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第三章・攻略の行方

20・ガドリン令息という人

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 思ってもないことに愕然としながら、その人をまじまじと見た…
 以前お見かけした時と同じ、金髪のくるくるとした巻き毛で、ちょうど肩までの長さに揃えられている。それに本当に令嬢と見まごうほどの可愛らしいお顔立ちだ。レースをふんだんにあしらわれたデザインのブラウスに、モコモコのピンクのカーディガンを羽織っている。
 これで令嬢だと思わない人いないよね?ピ、ピンクって!
 その色のカーディガン着る?男が…それにモコモコってのがあざとい!あれっ…だけど待って!スカート履いてなかったぁ?
 
 そう思って目を擦りながらよく見ると、裾が優美に広がった足首までのワイドパンツをお召しになっていた。あっ、そう。この前の時は、上半身しか見えなかったからね…

 流石に自分の勘違いにちょっとだけ恥ずかくなって、眼鏡かけようかしら?なんて思って、ハッと気付いた。さっき、ガドリンって言ってなかった?

 ガドリン公爵家…アノー家の執事のジョナサンが、紹介してくれたところだ。従兄弟のブランさんが一日の差で公爵領へと旅立って、会うこともなく終わった。それならさ、もしもあの時坊ちゃまと出会わず、その後なんとか生き延びてたら、この子が僕の坊ちゃまだった可能性もあった…ってコト?

 「だから聞いてんのか?ってんの!何度も言わせるなよ…まったく。君は見たことあるけど、ジュリアス様の従者だよね?どこに行ったか知らない?さっきから探してるんだけど…」

 ──危ねえ…こんな人の、従者になってたかも!
 だけど何だ?貴族家の…それも公爵家の令息が、この言葉遣い!坊ちゃまとは大違いだ。

 「大変失礼致しました。私は今、エドモア公爵邸からこちらに帰って来たばかりなのです。ですので分かりかねますが…」

 「…チッ!」

 ──もしもし?今、舌打ちなさった!?

 思う所あれど丁寧にお答えした僕に向かって、舌打ちで返すガドリン令息。
 僕は今までラッキーだったのかも知れないが、従者だということでこのような扱いをされたことなどない!
 心の中ではいろんな事を考えているけど、表向きではエドモア公爵家に恥をかかせちゃいけないと、丁寧にと心がけてきたんだ!なのに…

 「失礼します公子様。本当なのです!まだうちの坊ちゃまにはお会いしていなくて…」

 僕の様子を見兼ねて、スコットさんが再度説明してくれる。それにやっぱり、フン…と鼻で笑って最悪の態度のままだ。そこに…

 「エリオット!それにスコットかい?あんまり遅いから探しに来たよ」

 その険悪な場をまるで浄化するような、優しく涼やかな声が聞こえてきて泣きそうになる。
 だけど坊ちゃまに心配かけてはいけないと、元気良く返事をした。

 「坊ちゃま!すみません遅くなってしまいました」

 ひと目見ただけでパァーッと元気が出る。やっぱり坊ちゃまは僕にとって、元気の源だ!
 僕達を見て、優しい微笑みを浮かべた坊ちゃまに駆け寄ろうとする僕。すると…

 「ジュリアス様!どこに行かれていたのですか?探してしまいましたぁ~」

 駆け出した僕を突き飛ばすようにして、坊ちゃまの方へと近付くガドリン令息。坊ちゃまの前では、まるで別人だ。
 先程までの高飛車な態度と言動など微塵もない。それから満面の笑顔で目の前まで行くと、サッと坊ちゃまの腕を取る。
  
 それを見た途端、僕はガタガタと震えた。何故だか自分でも分からない。そんな人が、僕の坊ちゃまに触れて欲しくなどなかったのだろう。それを見たくないと俯いて、必死に耐えた。くっ…!

 その時、心の底から凍るような声が聞こえてくる。心臓がキリキリと音を立て、そのまま止まってしまうような…

 「どいてくれたまえ!アンディ・ガドリン令息。それに腕を取るなど、馴れ馴れしい態度は失礼なのではないのかな?」

 その声にバッと顔を上げ、冷ややかな表情をしている坊ちゃまを見た。ブリザード級の冷気を浴びせられたガドリン令息は、先程までの笑顔が凍りついて見る影もない。
 
 「そんな…」

 そう呟きながら、涙を浮かべる令息。悪いけど、可哀想だとは全く思えない!そんな弱々しい姿を見ても、さっきまでの斜に構えた態度が本来の姿なんだと思ってしまう。

 ──なんだ、アイツ!二重人格か!?あの変わりよう…

 あんなの北島◯ヤも、真っ青まっつぁおだわ!演技力あり過ぎだろう?
 そうブツブツ言っていると、僕に気付いた坊ちゃまが、打って変わって笑顔でこちらに来る。

 「エリオット!心配するじゃないか?部屋に帰っても居ないから…」

 坊ちゃまも、北島◯ヤ?…ちょっとそう思ってしまったが、平常運転だ。僕は嬉しくなって「すみません。早く帰りましょ!」と笑顔を向ける。
 それから坊ちゃまには小っちゃな鞄を持っていただいて、僕とスコットさんとで大きな鞄を運ぶ。
 坊ちゃまが固まったままのガドリン令息の横を素知らぬ顔で通り、スコットさんは顔を合わせないようにして通り過ぎた。それから僕は真正面を向いたまま、そこに居ないかのように過ぎて行こうとする。だけどその瞬間…

 「いい気にならないでよね!」

 睨み付けながら、憎々しげにそう言い放つ令息が…

 ──てめぇ、寝言は寝て言え!

 僕は、心の中で中指をおっ立てながら通り過ぎた。
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