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第五章・恋の進行状況

37・怒りのアンディ

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 お前はラ◯ボーか?思わずそう呟いて、怒りの籠もった目をするアンディを見守った。今のアンディには、少女のような面影は一切ない!誰が見ても一人の男だ。鋭い視線を投げかけながら、ジリジリと間合いを詰めて相手を捉えようとしている。

 「何だかスゲェ!あれ…気合いの入り方が尋常じゃない~」

 その姿は熟練の暗殺者のよう…今まさに捉えられようとしているイーライは、まるで蛇に睨まれた蛙だ!
 普段のクリッとした瞳とは全く違う、スッと細めた三白眼でギロリと睨みつける。そしてどんどんイーライの方へと近付いて行く。

 イーライはというと、どこから斬りつけていいものかと判断出来ないようだった。腹を狙おうとすると剣を一旦下に振り下ろさなければならず、その間に真っ直ぐに刺されてしまうだろう。下半身がガラ空きのように見えて、実は全く隙がないんだ!

 「ハァ、ハァッ…」

 精神的に追い込まれたイーライは、みるからに息が上がっている。おまけに攻撃の道筋が見つけられず、少しパニックになっているようだ。それを見逃さないアンディは、そこで一気に攻撃を仕掛けた。

 ──ビュッ!…ブォン!

 アンディの剣の鋭い先が、イーライの左目の寸前で止まる!その差はほんの僅かだ。その余りの恐怖で思わず後退りし、そのままドン!と尻餅をついたイーライ。そこに右肩を狙い鬼の形相で剣を振り下ろすアンディが!

 「うわっ!い、痛てえーっ!」

 肩をぐっと抱えながら痛みで転げ回るイーライ。それを冷たい表情のアンディが見下ろしていた…

 「勝者!王都学園中堅、アンディ・ガドリン!」

 うぉーーっ!という地響きのような歓声が起きた!あの小さな少女のような男が、あんな危険な技で勝つなど有り得ないというように。そしてアンディは、痛がるイーライの元へと近付いていく。

 それから眉を下げながら、大丈夫?といったふうにイーライの肩をそっと擦る。そして顔を近づけイーライだけに聞こえるような微かな声で囁く…

 「目を潰すのは勘弁してやったぞ?肩の打撲で済んで有り難く思え!」

 
 試合の時とは一変して、そんな優しい行動を見せるアンディを、観客の皆は讃えた。まるで天使のようだと!
 更に盛大な拍手が巻き起こり、それににこやかな笑顔を振りまくアンディ。そんな強くて優しいアンディに皆は夢中になっている。ただ一人、イーライを除いて…

 ──あれ…絶対天使じゃないよね?だけど、それにしてもスゲェな!必殺◯事人かと思ったよ?確かに自分を大将クラスだと言うだけある…本気になったら、ラウル殿下なんて瞬殺じゃなーい?

 僕はお馴染みのテーマソングをチャララ~と口ずさみながら考える。だけどさ、きっと坊ちゃまの件で怒ってたんだよね?あんな卑怯な手を使って勝ったイーライを、赦せなかったんだと思う。意外と男気が強いタイプだよね~

 「凄いよなぁ~アンディ様って!それにお優しいだなんて完璧だな。お兄様のクリスティン卿から数々の技を伝授されてるらしいよ?誘拐されたらすぐに実践出来るやつなんだってさ~」

 ──はい?誘拐された時に使えって…数々の技を!ど、どんな技よ?あれ以外にも一撃必殺の技があるんだ…ガドリン家って、そういう家門なの?
 
 トムさんのガドリン公爵家豆知識を披露されて、いろんな世界があるんだなぁ~と感心する。僕はアンディのお陰で、ほんの少し気持ちが楽になった。
 それから次はアンディ対ガイ様?って思ったら、突然アンディが足をイタタタっ!って…

 絶対仮病だと思うけど、彼なりにやり切ったのだと思う。ジュリアスの復讐をやり終えたら、きっとそれ以上は興味ないのだろう。ということで…

 「アンディ怪我につき、次は王都学園副将スチュワート・グレイ!そして騎士学園大将ガイ・クルーガー!」

 「うちのスチュワート坊ちゃまだ!頑張って~」

 トムさんがこの日一番の楽しげな声を出す。僕は、この上なく強力な相手だけどトムさんのためにもスチュワート様には頑張って欲しい!と祈る気持ちで見つめた。うーん…

 スチュワート様は負けた…あっさりと。気合いではスチュワート様だって負けてはいなかったが、まるで大人と子供だった…
 ガイ様以外の騎士学園チームは、まだ学生だというところがあった…体格的にも精神的にも。だが、ガイ・クルーガーは明らかに違う!既に一人の立派な騎士のようだった。そんな相手では、誰だって勝てはしないだろう。

 「んっ、グスッ。ス、スチュワート坊ちゃまだって、凄く頑張ったんだ!出るからにはやる!って昼夜を問わず鍛錬して、あのお好きな紅茶だって封印して…。昨日だって寝ずに練習したんだよ?なのに酷い~」

 隣でトムさんがそう言って泣いている。だけど、それちょっと待てよ?
 
 ──寝不足なんじゃね?もしかして敗因って、それなんじゃないの?それに、リラックスするために紅茶飲まないでいつ飲むの!
 
 僕は声を大にしてそう言いたかったが、トムさんがあんまり泣くのでその言葉を飲み込んだ…
 それから大将戦でラウル殿下が登場したが、意外と善戦したけどあと一歩及ばず。

 僕はこの時、ドキドキしていた。この後シナリオ通りだったなら、が起こる筈だ…それにアノー伯爵家存続の危機に陥る決定的な事件も!

 人知れずそう思って、緊張していたんだ…
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