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第五章・真実の先に
66・柚子と父
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あの日俺は柚子に会いに行った。
初めて会う娘は涼にそっくりで、本当に可愛いくて思わず涙ぐむ。
クリっとした大きな目で俺をじっと見ていて、目線まで下がってやると期待に満ちた表情になって、パパだよ!って言ったら本当に嬉しそうな顔で笑ったんだ。
この世にこんなに愛しい存在がいるなんて奇跡だ…って思ったよ。
もう一人の愛しい存在の涼はそんな俺を泣き笑いの表情で見ていた…
ちょっと健康的な顔色になっていただけで三年前と殆ど変わらない。いや、三年前よりも綺麗になっているように感じた。
色気が増したのだろうか?再婚して…
先程から刺すような視線を感じている。あいつが沢井だろう。
わざわざ外にまで出て来て、二人が心配なんだろうな。
その気持ちは分かる。分かるけど…
俺は言い様のない怒りを感じていた。
優が言うようにアルファで、仕事も出来て温厚で…だけど!
あいつが涼と?って考えたら腸が煮えくり返る思いがしたんだ。
そしてその憤りを涼にもぶつけてしまった…。冷たいって思っただろう。
そして涼と柚子の幸せのために諦めないといけない!って分かっているのに諦めきれない!
一体どうすればいいんだ?まだ愛しているのに──。
涼から、次の柚子と会う日は二人だけで…と言われた。
もう俺とは会えない…ということなのか?
ちょっとそう思ってしまったが、これ以上情けない男になりたくない。
涼を信じようって思った。
柚子を迎えに行くと、何か物言いたげな涼の表情は気になったけれど、夕方また送ってくるからと柚子と父の病院に行く。
父は、俺から事情を聞いていた白井さんから柚子の事を教えられ、今か今かと連れて来るのを待っていた。
病室に一歩入って来た柚子を見て、とてもびっくりしていた。涼にそっくりだから。
という事は、維月さんにもそっくりなんだろう…
父は目にいっぱい涙を溜めて、直哉にも似てるな!って呟いた。
以前俺は、維月さんの事を思い出す父を毛嫌いしていた。でも今はもういいんじゃないか?って思う。
あとどのくらい生きていられるのか分からないが、父には好きな事を考えて幸せでいて欲しい。優も同じでやっとそう思えてきたようだ。
ちょうど今も優が穏やかな顔で父を見ている…
「おじいちゃん…かな?」
そう言って柚子が父に近付いていく。
「そうだよ柚子!おじいちゃんだ。」
父はそう嬉しそうに言って、柚子の手を握った。
柚子も何か感じるところがあるんだろう、ぎゅっと手を握り返して笑顔を見せる。
それから俺達や白井さんも交えて柚子との楽しい時間を過ごした。
そろそろ父も疲れただろうと帰ろうとすると、主治医の先生が診察するために入ってきた。
「先生、父の退院はいつになりますか?」と、一番気になっている事を尋ねてみる。
「そうですね…来週検査して問題がなければもう退院して大丈夫です。」
その先生の言葉にここにいる者全員が喜んだ。
「柚子、おじいちゃん退院できそうだぞ。今度会う時はおじいちゃんの家だな!」と弾んだ声で父が言った。
すると先生が柚子に気が付いて…
「お孫さんなんですね、とても可愛いです。お名前は何ていうのかな?」
それに柚子は嬉しそうに答えた。
「ないとうゆずです!」
俺は一瞬、何が起こったのか分からなかった。そのくらいの衝撃が!
──ないとう…?
それには優も驚いて直ぐに反応する。
「柚子ちゃん、沢井じゃなくって内藤なのかな?」
「さわい?おじちゃんとおばちゃんのなまえかなぁ?ゆずとママは、ないとうだよ!」
初めて会う娘は涼にそっくりで、本当に可愛いくて思わず涙ぐむ。
クリっとした大きな目で俺をじっと見ていて、目線まで下がってやると期待に満ちた表情になって、パパだよ!って言ったら本当に嬉しそうな顔で笑ったんだ。
この世にこんなに愛しい存在がいるなんて奇跡だ…って思ったよ。
もう一人の愛しい存在の涼はそんな俺を泣き笑いの表情で見ていた…
ちょっと健康的な顔色になっていただけで三年前と殆ど変わらない。いや、三年前よりも綺麗になっているように感じた。
色気が増したのだろうか?再婚して…
先程から刺すような視線を感じている。あいつが沢井だろう。
わざわざ外にまで出て来て、二人が心配なんだろうな。
その気持ちは分かる。分かるけど…
俺は言い様のない怒りを感じていた。
優が言うようにアルファで、仕事も出来て温厚で…だけど!
あいつが涼と?って考えたら腸が煮えくり返る思いがしたんだ。
そしてその憤りを涼にもぶつけてしまった…。冷たいって思っただろう。
そして涼と柚子の幸せのために諦めないといけない!って分かっているのに諦めきれない!
一体どうすればいいんだ?まだ愛しているのに──。
涼から、次の柚子と会う日は二人だけで…と言われた。
もう俺とは会えない…ということなのか?
ちょっとそう思ってしまったが、これ以上情けない男になりたくない。
涼を信じようって思った。
柚子を迎えに行くと、何か物言いたげな涼の表情は気になったけれど、夕方また送ってくるからと柚子と父の病院に行く。
父は、俺から事情を聞いていた白井さんから柚子の事を教えられ、今か今かと連れて来るのを待っていた。
病室に一歩入って来た柚子を見て、とてもびっくりしていた。涼にそっくりだから。
という事は、維月さんにもそっくりなんだろう…
父は目にいっぱい涙を溜めて、直哉にも似てるな!って呟いた。
以前俺は、維月さんの事を思い出す父を毛嫌いしていた。でも今はもういいんじゃないか?って思う。
あとどのくらい生きていられるのか分からないが、父には好きな事を考えて幸せでいて欲しい。優も同じでやっとそう思えてきたようだ。
ちょうど今も優が穏やかな顔で父を見ている…
「おじいちゃん…かな?」
そう言って柚子が父に近付いていく。
「そうだよ柚子!おじいちゃんだ。」
父はそう嬉しそうに言って、柚子の手を握った。
柚子も何か感じるところがあるんだろう、ぎゅっと手を握り返して笑顔を見せる。
それから俺達や白井さんも交えて柚子との楽しい時間を過ごした。
そろそろ父も疲れただろうと帰ろうとすると、主治医の先生が診察するために入ってきた。
「先生、父の退院はいつになりますか?」と、一番気になっている事を尋ねてみる。
「そうですね…来週検査して問題がなければもう退院して大丈夫です。」
その先生の言葉にここにいる者全員が喜んだ。
「柚子、おじいちゃん退院できそうだぞ。今度会う時はおじいちゃんの家だな!」と弾んだ声で父が言った。
すると先生が柚子に気が付いて…
「お孫さんなんですね、とても可愛いです。お名前は何ていうのかな?」
それに柚子は嬉しそうに答えた。
「ないとうゆずです!」
俺は一瞬、何が起こったのか分からなかった。そのくらいの衝撃が!
──ないとう…?
それには優も驚いて直ぐに反応する。
「柚子ちゃん、沢井じゃなくって内藤なのかな?」
「さわい?おじちゃんとおばちゃんのなまえかなぁ?ゆずとママは、ないとうだよ!」
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