【完結】悪の華は死に戻りを希望しない

MEIKO

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第三章・転機

24・真実と後悔

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 ただ、漠然と思っていた…あの時。
 私が死んだらこの二人は結婚するのだろうと。死にゆく中で、こんな事を考えながら逝きたくはなかったけれど…

 あれからそんな話しは聞こえて来ないし、そもそもそんな事実があったら婚約の打診なんてして来ないだろう。

 ──どういう事?何故…

 「あの婚約の件は分かりました。スレイド侯爵様も、兄の死に責任を感じておられるのでしょう…。だけど、やっと我が家も落ち着いてきて、事業に力を入れる事が出来るようになりました。ですからこれ以上のお気遣いは不要だとお伝え下さい。私達はそうなれただけで充分ですから…」

 ドミニクはそれに複雑そうな顔をしながらも、大きく頷く。
 それで私は、肝心なことを切り出す。

 「一つ…聞かせていただいて、いいでしょうか?今回の婚約の件にも関わる事です。以前からずっと思っていました…聖者サウラ様とは結婚なさらないのですか?…愛人だと聞いてますが」

 すると、目の前のドミニクは意外な反応をした。驚愕の表情で私を見つめている。その表情は傷付いているようにも見えた…

 ──何を…そんなに驚いているんだ?ロディアがサウラとの関係を知っていたから?そんなの皆が知っている!
 
 そういきどおってドミニクを見つめ返すと、それから急に俯いて項垂うなだれる…

 「そうか…やはりそうなんだな…」

 ドミニクの呟きに、何がそうなんだろう?って思う。それから項垂れていた顔を上げて、真剣な顔をして私を見た。

 「サウラは愛人などではない!確かに以前婚約者であったのは間違いない。だけど俺は、幼馴染や親友という感情以外でサウラを見たことはないんだ…ただの一度も。だから、結婚するなど有り得ない!」

 ──私は、ドミニクが何を言っているのか分からなかった…
 幼馴染で親友…?結婚なんて有り得ない!?

 「ち、ちょっと待って下さい!私…いや、兄が結婚する前から侯爵家に共に住んでいたと聞いています。ただの親友だとしたら、いくら何でも可怪しくないですか?サウラ様のご実家に帰る訳でもなく、何故…?」

 そう言ってドミニクを見上げると、哀しそうな顔をしていた。それはどういう…

 「シルフィの弟のロディアでさえもそう思うのだと思って、己の不甲斐なさに嫌気が差していた。サウラは俺の命の恩人なんだ。おまけにその命を救う為に聖者として目覚め、それから十年の間神殿に拘束される事になってしまった…。それにサウラはエバンズ伯爵家でずっと虐げられて育って頼れないんだ!だからせめて俺が住む所を…と思って」

 私は余りの事に時が止まったように感じだ…サウラは、ドミニクの愛人では…ない!?そんな馬鹿な!
 それからわなわなと身体が震えて考えがまとまらない!

 ──本当に?それって、本当なの?
 その言葉が頭の中に繰り返し繰り返し響いている。
 物凄く動揺しながらも、一生懸命記憶を巡らせる…私は何を信じていた?何故サウラが愛人だと思い込んでいたの?

 結婚してスレイド侯爵家に行ってからの、一つ一つを思い出してみる。
 最初サウラを、元聖者で親友だと紹介したドミニク。もちろん聖者様の事はそれ以前から知っていた。
 この国で、知らない人など居ないほど有名な方だから。
 
 だから、そんな人とドミニクが親友だというのに驚いた。ただ、元婚約者だと聞いて複雑な気持ちになったのは覚えている。
 そう思った瞬間、ズキリと胸が傷んだ…サウラは凄く美しい人だったから…

 だけど、そんな言葉だけで二人の仲を疑うほど私は子供では無かった。
 間違いないのは、あの時サウラが放った言葉だ。

 私の代わりに、ドミニクの子を産んで欲しいと…
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