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第二章・葛藤

21・ノアの悲しみ

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 「そうかロディアは死んだんだね…」

 ノア殿下は人に対して、決して弱みを見せない人間なのだろう。
 ただただ静かに、涙を流し続けている。
 少し伏し目がちに瞬きもせずに…その事が、悲しみの深さをより感じさせる…

 いつも自信に溢れて、その笑み一つで人を動かしている…そんな人が、こんなにロディアの死を悼んでいる。何故…?一体どういう繋がりがあるというのだろう…

 「君は知らなかっただろうが、ロディアに会った事があるんだ。もうずっと前だ…兄の第一王子が同じ年頃の令嬢や令息を城に招待して。そこにロディアは来ていた。そう言えば、クラスメイトのデビットともそこで出会っていたと思うが…」

 ──デビット!そうか…その時のことだったんだ。
 学園で初めてデビットに会った時、私はもちろん初めてだったけれど、ロディアとは昔会った事があると…きっとそれなんだな。
 でも「第一王子」の為に招かれたのだよね?

 「私の事はどのくらい知っているだろう?私の母が王妃ではなく、身分の低い側妃なのは?おまけに第二王子の私など、誰も気に掛ける必要のない存在だった。だから兄一人の為集められた。将来の妃候補や側近候補を見極める為の目的で。ロディアはそこで壁の花になっていたよ?自ら進んで…」

 そう言えば…ロディアが十歳くらいだろうか?一度、城に招待されていた。
 その頃は、病状が良くなったり悪くなったりを繰り返していた。
 たまたま、調子が良い時だったのかも知れない。
 それにロディアは、第一王子のルーカス殿下と同じ歳だ。今は休学していたから、同じ学年ではなくなってしまったけれど。壁の花だったのも分かるような気がする。
 目立つ事が嫌いで、優しい性格だったロディアは、人と競争するのも嫌いだったし… 
 もし、側近になれたら将来を約束されたようなものだ…そんな年齢だったとしても、皆は競ってルーカス殿下に気に入られようとしただろうな…

 「そこでロディアと知り合われたのですか?壁の花になっていたロディアに声を掛けて?」

 ノア殿下は、私の言葉にきっと当時のことを思い出したのだろう…少し微笑んだ。

 「私は、自分は蚊帳の外だったが気になって見に行ったんだ。それで端にいたロディアに声を掛けた。ロディアは城に来たばっかりだったのに、もう帰りたかったみたいだよ?それで二人で会場を抜け出して」

 書庫に行ったり城を案内したりしてね、凄く楽しかったよ!と、ノア殿下が夢見るように言った。
 その顔を見ていたら、もしかしてロディアの事がお好きだったのだろうか?…と。

 「私なんて、厄介者の王子だったからね?友人も取り巻きも居なくて…初めて出来た友達だった。たった半日遊んだだけだったけどね。だから、学園で再会出来るのを楽しみにしていた…なのに、私が入学した時は休学していて、復学したかと思えば全く私を覚えていない様子で…」

 それから「まさか亡くなっていたなんて、後悔してもしきれないな…」と呟く。

 それから私はノア殿下に頼まれ、ロディアとの思い出話しをした。常に病状が悪くて、殆ど一緒に出かけたりはしなかったけど…

 改めて思うのは、ロディアは何を考えて誰を思っていたのだろうか…もしかして好きな人だっていたかも知れない…って事だ。
 この訪問は、それを考えるきっかけになった…

 それから殿下の元を辞した。
 だけどノア殿下という人は本当に私より二歳も下なんだろうか?と思う。
 あの落ち着いた態度、それにあの語り口…なんだか歳上のように感じてしまう…王族だからなのかな?

 そんな事を考えながら城内を歩いていると、意外な人物に遭遇することに…

 ──あれは…ドビアス先生?

 待たせている馬車のところへ行こうと、城の正面から外に出たところに、城の警備の為に騎士達の待機場所がある。
 そこに数名の騎士と共に、見慣れた長髪の赤毛の人物が。
 側にいる人と何か話し込んでいるようだけど…

 私は少し迷ったけれど、知らない顔をして通り過ぎるのも…と思って近付く。
 すると、ドビアスの方も私に気付いて笑顔で手を振る。

 「ロディア!見違えたよ?別人かと思った!そうしてるとやっぱり伯爵家の令息だね」

 「先生!偶然ですね?お会い出来て嬉しいです」

 偶然の出会いに二人で笑い合っていると、何やら視線を感じる。先程ドビアスと話していた人物がじっと私を見ている。
 初めて会う人なのに…その不躾までの視線に思わずたじろいだ…

 ロディアである私と同じ…くらいだろうか?その服装から、かなり上の貴族の令息だと分かる。細身の綺麗な人だけど… 

 「ロディア、紹介するよ!第一王子のルーカス殿下だ」

 ──何だって!この方が…ルーカス王子!?
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