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第七章・エリオットの正体
54・告白の行方(アルベルトSide)
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「な、何だと?エリオットと結婚するだと!もしかして…あの従者か!?」
この広い本邸に、突如響き渡る主人の声。その屋敷で働く使用人達はそれに慄き、そして困惑した。エリオットって、まさかあの子じゃないよね?…と。
エリオット…不思議な青年だ。小柄で、どちらかというと可愛らしい容姿をしている割に、大胆不敵というか怖いものなしの行動にいつも驚かされている。そんなエリオットと初めて会ったのは、俺がエドモア公爵家で働き始めて三年ほど経った時だ。
兄弟が多く、口減らしの為に公爵家へと奉公させたれた俺は、子供の扱いが馴れているだろうとジュリアス様付きの護衛兼従者にと抜擢される。元々身体能力が高くて喧嘩も強い、そして要領の良いタイプの俺は、そんなの楽勝だと笑った。だけど…そのジュリアスという公爵家の嫡男は、常識では決して測れない曲者の令息だったんだ。
まず喜怒哀楽がない!物凄く美しい容姿だが、感情の起伏に乏しいお方だった。政略結婚だったご両親の仲は最悪で、ジュリアス様の下の御兄弟も望めないほどで…だから愛情に飢えていた。そして頭が良過ぎるのも問題だったのだと思う。だから当時三歳の口癖が「つまらない」だったんだ。それが…
あの日を境にジュリアス様は変わられた。あの時、路地裏で拾った汚い子…エリオットと出会って。ジュリアス様の側にいたい!と言った少年は、それから片時も離れない徹底ぶりで…
ジュリアス様を「坊ちゃま」と呼び、特大の愛情を向けるエリオット。坊ちゃまはエリオットと出会ったあの時、本当の意味で人として生まれ変わったのだろう。エリオットに対して程ではないが、俺達にも親しげに接したり、微笑んでくれるようになった。それまでジュリアス様を遠巻きに見ていた使用人達もそれに感化され、親しげに坊ちゃまとお呼びするようになる…それからはエドモア公爵家はすっかりと明るい雰囲気になる。何もかもがエリオットのお陰だと思った。だけど…
坊ちゃまが代表として選ばれた、王都学園と騎士学園の交流戦。俺は妹のステファニーの応援と坊ちゃまの応援を兼ねて、円形闘技場へと足を運んでいた。
騎士学園の先鋒として出場した妹は、我が家の誇りだ。平民ながら第一騎士団への入団も決まり、騎士としての妹の人生は順調そのもので。三年生になり今回が最後の代表となるので、どうしても!とお願いして休みを貰った。その後に何と坊ちゃまも王都学園側の代表に選ばれたと聞いて、尚の事楽しみにしていたんだ。試合は妹が一勝し、その後坊ちゃまの「美の暴力」に屈したのには、流石俺の妹!と妙に納得して、その後も面白い試合が続いた。それから勝敗は引き分けになり、良く頑張った!と妹と坊ちゃまを激励しに控え室に行くと…そこで耳を疑う真実を聞くことに!
──何だって!エリオットがアノー伯爵の息子だって?
