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第八章・アノー家の人達

65・新たな決意

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 もしかして…そう思って考える。だけどそんな偶然ってある?誰だってそう思うだろうが、恐らく間違いない。それで思い切って聞いてみる。

 「スミンさん、あのブランさんってガトリン公爵家の執事だったんじゃないですか?アンディ・ガトリン令息のお家の…」

 そこに登場して来たのが、またまたアンディ。って、アンディはこの際関係ないんだけどね?その家門のガドリン公爵家だ。王家にも連なる名だたる家柄だ。あの貴族家で執事を務められるなんて、相当な実力と覚悟が必要だ。なんてったって、必◯仕事人みたいな家門だからね…。先程会ったブランさんは柔らかな物腰だったけど、全く隙が無く文句の付け所がない対応だったよ。
 
 それには坊ちゃまもスミンさんもキョトンとして僕を見つめる。そりゃそうだよな…ブランと名前を聞いただけで、そんなことを言い出すんだからね。

 「そ、そうです、あのガドリン公爵家で執事を務めてらっしゃいました。でも何故…エリオットがブランさんのことを知ってるんだい?」

 そう問われてコックリと頷いて、二人に説明を始めた。アノー伯爵家の元執事で、大旦那様の元恋人のジョナサンとブランさんが従兄弟で、家出した時最初はブランさんを頼って保護して貰おうとしたこと。そして一日の差でそれが実現しなかったことなどを順を追って話す。

 「まさか!そんなことが…?でもあの時死ぬ程苦労したエリオットには悪いが、ブランが居なくて良かった。そうでなければエリオットとは一生会えなかったかも…」

 坊ちゃまがどこか遠くを見るようにそう言って、僕もブンブン首を振って同意する。

 「本当にそう思います。あの時ブランさんに計画通り会えていたら、今はガドリン家の使用人になっていたかも…」

 それに僕と坊ちゃまは目を合わせて微笑み合う。出会えて良かったと再確認するように。それから隣にいるスミンさんは、暫し黙って考えていたようだが、頷きながら口を開いた。
 
 「なるほど…ジョナサンの従兄弟だったのですか!そう言われると何処となく似ていますよね?お二人共あの年齢ですが端正なお顔立ちですから」

 そのスミンさんの言葉に納得だ…さっきのブランさんを初めて見た時の想像以上の驚きは、どこかあの人にジョナサンを見ていたからかも?何となく親しみを感じるというか…ブランさんがワイルド系でジョナサンが綺麗系ではあるけど、二人は似ていてイケオジ感満載なんだよね~

 なる程な!とスッキリして、その時ちょうど馬車が見えて来た。さあ馬車に乗って帰ろうかと思っていると、突然スミンさんが焦り出す。な、何だ!?

 「そういえば…エリオットはもう坊ちゃまの婚約者です!その印である婚約指輪をされていますから。ということはもう呼び捨ては許されませんね。これからはエリオット様とお呼びしますので」

 そう言って僕に頭を下げるスミンさん。それには無茶苦茶焦って、スミンさん以上に大きな声を出した。

 「いやいやいやいやぁ~それはまだ止めて下さい!お願いします…せめて結婚してからで。今はまだ何の気負いもなくエリオットと呼んで貰えたら…。屋敷の皆さんにもいつも通りに接して欲しいと言っておいて下さい!」

 大汗をかきながらそう頼むと、スミンさんは少し戸惑った様子で「そうですか…?」と坊ちゃまの方を見る。それから「そうしてやって」の言葉にやっと納得したように頷いて了承してくれた。

 ──スゲェ危なかったよ!僕ってそんなキャラじゃないんだよね…上から目線なんてトンデモねぇ。だけどそうか…坊ちゃまと結婚したらそうなるよね?だけどそれはまだ心の準備が出来ていない。それに今までの皆んなとの関係が変わってしまうなんて!だけどあと二年余りでその心づもりが必要なのか…と、ちょっぴり寂しくなった。そんな心を坊ちゃまも分かっているのだろう、どこか不安気に僕を見つめている。
 そんな感傷は正直あるが、僕にとっての一番はやはり坊ちゃま!二人が幸せになる方向だけを向いて行こう。そう強く決心して坊ちゃまの隣へと駆け出した。


 +++++
 

 それから僕達は、わざわざここまで来てくれたスミンさんにお礼を言って、それぞれの馬車に乗り込み帰って行った。学園に到着すると御者をしてくれたスコットさんがどこか寂しそうに「この度はおめでとうございます」と祝ってくれる。いつもは笑顔のスコットさんがどうした?と驚いたが、やっぱりスミンさんのように遠慮してしまうのかな…と心配に。だけど次の瞬間僕の肩をポンと叩き「これからもよろしくな」と言って笑ってくれて、いつもような態度に心底安心する。それに「ありがとうございます」と笑顔で返して、僕達は部屋へと戻って行った。
 そして部屋に入って一番目にすることは…

 「坊ちゃま!早く指輪をケースに仕舞いましょう」

 開口一番そんなことを言う僕に、坊ちゃまは「は、早くない?」と面食らっている。
 それに僕は切々と説明した。こんなに豪華極まる指輪を普段使いには決して出来ないと…盗まれたらどうする?って。それに坊ちゃまは何故か不満顔で…

 「そしたらまた違うやつを造ればいいんじゃない?婚約指輪は一つだけって決まってないよね?」

 ──ど、どんだけ~!また…造るって?それにどれだけお金を使うつもり…それ、公爵家のお金なんだよね?いくら何でもマズいんじゃ…

 そう心配する僕の心を口に出さぬも悟った様子の坊ちゃま。それに可愛く口を尖らせて、コテンと首を傾げ僕を見つめる。だからそれ、強力だからヤメて~

 「もしかして公爵家のお金で買ってるんだと思ってるよね?ちょっとそれは心外だな…。さっきスミンに届けて貰ったのは、正真正銘私のお金だ。私は幼い頃から、父に成り代わって色んな事業をしている。それにあの父がエドモア公爵家の事業を上手くやっていけると思ってる?私がいればこそなんだよね…」

 ──はぁっ?何だって!坊ちゃまがいればこそ…だと?
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