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第四章・過去の亡霊

21・意外な人脈

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 あれから僕と坊ちゃまは寮の部屋に戻り、さっさと荷物を片付けにかかった。
 僕が仕事をしながら頭の中を整理する性格を熟知している坊ちゃまは、そのまま静かに見守ってくれている。
 公爵家ガチ中のガチ、トップ3が選ぶ坊ちゃま秋冬コレクションを丁寧にクローゼットに仕舞い、ついでに僕の冬物もポイっと片付けた。

 フゥ~っと一息ついて坊ちゃまは?と振り向くと、窓辺の椅子に足を組んで座り片肘をついて読書してらっしゃる坊ちゃまが!ドキッ…
 窓からの晩秋の夕日に照らされて、顎先に伸びる長い指。アンニュイなその表情は、一枚の宗教画のようだった。

 ──え、絵師を…早くぅ~!

 胸を押さえ悶絶している僕に気付いて、「もう片付いた?」と笑顔で聞く坊ちゃま。
 それに頷いて、先程のガドリン公子様のことですが…と切り出した。
 
 それから僕とスコットさんが経験したことの一部始終を話す。ついでに僕にとってのホッとステーション薔薇の生け垣から覗き見していた事実も話し、あの時カフェでの一件を見ていたんだと正直に言う。

 「エ、エリオット、カフェにいる私を…覗いていたのかい?」

 僕は真っ赤になりながら、「すみません…」と呟いた。ずっと学園で過ごしている坊ちゃまが気になって、時々覗いて安心していたのだと告白した。

 坊ちゃまは特に機嫌を損なった様子もなく、心の底からホッとした僕。それから二度と覗きませんから!と伝えると、そんなに気になるならこれからも覗いていいと…

 ──ウソ?御本人の承諾、いただきましたぁ~

 そう喜びまくる僕に呆れ顔の坊ちゃまが、あのカフェでの出来事を話してくれる。それによると、迷惑だったが同じ公爵家の令息という立場で、無下に扱うことは出来なかったと。それと僕が去ってから我慢できずに、勉強の邪魔をするなら帰ってくれって言ったらしい。

 「ガドリン公爵家は王家の血筋なんだ…うちとは違って。だから王家に近い存在となる。長男であるご子息が誕生してから、約十年ぶりに次男として生まれたのがアンディだ。だから相当甘やかされて育っている。私が子供の頃にラウル殿下の友人として城に上がった時、何度も会ったことがあるが、それからずっと付き纏われて…」

 そういうことだったのかと納得した。坊ちゃまが、アンディをお好きなんて有り得ない!だけど向こうはきっと、好きなんだと思う。

 「そういうことだったのですね…話していただいてありがとうございます!理由が分かって安心しました」

 またきっと、坊ちゃまに近付こうとするのは間違いないが、ひとまずホッと胸を撫でおろした。だけど…もしかしてあの人は、攻略対象の一人なんだろうか?僕はアンディルートなんて全く記憶にないが、その可能性だってある。
 僕はあの…ジュリアスが…その…BLってポジションがあるじゃない?個人の勝手な好みだけど、坊ちゃまが攻めになるなんて想像出来ないんだ!
 あの子とだったら、どっちかと言ったらそうなるよね?
 あんな顔して、もしかしてバリタチとか?

 …だとしてもナシだな…アイツ、性格が悪過ぎる!


 +++++


 僕は今、落ち着かないでいる…初めてのことだからだ。
 最高級の珍しい茶葉だということだけど、全く味がしない。
 そんなお茶を一口、口に含んで右を見たり左を見たりを繰り返した。

 「なんだよ?エリオット。そんなに緊張しなくていいのに。私とエリオットの間柄だろ?」

 「いや…そういう訳にはいきません。それに、この三人でお茶というのは初めてですし…」

 「ラウル殿下、エリオットはこういう場は馴れていません。今後誘うのは遠慮して下さい。特に私がいない場は絶対に!」

 僕はトホホ…と困り顔で、坊ちゃまとラウル殿下を交互に見た。また是非お茶をと誘われた僕は、一応坊ちゃまに了承をと伝えた。そしたら…「私も行く!」って。殿下と二人よりも緊張しないかしら?って思ったんだけど逆だった…
 和気あいあい…とは程遠く、謎のマウント合戦が繰り広げられている。
 ラウル殿下も坊ちゃまも、立場的に本当の意味で心を許せる人が少ない。だからかな?僕なんかを取り合ったって、何にも出ないよ?

 「だけどエリオット、この場には私達しかいないし、是非『ラウル』と呼び捨てしてくれ!仲良しだから許そう」

 ──んな、アホな…無理ですよ!王族を呼び捨てなんて~何言ってんの?

 「ラウル。エリオットはそういうの苦手だ!強制しないでやってくれ」

 ──お前は、呼ぶんかーい!もう、何だか疲れた…

 殿下はそれに、碧眼の瞳を細めて…睨んでます!
 それから咳払いを一つ二つしてから、僕の方を見ながら真剣な顔になった。えっ…?

 「私の侍従や護衛に席を外させ、三人だけになったのは理由がある。この前のアンディとの一件を聞いたよ。実はあの時、あの場に侍従が居合わせたんだ。それから私の耳に入った。エリオット、すまなかったね」

 僕はビックリして目を見開いた。殿下に謝っていただく理由などない!あくまであの令息がやったことだ。それに…一介の従者に対して、この対応は過ぎたることではないだろうか?いくら、殿下が言われるところの『仲良し』だとしてもだ。
 そう思って殿下を見つめると、いつもの冗談好きな顔は既に無く、真剣そのものだった。それから…

 「君は、隣国であるアイシャ国王族の血筋だね?」

 ──はぁっ?僕が、王族の血筋だって?そんなん知らん…
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