その瞬間、今まで感じていた違和感の正体が分かった。人懐っこくて、まるで弟のようだと思って接していたけど、俺とは何かが違う!そう思ってきた。ああ、そうか…。
そして、ずっと二人の気持ちにも気付いていた。坊ちゃまは最初から、そしてエリオットのヤツは最近までそれを恋だと思ってなかったようだが、最近は別人みたいに坊ちゃまを熱く見つめている。それを陰ながら応援していたけど、同時に先を危ぶんでもいた。だけど…良かった!あの時、心の底からそう思った。同じ貴族同士だったら、結ばれるのも可能だろうし…だけど。
最大の障壁は大旦那様だ。坊ちゃまがそれ程長くもない休暇に、領地に行くことを決めたと聞いた時これは行動を起こされるのだと理解した。坊ちゃまが意を決してエリオットとのことを告白し、案の定大旦那様は激昂される。我々使用人一同もビリッ!とそれに震え上がるほどの怒りの波長で…
だけど坊ちゃまは、怯んでは居ない。
「エリオットはアノー伯爵家の令息です。私と添い遂げられる資格はあるでしょう?だけど…誤解なさらないで下さい!エリオットが例え平民だったとしても私の気持ちは同じだったことでしょう。それ程に強い想いなのです!ご理解いただけないでしょうか?」
坊ちゃまはそう大旦那様へと訴える。それに大旦那様は目を閉じて小さく首を振り、それから一つ溜息を吐いた。
「知っていた。私だってエリオットがアノー家の者だと最初から知っていたわい!誰だと思ってるのだ。でもだから何だというのだ?伯爵家の者と繋がって、家門の『得』になるのか?なるまいて…」
「だから!…だから父上と母上はああなのでしょう?あれが不幸ではなくて何なのですか?家門の為…その結果があれだったら、私は生きている意味がありません!」
坊ちゃまはそう毅然として言い張った。そして二人は睨み合い一触即発だ!最初は少し離れたところで見ていたエリオットも、いつの間にか坊ちゃまの隣にと来ている。誰もがその間に入る事出来ず、オロオロとして成り行きを見守って…
そんな時だが俺は決めた!坊ちゃまとエリオット、二人の為に行動しようと。そのことで恐らくキツイお叱りを受けるだろう。最悪公爵家を辞めさせられるかも知れない…でも、それがどうした?俺だったらどうにでも生きていけるさっ。我が家にはステファニーもいて、将来安泰だしな!
そう決心して、一歩前に出る。二人の側で落ち着かない様子のエリオット、スミンさんやルーシー、その他の王都邸の使用人だって何事か?と驚いて目を見開いている。それに構わず俺は声を上げた。
「大旦那様、お取り込みのところ失礼致します。ずっと前から依頼されていたあの方の行方が分かりました」
それには大旦那様は怒りも忘れたように、「何?」と呆然としている。そして追い打ちをかけるように一言…
「そうです。大旦那様が唯一愛したあの方です」
この広い本邸に、突如響き渡る主人の声。その屋敷で働く使用人達はそれに慄き、そして困惑した。エリオットって、まさかあの子じゃないよね?…と。
エリオット…不思議な青年だ。小柄で、どちらかというと可愛らしい容姿をしている割に、大胆不敵というか怖いものなしの行動にいつも驚かされている。そんなエリオットと初めて会ったのは、俺がエドモア公爵家で働き始めて三年ほど経った時だ。
兄弟が多く、口減らしの為に公爵家へと奉公させたれた俺は、子供の扱いが馴れているだろうとジュリアス様付きの護衛兼従者にと抜擢される。元々身体能力が高くて喧嘩も強い、そして要領の良いタイプの俺は、そんなの楽勝だと笑った。だけど…そのジュリアスという公爵家の嫡男は、常識では決して測れない曲者の令息だったんだ。
まず喜怒哀楽がない!物凄く美しい容姿だが、感情の起伏に乏しいお方だった。政略結婚だったご両親の仲は最悪で、ジュリアス様の下の御兄弟も望めないほどで…だから愛情に飢えていた。そして頭が良過ぎるのも問題だったのだと思う。だから当時三歳の口癖が「つまらない」だったんだ。それが…
あの日を境にジュリアス様は変わられた。あの時、路地裏で拾った汚い子…エリオットと出会って。ジュリアス様の側にいたい!と言った少年は、それから片時も離れない徹底ぶりで…
ジュリアス様を「坊ちゃま」と呼び、特大の愛情を向けるエリオット。坊ちゃまはエリオットと出会ったあの時、本当の意味で人として生まれ変わったのだろう。エリオットに対して程ではないが、俺達にも親しげに接したり、微笑んでくれるようになった。それまでジュリアス様を遠巻きに見ていた使用人達もそれに感化され、親しげに坊ちゃまとお呼びするようになる…それからはエドモア公爵家はすっかりと明るい雰囲気になる。何もかもがエリオットのお陰だと思った。だけど…
坊ちゃまが代表として選ばれた、王都学園と騎士学園の交流戦。俺は妹のステファニーの応援と坊ちゃまの応援を兼ねて、円形闘技場へと足を運んでいた。
騎士学園の先鋒として出場した妹は、我が家の誇りだ。平民ながら第一騎士団への入団も決まり、騎士としての妹の人生は順調そのもので。三年生になり今回が最後の代表となるので、どうしても!とお願いして休みを貰った。その後に何と坊ちゃまも王都学園側の代表に選ばれたと聞いて、尚の事楽しみにしていたんだ。試合は妹が一勝し、その後坊ちゃまの「美の暴力」に屈したのには、流石俺の妹!と妙に納得して、その後も面白い試合が続いた。それから勝敗は引き分けになり、良く頑張った!と妹と坊ちゃまを激励しに控え室に行くと…そこで耳を疑う真実を聞くことに!
