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第八章・アノー家の人達
60・父の威厳(ジュリアス父Side)
しおりを挟む 「何だと?お前…家出中の伯爵家の令息と結婚するだと!?馬鹿も休み休み言え!」
エドモア公爵家当主アダム・エドモアはそう激昂した。一人息子であるジュリアスが、是非私と話したいというので時間を作ってみたら…そんなの絶対に許せない!それに、家出中って何だ?意味不明過ぎる。
「我が家の使用人、従者のエリオットのことですよ。エリオットは、れっきとしたアノー伯爵家の嫡男なんです。もしかして…気付いていませんでしたか?お祖父様は一目で分かったとおっしゃってましたけど。それにラウル王子殿下や、マクベス大公殿下も直ぐに正体を見破ってましたよ。まさか公爵家の当主である父上が、分からないなんて…有り得ませんよね?」
ジュリアスはそう言って、私に挑むような視線を向ける。ぐうぅーっ、生意気な!
だけど待てよ?あの父上も分かっていただと!それにエリオットって、子供の頃にジュリアスが拾って来た…あの子か!?信じられん!
すっかりと動揺してしまった私だが、息子の前ではそんな姿など見せられん!ポーカーフェイス、ポーカーフェイス…
「私だって分かっていたとも!敢えて知らないふりをしていたのだ。それに何だって?ラウル殿下にマクベス大公殿下?何故そやつと殿下方が知り合いなのだ…?」
その問いかけにジュリアスは、何故か嘲笑まじりの笑みを浮かべて「何故ですって?そんなのエリオットだからですよ!」と意味不明な理由を述べている。
──な、何だと?馬鹿にして!だからそれが分からないんだが…
気を取り直そうと一つ咳払いをして、ジュリアスが一番困っているだろうことをワザと聞いた。私が反対するそれ以前に、父がそれを許す訳はない!これは相当絞られて帰って来たんだろうな?きっと私に対するこの嫌味も、その裏返しというか八つ当たりしてるんだろうと思う。いつも澄ました態度のジュリアスがそんなことをするなど、意外と可愛いところもあるのだとほくそ笑んだ。
「父上はどうおっしゃっていたんだ。相当に怒られただろう?そりゃそうだ…得体の知れない男との結婚など許される筈ないのだ。それも伯爵家の令息なんて…フフン!」
そう鼻で笑ってやって、どうだ?とジュリアスに顔を向ける。だけどその瞬間、私の身体は硬直する!
「フフンだと?」そう静かに呟いたジュリアス。その顔は…見たこともない恐ろしい形相をしていた!我が息子ながら端正な顔立ちが、私をこれでもか!と一気に凍るような冷たい目で睨み付けている。怖い…怖すぎるっ!
ジュリアスは以前からこういう目をする時がある。顔は一見笑っているように見えても、目が一切笑っていない。そういえば前はいつだったかな?大分前だったような…あっ、そうだ!そのエリオットを使用人として雇うのを反対した時だ。あの時も殺されるかと思うほど冷ややかに見つめられて、結局それを許せざるを得なかった。いつだって…エリオット絡みか!
「お祖父様にはお許しいただいてますが?是非また二人で本邸に遊びに来なさいとおっしゃってましたよ!」
我が耳を疑った…何だって?父が…あの父上が二人の結婚を許しただと!?
それに何故だ…何故ジュリアスとエリオットだけ、本邸へと誘われるんだ?私だって父と会いたいのに!!
私は子供の頃から、大好きな父上に愛されたい!褒められたいと何だって頑張ってきた。それなのに滅多に会っては貰えないし、声だって掛けてもらえない。それなのに…そう思って愕然とする。
「それに先程話したロウヘンボク特産のオリーブオイルの取引も、エリオットのお手柄なんですよ!今まで沢山穫れ過ぎて余ってたじゃないですか?使い方もよく分からなかったですしね。それを隣のクルーガー侯爵家特産ハーブと組み合わせて、料理だけでなく美容に役立てようと計画したのはエリオットです!今では『セデナス領の神』と呼ばれてますけど?」
──はあっ?セデナス領の神…だって!?何だそれは…
確かにロウヘンボクは温暖な気候の土地で、オリーブが良く穫れる。それは油として使う以外にこれと言って使い道が無かったのも事実だ。だけど急にクルーガー家から仕入れたいと提案されて…何に使うんだろう?と思ってたが、その使い道を考えたのが…エリオットなのか?
「だからただの伯爵家の令息じゃないんですエリオットは。それにご存知じゃないですか?幼い頃私が勉強していると、私の隣でボーっと見ていただけのエリオットが、突然こっちの数式を使った方がいいですよと教えてくれたり、私でさえ読めない異国の書物をスラスラ読めたり…。だからね、私にとっても『神』なんです!」
そう言ってジュリアスは、先程までの冷ややかな表情を一転させ鮮やかに微笑む。なんだこの違いは!それに神だと…?
それから私は、考えておくと言うのがやっとで、明日からまた学園に行くことが決まっているジュリアスに、早く準備をするようにと伝えた。素直に「はい」と返事をしたジュリアスは、深々と頭を下げてこの執務室を出て行こうとする。「あっ!」そう小さく聞こえて、言い忘れたことでもあるのか?と顔を上げると…
「そう言えば父上からお祖父様へのプレゼント…とても喜んでらっしゃいましたよ?」
そう言うジュリアスは、いつもの取って付けたような微笑みを浮かべていた。
──それ、絶対に嘘だろう?父上~!
