【完結】あなたの妻(Ω)辞めます!

MEIKO

文字の大きさ
上 下
38 / 108
第三章・回想

37・涼

しおりを挟む
 俺が初めて内藤涼に会ったのは、高校一年生の時だった。

 俺は伏木家の長男でアルファだ。
 中学の頃までは、お金持ちでアルファ…それだけでモテた。
 いつも沢山の友人に囲まれて、孤独なんて感じたこともなかった。

 本当の意味での孤独…

 俺の心にはいつもぽっかりと穴が空いていて、それは何をしても埋まることはなかった。

 容姿だって悪くはなかったし、勉強だって人並み以上にデキる。
 それでも埋まらない心…

 そんな自分に飽き飽きとし、高校では今までとは逆に、全く人を寄せ付けない努力をした。

 ボサボサの頭、顔を隠すほどのダサくてデカい眼鏡。
 そして必要以上には喋らない。勉強だって適当だね?
 その高校は大企業の子息や子女が通う、いわゆるお金持ち学校だ。ここの方が煩わしいことが一つ減るだろう?って選んだけど…
 そんな俺でも伏木と言う名前だけは消せない!
 そのことで近付いてくる奴も少しだけいたけど、そういう奴らは無視した。

 家族はそんな変わり果てた俺を遠巻きに見ていたが、敢えて何も言わなかった…
 自分達のことを考えたら、俺に何かを言うなんて…出来なかったんじゃないのか?
 だって家族はバラバラだったし…

 仕事で殆ど家に居ない父。家族で出掛ける…なんて皆無で、お金だけを潤沢に与えてくれる。そして母は…心を病んでいる。

 今でも6歳下の弟が生まれた時を覚えている。
 あの日から可怪しくなったのか?いや、ずっと前からなんだろう。
 父が大事にしているあの写真の人…

 死んだ人には敵わない…そう呟いた母。
 俺や弟のために強く居て欲しかった。
 だけど今はもう期待するのはやめた…


 くだらない学校終わりの放課後、街をぶらぶらする。早く帰る必要もないし。
 だけど伏木の名前で付いてきているヤツが一緒で鬱陶しい。
 俺はそいつが一方的に話すのを、ただボーッとしながら聞いていた。

 「直哉!ほらオメガ校の奴らがいるよ。」そいつのそんな声を聞いて、お前だってオメガだろ?って思ったが、興味本位で振り返る。

 だが俺の目は釘付けになった!何故だか目を離すことが出来ない…

 ──そこに美しいオメガが居たから。
 スラリとした均整のとれた身体に、透けるような白い肌には大きな瞳が…
 
 有名なオメガ校の制服を着た三人の中の一人、その人に一瞬で目を奪われる。すると…

 「アイツだ!内藤涼だよ。オメガ校では有名なんだよ、綺麗だって。実際見てみたら大した事ないじゃん!」
 そいつの言う言葉をどこか遠くで聞いていた…

 大した事ない…わけないだろう?…凄く綺麗だ!

 だけど…その瞬間、俺の心がざわつく。嵐のような騒つきだ!!

 ──内藤…涼?

 父が大事に持っている写真…あの人とそっくりなこの人が、俺の目の前で笑っている。

 
しおりを挟む
感想 117

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

処理中です...