われたらしい。でもなぁ…僕が兄だというのに、ジェイには世話になりっぱなしなんだ。住み慣れた王都を離れなきゃならなくなったことに、本当に申し訳ないって…。まあ、幸い記憶がなくとも基本的な事は忘れてないし、少しでも弟の力になれたら…と頑張っている僕。そして料理もその一貫だ!美味しい物を食べさせたいって。それがジェイへの罪滅ぼしになればいいなって思っている。

 ジャガイモやセロリ、それからニンジンを手に入れて、慌てて家路へと向かった。
 最初心配だった田舎暮らしだけど、どんなに大変なのかと思ったら全然で…。この辺りの人達はとても親切で、その心配が杞憂だったのだと直ぐに分かった。それに王都と比べてどんなにか不便だと思っていたけれど、全くそれを感じさせない。もしかして…初めてだと思っていた田舎暮らしも、実は初めてじゃないのかも?って…
 そしてあの怪我からそろそろ、半年が経とうとしている。まだ記憶が戻る予兆も予感も全くない状況だ。
 そんなことを考えながら歩いていると、いつの間にか家の近くまで来ていた。

 ──タッ、タッ、タッッ

 ごく小さく、こちらへと近付いて来る足音が聞こえる。それに気付いて耳を澄ませると…

 「チッチ、チッ。」

 可愛い声が聞こえてくる。それで僕は笑顔で…

 「ジャッキー!お迎えに来てくれたんだね?」

 そう呼び掛けると、その小さな生き物はスルスルと足元から僕の肩へと器用に登って来る。僕の相棒、シマリスのジャッキーだ!ここで一軒家を買ったら、それほど広くない庭に不釣り合いなほど大きな木があって…その木のうろに住み着いていたシマリス。僕はそれを見つけて、迷わず命名したのがジャッキー。何故って?それは自分でも分からない。忘れちゃってるけど、前に飼っていた動物の名前なのかなぁ?知らないけど!

 そのジャッキーが待ち構えるように僕の身体に駆け上がって、首の辺りをクルクル回りながら頬にスリスリしてくる。それが物凄く可愛い~!ああ、癒やされるっ

 「アハハ兄さん、相変わらず好かれてるね?」

 見ると、ジェイまでもが家から出て来て僕を出迎えてくれている。それに嬉しくなって…

 「あっ、ジェイ!ジェイもお迎えに来てくれたんだね?今日の夕飯は何とお肉だよ?今から頑張って作る!お楽しみに~」

 それから僕達と一匹は、楽しく笑い合いながら家へと帰る。フフフッ幸せだ!幸せなんだけど…何故かな?僕がジェイを呼ぶ度に、実はまた違う名が浮かんできそうになるんだ!それは…ジェ、ジュ…ジョ?どれかは分からない。分からないんだけど、ただ懐かしいような気持ちになって、涙が出そうになるんだ…何か大切なことを忘れているようなぁ…

 「兄さん、早く!夕飯に間に合わなくなっちゃうよ?」

 そうジェイから呼ばれて、ハッと我に返る。それから心配をかけまいと笑顔になって、家の扉の前で待つジェイの元へと駆け寄った。
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