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第七章・エリオットの正体
55・困惑
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大旦那様と坊ちゃまの睨み合いに、堪らず近くにと駆け寄った。あんなに仲が良かったお二人がこんなに険悪になるなんて…これは僕のせいなんだね?その現実にいたたまれない思いに…
一体どうしたら…そう思っていると、使用人達が集まっている中からアルベルトさんだけが一歩前に出る。ん…?何でだろう…そう不思議に思っていると、思いも寄らないことを言い出す。
「大旦那様、お取り込みのところ失礼致します。ずっと前から依頼されていたあの方の行方が分かりました」
──えっ、それどういう意味?それに今言わないといけないことなのかな?
そう困惑して成り行きを見守る。僕は絶対大旦那様から怒られるだろうと覚悟した。あんなに緊迫した場面で、それを遮るような行動をお赦しになる方じゃないから!だけど…
もしかしたら、僕達を助ける為にそんなことを言った?そんな思いに囚われる。そうだったとしたら、本当に申し訳ないことになる。アルベルトさんは相当にきつくお叱りを受けるのでは?謹慎も有り得るのかも…
そう焦りながら大旦那様をチラリと覗き見ると、意外なことに怒りもせず呆然としているお姿が!えっ、どうしたんだろ?そんな時…
「そうです。大旦那様が唯一愛したあの方です」
アルベルトさんがそう言い放つ。はぁっ?大旦那様が…愛しただって!?
以前坊ちゃまから聞いたことがある「お祖父様も父と同じで、政略結婚をして不幸になった一人なんだ」と。そのお相手の大奥様はとっくに亡くなっているし、それはどういう意味なの?そしてこれは僕だけじゃなく、ここにいる全員の疑問だろう。
「お前…アルベルト!何を言っているのだ?私はある人を探せと命じただけだ。愛する人だなど一言たりとも言ってはおらんわ!だが…」
アルベルトさんを睨みながらそう言った大旦那様だが、その後何故か押し黙ってしまう。
それから青ざめた顔のまま、独り言のように呟いた。
「あの者の行方が分かっただと…?」
大旦那様は細かく震えているように見えた。そして、今も尚端正な顔を歪めている。
僕達は泣く子も黙るような大旦那様の、そのようなお姿が信じられなくって、唖然として見つめていた。あの者って、どなたなんですか!?
「ジョナサン様は、先日エドモア公爵家に訪ねていらっしゃいました。それは大旦那様に会おうとしたのではなく、エリオットにどうしても会いたいという思いでいらっしゃったのです」
──何と言ったんだ!…ジョナサン?偶然だよね…。僕が知るアノー伯爵家の執事をしていたあのジョナサンのこと!?
突然、旧知の仲であるジョナサンの名前が出たことに戸惑いを覚える。大旦那様もそれに大いに驚き、アルベルトさんへと顔を向ける。
「エリオットが心配してるからと、坊ちゃまから指令を受けジョナサン様を探していました。すると王都から少し離れた町にいることが分かって…会いに行ったのです。用が終わって去り際になるとソワソワされているご様子で、遠慮がちに言われたのは、大旦那様はお元気ですか…?と」
大旦那様はそれにワナワナと震える。先程よりも明らかに大きく動揺されているようだ。だけどアルベルトさんの話はそれでは終わらず、畳み掛けるように次から次へと真実が…
「エリオットがエドモア公爵家に居るのが分かってから、長い間訪ねるのを迷われたようです。それは大旦那様にもし会ってしまったら…という思いだったと。もう二度と会わない!と大旦那様からキツく言い渡されている自分では近付くことも叶わない。だが、エリオットにはどうしても一度会わなければと意を決して訪ねられたそうです。それに意味も分からず戸惑う私に、その理由もお話下さいました」
僕は目の前で繰り広げられている内容を信じられずにいた。ジョナサンと大旦那様が知り合いだった?そのことも驚きだが、何よりも衝撃的なのは大旦那様のご様子だ。
まるで鬼の目にも涙…あの常に矍鑠とされている大旦那様がガックリと項垂れて、涙をポロリと流されている。そんな姿に、嘘でしよう?と使用人達もザワザワとして…
「私はジョナサン様とお話しして、一つ思い出したことが…それは大旦那様からずっと以前頼まれた人探しの件です。ジョナサンという一人の男性を探して欲しいというものでした。だけど以前あれほど探して見つからなかったのに、まさかこんな縁で見つかるとは…」
大旦那様はジョナサンを前から探していた?
そうか、今までずっと王都からかなり遠いアノー伯爵家の領地にいたから…だから見つからなかったんだな。そう聞いたら僕も、何だが責任を感じてしまうな…
「そして大旦那様、これはジョナサン様からの伝言です。これからもあなたの前には二度と現れるつもりはないから安心して欲しいと」
その言葉を聞いた瞬間、大旦那様は突然声を上げて嘆かれた「すまない!本当に申し訳ない」と。
大旦那様とジョナサンが、愛しあう仲…だったのか?今までで聞いた話を要約するとそういうことになるだろう。
そしてあの懐かしい顔を思い出した…いつも柔和な笑顔で真面目に業務にと邁進する姿。そして何よりも僕に包み込むような愛情を向けてくれた。だけど、ずっとどこか寂しそうだったんだ…それがまさかこんな理由だったなんて…!