──何だって!エリオットがアノー伯爵の息子だって?
その瞬間、今まで感じていた違和感の正体が分かった。人懐っこくて、まるで弟のようだと思って接していたけど、俺とは何かが違う!そう思ってきた。ああ、そうか…。
そして、ずっと二人の気持ちにも気付いていた。坊ちゃまは最初から、そしてエリオットのヤツは最近までそれを恋だと思ってなかったようだが、最近は別人みたいに坊ちゃまを熱く見つめている。それを陰ながら応援していたけど、同時に先を危ぶんでもいた。だけど…良かった!あの時、心の底からそう思った。同じ貴族同士だったら、結ばれるのも可能だろうし…だけど。
最大の障壁は大旦那様だ。坊ちゃまがそれ程長くもない休暇に、領地に行くことを決めたと聞いた時これは行動を起こされるのだと理解した。坊ちゃまが意を決してエリオットとのことを告白し、案の定大旦那様は激昂される。我々使用人一同もビリッ!とそれに震え上がるほどの怒りの波長で…
だけど坊ちゃまは、怯んでは居ない。
「エリオットはアノー伯爵家の令息です。私と添い遂げられる資格はあるでしょう?だけど…誤解なさらないで下さい!エリオットが例え平民だったとしても私の気持ちは同じだったことでしょう。それ程に強い想いなのです!ご理解いただけないでしょうか?」
坊ちゃまはそう大旦那様へと訴える。それに大旦那様は目を閉じて小さく首を振り、それから一つ溜息を吐いた。
「知っていた。私だってエリオットがアノー家の者だと最初から知っていたわい!誰だと思ってるのだ。でもだから何だというのだ?伯爵家の者と繋がって、家門の『得』になるのか?なるまいて…」
「だから!…だから父上と母上はああなのでしょう?あれが不幸ではなくて何なのですか?家門の為…その結果があれだったら、私は生きている意味がありません!」
坊ちゃまはそう毅然として言い張った。そして二人は睨み合い一触即発だ!最初は少し離れたところで見ていたエリオットも、いつの間にか坊ちゃまの隣にと来ている。誰もがその間に入る事出来ず、オロオロとして成り行きを見守って…
そんな時だが俺は決めた!坊ちゃまとエリオット、二人の為に行動しようと。そのことで恐らくキツイお叱りを受けるだろう。最悪公爵家を辞めさせられるかも知れない…でも、それがどうした?俺だったらどうにでも生きていけるさっ。我が家にはステファニーもいて、将来安泰だしな!
そう決心して、一歩前に出る。二人の側で落ち着かない様子のエリオット、スミンさんやルーシー、その他の王都邸の使用人だって何事か?と驚いて目を見開いている。それに構わず俺は声を上げた。
「大旦那様、お取り込みのところ失礼致します。ずっと前から依頼されていたあの方の行方が分かりました」
それには大旦那様は怒りも忘れたように、「何?」と呆然としている。そして追い打ちをかけるように一言…
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