【完結】悪の華は死に戻りを希望しない

MEIKO

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第四章・輪廻

40・静かなる祈り

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 スレイド侯爵家の侯爵夫人御自慢の庭園には劣るけど、グレン伯爵家の庭園だって中々のものだよ?
 我が家の庭師の腕が良くって、青や紫のハイドランジアに独特な姿のスモークツリー、とっても良い香りのクチナシなどが咲き誇っている。
 そんな花々の中でお茶を飲みながら、ふと横を見ると池には幻想的なスイレンが…

 「凄く綺麗なお庭ですね…。我が家の別邸の庭も綺麗なんですが、こちらの美しさには負けますね」

 「ありがとうございます…ごゆっくりご覧になって下さい」

 私は今、意外な人物の訪問に戸惑っている。
 私は知らなかったけれど、訪問したいという手紙が届いていたそうだ…

 目の前には、元聖者のサウラ。私達の経緯を知らない両親がそれを了承してしまう。それなのにその相手を私に任された。
 両親からしたら、歳のそれほど違わない私の方が適任だと思ったのだろう。
 そのおかげで今、物凄く居心地が悪い!

 ──それにしても何故?私の家に来るなんて…
 サウラは私がシルフィだとは知らない。だけど…

 「父が伯爵を兄に譲ることになりました。それで領地の方に行く事になったのですが、私も共に行くつもりです。ですから今回、そのご挨拶に伺ったのです。もう二度とこの王都には戻りません」

 突然サウラがそう言い放った。驚いて顔を見つめると、真剣な表情からその本気が窺える。

 ──もう二度と?でも、何故それを私に!?

 そう思った時、サウラが深々と頭を下げた。えっ…

 「ごめんなさい。私、あなたのお兄様のシルフィに酷い事をしたのです。おまけに亡くなられたあの時、助けて貰って…。もう本人には謝れないので、代わりに謝らせていただけませんか?勝手なのは重々承知ですが…」

 サウラの口元が、緊張で震えているのが分かる。だけど、今更謝られても…という気持ちが大きい。だけど、ロディアである私が拒否するのは可怪しいのかも?と、しぶしぶ頷いた。

 「私はあなたの兄の夫であるドミニク・スレイドを愛していました。幼い頃から深く…深く。だけど分かっていたずっと…ドミニクからは返して貰えないって。私に向けられるのは親愛の情だけなんだって…。分かっていたのに諦められなかったんです!」

 ドキッとした。サウラの美しい金の瞳から流れ落ちる涙を見て…
 いつも微笑みを絶やさず何もかもを持っているような余裕の表情しか知らなかったから。
 ドミニクから少し前に、サウラは家族から虐げられていたと聞いたけど、そんなの信じられなかった…誰からも慕われ、尊敬されて…

 それは偽りの姿だったんだね?今ようやくそれが分かった。実際は、凄く寂しい人だったんだ…私と同じで。

 「でもそれが理由になるとは思っていません…。私がシルフィにしてしまった仕打ちには。嫉妬に駆られた醜い行為だったと思っています。たった一つの嘘があれだけ大きな過ちになるなんて、夢にも思ってなかった。赦して貰えるとは思っていません!これからもずっと苦しんで背負っていきます…罪を」

 私は見ていた…そう告白するサウラを。今までの聖者然としたサウラではない素の姿を。
 そしてふらふらと立ち上がって、もう一度私に頭を下げた。それから一歩、二歩過ぎた時立ち止まる。

 「幸せになって下さい…シルフィ」
 そう微かに呟いて、サウラは真っ直ぐに歩いて行った。

 私は呆然とその姿を見送った。気付いているんだ?

 ──サウラは、私がシルフィだと気付いていた!

 気付いていて、今日ここへ来たのだな…
 あの人は赦せない事をした。私だけじゃなく子供も失った以上、赦す事は出来ない。だけど…

 私は今後のサウラの道行きに、少しでも幸せを見つけてくれるといいな…って思う。
 昔は虐げられていた父親と、共に行くと言うのだから…仲良く心静かに過ごして欲しいと、その後ろ姿に祈った。
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