エドモア公爵家当主アダム・エドモアはそう激昂した。一人息子であるジュリアスが、是非私と話したいというので時間を作ってみたら…そんなの絶対に許せない!それに、家出中って何だ?意味不明過ぎる。
「我が家の使用人、従者のエリオットのことですよ。エリオットは、れっきとしたアノー伯爵家の嫡男なんです。もしかして…気付いていませんでしたか?お祖父様は一目で分かったとおっしゃってましたけど。それにラウル王子殿下や、マクベス大公殿下も直ぐに正体を見破ってましたよ。まさか公爵家の当主である父上が、分からないなんて…有り得ませんよね?」
ジュリアスはそう言って、私に挑むような視線を向ける。ぐうぅーっ、生意気な!
だけど待てよ?あの父上も分かっていただと!それにエリオットって、子供の頃にジュリアスが拾って来た…あの子か!?信じられん!
すっかりと動揺してしまった私だが、息子の前ではそんな姿など見せられん!ポーカーフェイス、ポーカーフェイス…
「私だって分かっていたとも!敢えて知らないふりをしていたのだ。それに何だって?ラウル殿下にマクベス大公殿下?何故そやつと殿下方が知り合いなのだ…?」
その問いかけにジュリアスは、何故か嘲笑まじりの笑みを浮かべて「何故ですって?そんなのエリオットだからですよ!」と意味不明な理由を述べている。
──な、何だと?馬鹿にして!だからそれが分からないんだが…
気を取り直そうと一つ咳払いをして、ジュリアスが一番困っているだろうことをワザと聞いた。私が反対するそれ以前に、父がそれを許す訳はない!これは相当絞られて帰って来たんだろうな?きっと私に対するこの嫌味も、その裏返しというか八つ当たりしてるんだろうと思う。いつも澄ました態度のジュリアスがそんなことをするなど、意外と可愛いところもあるのだとほくそ笑んだ。
「父上はどうおっしゃっていたんだ。相当に怒られただろう?そりゃそうだ…得体の知れない男との結婚など許される筈ないのだ。それも伯爵家の令息なんて…フフン!」
そう鼻で笑ってやって、どうだ?とジュリアスに顔を向ける。だけどその瞬間、私の身体は硬直する!
「フフンだと?」そう静かに呟いたジュリアス。その顔は…見たこともない恐ろしい形相をしていた!我が息子ながら端正な顔立ちが、私をこれでもか!と一気に凍るような冷たい目で睨み付けている。怖い…怖すぎるっ!
ジュリアスは以前からこういう目をする時がある。顔は一見笑っているように見えても、目が一切笑っていない。そういえば前はいつだったかな?大分前だったような…あっ、そうだ!そのエリオットを使用人として雇うのを反対した時だ。あの時も殺されるかと思うほど冷ややかに見つめられて、結局それを許せざるを得なかった。いつだって…エリオット絡みか!
「お祖父様にはお許しいただいてますが?是非また二人で本邸に遊びに来なさいとおっしゃってましたよ!」
我が耳を疑った…何だって?父が…あの父上が二人の結婚を許しただと!?
それに何故だ…何故ジュリアスとエリオットだけ、本邸へと誘われるんだ?私だって父と会いたいのに!!
私は子供の頃から、大好きな父上に愛されたい!褒められたいと何だって頑張ってきた。それなのに滅多に会っては貰えないし、声だって掛けてもらえない。それなのに…そう思って愕然とする。
「それに先程話したロウヘンボク特産のオリーブオイルの取引も、エリオットのお手柄なんですよ!今まで沢山穫れ過ぎて余ってたじゃないですか?使い方もよく分からなかったですしね。それを隣のクルーガー侯爵家特産ハーブと組み合わせて、料理だけでなく美容に役立てようと計画したのはエリオットです!今では『セデナス領の神』と呼ばれてますけど?」
──はあっ?セデナス領の神…だって!?何だそれは…
確かにロウヘンボクは温暖な気候の土地で、オリーブが良く穫れる。それは油として使う以外にこれと言って使い道が無かったのも事実だ。だけど急にクルーガー家から仕入れたいと提案されて…何に使うんだろう?と思ってたが、その使い道を考えたのが…エリオットなのか?
「だからただの伯爵家の令息じゃないんですエリオットは。それにご存知じゃないですか?幼い頃私が勉強していると、私の隣でボーっと見ていただけのエリオットが、突然こっちの数式を使った方がいいですよと教えてくれたり、私でさえ読めない異国の書物をスラスラ読めたり…。だからね、私にとっても『神』なんです!」
そう言ってジュリアスは、先程までの冷ややかな表情を一転させ鮮やかに微笑む。なんだこの違いは!それに神だと…?
それから私は、考えておくと言うのがやっとで、明日からまた学園に行くことが決まっているジュリアスに、早く準備をするようにと伝えた。素直に「はい」と返事をしたジュリアスは、深々と頭を下げてこの執務室を出て行こうとする。「あっ!」そう小さく聞こえて、言い忘れたことでもあるのか?と顔を上げると…
「そう言えば父上からお祖父様へのプレゼント…とても喜んでらっしゃいましたよ?」
そう言うジュリアスは、いつもの取って付けたような微笑みを浮かべていた。
──それ、絶対に嘘だろう?父上~!
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