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第三章・攻略の行方

14・坊ちゃまとお出掛け

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 王都学園の寮に住み始めて、ひと月が経った。坊ちゃまも今ではすっかりと学園生活にも慣れて、心穏やかに過ごされている。僕はといえば坊ちゃまのお世話と、何故だか色んな人との交流にと忙しくしている。割と僕って、人気者なんだよね…ハハッ…ハ、ハッ…うーん…

 そのせいなのかは知らないが、坊ちゃまの攻略が全然進んでない!
 まだ若すぎるのかなぁ~二年生になってから始まるの?イマドキの子は早熟なのかと思っていたけど、この世界では違うんだろうか…

 それと皆んなよりも歳上な僕だからか、あれからラウル殿下からもスチュワート様からもお誘いを受ける。お茶をしに訪れたラウル殿下のお部屋は、まるで宮殿をそのまま持って来たような豪華さで、それなら城から通えばいいじゃん!って思ってしまった…。それに僕のこと、ジャッキーって呼ぶのもヤメて欲しい。それ、リスですから!
 
 スチュワート様も僕にオススメの本を紹介してくれるんだけど、ゴメン…僕そんな学術書なんて興味ありませんから!
 なんだか皆んなの兄貴ってやつ?慕ってくれるのは嬉しいけど、それに坊ちゃまが不機嫌になるのが困りもので…焼きもちかな?
 それにはちょっとこそばゆい気持ちになるけど、それを都合のいい解釈をしちゃいけません!と自分を戒めている。坊ちゃまだってきっと、兄貴ってやつなんだろうと思う。一人っ子だしね!

 
 +++++

 
 今日は日曜日。いつもは足らなくなった物や衣服などは、公爵家から定期的に補充しに来てくれるんだけど、今日は坊ちゃまと気晴らしも兼ねて街まで買いに行くことになっている。久しぶりでワクワクするね!

 公爵家から迎えの馬車が来て、また学園まで送ってくれる手筈になっているんだ。
 あのアイドル系イケメン従僕、スコットさんが来るのかな?久しぶりに会えそうだ。
 
 今僕の隣りには、落ち着いたブラウンのフロックコートに赤紫色のアスコットタイでキメた坊ちゃまが立っている。このようなお出掛けスタイルは、最近ずっと学園の制服姿ばかり見ていたのでとっても新鮮だ!まあ、坊ちゃまなら、何を着ていても素敵なんだけどね。あれ…なんだかそのタイ、僕の瞳の色と似てない?気のせいかなぁ。

 「坊ちゃま楽しみですね!街に美味しいケーキ屋さんが出来たそうですよ?トムさんが言ってました。良かったら今度一緒に行こうって言われたんですけど、今日行ってみてもいいかな~なんて思ってるんですが?」

 「今すぐ行こう!」

 若干食い気味に坊ちゃまが答える。坊ちゃま、甘い物がそんなにお好きだったっけ?きっと新しいお店に興味がお有りなんだな。それならトムと行く必要ないよね?って聞かれたので、そうですね!って答えた。誘ってくれたトムさんには悪いけど、新しいお店は最初が一番感動するから。

 二人で学園の正面玄関を出ると、ちょうど公爵家の馬車が大きな門を通り、なだらかなS字のアプローチを登って来ていた。そしてスッと僕達が居る所で横付けされる。おお流石が公爵家の馬車、見事な技だ!
 そして颯爽と御者台から降りてきた人を見て驚く…し、渋~い!

 スコットさんの父親のアンクルさんだ。親子二代で公爵家の御者をしている。燻し銀の技なんだね!それにやっぱり親子、スコットさんに似て物凄くイケおじだ!ソリ◯チかな?それともタケ◯ウチ?

 「おはようございます坊ちゃま。たってのお召しだと伺い、今日は私が御者を務めさせて頂きます」
  
 「うん苦労をかけるね。よろしく頼む」

 僕も深々とお礼をして、坊ちゃまに続いて馬車に乗り込んだ。スコットさんも上手だけど、アンクルさんはさらに上をゆく腕だ…とっても静か!普段は公爵様や公爵夫人をお乗せしているアンクルさん。だから僕は今日が初めてなんだ!坊ちゃまが頼んでくれたようだけど、有り難いなぁ~

 「坊ちゃまありがとうございます!僕、アンクルさんが御者の馬車に乗るのは初めてです」

 そう笑顔でお礼を伝えると坊ちゃまは「私の理由なんだけどね。会わせたくないっていう…」そう呟かれる。

 ──うん?どういう意味なのかな?

 誰を会わせたくないのかな?と不思議に思いながらも、馬車は軽快に走ってあっという間に街までやって来た。またお帰りの時間に参りますとアンクルさんは頭を下げて、僕は坊ちゃまの後ろをキョロキョロしながら付いて歩いた。
 
 街は先週から秋祭りのイベントが開催されていて、とっても賑やかだ。街灯にも紅葉した葉っぱで作られた飾りが掛けられ、街の中心にある噴水の縁には赤やオレンジに色付いた南瓜のオブジェが乗っている。
 僕は他でもない大好きな坊ちゃまと一緒に眺めることが出来て、むちゃくちゃ嬉しかった。来年も、再来年だって一緒に来れたら嬉しいなぁ!

 秋の装飾の街並みを見ながら、今日の目的の一つ新しいペンとノートを買う。それから約束したカフェ併設のケーキ屋さんに寄ってみる。なるほど店はとても混んでいて、少し待ってからやっと席に座ることが出来た。

 「やっぱり秋ですから、パンプキンパイを食べましよう!美味しいですよ?きっと」

 「そうだね。私も甘すぎないし好きだ」

 そうワクワクしながら紅茶と一緒に注文すると、南瓜のフィリングをこんがりと焼き上げ、たっぷりのクリームを乗せたパンプキンパイが出てきてテンションMAXに!

 「トムさんが言ってた通り、とっても美味しいですね。今日来れて良かったです」

 あっという間に平らげて、ニコニコでそう言う僕。ふと見ると坊ちゃまは、小さなお口でひと口ずつ食べている。なんて上品!もっとガツガツ食べていただいて、口の端に付いたクリームを指で拭って「付いてますよ♡」って、やりたかったのに~

 お腹いっぱいになって心もお腹もぽっかぽか。それからお店の外に出ると、夕焼け空が広がっていて辺りは少し暗くなっていた。そろそろ帰りの馬車が来る時間かな?と思っていると…突然、後ろから走って来た男に体当たりされた。
 
 「痛たーっ!な、何?」

 驚いてその男の方をバッと見る。その男の手には見慣れた財布が握られている。え…あれ、僕の財布じゃない?
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