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第三章・転機

30・ロディアの記憶

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 「ロディア!こっちだよ」 
 
 眩しいくらいの金の髪の男の子が笑顔でこちらに手を差し出す。

 「ノア待って~!」

 その手をぎゅっと握って、笑い合いながら駆けてゆく。
 城の奥のそのまた奥…普通は立ち入る事が許されない場所だ。廊下の壁面には沢山の肖像画が掛けられている。

 立派な王冠をかぶった王様、柔和な笑顔の王妃様…何代前の方だろう?それから王子様や王女様のような方の肖像画もある。そして…
 
 「わあ凄く綺麗な女の人!あれ?ノアと同じ瞳かなぁ…?」

 僕は目の前で微笑んでいるノアと、その肖像画の女の人とを交互に見比べる。

 「そうだよ…私の母上だ。凄く綺麗だろ?」

 「うん!ノアのお母様って、本当に綺麗なんだね。僕こんなに綺麗な人初めて見たよ!だけどノアもお母様に似て、とっても美しいね」

 そう言う僕に、ノアは頬を赤らめて嬉しそうにしている。それから何故か顔を俯かせ寂しそうな顔を…

 「だけど随分前に亡くなったんだ…。それから私は、ずっと一人だよ。こうやって本心を見せて笑い合うなんて、何年ぶりだろう…」

 悲しい顔をしてそう呟くノア…。僕は何とか勇気付けたくて、繋いでいる手をもう片方の手で包み込み、更にぎゅーっと握った。

 「僕が家族になってあげる!ノア…今から僕が君の家族だよ?例え共に住んでいなくても、ずっと会えなかったとしても家族だ!それは一生変わらない。いいね?ノア…」

 目にいっぱい涙を溜めて、二人は微笑む。ノア…家族だ…ん…んっ。う…

 ──い、今のは?今のは誰の記憶?もしかして、ロディアなの…か…?

 頭がズキズキと痛む…どうしたのだろう?何故こんなに…
 それから瞼を開けようとするけれど、重くて無理だ!痛っ!うう…っ

 それからやっと少しづつ目を開けたり閉じたりを繰り返して、ぼうっとする意識を取り戻そうとする。
 細く開けた目に白い壁が見える。ん…白?

 ──どこだ…私の部屋じゃない!こんな白など…

 それからだんだん意識がハッキリしてくると、嫌な予感がした…ここはもしかして、まだ城の中か!?それにこの耐え難い頭痛は…

 あの時、どうなった?何故私はこんな所で寝ていたのだろう?それから身体を何とか動かして、起き上がろうとした。だけどその瞬間、私は余りの事に動けなくなる。

 「は、裸!嘘だろう…何故!?」
 
 驚き過ぎて、身体がガタガタと震えてくる。

 ──何で…裸なんだ…?

 暫くの間、震えながら茫然として、それから自分で身体を触ってみる。可怪しなところはないと思うけど…

 それから動揺しながらも辺りを見回すと、薄暗い部屋の所々に灯りがともっている。そして近くのローテーブルには畳まれた服が置かれてあって。だけど、私の物ではない…これを着れという事なのだろうか?

 ──迷ってる場合じゃない!取り敢えず服を着なくては…

 よく見ると、服一式の他に下着や靴もある。
 戸惑いながらもそれを着けると、自分の身体に合っている物だったのが余計に不気味に感じる。私に何が起きた?何が起きているんだ…?

 この部屋は誰かの寝室なの?それとも…取り敢えずここを出よう!

 ──ドキ…ドキドキ…

 緊張で心臓が早鐘を打つ。そうっと扉を開けると、廊下が見える。薄暗い部屋では分からなかったが、どうも早朝の時間帯のようだ。
 グレン伯爵家の馬車はどうなったんだろ?両親は心配しているんじゃないか?など気になる事はあるけれど、そのまま廊下に出た。

 ──ハァ…ハア、ハッ
 
 音を立てないように足早に廊下を進む。
 ここは王族しか入れない場所なのか、使用人とすれ違う事もない。  
 今誰かに見られたら、王族を狙って入り込んだ者だと思われるかも知れない!だけど、とにかくここを出なくては!という思いに駆られる。
 全く知らない広い城内を一人で歩くなど、まるで迷路のようで…

 もうここが何処なのか全く分からない。そう絶望に似た感情に襲われていた時…

 「ロディア?…ロディアなの…か?」

 小声で遠慮がちに自分を呼ぶ声が…その声にバッと振り返る。  
 私は思わずその人に抱き着いた…不安で押し潰されそうになっていたから。
 自分の身に何があったのか…その不安でもう限界だった。

 そんな私を心配そうに見つめるドミニクが…
 

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