僕は固唾をのんで見守った。大旦那様が事の経緯を話してくれるのを…それから大旦那様は、静かに話し始める。
一体どうしたら…そう思っていると、使用人達が集まっている中からアルベルトさんだけが一歩前に出る。ん…?何でだろう…そう不思議に思っていると、思いも寄らないことを言い出す。
「大旦那様、お取り込みのところ失礼致します。ずっと前から依頼されていたあの方の行方が分かりました」
──えっ、それどういう意味?それに今言わないといけないことなのかな?
そう困惑して成り行きを見守る。僕は絶対大旦那様から怒られるだろうと覚悟した。あんなに緊迫した場面で、それを遮るような行動をお赦しになる方じゃないから!だけど…
もしかしたら、僕達を助ける為にそんなことを言った?そんな思いに囚われる。そうだったとしたら、本当に申し訳ないことになる。アルベルトさんは相当にきつくお叱りを受けるのでは?謹慎も有り得るのかも…
そう焦りながら大旦那様をチラリと覗き見ると、意外なことに怒りもせず呆然としているお姿が!えっ、どうしたんだろ?そんな時…
「そうです。大旦那様が唯一愛したあの方です」
アルベルトさんがそう言い放つ。はぁっ?大旦那様が…愛しただって!?
以前坊ちゃまから聞いたことがある「お祖父様も父と同じで、政略結婚をして不幸になった一人なんだ」と。そのお相手の大奥様はとっくに亡くなっているし、それはどういう意味なの?そしてこれは僕だけじゃなく、ここにいる全員の疑問だろう。
「お前…アルベルト!何を言っているのだ?私はある人を探せと命じただけだ。愛する人だなど一言たりとも言ってはおらんわ!だが…」
アルベルトさんを睨みながらそう言った大旦那様だが、その後何故か押し黙ってしまう。
それから青ざめた顔のまま、独り言のように呟いた。
「あの者の行方が分かっただと…?」
大旦那様は細かく震えているように見えた。そして、今も尚端正な顔を歪めている。
僕達は泣く子も黙るような大旦那様の、そのようなお姿が信じられなくって、唖然として見つめていた。あの者って、どなたなんですか!?
「ジョナサン様は、先日エドモア公爵家に訪ねていらっしゃいました。それは大旦那様に会おうとしたのではなく、エリオットにどうしても会いたいという思いでいらっしゃったのです」
──何と言ったんだ!…ジョナサン?偶然だよね…。僕が知るアノー伯爵家の執事をしていたあのジョナサンのこと!?
突然、旧知の仲であるジョナサンの名前が出たことに戸惑いを覚える。大旦那様もそれに大いに驚き、アルベルトさんへと顔を向ける。
「エリオットが心配してるからと、坊ちゃまから指令を受けジョナサン様を探していました。すると王都から少し離れた町にいることが分かって…会いに行ったのです。用が終わって去り際になるとソワソワされているご様子で、遠慮がちに言われたのは、大旦那様はお元気ですか…?と」
大旦那様はそれにワナワナと震える。先程よりも明らかに大きく動揺されているようだ。だけどアルベルトさんの話はそれでは終わらず、畳み掛けるように次から次へと真実が…
「エリオットがエドモア公爵家に居るのが分かってから、長い間訪ねるのを迷われたようです。それは大旦那様にもし会ってしまったら…という思いだったと。もう二度と会わない!と大旦那様からキツく言い渡されている自分では近付くことも叶わない。だが、エリオットにはどうしても一度会わなければと意を決して訪ねられたそうです。それに意味も分からず戸惑う私に、その理由もお話下さいました」
僕は目の前で繰り広げられている内容を信じられずにいた。ジョナサンと大旦那様が知り合いだった?そのことも驚きだが、何よりも衝撃的なのは大旦那様のご様子だ。
まるで鬼の目にも涙…あの常に矍鑠とされている大旦那様がガックリと項垂れて、涙をポロリと流されている。そんな姿に、嘘でしよう?と使用人達もザワザワとして…
「私はジョナサン様とお話しして、一つ思い出したことが…それは大旦那様からずっと以前頼まれた人探しの件です。ジョナサンという一人の男性を探して欲しいというものでした。だけど以前あれほど探して見つからなかったのに、まさかこんな縁で見つかるとは…」
大旦那様はジョナサンを前から探していた?
そうか、今までずっと王都からかなり遠いアノー伯爵家の領地にいたから…だから見つからなかったんだな。そう聞いたら僕も、何だが責任を感じてしまうな…
「そして大旦那様、これはジョナサン様からの伝言です。これからもあなたの前には二度と現れるつもりはないから安心して欲しいと」
その言葉を聞いた瞬間、大旦那様は突然声を上げて嘆かれた「すまない!本当に申し訳ない」と。
大旦那様とジョナサンが、愛しあう仲…だったのか?今までで聞いた話を要約するとそういうことになるだろう。
そしてあの懐かしい顔を思い出した…いつも柔和な笑顔で真面目に業務にと邁進する姿。そして何よりも僕に包み込むような愛情を向けてくれた。だけど、ずっとどこか寂しそうだったんだ…それがまさかこんな理由だったなんて…!
僕は固唾をのんで見守った。大旦那様が事の経緯を話してくれるのを…それから大旦那様は、静かに話し始める。
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